憑依學園剣風帖(東京魔人学園剣風帖×クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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憑依學園剣風帖44 鬼道完

私はただちにこの洞窟内の解析を開始する。

 

どろどろとした、固定をしらない闇がしみだし、粘着質性をおびてきた。やがてそれは身体のシルエットをつくりだし、立ち上がろうとしている。《門》の向こう側から這い出してきている全身が蠢くたびに無数の目がが開いては閉じる。触覚のようなものがざわざわと辺りを探っていた。

 

闇はいつしか地面に擦れた部分に水泡を立ってはグズグズと音を立ててはじけ、腐った肉汁のようなものが流れ落ちて、見る者を嫌悪感で震え上がらせる。そして一瞬でも触れた者を即死させる霧を発生させていた。

 

《門》をはやく閉じなくてはならない。だが直接閉じるには距離があり、水角と変生させられた《鬼》が行く手を阻む。

 

「みなさん、毒に汚染されている足場は変色しています。《門》の周りは瘴気に包まれていて、触れたら即死、向こう側を直視したら石化します。注意してくださいッ!」

 

私の解析結果にみんなから返事が聞こえる。緋勇は遠距離攻撃を得意とする仲間に声をかける。《門》を閉じるチームと水角たちを倒すチームにわかれることになった。アランは私の瞳が奇妙な虹彩を放っているのに驚き、まじまじと見つめていたがニヤリと笑った。

 

「それがマキノの《力》デスカッ?」

 

「はい、私の《力》は《氣》をみたり、大気を操作したりすることができるんです」

 

「なるほど。ボクの《青龍》の《力》が活性化しているのはそのせいですネッ!」

 

「やってみますか?」

 

「オーケイッ!」

 

「大いなる白き沈黙の神よ、その身を全てを切り裂く刃と変えて我に力をッ!」

「Be wind,Change in the tusk,and ruin an enemy!! 」

 

「「封神風吼方陣!!」」

 

地面に叩きつけるようにして魔の風を送り込むと、地を這いながら走る《氣》が、遠方の《鬼》を切り裂き、後方へと吹き飛ばした。そして、《門》が揺れる。衝動は走ったようだがまだ足りないようだ。

 

「なんだなんだ、面白そうなことやってるじゃねェかッ!」

 

食いついてきたのは雨紋だった。

 

「どーもセンパイ方とオレ様の《氣》は相性がわりぃみてーで、方陣となると置いてきぼり食らってたんだよな。アランとは気が合いそうだが、どう思う?槙乃サン」

 

「よくわかりましたね、雨紋君。どうやらお二人の《氣》は相性がいいようですよ」

 

「よっしゃ、槙乃サンのお墨付きなら発動しなかった、なんてショッパイことにはならなさそうだ。試してみようぜ!」

 

「WOWッ、面白そうネッ!」

 

「さて、オレ様とお前の意気がピッタリなとこ、見せてやろうぜ、アラン」

 

「オーケー、ライト。こっちは準備バンタンネ!!」

 

「よしっ、いくぜッ!!」

 

雨紋の見立てどおり、霊銃に電気を伴った《氣》が融合し、新たな効果をえて《鬼》たちを吹き飛ばしていく。そして、そのまま雷撃が衝撃波となって《門》に叩きこまれた。

 

「「ドラゴン・プラチナス!!」」

 

あと少しだ、あと少しで《門》が完全に閉じられる。

 

「小蒔ちゃん、アラン君と方陣をお願いします」

 

「ええエッ!?ボクもなのッ、なになに、アラン、みんなの《氣》と相性良すぎない?ボクは全然気が合う予感しないんだけどッ!?」

 

「オーライ、プリティガール!!サア、ボクの胸へ!!」

 

「まったく、こんな時になにいってんだよッ!!そんなことより、しっかり狙い定めてよッ!!」

 

「OK、コマーキ、ボクのガンさばき、信じるネ!!」

 

「へへッ、ボクも火龍の力、みせてあげるよッ!!いッくぞォ~ッ!!」

 

「「フレイム・スナイパー!!」」

 

火が轟いた。風の《力》により威力が増幅し、勢いよく《門》に襲い掛かった。があぁぁん、と轟音が響いた。《門》はとじられた。

 

「よかった......よかったヨ......一夜にしてあの黒い煙につつまれるのは、ボクの村だけで充分ダヨ......」

 

「まだよ~、無理やり召喚の儀式を中断するだけじゃダメ~」

 

