憑依學園剣風帖(東京魔人学園剣風帖×クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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比良坂紗夜と遊んだあとは、いつも私は品川駅まで送ってもらい、新宿駅まで山手線で帰ることになる。山手線からは時諏佐家の人が迎えにきてくれる。夜も遅いから槙絵の気遣いはわかるが息がつまりそうだ。これから私は渦のようにうねり流れ、個々の存在を飲み込んでいく構内の流れに身を投じなけばならない。

 

「今日は楽しかったです。紗夜ちゃん、英司さん、ありがとうございました」

 

「わたしも楽しかったです。また遊びにいきましょう!」

 

「はい、ぜひ。携帯まで借りてしまってすいません」

 

「いや、もう夜も遅いからね。事前に連絡したとはいえ、ちゃんとしておかないと時諏佐先生に怒られるのは僕だ。気にしないでくれ。気をつけて帰るんだよ、槙乃さん」

 

「はい、新宿駅につく頃にはお迎えの車も来ていると思います。それじゃあいきますね。ばいばい、紗夜ちゃん」

 

「ばいばい!」

 

改札の向こうで手を振る紗夜に手を振り返しながら、私は山手線につづく通路を探し始めた。英司は紗夜になにかいうなり、ロッカールームのある場所に向かって行くのが見えた。

 

私はそれとなく壁の特大なポスターをみる振りをして様子をうかがう。

 

今夜に限らず、紗夜と遊ぶ時は時間帯の関係で英司に保護者として同伴になることが多いのだが、別れは決まって品川駅だ。英司は車の免許はもっていても車はないらしい。そりゃあ品川区在住で車をもっているのは、よっぽど好きか東京郊外が仕事場の人だろう。品川区内の高校が勤め先の英司はいらない。

 

「......また同じロッカー使ってる......」

 

嫌な想像が頭をよぎる。

 

あのロッカーを比良坂英司はよく利用する。どうやら誰かと取引をしているようだ。今まで英司はボロを出したことは無いから確信はないが、柳生と繋がっているのでは、という疑惑が拭えない私は勝手に考えてしまうのだ。

 

ローゼンクロイツ学長のジル・ローゼスか、はたまた柳生側の幹部か、支援団体や組織か。頻繁に利用しているようだから、よほど細かな取引をしている現場のようだ。

 

ちなみにジル・ローゼスとは表向きローゼンクロイツ学院の学園長として福祉家を装うが、正体はネオナチの幹部。超能力のある子供達を集め、第三帝国復活を企む敵だ。柳生の部下の支援を受けて水面下出活動している。

 

取引とはいっても物品を交換する程度のようで、カバンに入るサイズの荷物を入れたり、出したりしているだけのようだ。2人は直接顔を会わせないようにコインロッカーを使っているようだ。

 

人の多さが幸いしてか、誰も気にしている人間はいやしない。何を交換しているのかはわからない。

 

「考えすぎ......?いや、でもなあ......」

 

紗夜はどうも勘違いしている気配がするのだが、英司が私に向ける感情は紗夜が緋勇に向けるような微笑ましい感情ではない。それだけはたしかだ。

 

《如来眼》の感知する《氣》は大地と空と人が作り出す《氣》のため、感情が具に変化していく様子がよくわかるのだ。一般人はそもそも《氣》をコントロールできないから、目に見えるくらい変化はしない。《如来眼》が感知できる時点で《宿星》の《力》でなくても、英司は《力》にまで昇華された技術の持ち主であることが証明されている。

 

それが《アマツミカボシ》や比良坂の《伊邪那美》の《宿星》とよく似た《氣》の時点で、死に関係する秘術の魔術師であることを証明している。ブードゥー教に傾倒しているのは事実のようだ。

 

私がなぜブードゥー教だと断言できるのか。それは夕薙大和というブードゥー教の司祭に月光を浴びると老人になる呪いをかけられたバディがいるからだ。それがなければ、きっと気のせいだと思い込むことができていた。

 

だからため息が深まるばかりなのである。断じて恋煩いではない。

 

 

「ふっふっふっふっふーッ!証拠は上がってんのよ、槙乃ッ。いいかげん白状しなさいよ~。何回食事にいったり、遊びにいったりしてるの?」

 

「だから、何度も言うようにですね......誤解ですよアン子ちゃん。紗夜ちゃんと一緒に遊んでるだけです。紗夜ちゃんは桜ヶ丘病院のアルバイトで忙しいから、どうしても夜になってしまうんですよ」

 

「あのねェ、いっつもいっつもお兄さんがついてくるわけないでしょっ!土日に比良坂ちゃんと遊べばいいだけじゃないのッ」

 

「英司さんシスコンだし、紗夜ちゃんブラコンなんですよ」

 

「そうだとしても、水族館とか映画館とか高そうなレストランとか完璧にデートコースだからね、槙乃。わかってるとは思うけど?」

 

「アン子ちゃん、どこから入手したんですかその情報......あ、言わなくてもいいです。舞子ちゃんからですね?」

 

「そうよ?高見沢ちゃん曰く、最近の比良坂さんはほんとにうれしそうに槙乃のこと話すそうじゃない。お兄さんがどうとかってずっと盛り上がってるそうよ」

 

「紗夜ちゃん......なにやってるんですか......私は紗夜ちゃんがいなかったら英司さんと遊びには行きませんよ......」

 

「だから紗夜ちゃんが気を使ってるんじゃないの。わかってないわね~ッ、どこをどう見てもお兄ちゃん想いな妹さんじゃない。で、槙乃はどうなの?」

 

「どうって、どうも思いませんよ、そんなの......。紗夜ちゃんのお兄さんだとしか......」

 

「ふ~ん?にしては随分と悩んでるみたいだけど~?」

 

「悩んではいますけど、恋煩いではないです。断じてないです。安心してください」

 

「ほんとに~?じゃあこの写真はなによ、比良坂先生をこっそり見ながら溜め息ついちゃって~」

 

「───────ッ?!」

 

「あ、食いついた」

 

「これ、誰にも見せてないですよね、アン子ちゃんッ!?」

 

「もちろん。親友のよしみでアンタが一番最初よ」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとのほんとに。でも槙乃の返答次第じゃ舞子ちゃん経由で比良坂ちゃんあたりに流してもいいかな~」

 

「やめてください、ほんとにお願いします。ほんとに勘弁してくださいよ。洒落にならなくなりますからッ!」

 

むふふ、と笑った遠野は私にネガごと渡してきた。

 

「最初っから素直になってればいいのよ。やっぱり比良坂先生が28歳なこと気にしてたわけだ?相手は優秀な科学者で高校教師でもあるわけだし?気持ちはわかるわ、校長先生の教え子みたいだし、慎重になるのもね。ただ素直にならないのはどうかと思うわよ」

 

「ほんとにそういうんじゃないんですよォ......」

 

ぐったりしている私に遠野は頭を撫でてきた。誰のせいだと思っているのだ。

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