憑依學園剣風帖(東京魔人学園剣風帖×クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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魔獣行5

医院長の診断が終わり、診察室からでてくるなり、さやかと霧島は私達に深深と頭を下げた。

 

「助けてくださり、本当にありがとうございました」

 

「よかった......やっとまともに話を聞いてくれる、まともに力を貸してくれそうな人たちに会えた......。ほんとによかった......。よかったね、さやかちゃん」

 

「うん......霧島君が無事で、本当によかった......」

 

霧島とさやかは本当に心の底から安心したようで、桜ヶ丘病院の待ち合い室のソファに座り込んでしまう。私達がかけつけた時にはすでに敵は去った後であり、《天御子》の《氣》を感知した私は呪詛を警戒して2人を強引に桜ヶ丘病院に連れて行ったのだ。

 

「さあて、そろそろ本題に入ろうぜ?お前はさやかちゃんをずっと守ってるみてーだがあれか?幼馴染か?」

 

「とんでもないッ!!僕はさやかちゃんのボディガードを務めているんですッ!さやかちゃんとは同じ高校に通ってて、クラスも違うし、幼馴染だなんてそんな!」

 

「霧島君は私が《力》に目覚めてから、ずっと助けてくれているんです。こんなこと、誰にも相談できなかったから......」

 

「なにがあったのか、説明してくれるか?俺たちが力になれるかもしれない」

 

緋勇の言葉にさやかはうなずいた。

 

さやかが自分の《力》を自覚したのは、今年の4月。高校生になったのを節目に、アイドル活動を本格始動してからすぐのことだった。ファンレターで自分の歌を聴いたファンが感謝の手紙やメールをどんどん送り始めたことに始まる。病気が治った、元気がもらえる、好きな歌を聴いたら精神状態が向上するのはよくあることだと気にもとめなかったのだが、活動を拡大するにつれてお礼をいわれる回数が増えに増えた。芸能界の重鎮や裏を牛耳る人にまで評判がとどき、実際にその恩恵にあずかったらしく、さやかは知らないうちに優遇されるようになっていく。気づけばさやかの知らない間にその《力》は直接でなくてもテレビやラジオを介しても発現することが明らかになり、人気は宗教的な熱気を帯び始めた。

 

24時間テレビの番組で共演した重度の障害者の症状がよくなり、さやかの歌を定期的に聞きながらリハビリをすることで劇的な作用をもたらしたあたりで、いよいよさやかは自分の《力》を自覚するに至る。

 

マネージャーは素人モデルの頃から付き合いのある良識的な人であり、所属事務所が小さくさやかが唯一の看板のため大切にしてくれるのがさいわいだった。

 

「私が《力》に気づく前に教えてくれたのが霧島君なんです」

 

「僕、幼い頃から西洋剣術を習っているんですが、そのせいか《氣》がわかるんです。さやかちゃんをみてすぐにわかりました。さやかちゃんは武道を嗜んだことがないのに、《氣》による治療とよく似たことが歌によってできていたんです」

 

「紗夜ちゃんや舞子ちゃんと同じですね。歌に《氣》をのせることができる《力》」

 

「私の他にもいらっしゃるんですか!?」

 

「ここの病院の看護実習生だよ。みなかった?黒髪の子と、栗色の髪の」

 

「あ、さっきの治療をしてくれた人かな、さやかちゃん」

 

「きっとそうだわ。そっか......私だけじゃないんですね......よかった......私嬉しいです。今まで誰もいなかったから」

 

「さやかちゃんだけじゃないって知って安心しました。僕、《氣》はわかるけど、さやかちゃんみたいな《力》はないから悩みを聞いてあげることは出来ても、解決策を一緒に考えることしかできなかったから」

 

「ううん、いいの。霧島君のおかげでどれだけ助けられたか......」

 

「さやかちゃん......」

 

「やっぱり大変なんだな?」

 

「あれかァ?ファンに《力》をもったやつがいるのか?」

 

蓬莱寺の言葉にさやかは肩を震わせた。代わりに霧島が教えてくれた。

 

事の発端は今月11月に入ってからだった。さやかのファンイベントに参加した男はかならず毎夜夢を見るようになるという。その夢は、何者かが一歩一歩近づいてくる夢だ。はじめは気配だけ、次に足音、そして人影。ついにある晩その正体を見ることになる。毎夜近づいていたのは『頭部が無く、裸で両手に口のある太った男の姿をしている』化け物だ。

 

その身体は白熱しており、夢の中で有りながらもその化け物の持つ異様な熱さを感じる。夢から目覚めるたびにその胸にせり上がる<ある種の感情>が強くなっていく事に気付く。

 

それは途方も無く肥大する悪意。もし、その悪意を発露したいと願えば、それはきっとその名伏しがたい力を貸してくれる確信がある。

 

そして、ある日、暴発する。それはファン同士の小競り合いだったり、さやかと霧島がいるのを目撃しての嫉妬だったりが引き金だが、発狂するのだ。そして、化け物になってしまう。

 

「まじかよ、爆弾かなんかか?」

 

「憑依師は悪霊を好きなところに飛ばせるらしいですからね......」

 

「よく無事だったね、2人とも」

 

「霧島は大丈夫なのか?」

 

「僕も夢は見るんですが、なんとか。鍛錬のおかげかな......。発狂したやつはかならずさやかちゃんを誘拐しようとするから、逃げたり、やっつけたりするために頑張って鍛えてるので」

 

それでも夢見は悪いのか、霧島はため息だ。

 

《あれこそが誰しもが心の奥底で望んでいた姿》

 

