その歌声に想いを乗せて   作:送検

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第1章 転校生とアイドル
プロローグ


 

 

 

唐突だが、皆は夢に関してどのような感情を抱いているだろうか。

明るくて、今にも未来に羽ばたけそうなもの?

もしくは、挫折し、夢破れ、あまり触れたくはないもの?

はたまた、何としてでも叶える───そんな執念を孕んだ意地のようなもの?

まあ、人の性格が十人十色と言われていることと同じで、夢の在り方も人によって多種多様だ。

故に正解なんてない。

言ってしまえば、夢なんてものをどう捉えようが貴賤はない。人の自由であり、その誰もが他人の夢を否定するような権利なんぞ持ってないってことだ。

 

否定できないものだからこそ、美しい。

目指すものの為にひたむきに努力している様はそこら辺の陳腐なC級映画よりも余程感動できるということを知っている。

そして、その美しいと言われている人並みの夢は誰もが1度は大きく描いた十人十色の持ち味である。

 

目的は夢と同義のものだ。

何かにたどり着きたいから努力する。何かを叶えたいから追い続ける。

人は知らず知らずの内に夢を追いかけている夢追い人なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

さて、少し話題を逸らして映像作品の話へと移行しよう。

俺はかつて、とある映像作品を好んで見ていた。

それは、とあるスポーツで大きな大会に出る為に努力する高校生達の物語。

殆どの人間が不良で、未経験者もいる中で、熱血教師がその部活を熱意と誠実さで不良生徒達を夢にときめかせた壮大な話である。

 

その熱血教師は『夢にときめけ』という言葉を残した。

その言葉に昔の俺は異様な程の共感を得ていたことを覚えている。

何せ、その時の俺は夢を追いかける夢追い人だったから。

種類は違えど同じ夢を追いかけているその教師と不良生徒達に憧れを抱いていたから。

 

その言葉をきっかけに、俺は夢にときめけるように行動に移した。

当時の俺には導き手となる熱血教師もいなければ、その夢を共有出来るだけの同年代の友達もいなかった。

けれど、そんなのは関係ない。

あの時の俺にはそれを凌駕してしまうほどの熱意に溢れていたんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、悲しいかな。

現実というものは何処までも己の心を汚し、事象に期待を持つことが出来なくなる。

小さな夢を1つ叶えた後、現実に汚れ、燻った俺の心は2度と光ることはなかった。

対象に夢を抱けなくなった。

楽しさを思い出せなくなった。

 

俺には、道を逸らしてしまった時にもう1度夢に向かっていけるように修正してくれるような導き手がいなかった。

だから、逸れてしまえば後は真っ逆さまに堕ちていくだけ。

俺は、挫折してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『夢にときめけ』

 

俺は不思議と堕ちた日からその言葉を発する物語にときめきを見いだせなくなった。

別に馬鹿にしている訳では無い。寧ろ、その言葉は俺にとって尊敬できるものである。

例えばその言葉で未来が見えるようになったとか。

はたまた夢を見つけられたとか。

その言葉が起点となり物語は感動的な方向へと進んでいったりとか。

一時期は俺にとって良い影響を食らって与え続けていたんだ。

嘘じゃない、本当のことだ。

 

 

そう、感動はしたのだ。

純粋に良い言葉だと今でも思うことができるし、この感情は嘘ではないということは胸を張って言うことができる。

しかしながら、その日を境に、その言葉を多用する映像作品に苦笑してしまったり、失笑してしまった節があるというのも俺自身の誠であり、変えようのない事実であった。

 

ときめける夢が折れた俺にとって、その言葉は癌だった。

その言葉を聞く度に胸が苦しくなる。

その言葉を聞く度にときめいてた頃の俺を思い出して、辛くなる。

故に、その言葉を紛らわす為に俺はその言葉から目を背け、馬鹿にし続けた。

当時の荒れたガキだった頃の俺には、それしか反抗する手立てがなかったから。

 

仕方ないと思っているが、親父にはぶん殴られた。

仕方ないよな、当時の俺‥‥‥中学校1年生くらいの俺ってば人の夢にも失笑してしまうようなひん曲がったとんでもない不良生徒だったからな。

しかし、親父の強烈で痛烈なビンタのお陰で目が覚めた。

自分の失敗を武器に人の夢にケチを付けることは屑の所業だということに気が付いたからである。

今は、立ち直ってしっかりと人の夢を応援することが出来ている。あの時の屈折してしまった俺という存在を踏み台にして、1歩だけ前に進むことが出来たのだ。

 

けれど、それ以上前に進むことはできない。

新たな夢。

新たな自分。

それらを彩るときめける何かは未だに見つけられないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を持つことは往々にして素晴らしい事だということは俺にも分かっている。

