憑依學園剣風帖(東京魔人学園剣風帖×クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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憑依學園剣風帖8 怪異完

旧校舎に入る直前のことは覚えている。世界が白く塗りつぶされたのだ。

目が覚めると見知らぬ空間だった。緋勇たちは固い床に倒れていることに気づいて、続々と起き上がって辺りを見渡す。そこはどうみても旧校舎内部ではなさそうだ。穴が空いていて、地下に落ちてしまった訳では無いらしい。そこが無機質の部屋であることがわかった。

 

光源は見当たらないが、全体的にうすぼんやりと明るい。見たところかなり狭い部屋で、手を動かせば壁にぶつかってしまいそうに見えるが、不思議とぶつかることはない。まるで空間が歪んでいるような、認識でとらえられない歪さ・不気味さを感じる。

 

「見てこれ、なにか書いてあるわ」

 

壁にある黒板にはなにか書いてある。遠野がライトで照らした。文字は汚く、線の太さはまちまちで、まるで何かがのたくった跡のように見える。それは床に落ち、インク溜まりのような、影のかたまりのような黒い集合体になるとスルスルと床を這って台の下に潜り込んでしまう。ボードは気づくと風化しており、見る見るうちに粉になってしまう。

 

「なななッ!」

 

「なにあれ?」

 

緋勇は構えをとった。

 

「気をつけろ、なにかいるぞ!」

 

鋭い声が響いた瞬間に床から黒いものが緋勇たちの影を縫うように現れたかと思うとどんどん近づいてくる。

 

「なんだこりゃッ!?スライムか?」

 

「にしてはペラペラすぎない?」

 

緋勇の動体視力がその動きを正確に捉えて、転がっていた木片を投げつけた。バシャッと赤と黒の波紋がその塊に広がり、しぶきのように辺りに広がる。

 

「気をつけろ、底なし沼らしい」

 

木片が浮かんでこない。醍醐はひきつっている。美里たちは声にすらならない悲鳴をあげる。

 

「まさか人喰い影か?」

 

「でりゃ!」

 

蓬莱寺が近くにあったイスを投げつけた。飲み込んでしまった黒い塊はまたひとつ大きくなる。

 

「げ」

 

「物理攻撃は効かないのか、なら───────ッ!」

 

緋勇は緋勇家直伝の古武道の構えのまま、迅速に《氣》を練り上げる。

 

「これはどうだッ!」

 

桜井たちはソニックムーブをみた。一瞬にして黒い塊が蒸発してしまう。

 

「おおお!」

 

「よっしゃ、それが効くなら話ははええ!」

 

蓬莱寺も緋勇に習って《氣》を木刀に纏わせ、斬撃を放つ。さっきの一撃には劣るが黒い塊には効果抜群のようでどんどん体が小さくなっている。

 

「へ、平面しか移動できないようだな。なら......」

 

醍醐は機転を利かせて、山積みのテーブルを運び出し、並べていく。そしてその上に上るよう美里たちにいった。

 

「ナイスだぜ、醍醐!どうやらこいつらは机の上には登れないらしいなッ!」

 

次第に面積が小さくなってきた黒い塊は、細長い触手を伸ばしながらスルスルと物体の表面を這うように移動するのが見えるようになってきた。

 

「この調子でいけば......」

 

「きゃああああ!」

 

耳をつんざくような悲鳴が隣の部屋から響き渡る。緋勇は即座に扉をあけた。

 

「たすけてぇ───────!!」

 

そこにいたのは数日前に行方不明になったはずの女子生徒だった。体全体に青く輝く斑紋が浮かび上がり、今にも黒い底なし沼に飲み込まれそうになっているではないか。

 

「あぶないッ!」

 

緋勇はあわてて走り出す。

 

「こいつ、人間食いやがるのかっ?!」

 

蓬莱寺もあわてて追いかけていく。

 

「京一ッ!緋勇ッ!」

 

「醍醐はそこにいてくれ!お前だって俺達と似たようなことできるだろッ!」

 

「あ、ああ......」

 

美里は祈るように手を握り、遠野は落ちないよう必死でしがみついている。

 

「2人とも頭伏せて!」

 

桜井が射抜いた矢に付与されていた《氣》が女子生徒を背後から飲み込もうとしていた液体をはじき飛ばす。

 

「ナイスだぜ、桜井ッ!」

 

「大丈夫かっ!?」

 

緋勇が手を伸ばした瞬間に、怯えきっていた女子生徒が歪に笑う。頬に、胸に、手足に、青黒い斑紋が浮かび上がっていく。色味自体も大層グロテスクだが、不思議なことに痣はうっすらと光っている。きらきらと、それはまるで月に照らされる湖面のごとく、肌の上で輝いている。しかも緋勇のてから伝わる振動が波紋のようにゆたっているのだ。その輝く斑紋は動いている。きらきらと輝いて見えるのは、その表面が細かく波打っているせいだった。痣はじわじわと動き、僅かに場所を移動しているのだ。

 

「緋勇ッ!」

 