戦慄が走る。

 

《滅びの道を加速する現代文明はまもなく終焉を迎える》

 

「この声はッ!!」

 

《そしてくる新しい混沌の世界には獣のサガを持つものこそ相応しい》

 

「知ってんのか、霧島!」

 

《生きるためにただその純粋で高尚な目的のために殺し合い、奪い合い、そして喰らい合う》

 

「僕の夢にでてくる化け物の声ですッ!」

 

《それこそが人間の本能であり、本性》

 

その言葉に私は立ち上がり、《如来眼》を発動させ、あたりを見渡す。

 

《この世紀末にこそ、人類はあるべき素へと帰るべきなのだ》

 

「───────ッアンタたち、今すぐ逃げるんだッ!!」

 

遠くで医院長の叫びが待ち合い室に木霊した、その刹那。玄関近くのガラス張りの壁が一瞬に吹き飛び、さやかたちの悲鳴があがる。

 

「近づいてきます、あの時の《氣》がッ!」

 

私は木刀を構えようとしたが、如月に手を捕まれて引っ張られる。私はようやく医院長が逃げろと叫ぶ訳が聞こえて走るしかないと知る。早く、と言われて走り出した。

 

「憑依師は人間に動物霊を憑依させた上で、蟲毒を行う気だッ!アンタたちが平気だろうと、取り憑かれようと、まともに相手した時点で術中にハマっちまうんだよ!!勝ち残った時点で魂が神霊に変質しちまう!そうなったら最期、人蟲(じんこ)だ!ここじゃだめだ、院内は狭すぎる!早くこっから逃げるんだ!」

 

粉砕されたガラスを踏みつけながら現われたのは、実体を持たないなにか、だった。《氣》の濃い部分だけがぼんやりと黒く濁り、物凄い勢いで近づいてくる。

 

「霧島ッ、あれがさっきお前たちを襲ったやつか!?」

 

「はい!」

 

「さやかちゃん、大丈夫なの!?」

 

「わかりませんッ!なんで大丈夫なのかわからないんです!でも私と霧島君はなぜか大丈夫みたいでッ!!」

 

「大したやつだぜ、霧島ッ!こっからでもやべーのがわかる!」

 

「あれは《天御子》の《氣》を伴ってる......どういうこと......?呪禁博士は《天御子》の一員だったの......?でも陰陽師に追われて姿を消したはずじゃ......!?ああもう、なんなのよッ!」

 

「なんでボクたち、追っかけられてるのー!?」

 

「赤い髪の男の差し金か、私が狙いか、だめだ情報が少なすぎます!」

 

転がり落ちるように病院を飛び出した私達は中庭に出た。

 

「やあっと見つけたで、蛇蠱(じゃこ)ッ!」

 

そこにいたのは劉弦月だった。不敵な笑みを浮かべて中国語の呪文を唱え始める。そこにいたなにか、改め蛇蟲はのたうち回るように広がったり、縮まったりしたあと、四散してしまった。

 

「消えた......?」

 

「来るのが遅れてごめんな、アニキッ!姉ちゃんが《将門公の結界》が危ないからて手伝いに駆り出されとってな~ッ!堪忍やで!」

 

「瑞麗さんに?」

 

「せや、機関通じてお得意さんから依頼があったらしくてな?嫌な予感したからバックレて正解やったで。よかったあ」

 

ほんとに怖かったらしく、劉は緋勇に抱きついている。

 

「すご~いッ!すごいよ、劉クン。ボクたち逃げるしかなかったのに」

 

「いや、《旧神の印》もっとる小蒔はん達やったら倒せるんやで?倒せるんやけど、距離保っとかんと倒したやつに取り憑くパターンやねん。めんどくさいやろ?なら根本から倒した方が楽やねん」

 

「いつぞやの蟲みてーなやつらだな!?」

 

「ほんまめんどくさいことばっかする敵や。はやいとこ《力》の持ち主倒さなえらいことになるで?どーすんのん、アニキ」

 

「そんなの、乗り込むに決まってるだろ。月(ゆえ)のおかげで対策はわかったんだ、今度は逃げずに戦えそうだしな。さやかちゃんたちから被害は聞いてるんだ、このままじゃまずいことくらいわかってる」

 

「さすがァッ!いうてくれると思とったわ。そーいうことなら話ははやいで、ほかの結界は姉ちゃんの同業者の人らが守ってくれとるさかい、わいらは乗り込もか!無許可やけどな!」

 

「いいのか?」

 

「俺たちのが邪魔にならねえか?」

 

「えーねん、えーねん。でっかい組織なんていつだって動くの遅いんや!待っとったら日が暮れて、蟲まで出てこられたら手に負えんくなるからな!」

 

「たしかに......呪術は夜がより強まりますからね。一理あります」

 

「みなさん、僕たちも連れて行ってください!」

 

「あの、どういうわけか、あの呪術に私達は耐性があるみたいなので......ご迷惑はかけません!だから、手伝わせてください、お願いします!」

 

さやかと霧島の言葉に目を丸くしたのは劉だった。

 

「アレに耐性あるって、あんさんらナニモンやねん!?まあた知らんとるうちにとんでもない子らと知り合っとんやな、アニキ。わいはいーけど、大丈夫なん?槙乃はん」

 

「大丈夫ですよ、きっと。今、《氣》を見せてもらいましたが、お二人共とても強い《氣》と《加護》を持っています。それも、憑依なんてはねのけるくらいつよい《加護》。私達に万が一があった時には助けてくれるはずです」

 

私の言葉に緋勇は2人の同行を許したのだった。

 

 

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