憑依學園剣風帖(東京魔人学園剣風帖×クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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憑依學園剣風帖64 魔人完

将棋の駒を動かすように、あまりにも機械的に事を運ぼうとすると、棋士が将棋に殉ずるがごとく策謀家は策謀に殉ずることになる。いつだったか苦々しげに御門(みかど)がいっていたことを村雨(むらさめ)は思い出した。

 

「あいつの姿が見えネェと思ったら、あの姐ちゃんが来てんのか。まーたやりあってんのかね」

 

「そうみたいだな。帰ってきたらまた荒れるよ、きっと」

 

「うへェ......勘弁してくれよなァ......。俺の宿星が北極星の別名だからって八つ当たりすんのはやめて欲しいぜ。別に俺はあの姐ちゃんの肩だけ持つわけじゃねーのによ。しかしあれか?薫がいねーが出てんのか?マサキとして?」

 

「そうだな、僕はあいかわらずこの身体だから。薫には迷惑をかけてるよ」

 

「まあ、ボチボチ行こうぜ。医学的に問題なくても身体は長いこと植物状態だったんだからよ。医者はリハビリは寝たきり期間の2倍かかるっていってたじゃねェか」

 

「ありがとう。まあ、本題に入ったら如月と一緒にこっちに来てくれると思うよ」

 

「お、まじか。如月きてんなら麻雀やろうぜ、麻雀。どうせ1時間は戻ってこねーんだから」

 

「そうだな」

 

「しっかし、あれだ。あんだけ嫌い抜いてんなら無理に会わなくてもいい気がすんだがねェ。それこそ芙蓉(ふよう)ちゃんに任せりゃいいじゃねェか」

 

「僕もそう言うんだけど、どうにも宮内庁管轄の機密情報だから会わない訳にはいかないらしいな」

 

「へェ、大変なこって」

 

世間話をしながら柾希はぱちぱちと将棋をうっていた。指先だけならかろうじて動くようになったため、リハビリを兼ねているのだ。

 

前後の事情をよく頭に入れて、細かく観察すれば、互いの動きがなかなか綿密に計算されたものであることがわかる。数手先まで読んでいる。類は友を呼ぶというやつで、村雨のように奇策を好むのは確かだが、しかるべきところに一線を引いて、そこから足を踏み出さないように気をつけている。どちらかと言えば神経質な性格と言ってもいいくらいだ。彼の無頼的な言動の大半は表面的な演技に過ぎない。天性の運だけで渡りあっている村雨は待ったが多くなってきた。

 

「いっちゃ悪いが最近はご機嫌うかがいのつまんねえ客人ばっかだったからな。余計にあいつもイライラすんのかねェ」

 

「そうかもしれないな、天野さんは晴明に遠慮して緊急の時にしか来てくれないから」

 

「いつもは時須佐のばあちゃんだからな」

 

ぱちん、と将棋盤が小気味よい音をたてた。

 

「はい、王手」

 

「うッ......まーた嫌なところ打ちやがったなッ」  

 

「お喋りに夢中になるからだよ」

 

澄ましたように笑う親友を睨んだ村雨だったが、どこをどう見ても足掻く要素が見つからない。

 

「くそッ、投了だ投了ッ!まいりましたッ!」

 

「あれだけ待ったかけといて?もう少し粘れよ、祇孔」

 

「無茶言うな!」

 

不貞腐れたように伸びをした村雨はついでに首を回した。骨が折れたような音がした。

 

「ここに打てばまだ勝機はあったのに」

 

「あん?」

 

「ほら、これをこうして、こう」

 

「うげッ、マジかよ」

 

「マジだよ」

 

「あーもうやめだやめ、全然面白くねェ。花札やろうぜ柾希。そんでもう一勝負だ」

 

「勝てないからって拗ねるなよ、祇孔。なんのためのリハビリだよ」

 

「勝負は駆け引きがなきゃつまんねえだろうがよ」

 

村雨は上着のポケットから花札を探り出し、あつでの束を突きつけた。

 

「だから、なんのためのリハビリだよ、祇孔。僕のリハビリなのに全力で勝ちに来ないでくれ。なんだって君の一番得意な花札で勝負をしないといけないんだ?」

 

「さっきまでお前が一番得意な将棋で勝負してたんだぜ?たまには付き合えよ」

 

「祇孔の負けず嫌いは筋金入りだな」

 

「類は友を呼ぶって言葉、そのまま返すぜ」

 

2人はニヤリと笑って、そのまま吹き出した。

 

 

村雨祇孔(むらさめしこう)は千代田区の皇神学院高校3年参組。華道部所属。 高校生とは思えない風貌の持ち主で、人生を賭け事に例えている。 運が非常に強いため、難関の皇神高校にも運によって入学している。

 

シニカルな言動と外見でわかりづらいが、義理堅い性格で、秋月柾希とは親友で、薫の兄貴分だ。そして御門晴明(みかどはるあき)と対等に話すことができる。

 

「失礼いたします」

 

すっと襖が開いて、二人よりやや年上に見える少女が如月と薫を連れてきた。茶菓子はおそらく如月たちの手土産で、お茶は薫がいれたもの。如月が薫の車椅子をひいてきてくれた。

 

「やあ、久しぶり。元気そうで安心した」

 

「天野さんの付き添いできたんだろう、如月。なにか緊急の用事でも?」

 

「詳しくは御門に聞いてくれた方が早いな。僕はとりあえず君たちが無事で安心した」

 