女子生徒の口が裂けた。皮を内側からむいて行くようにベリベリべりと剥がれていく。蓬莱寺は引きずり込まれそうになっている緋勇の腕を掴んでひっぱりあげようとする。

 

「こいつッ!」

 

「お前が罠に嵌めたのか......旧校舎に入り込んだ生徒をこうして食ったのか......」

 

蓬莱寺は緋勇の静かなる怒りをみた。

 

「許さない......絶対にッ!」

 

その怒りが爆発した瞬間に世界がひび割れた。世界がふたたび白亜に塗りつぶされていく。

 

《目覚めよ》

 

蓬莱寺は、醍醐は、桜井は、そして美里は、声を聞いた。

 

《目覚めよ》

 

緋勇は別の声を聞いた。

  

《戦いを通じて貴公の輝きに惹かれました。 願わくは…その輝きと共に在りたい。 これからは貴公に降りかかる厄災への 逆光となることを誓いましょう》

 

「この声は───────」

 

《我が逆光は汝のためにある─────── 天討つ赫き星》

 

気づけば緋勇たちは旧校舎の中に立ち尽くしていた。強烈な光が瞼を焼いている。どうやら誰かが校庭のライトというライトを付けたらしく、ここまで光が届いているのだ。

 

「槙乃?」

 

「槙乃!!なるほど、槙乃がやってくれたのね!」

 

校舎の窓という窓が内側から吹き飛んだ。

 

「きゃあああ!」

 

「な、何!?何このすごい音ッ!」

 

「まさか本当に幽霊のお出ましかっ!?」

 

「幽霊が出現する時に出るというラップ音......?ちがう......何かが激しくぶつかり合う音......ポルターガイスト現象かもしれないわッ!もしこれが本当にポルターガイストを起こせるほどの幽霊の仕業なら、この世に強烈な恨みを持った悪霊かもしれないってことよ!!気をつけて!」

 

「なっ!?」

 

「うわっ!」

 

「ちいっ、悪霊だか猟奇的な殺人事件だな知らねーがッ正体を表しやがれ!」

 

「京一!」

 

「この蓬莱寺京一様が暴いてやるぜ!」

 

「京一、危ない!」

 

「なっ!?」

 

「京一!」

 

「緋勇クン!!」

 

「......ててて、なにすんだよ緋勇ッ!」

 

「ガラス片が雨あられなのに突っ込むやつがあるか!」

 

「だからって蹴りとばすやつがあるか!《氣》めっちゃ込めやがって!」

 

「ごめんごめん、間に合いそうになくてさ、つい。ほら、立てるか?」

 

「ああ......」

 

蓬莱寺は立ち上がった時に感じた暖かいヌメリに血の気がひく。

 

「ば、ばかやろう、緋勇ッ!お前まで怪我してどうすんだ!ばかやろう、しっかりすんのはお前だ!」

 

「くそっ、誰かいるのか!?」

 

「ば、化け物!?」

 

「緋勇はそこで回復してろ!」

 

蓬莱寺は闇の向こう側を睨みつけた。星あかりだと思っていたが違うのだ。すべて無数の目がある。

 

「お前が全ての元凶かっ!許さねえからなッ!緋勇をあんな目に合わせやがって!たとえ化け物だろーがかかってきやがれ!!」

 

「京一ッ!」

 

「な、なに......今度ななに!?」

 

「あれみて!」

 

「コウモリ?」

 

「いや違うあれは───────」

 

「どこのバットマンだよ、おい!」

 

緋勇たちは無数のコウモリに取り囲まれていた。だが様子がおかしい。次々に障害物にぶつかったり、味方同士攻撃しあったり、酩酊状態のものもいたりしている。どうやら強烈な光にあてられて夜行性で目が弱いコウモリは目を回してしまったようだ。

 

「数が多すぎる。誘導するんだ。まとめて一気に片付けるぞ!」

 

緋勇の指示がとぶ。醍醐はうなずいた。昨日、ガチのタイマンを挑んだはいいものの、一方的に伸されてしまったことを思い出したのだ。緋勇はリングの縁に沿って移動して、醍醐が近づくのを待ってから《氣》を練り上げた足技で醍醐の巨体をふきとばしたのだ。醍醐に対して常にリングの内側に位置するよう心がけ立ち回っていたのが印象的だった。リングに背を向けている状態で攻撃されたら最後、一撃で倒されてしまうことがわかっていたのだ。

 

緋勇は次々に指示を出す。

 

「あの、緋勇君!私も、戦います......なぜか《力》が湧いてくるの。不思議な声を聞いてから。《氣》が使えるようになったみたいで」

 

美里の申し出に緋勇はなにができるのか聞いてから指示を出した。

 

美里は味方の防御を上げて桜井は後方支援。行動力の低い醍醐が彼女たちの壁となりつつ、近づいてきた敵をつぶす。緋勇と蓬莱寺は自分の射程範囲内で、なんとか蝙蝠をしとめる。全部緋勇の指示だった。

 

突然襲われる、という状況下で硬直した体は、指示されるということ以上の解凍方法はない。それだけに集中できるから、楽なのだ。余計なことを考えなくて済む。緋勇は射程範囲を把握しているのか、細かく指示を出してくれるので、今のところ目立ったダメージはない。

