憑依學園剣風帖(東京魔人学園剣風帖×クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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憑依學園剣風帖56

本郷通りに面して、たくさんのお寺の中に南谷寺がある。南谷寺と目赤不動尊両方の門柱があるのですぐわかる。

本堂の右手に不動堂が独立していて、喧噪の本郷通りから一段下がった日だまりにある。かっての武蔵野の村々にあった素朴な堂の様式で、いかにも庶民的で、ほっとする。

 

扉は開かれていて、ろうそくが灯り、ほのかな光線の中に、厳しい御前立ちの不動尊を拝せる。手前に、「縁起」と「「江戸五色不動尊」(住所や道順を記す)が置かれていた。

 

目赤不動尊は、 もとは赤目不動尊と言われていた。 元和年間、比叡山の南谷に万行律師がいて、 明王を尊信していた。ある夜、伊勢国の赤目山に来たれとの夢見があり、赤目山に登り、 精進を重ねていた時、虚空から御声があって、一寸二部の黄金造りの不動明王像を授けられた。

 

赤目山を下り、比叡山南谷の庵室に安置した。しばらくして「黄土衆生の志願を起こし」関東に向かい、下駒込(いまの動坂)に庵を結んで、万民化益を祈念した。参詣の諸人は奇瑞を得て群参した。

 

寛永5年、三代将軍家光が鷹狩りの途中、 立ち寄り、「御徳御尋になり由来を言上したところ、府内五不動の因縁を以て赤目を目赤と唱へる様にとの上意が」あり、 現在の地を賜った。

 

後に、寺院を建立して、智證大師作 不動明王を御前立に安置した。以後、目赤不動尊として、 「年を超え月を重ねて利益日々に著しく参拝の諸人絶えること」がない。

 

「さってと───────、俺たちも急ごうぜ。さっさと祠を見つけて、宝珠を封印しちまおう」

 

「ああ......」

 

「また結界が正常化するわけだな」

 

その敷地内にひっそりと祠はあった。やはりなにかおかれていた形跡はあるが、中は空っぽである。

 

「あったあった、これだな。宝珠が光り始めた───────。ここに間違いねェようだな」

 

「こいつが《鬼》を封じていた場所なのか......」

 

「そうみたいだな。醍醐、なにか気になる?」

 

「......いや、」

 

「さあて、じゃあ封印するか」

 

緋勇たちは新たな魔法の粉とアーティファクトを入手した。

 

「なんだこりゃ?」

 

「鑑定してもらわないとわからないけど、鈴か?音がする」

 

「なにかしらの浄化作用でもありそうだな、いい音だ」

 

「よおし、今から学校いこうぜ。今から行けば1限目に間に合うだろッ」

 

「葵ちゃん、なんだか元気がないけれどどうかしましたか?」

 

「槙乃ちゃん......あのね、実は大事な時計を無くしてしまったの......」

 

「そういえば今日つけてませんね!」

 

「ええ......。昨日、ボランティア活動をしている母と一緒に大田区の文化会館で行われたバザーの手伝いにいったの。世界中の恵まれない子供たちのバザーで、収益金は孤児院を立てるための基金になるっていうから」

 

「なるほど......主催はどこが?」

 

「ええとたしか......児童養護施設だったかしら。大丈夫、ローゼンクロイツ学院とは関係なさそうだったから心配しないで」

 

「そうですか、ならいいんですけど」

 

「うふふ、ありがとう。心配してくれて」

 

「最近、落ち着いてますけど、いつなにがあるかわかりませんからね」

 

「それは槙乃ちゃんも同じでしょう?」

 

「まあ、たしかにそうですが」

 

「......龍麻と帰る機会が多いの、槙乃ちゃんたちの仕業でしょう」

 

「バレましたか」

 

「うふふ」

 

「うれしそうでなによりです。それで、腕時計はその時に?」

 

「ええ、そうなの。多分......。高校入学の時に父から贈られたものだったから、とても大切にしていたのに......」

 

「それは困りましたね」

 

「警察には届けたし、団体の方にも連絡をお願いはしているんだけど......色んな人が来ていたから見つかったらラッキーなのかもしれないわ」

 

「出てくるといいですね」

 

「ええ......」

 

「なにしてるんだよ、葵ッ!まーちゃんッ!遅刻してもしらないよ~ッ!」

 

私達はあわてて走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「視えるか?」

 

老人の声がする。

 

「サラよ......何が視える?」

 