「おいおい、せめて簡単に説明してくれよ。晴明は説明の前に講釈たれるからいけねぇ」

 

「仕方ないな......」

 

「って芙蓉。俺の分は?」

 

「お前などに出す菓子はありません。以前天野様の分まで手をつけたではないですか」

 

「姐さんは笑って許してくれたからいいじゃねぇか」

 

「よくありません。恥を上塗りするような真似をして......」

 

「かーっ、あいかわらずかっわいくねェなァ......」

 

「可愛くなくて結構。お前に可愛く思われる利点などありはしません」

 

「芙蓉。祇孔に出さない方が失礼じゃないのかい、如月たちはきっとみんなの分まで持ってきてくれたはずだ」

 

「柾希様…......」

 

「祇孔も僕のお客だよ、芙蓉」

 

「…......かしこまりました」

 

しぶしぶうなずいた芙蓉は茶菓子をとりに下がっていく。

 

「祇孔もあんまり芙蓉をからかわないでくれよ」

 

「からかってんじゃねぇよ、向こうが喧嘩売ってくるから買ってるだけだ」

 

むくれる村雨の頬が微かに赤い。薫と柾希は笑い、如月は肩を竦めた。

 

「天野さんが浜離宮に飛んでくるなんて本当に珍しい。なにがあったんだい?」

 

「兄さんと心配していたんです。北極星がありえない軌道を描いていたから」

 

「《鬼道衆》に手を貸していた連中に、星辰を動かせる魔術師がいたんだ。そのせいで愛は《力》が一時的に使えなくなった。あやうく実験体にされるところだったんだ」

 

「なんだって?」

 

「天野さんは大丈夫なんですか?」

 

「ああ、今のところはね。愛はそれよりも《アマツミカボシ》の《荒御魂》が那智から生まれた邪神に降ろされた可能性がある方が心配だったようだ。君たちが危ないと。実際、《鬼道衆》の雷角が星見の一族は終わりだと笑ったそうだから無理もないが」

 

その言葉に秋月兄妹の顔が引つる。村雨も眉を顰める。柾希の家系には、代々星の動きから物事を予見する『星見』という力が伝わっている。村雨以上に天野愛という人間の数奇な運命について正確に理解している2人は、村雨や御門に話さないこともたくさんある。だからなにかわかったのだろう。

 

「なにか異変に気づいたらすぐに知らせてくれ、と言いに来たんだ。やつは《アマツミカボシ》の《荒御魂》が敵対勢力の奉仕種族の中に入っているようだ」

 

「はぁっ!?んなの暴走するに決まってんじゃねぇか!」

 

「その通り。おかげでローゼンクロイツ学院は大惨事だ」

 

「マジかよ」

 

「しかも《鬼道衆》の忍びを食らっていたから、かなり凶暴で殺戮の衝動をかかえている。しかも例の蟲に寄生されているから、夜間は特に気をつけてくれ」

 

「厄の塊みてーな野郎だな......」

 

村雨は息を吐いた。

 

「よくぞまあ、生き残れたなお前ら」

 

「本当にそうだよ。毎回が綱渡りの自覚はある」

 

村雨は親友をみた。

 

「柾希、せっかく如月がいるんだ。なんか何か気になる事があんなら、言えよ?俺たちは、お前の味方だからな?」

 

「兄さん......?」

 

「薫には見えて、柾希には見えねーってことはいつぞやのパターンじゃねぇか。話せよ、今すぐ。二度と親友を守れない無力さに泣くのはごめんだぜ」

 

「愛がまた御門に殺されそうになる事態は勘弁してくれ」

 

「......わかった」

 

柾希は重い口を開いた。

 

「あれは深きものの信奉する神の子だ。その中に《アマツミカボシ》の信奉する神の化身が降臨したことで、風と水の対立因子が器の中で絶えず争い、蟲毒状態にある。それを生贄にしたらどんな邪悪な神だって呼べるだろう。あれに理性はない。自我もない。あるのは無慈悲な天災が形をなしたような《力》だけだ。どちらが残るかはあまり問題じゃない。深きものの神が勝てば敵対勢力の天野さんたちに牙をむくし、《アマツミカボシ》が勝てば完全な存在になろうとして天野さんたちを狙うだろう。広がるのは共通して崩壊した東京だ」

 

「おいおい、随分とスケールがでけぇ話だな」

 

「《鬼道衆》はなにが目的なんだい?東京の壊滅じゃなく《菩薩眼》だったのでは?」

 

「結果的にそうなるんだ。《鬼道衆》は全盛期の《菩薩眼》、つまり、完全体たる《アマツミカボシ》の《力》が欲しいんだよ。そこに《鬼道》をつかえばどうなるか。わかるだろ?いつしか九角からいなくなった卑弥呼の転生体の再臨だ。《黄龍の器》が完成する前にその原型たる《鬼道》を完成させたいんだと思うよ」

 

その言葉に如月はたまらずため息をついた。

 

「つまり、愛たちが狙われるのは、あくまでも実験体にするためってことか」

 

「そうだね、本命はあくまで《黄龍の器》だ。緋勇君も気にかけてやってほしい」

 

「───────......言われるまでもなく、愛は誰よりも龍麻と美里さんを気にかけてるよ。最初からずっと。出会う前からずっと」

 

「如月、お前も大概苦労してんなァ」

 

「君がいうのかそれを?」

 

「さあて、なんのことやら」

 

村雨は誤魔化すように笑うと麻雀をしようと如月たちを誘ったのだった。

 

ちなみに御門と天野がやってきたのは、数時間後のことである。

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