しかし、理屈で分かっていても身体は動かないということは幾度としてあることだろう。

今の俺がまさにそうだ。

夢に鬱屈した考えを抱いてしまっている俺に、己が夢を持つ重要性を説かれたところで、結局それは釈迦に説法。

自分で言うのもなんだが、無駄なのさ‥‥‥悲しいことにな。

 

『そういうもの』にときめけることが偉大であることなのだということも理解している。

ただ、肝心の夢が1度折れた者にとってはときめける夢を見つけるのは非常に困難なものだ。

怠惰な暮らしを送っていた輩がニート脱却を図るのと同義のもの。

そう簡単にできるものじゃない。

されど、前に進まなければならない。

そして、その手立てを見つけることが、俺のやるべき事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

───かつてのセンパイにそのようなことを纏めたことを話した時、センパイは俺のことを『理論武装』と宣った。

但し、それと同時に理解はできるという言葉を頂いた。

そのセンパイは現在夢に向かって突き進んでいる最中だ。2歳年上のシンガー、ジャパニーズ・ドリームよろしくトーキョー・ドリームを掴もうとしている俺の自慢の先輩である。

 

憧れというか、尊敬の対象でもあった。

掴みたいと願った夢を掴み取る為の努力をしていた。

夢を掴み取る為の努力を『楽しんで』いた。

この人のように楽しく音楽をしたい───そう思えるほどの憧れの対象だった。

 

しかし、そんな淡い夢は今は打ち砕かれている。

感じてしまったのだ───限界って奴をな。

 

 

 

 

 

 

 

そう。

俺には夢があった。

それは大きく、夢に向かってひたむきにときめける何か。

けれど、それは挫折したことにより折れた。

 

夢を諦めたことに後悔はしていない。

結局、俺の夢に対する『誇り』なんぞその程度のものだったのだ。

埃レベルの誇りってか、やかましいわ‥‥‥と自虐した所で、俺は漸く現実へと戻る。

 

 

 

 

現実───と言うと大袈裟に聴こえて仕方ないが、俺は現在廊下を歩いている。

その理由は簡単、俺という生徒がこの中学に新たに転校するからである。

転校生の俺には自分の教室の場所が分からぬ。

故に、最初は職員室で先生の説明を受けてその後先生の後に付いて教室に向かうわけだ。

 

 

「いやぁ、まさかこんなタイミングでの転校をしてくるなんて思わなかったよ。あれかい?夢でもあるのかい?」

 

廊下を歩きながら、転校先でお世話になる担任が俺に気軽に話しかける。

その言葉に対応すべく、俺は事情を説明すべく返答する。

 

「や、あれっすよ。あれ‥‥‥」

 

「あれ?」

 

えーと、ほら。

 

「傷心旅行、的な」

 

「く、詳しくは聞かないでおくよ‥‥‥」

 

それっきり会話はめっきり無くなってしまった俺と担任何某。ちくせう、会話の選択をミスったか。

 

まあ、良い。

俺的には特に担任とコミュニケーションをとる必要もないからな。

時期的には2年が始まってからの春。

どうせこの中学には最低で2年しかいないのだ。

多少会話の伝達に齟齬が発生しようが、問題ない。

 

転校先の中学校は、1度見学にも来たが良くも悪くも普通。特筆すべき特徴のない俺にはピッタリだ。

俺はこの中学校という監獄で最低でも1年間生活することになる。

そう思うと、多少胸が弾むものだが‥‥‥その感情を抱くのは果たして俺だけなのかね。

 

まあ、そういう悪感情も好感情も全てひっくるめての俺だ。

良くも悪くもいつも通り、普通に過ごしていけば良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のー、ぷろぶれむってな」

 

先生が教室のドアの前に立ち止まり、俺もそれに倣う。すると、先生は後ろにいる俺に振り向き一言。

 

「じゃあ、先生が入れといったら入って自己紹介をすること」

 

「おいーっす」

 

「‥‥‥くれぐれも、その巫山戯た挨拶をするんじゃないぞ。第一印象だからな、マジでしっかりしてくれよ」

 

そう言い残して、先生は教室のドアを開けて挨拶をする。

2-A。ここが俺の新たな学び舎となる訳だ。

見た感じヤンキーはいない。

良くも悪くも普通のクラス───ああ、嘘。

何かさっきぴょこぴょこ跳ねてるお下げの女が夢から醒めて飛び起きてた。

ありゃあ問題児だね、俺には分かる。

 

だが、それくらいだ。

何も変哲もない、ただのクラス。

関わろうともしなければ関わる必要も無い普通のクラスだ。

 

それがいい。

それでいいのだ。

 

 

 

 

「‥‥‥はっ」

 

 

 

さて、この後俺が先生に呼ばれ、ドアを開けば晴れて中学2年生デビューだ。

 

張り切って行っていこうかね。

 

 

 

 

 

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