憑依學園剣風帖(東京魔人学園剣風帖×クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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後日談

如月はあいも変わらず、先代当主こと祖父が残した骨董店の手伝いの建前で実際は店主をしながら暮らしていた。20歳にならないと名実共に骨董店店主だと名乗るには複雑かつ面倒くさい手続きが必要なのだ。それゆえに、資格をスムーズにとるために実務経験をつもうと、最近は代々付き合いのある同業者のところに顔を出していた。店を休むことも多い。

 

祖父は如月が自力で生活できるようになると、「旅に出る」といって家を出て以来連絡はない。如月はその時からずっと今まで通りに毎日を過ごしている。幼き頃から、己の《宿星》の為に生活サイクルの中に様々なことを組み込まれて来たため、なんの弊害もなかった。落ち着き払って生活していた。

それはまるで惰性にようにして繰り返されているかのように。

 

それでも身の回りの変化は起こるものだ。高校を卒業してから、愛は元の世界に帰らずこちらの世界に残ることを選んだ。愛が真面目に勉強に取り組む時間があったなら進学の道もあったのだが、こちらの世界に残ることを決めたのが土壇場だったこともあり、大学受験に間に合わなかったのである。前の世界と同じ職業に就きたいとプログラマーになるために専門学校に通い始めた。2年ですべてをものにして2年でインターンに行きまくると宣言した通り、夜遅くに帰る日々が続いていた。

 

すべては5年でものにするためだという。如月がエムツー機関を始めとしたお得意様との取引が進むにつれて、海外進出を考え始めたと相談した矢先だったから、如月はうれしさ半分、心配半分だった。

 

それを心配した槙絵が専門学校に近いから、という理由でまた愛を預けてきたのだ。まだ未成年の愛は学費を出してもらっている槙絵の頼みを断れないし、如月も愛とすれ違い気味で会えない日が続いていたから快諾したのだ。

 

「ただいま~」

 

「おかえり。そろそろ来るかと思ってお茶を入れようとするところだったよ」

 

同棲生活は互いに気を遣わないといけないからか、愛は実家暮らしよりも無茶な日程を組まなくなった。今日は早く終わったらしく、そのまま帰ってきたのだ。

 

如月はすでに定位置となっている縁側寄りの場所へ座っている。愛がコートをおいてよってきた。如月は煎れたばかりの緑茶を前に置き、隣へと腰を下ろした。愛は緑茶を一口含み息を吐いた。

 

「最近、大変そうだな。大丈夫か?」

 

「あはは......文化祭のチームリーダーになっちゃってね。みんなでプログラム作らなくちゃいけないの」

 

「なるほど。いつだい?」

 

「11月くらいだったかな?チラシできたら渡すからきてね」

 

「もちろん」

 

「あー、えと、それでですね、翡翠さん」

 

「なんだい?改まって」

 

「心配してくれてるとこ、ほんとに申し訳ないんだけど、みんなで打ち合わせと称した打ち上げの回数が増えそうでして......」

 

申し訳なさそうに愛は事前に申し出てくる。律儀というか、なんというか。愛にとっては如月との関係を考えたとき、なにもやましい事がないんだから先に情報を開示してしまえという感覚のようだ。

 

「わかった。あんまり遅くなるようなら連絡してくれ、迎えに行くよ」

 

「ほんとに?よかった。ありがとう」

 

愛はほっとしたように笑った。

 

「なあ、愛。アルバイトの時もそうだけど、僕にいちいち確認とらなくてもいいんだよ?そりゃ言ってくれた方がうれしいが、君にも予定があるだろ?」

 

「別に隠すようなことじゃないし。お互い予定知ってた方が楽じゃない?」

 

「まあ、たしかにそうだけれど」

 

「それに、断る口実出来てありがたいのよ。ほんとは打ち上げなんて面倒くさいことしたくない。お酒が出ない打ち上げほど虚しいものはないわ」

 

「これは20を超えたら迎えに行かなくちゃいけないな」

 

「あっ、余計なこといっちゃった」

 

「やっぱりそうだ、毎回遅くなるパターンだな」

 

「あはは......。まあ、冗談はさておき。翡翠と一緒にいるために進学の道を選んだわけじゃない?すれ違いからの別れ話になったらたまらないってだけよ」

 

「それは経験則?」

 

「進路より恋愛をとったことなかったもので。ほんと探り探りなのよ、あたし。不安で仕方ないの」

 

「そうか、奇遇だね。僕もだよ」

 

いつでも冷静沈着で静かに前を見すえている愛からは想像もできない言葉だった。誰よりも先を読み、そして臨機応変に考えをめぐらすことができる《如来眼》の《宿星》とは思えない言葉だった。如月との未来を選んだ時、自分のこの世界における身の振り方をあっさり決めてしまった潔の良さにはさすがだと思ったものだが、どうやら愛は愛なりに悩むこともあるらしい。如月は嬉しくなって笑った。愛はばつが悪くなってきたのか、目を逸らしてしまう。

 

「愛」

 

「なに?」

 

「ほんとうに、僕はなんで今まで言わなかったんだろうな。思えばもっと早くいえばよかったことばかりだよ」

 

「あたしは言わなきゃよかったばっかりよ、はずかしすぎてしねるゥ......」

 

どうやら愛はまた自爆したらしかった。

 

「お気に召さないかい?」

 

思いがけないほど近く。すぐ耳元に落ちた声と指先の感触に、愛は思わず呼吸が跳ねた。

 

「いや、その……いやとか、そういうのじゃなくて、その、なんというか……何が楽しいのかわかんないの......なんで笑ってんですかねえ、翡翠さんッ!?」

 

目元に朱を散らしつつ叫ぶ愛に如月は笑う。

 

「君のそういうところが楽しいんだ」

 

「身も蓋もないわね......」

 

如月が花が咲き綻ぶような笑みを向ける。こんな顔をさせてしまうのが自分であるということに未だに慣れないらしい愛はいいしれぬ胸の騒ぎを覚えるらしい。

 

「ああ、此処に鏡が無いのが残念だね。今の君がどんな感じなのか、みせてあげたいよ」

 

「やめてよ、なにそのいじめっ子の発想ッ!そんなんだから、京君にむっっ………」

 

愛はむっつりってからかわれるのよ、と最後まで言い切れなかった。耳朶を緩く弄んでいた指先が、項を辿って中へとするりと入り込んだのだ。ついでに開き掛かった唇を柔らかなものに塞がれた。

 

「…………っ!」

 

一瞬の困惑から迷いののち、愛は唾液を飲み込んだ。呑み込み切れずに唇の端を伝った雫を、ゆるりと舌がなめとっていく。襟から入り込んだ指は、鎖骨を辿って、胸の谷間を下り。

 

「え、あ、あの翡翠さんなに……を……?まだ昼間だよッ?!」

 

「もう学校は終わったんだ、いいだろう?まっすぐ帰ってきてくれたんだ、予定はないんだろう?」

 

「いや、たしかにそうだけどッ!そういうつもりでいったんじゃ」

 

「見られるのがいやなら、見えないようにしてあげようか?」

 

「!!!」

 

凍りついた愛はぶんぶん首を振る。

 

「なにを想像しているのかは知らないけれど、君が嫌がるようなことはしないよ。大丈夫」

 

「だ、大丈夫、大丈夫だから、いやってわけじゃないから......その、せめて2階......」

 

涼しげなその声で、言い切られてしまうと、ついうっかりと納得してしまいそうにもなるのだが、そのたびに流されそうになっては軌道修正した。如月は冗談と本気を同じテンションでいうためわかりにくいのである。

 

「そうかい?なら、いこうか」

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