 

「きやがったぜ」

 

「・・・でかいな」

 

「どうするの、緋勇君!」

 

「なんでも言って!」

 

後方に控えていた巨大な蝙蝠が僕らの前に進み出てきた。

 

「《氣》を練って同時にぶつけてみよう。ひとり分じゃ微動だにしなさそうだ」

 

「よし!」

 

「まかせろ!」

 

有無も言わさない、でも不快に感じない声。ひきつけるものがあった。言われるがまま醍醐、蓬莱寺が同時に《氣》を放つ。緋勇もだ。その瞬間、放たれた《氣》が共鳴して融合したかと思うと足元に巨大な魔法陣が形成された。なんだなんだと驚いていると3人の脳内に知らない言葉が浮かんでくる。無意識のうちに呟かれた言葉は一気に形となり、大きなコウモリに襲いかかった。

 

一撃で粉砕した。

 

「な、なんだありゃ......」

 

「......すごいな、力がみなぎるようだ」

 

「な、なになにどうやったの3人とも!」

 

「《氣》を同時に敵にぶつけてみてくれ」

 

「わかった!」

 

「はい!」

 

すさまじい光に包まれた大きなコウモリが後ろに弾き飛ばされてしまう。

 

「美里さん」

 

「え、は、はいっ!」

 

「俺達似たような《氣》だから、できるかもしれない。やってみよう」

 

「わかりました!」

 

「いくよ」

 

「はい!」

 

緋勇の読み通り、《氣》はひとつとなり膨大なエネルギーが大コウモリを一瞬で消滅させたのだった。

 

「やった......?」

 

「やったの、ボクたち」

 

「助かった、のか?」

 

「よかった......」

 

「これで一安心だな」

 

「すごーいっ!すごいすごいすごいじゃない、みんな!!ありがとう、ほんとに一時はどうなるかと思ったわ!すごいじゃない、いつの間にそんなすごいことできるようになったのよ!?」

 

ものすごいテンションの遠野が桜井と美里に飛びついてくる。ハイタッチした蓬莱寺は緋勇にチョッカイをかけはじめ、たしなめる声に近付くと醍醐のところに向かう。みんなで生還を労ってから、コウモリたちについて話し始めた。

 

「幽霊騒動の正体はこいつね」

 

「それと、あの黒い気持ち悪いやつ!」

 

「あの変な部屋はなんだったんだ?」

 

「さあ?」

 

「あの目覚めよって声がたすけてくれたのかな?」

 

「目覚めよ?」

 

「ん?緋勇は聞いてないのか?目覚めよって変な声、俺も聞いたぜ」

 

「俺もだ」

 

「私も。だから戦えると思ったの」

 

「ボクもそうだよ」

 

「俺は違った。誰かが俺達の戦いをみていて、力になりたいって言ってくれた。一緒に戦いたいって。それで......」

 

「いわれてみれば最後に見た光はあのライトどころの眩しさじゃなかったな」

 

「影がなくなっちゃうくらいの光だったね」

 

「もしかしたら、そのおかげであの黒いものが倒せたんじゃないかしら」

 

「......ということは、あれか。今までの行方不明者は......」

 

「コウモリか、黒いやつに食われたか、だな」

 

重苦しい雰囲気があたりに漂う。

 

「───────ッ」

 

「美里さん?」

 

突然美里がふらつく。とっさに緋勇が抱きとめた。美里の体が強烈な気のオーラを放ち始めた。連鎖反応で崩れ落ちていく彼らは、いちように意識を失ったのだった。

 

「み、みんな大丈夫っ!?大変だわ、はやく槙乃に知らせなきゃ!」

 

遠野は大慌てで旧校舎をかけおり、途中で犬神先生に見付かってしまったことを謝罪する時諏佐と合流した。

 

そして。

 

「やっとみつけた!先生、犬神先生、こっちです!」

 

遠野が大声で犬神をよぶ。

 

「そんなに騒がなくてもわかる」

 

旧校舎の教室に入るなり犬神は目を見開いた。

 

「こいつら......」

 

時諏佐が1番近くに倒れている美里の脈をとり、呼吸をかくにんする。

 

「大丈夫です、遠野さん。気絶してるだけみたい」

 

「ほ、ほんとに?ほんとに?!よかったあああ......」

 

遠野はその場で泣き出してしまう。時諏佐は遠野を励ましはじめた。

 

(《宿星》の覚醒だけじゃなく、《方陣》まで使いこなすとはな......)

 

犬神の脳裏には緋勇一族の開祖となった青年が脳裏をよぎった。

 

(旧校舎全体の構造を把握するだけじゃなく、こいつらの状態の把握、邪神の祓いもやってのけるとは......これが《アマツミカボシ》の《力》、か。俺達の身勝手で呼んでしまったが......末恐ろしいな。明らかにこいつらの覚醒の速さも《如来眼》に引き摺られている。

約束を果たせなくなった時が来ないことを祈るしかないな)

 

そして息を吐いた。

 

「いつまでも寝られちゃかなわん。たたき起こせ」

 

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