その歌声に想いを乗せて   作:送検

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閑話 青の認識

 

 

 

 

初瀬翔大君。

いつの間にか転校してきて、嵐のように私にフラストレーションをプレゼントしてくれた同級生。

 

 

 

 

最初の出会いは最悪だった。

今まで屋上に来ても聴くことの出来なかった歌声に思わず釣られ、ドアを開けるとそこには黒い髪の生徒が居た。

まともなのはここまで。

良い歌だと褒めれば彼は皮肉で言葉を返す。

警告はお節介と受け取り、なあなあにする。

普通に挨拶をすれば遠ざけようとする。

コミュニケーションにおいて大切な思いやりが不足している初瀬君と私の性格は真反対。

心の内外で人のことを弄ぶような初瀬君と、私の反りが合わないのも不思議ではなかった。

 

人というものは、真反対の性格をしている人とは啀み合う宿命にあるのかもしれない。

私が同僚───同い年の志保との相性が悪いように、初瀬君とも啀み合うことが出会った時点で宿命付けられていたのなら、何となく私と初瀬君が啀み合う理由も分かる。

 

 

 

 

 

けど───結局今は、なんだかんだ人並みに話すことが出来ている。

懲りずに屋上にやって来て、調子の良いことばかり言って帰るけど、何処か憎みきれないところもあって無視しよう、二度と話しかけないようにしよう、なんて発想に至りきることはなかった。

それが人並みに話せるようになった原因なのかもしれない。

反りが合わなくても、相性が最悪でも、取り敢えず話すこと位は出来るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私には夢がある。

それはアイドルになり、歌を歌い、その力を以てして皆を幸せにすること

けれど、それと同時に私には壁がある。

それは、親という名の壁。

特に父はアイドル活動に於いての理解を全く示しておらず、何を言った所でアイドル=お遊びだという固定観念を私に押し付けてくる。

何がお遊びだ。

私にとってのアイドルは、自分が熱中出来る数少ないものであり、歌で皆を幸せにすることのできる素晴らしいものなのに。

けど、今の私がそれを言った所でお父さんを説得することは出来ない。

だから私は結果が欲しかった。

それこそ、定期公演で尽くを凌駕するような───そんな最高のライブを。

 

 

 

 

何回目かの定期公演が終わり、私にも確信を持てるような自信がついてきた。

最初は失敗も多かったけど、今は自信を持ってライブに臨むことが出来ている。

それは大きな進歩。

後は、もう少し個人の仕事も貰えれば言うことはなし。それまでは鍛錬の連続だと己に気合いを入れる。

 

───と考えてはみたものの流石にライブで身体面も精神面も消耗した状態でまた踊るのは非効率である。今日は、新しく貰った全体曲の歌詞を覚えることに専念しようという考えに至り、私にしては珍しく机に顔を埋めた。

 

窓際の席は心地良い。

ここ最近は休み時間も練習に費やしていた為、気の休まる場所がなかった。

家は勿論のこと、学校だって気が休まる場所とは言いきれない。

唯一、同期の仲間がいる事務所や屋内でレッスンをしている時間が気が休まる程度のものだった。

 

それでも身体を動かすことの多かった昨日までの疲労は尋常ではない。

今日くらいは───なんて甘い気持ちに少しだけ身体を委ね、束の間の平穏を享受することに決めた。

 

「‥‥‥最上さーん」

 

休むこと早数分もしないうちに声をかけられてしまうのは、果たして幸か不幸か。

少なくとも、休息を摂りたかった今の私にとっては不幸だったのかもしれない。

会話にも気を遣うものだ。

気を許す人との会話以外では、軽率な発言は自らの身を滅ぼす一因にもなる。

常日頃から言葉尻を取られないように、発言には気をつける。

その癖は、アイドルをやろうとする前から私の中で身に付いていた。

 

前を向く。

目の前には同じクラスの女の子。

名前は───失礼ながら分からないが、いざとなれば謝罪して改めて名前を聴けば良い。

間違いを認めることよりも、知ったかぶり、聞かないことの方が罪である。

己の間違いを認めることは、決して間違いなんかではないのだ。

 

「えっと‥‥‥どうしたの?」

 

無難に尋ねてみる。

すると、彼女は私の目を見て笑みを浮かべて声を弾ませた。

 

「ねえねえ、最上さんは知ってる?福岡から転校してきたっていう転校生!」

 

「え、転校生?」

 

「そうそう!クラスの子が見たって言ってたんだけど、結構良さげな人だったって!」

 

「‥‥‥良さげな人、か」

 

ここ最近転校してきた人。

その少年の名前を私は知っている。

2-Aの初瀬翔大。

ご丁寧に初日から喧嘩を吹っかけてきた黒髪の転校生である。

派手な外見的特徴こそないものの、あの人の歌を歌うセンスは非常に抜群であり、最初は共通の趣味を持つ友人として良い関係をすんなり築けると思っていた。

しかし、その思惑は秒で粉砕されることになる。

 

『へっ』

 

今でも思い出す初瀬君の嘲笑のような笑い。

人を苛立たせるような、そんな無遠慮な嘲笑。

それを見た瞬間、私は転校生のことをどうしようもない子どもだって、そう見定めた。

 

同じレベルの会話をする必要なんてないと思っていた。だから、必要以上の情報は送らなかった。何をしているのか───それこそ、アイドルのことは徹底して教えなかった。

 