「What?」

 

「そうですね、ちゃんとお帰り願わなければ」

 

「ミサちゃんも手伝うわ~」

 

「ありがとうございます、ミサちゃん」

 

「でも~、2人の魔力だけじゃ足りないかも~」

 

「えっ、あの、ミサちゃん?」

 

「なんかすっげえ嫌な予感が......」

 

「???」

 

「ごめんなさい、みなさんの魔力をお借りします」

 

「うふふふふ~、槙乃ちゃん、あの《門》くぐったことあるもんね~。起動の仕方知ってるもんね~。あの増幅装置に魔力を込めればいいんでしょ~?」

 

「そうです。いきますよ、ミサちゃん」

 

私はうなずいて呪文をとなえる。裏密が、嬉々として輪唱する。私たちの足元に光彩の魔法陣が現れた。

 

「それじゃあ~、始めるよ~」

 

「ちょッ、ちょっと待ってくれ、裏密サンッ!」

 

「槙乃、槙乃っ、待ってってば~ッ!」

 

「oh......クレイジーガールたちネ......ボクはそろそろ......」

 

「てめェ、アランッ!どさくさに紛れて逃げんじゃねェよッ!」

 

「うふふふ~」

 

「みなさんの《陽の気》があれば、いけます!」

 

「この魔方陣に流れ込んでくる~」

 

「かッ、身体の力が抜ける......」

 

「吸い取れ、吸い取れ~、どんどん吸い取れ~」

 

「みなさんの犠牲は無駄にはしません!」

 

「犠牲っていっちゃってるしィッ!!」

 

「めっ、眼が回る~」

 

「邪神退散ッ!」

 

「真・六芒魔法陣~」

 

吹き上げられた無数の光の螺旋が豪雨となって《門》に降り注ぐ。恐ろしいまでの威力と、神々しいまでに輝く光。

 

「う~ふ~ふ~」

 

裏密は恍惚とした笑顔を浮かべる。私は《門》が完全に沈静化するのを見ていた。一気に魔力を奪われた桜井たちがぐったりしたまま倒れているが必要な犠牲だった。

 

 

 

 

 

 

鬼の面が砕かれる音がした。

 

「───────ッ!!この《氣》はッ、まさかッ!!」

 

私は先程まで水角を満たしていた邪悪な《氣》が退散し、覚えがある《氣》を感知して振り返った。そして駆け出す。そこには普通の女性がいたものだから緋勇が固まっている。まさかここまでの惨事を引き起こしたのが同じ《力》をもつ女性だとは思わなかったのだ。《力》に目覚めた大人にあうのは初めてだった。それは私も同じである。

 

今の今まで霊氣の込められた水晶を核に《鬼道》により蘇生した遺体に《怨霊》を入れたのが自称《鬼道衆》だと思っていたのだ。まさか生きている人間だとは思わなかった。

 

「なんでですか!?嘘でしょうッ!?どうしてですか、那智さんッ!?那智真瑠子(なちまりこ)さんッ!?!」

 

私の叫びに凍りついたのは如月だった。

 

「槙乃、こいつのこと知ってるのかッ!?」

 

緋勇が叫ぶ。私はうなずいた。

 

「《鬼道》を扱える家系はそう多くはありません。もしかしたらと思って《氣》を見せてもらったことがあるんです。《鬼道衆》とは似ても似つかない《氣》だから安心してたのにッ!!そもそも水角の家系と那智さんは関係ないはずなのに!!」

 

「邪神の《氣》でカモフラージュしてたのか......!?」

 

緋勇たちに衝撃が走っている。

 

水角は那智の先祖ではない。雹という気位が高く、他者に心を許さない冷ややかな雰囲気の美女のはずだった。水を操る『力』を持つほか、人形を生き物のように操る巨大なからくり人形・ガンリュウに常に抱かれて移動していた。これは、かつて幕府に自らの一族を滅ぼされると共に、彼女自身も歩行の自由を奪われた過去を持つためである。

 

那智家は、150年前に実在した《鬼道衆》の桔梗という妖艶な雰囲気を漂わせる美女を先祖に持つ。彼女は九角天戒に深く忠誠を誓いその側に仕えていて、安倍晴明と女狐の間に生まれた女性で、陰陽道や外法に関する卓越した知識と技術を持っていた。水とはなんの関係もない。《力》としても親和性はないはずだった。一体どうなっているんだ。

 