「女帝のカード......。大いなる愛に満ち溢れた女帝のカードが視えます。その近くに白き力のカードと戦車のカードが。そして、さらに近くに太陽のカードも......」

 

「......」

 

「光が包んでいます......柔らかく、暖かい光が......。ああ......あなたはいったい。ああ......」

 

「恐れることはない......女神よ。サラよ───────、ドゥルガーよ。お前は殺戮と破壊を招く女神。世界を視通す《力》をもつ、選ばれし者......」

 

「......」

 

「お前のその汚れなき網膜に焼き付けるのだ。大いなる《鍵》となる者の在り処を──────。その《鍵》を手にした時、我らゲルマン民族が再び世界を支配するのだ。誰だッ───────!?」

 

「あの......」

 

「マリィな───────、何の用だッ!」

 

「......」

 

「何だ、その猫は......」

 

「......拾った」

 

「拾っただと?」

 

「ウンッ。雨に濡れてかわいそうだったから」

 

「......捨ててこいッ!」

 

「......」

 

「聞こえなかったのかッ、捨ててこいッ!!」

 

「イヤ......」

 

「このッ───────」

 

「きゃッ」

 

「フンッ。出来そこないがッ......」

 

「......」

 

「フンッ」

 

「学院長様......」

 

「うむ......」

 

「女帝のカードが示す名が視えます───────美しき聖なる星に護られしその名は───────」

 

「名は」

 

「ミサトアオイ───────」

 

「ミサト......アオイ......。その者が真に《鍵》たる者なのかどうか───────今まで200人の《鍵》と出会ったが、真の《鍵》たる者に出会ったことはなかった」

 

「......」

 

「サラよ......。別にお前を責めている訳では無い......」

 

「......」

 

「わしは嬉しいのだ。総統の成しえなかった偉業を成す喜び───────。わしの老いた胸はその感動に打ち震えておる」

 

「......」

 

「さっそく、イワンとトニーを向かわせよう」

 

「お待ちください......」

 

「......?」

 

「あとひとつ......微かですが、何か視えます」

 

「......」

 

「ドラゴン......いえ、旅人を表す愚者のカード......深い霧のようなものに遮られてそれ以上は視えません......。それが、《鍵》にどういう影響を及ぼしているかはわかりませんが、何かを感じます......」

 

「ほう......お前の透視でも視えぬものがあるか」

 

「......」

 

「まあ、良い。気にかける程でもあるまい。それよりも《鍵》の場所は?」

 

「......」

 

「場所は......、シンジュク......。マガミガクエン......」

 

ビクッとサラが震えた。

 

「どうした?」

 

「月が......月のカードが見えます......近づいてはいけない......見てはいけない......これ以上はダメッ───────」

 

サラの本能がこれ以上の透視を拒否した。ジル学院長は驚いたように目をきつく抑え始めたサラを羽交い締めにする。なにかみてはいけないものを直視してしまったのか、パニック状態になってしまった。

 

「年老いて頭がイカれたか、ナチ親衛隊も堕ちたものだ」

 

呆れた様子で少年が扉ごしに呟いた。

 

「超能力を活性化させるために薬漬けにしても自我が崩壊せず自分を保つことができるマリィのどこが出来損ないだ。自分のいうことをきくマリオネットが欲しいだけだろう、自分より上の人間を作るのが恐ろしいだけだ」

 

「あ、ありがとう......」

 

マリィは無理やり追い出されて躓いたところを起こされた。

 

「......オニイチャン知らない人......」

 

「そりゃ知らないさ、僕はここの生徒じゃないからね。まだ12だ」

 

「エッ......!マリィがオネエチャン......?」

 

「年齢にこだわるならそうなるな、僕はまったくもって無価値だと思うが。人間、なにをなすかで価値が決まるんだ」

 

「......?」

 

「マリィはその猫を拾ってどうするんだ?学院長のいう通り捨てるのか?」

 

「イヤ......マリィ飼う」

 

「それでいい」

 

「え」

 

「自分のやるべきことがわかっているなら、時として反抗することも必要だ。マリィは出来損ないじゃない。学院長よりよっぽどうちに必要な人材だ」

 

「?」

 

「目的と手段が逆転し、見境がなくなること程虚しいものはない。見ているといいさ。学院長がどうなるのか。1度は諦めた研究を僕のおかげで再開するんだからせいぜいヘマをしないようにしてもらいたいものだね」

 

少年は笑った。

 


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