子孫の那智真瑠子は、小田原の大学に通う普通の女子大生だった。当時祖父につれられて現れた中学生の九角天童に惹かれ、《鬼道》の研究に勤しむため通う九角とやがて一夜限りの関係をもった。子供を身ごもった直後に天童が緋勇たちに倒され、改心直後に柳生に粛清されて死んだのだが、その事情を知らされないままストレスのあまり子供が死産。親友が九角とあったことがあることを知り、嫉妬のあまり殺害。子供と愛する人間を一度に失って発狂した彼女は《陰の鬼道書》を入手して禁術に手を出し、さらなる悲劇を巻き起こす運命にあった。

 

だからこそ10年前から九角側に警告をしてきたのに。まさか九角天童と共に柳生側についたのだろうか。一体なにが......。

 

 

「ふふッ......その名前で呼ばれるのは、久しぶりだわ......」

 

那智は私をみて笑った。

 

「あんたね......あたしの家に《鬼道衆》を復活させたやつがいるから、気をつけろっていってくれたのは......」

 

「───────どうして、どうしてですかッ!?」

 

「《鬼》を......」

 

「え?」

 

「《鬼》を孕んだからよ......。あたしは知らないっていったのに、なにも知らないっていったのに、誰も信じてはくれなかった......那智家から追い出されたのよ......」

 

「そんなッ!?」

 

「むしろ、殺しにきたわ......。あたしは逃げるしかなかった。恋人すらいたことがないあたしが、一体誰の子を孕むっていうのよッ......深海に眠る邪神を召喚する悪夢ばかり見せられて、気が狂いそうだっていうのにッ!!」

 

那智は泣き出してしまった。

 

「《鬼》を産んだあたしは人間じゃなくなっていったわ。水の中でも呼吸ができる、おぞましい人魚に近い形へと姿を変えていったのよ。もはやあたしは魚も同然だわ。魚は陸では生きられないのよッ!!今なお邪神からテレパシーが送られてくるッ!知らない間に町の人を誘拐したり、殺して食らったり、ルルイエの悪夢を見て苦しんだわ。もう、もう疲れたのよッ!あたしはもう、もうッ!!!」

 

「那智さんッ、落ち着いてください、落ち着いてッ!!」

 

「もっとはやく、もっとはやくアンタ達に会いたかった......もうあたしはダメよ。もう無理なの。今やあたしはルルイエへの門を開くために身体が繋がってしまっているッ!あたしがいる限りどこかしらの《門》は開くッ!これ以上のシンクロと犠牲を防ぐために人魚たるあたしを殺さなきゃならないわ。ほら、はやくしなさいよ。手遅れになる前にッ!!!」

 

絶叫する那智を私はだきしめた。

 

「《如来眼》でわかるでしょ?あたしはもう手遅れなのよッ」

 

「那智さん......」

 

誰もが動けない中、私たちのところに歩いてきたのは美里だった。

 

「那智さん......」

 

「あんたが美里葵ね......噂には聞いているわ。気をつけなさい、《鬼道衆》はアンタを血眼になって探してるわよ」

 

「えっ」

 

「《アマツミカボシ》すらなし得なかった《鬼道》の完全なる解呪なんて脅威でしかないもの」

 

「......」

 

美里は足をついて手を握った。

 

「なんのつもりよ」

 

「......やってみます」

 

「無茶いうわ...... 那智家の《鬼道》ですら治癒しなかった呪いをどうやって解呪するっていうのよ。さすがにアンタでも無理よ......」

 

那智は殺されることでしか救いがないと思い込んでしまったために赤い髪の男に取り込まれ、ここまでの凶行に及んだらしい。女子大生にふりかかった陰惨すぎる悲劇に誰もが息をのんだ。

 

「今だって誰かから呼ばれているような気がするのよ。下手な真似はよしなさい、あんたまで目をつけられるわよ。あたしだっていつまで正気でいられるかわからない。大いなるクトゥルフの一部である本性を隠しきれなくなるのも時間の問題だわ。自覚のないまま人類を殺戮する化物に成り果てる前に殺しなさいよ。ほら」

 

「黙っていてください」

 

「......」

 

「槙乃ちゃん」

 

「わかりました。やってみましょう」

 

「......」

 

那智は黙り込んでしまう。柔らかな光が洞窟内を明るく照らしていく。如月が救急車の手配をするために携帯を取り出して外にでていく。蓬莱寺たちは赤い髪の男の残忍さに苛立ちを隠しきれず、岩を砕く音が響いたのだった。

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