けど、何回か会うごとに印象が少しずつ変わっていく。

初瀬君は基本的に人の夢を馬鹿にすることがないということに気が付いた。

『人の夢』に対してある程度の持論を持っているのか、初瀬君の夢に対しての考え方はたったひとつ。

それは『尊敬すること』だということ。

 

少し、嬉しかった。

けどその時はお礼を言うことは出来なかった。

まだその時はアイドルであることを教えてなかったし、心の何処かでまだ初瀬君を疑っている節があったから。

どうせ、アイドルだということをバラしたらあの時と同じく嘲笑される、そんな考えがまだ頭の中に残っていたんだ。

 

結局、その考えは杞憂に終わった。

ライブの日、偶然出会った初瀬君は私の姿を嘲笑することはなかった。

応援してくれた。買ったらしい青のサイリウムを使って声を出してくれていた。

初対面であれだけ人のことを弄び、嘲笑った初瀬君は私の夢を一切嗤う事をしなかった。

だから、私は目の前の人の言葉に同意して頷く。

 

「‥‥‥ええ、そうね。確かに初瀬君‥‥‥転校生の人は良い人だと、思う」

 

「え!?もしかして最上さん噂の転校生の名前知ってるの!?てかお話したの!?」

 

「あー‥‥‥ええと、同じクラスの未来に教えて貰って、そこから良く話すようになったかな」

 

本当は屋上で出会った訳なんだけど、それを言ってしまうと今後変な噂を立てられかねない。

未来には悪いけど、ここは少し顔を立ててもらうことにする。

 

「へー‥‥‥春日さんが?」

 

「ええ、未来は友達を作るのは得意だし」

 

「それでも話してるんでしょ?どう、カッコいい?イケてる?好きになっちゃった?」

 

「全然」

 

「言い切ったなこの子‥‥‥」

 

だって本当のことなんだから仕方がない。

そういうことに興味がないと言えば、それは嘘になるけどそれをひっくるめてもあの性格最悪の初瀬君のことを私が好きになる訳ない。

 

性格が真反対なのだ。

そもそもそういう話になることがないだろう。

 

真正面からの言葉に、苦い笑みを見せた女の子。

けどそれも束の間───彼女は一頻り笑うと今度はニコリと笑みを見せて、水筒のお茶で喉を潤した。

 

「でも意外だな。最上さんってそういう男の子と話すような人じゃないと思ってたから」

 

「意外、か‥‥‥」

 

確かにそうかもしれない。

 

 

あれでいて話しているとそれなりに楽しい思いもある。

打てば響くという言葉をそのまま形容したかのように、説教以外で私が話すとその話題に乗っかってくれるし、初対面が初対面だったので遠慮も気兼ねもなく話せるのは事実だ。

 

初めて学校の人物に嫌悪感を剥き出しにして喋ったのが初瀬君なら初めて言いたいことをズバズバ言い合えるようになったのも初瀬君。

この傾向が良いものなのかは、私には分からない。

 

色々物申したいことはある。

怠惰ぶりを改めて欲しいのは勿論のこと、不意を突くかのように私のことを褒めるのも止めて欲しい。

 

けど、初瀬君が真摯に向き合ってくれているということは私にも痛いほど分かる。

屋上であれだけ喧嘩したのに、アイドルのことと線引きをして他の子達にアイドルのことを秘密にしてくれた。

純粋な気持ちで応援をしてくれた。

 

 

 

 

 

だから───うん。

 

 

 

 

 

少しは、認めても良いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

名前を知らない女の子との話は恙無く終わらせることが出来たといえる。

あのお話から昼休みになり、オフも兼ねて音楽を聴きながら歌詞を読み込んでいると、不意にドタバタとした足音が聴こえる。

長年のパートナーでもないのにこの足音だけで初瀬君が来てしまったということが手に取るように分かる。

誠に遺憾だ。

 

「クマァァァァァ!!!!」

 

そして、イヤホンを通り抜ける大声で初瀬君がドアを開く。

相変わらずの五月蝿い声に、煩わしい飛び出し方だ。

恥も外聞もこの男にはないのかもしれない。

その分増している思い切りの良さは鬱陶しいことこの上ない。

 

けれど、もう慣れた。

 

「こんにちは、初瀬君」

 

「おー、おはろーさん。で、今日は歌詞でも見てるのか?」

 

「ええ、出来れば1週間後には全部覚えて歌にしたいから」

 

「そうかい」

 

そう言うと、初瀬君は設置されたベンチに座り私の目を見遣る。

その瞳は、何処までも黒く、漆黒をも想起させる。

けれども黒いだけじゃない、確かな温かさがその言葉には秘められているように思えた。

 

「頑張れよ」

 

そんな言葉を感情込めて言える人に、暖かくない人なんて、きっと居ない。

 

 

 

 

 

 

初瀬翔大君は、私とは真反対の性格をしている。

目標を持って生活していない。

ちょっと面倒くさがり。

希望を持たずに、訳の分からない理屈で物を語る。

自分でも、相性は最悪だとは思ってる。

 

けれど、それでもこの距離感は嫌いではない。

決別しようとも、絶交しようとも思わない。

 

 

 

何せ、彼は───

 

 

「当然」

 

 

 

私の数少ない、言いたいことを言い合える『友達』だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もがみん、オリシュー君、お互いに『友達』だということを認識し、テーマは回収。第1部は終了です。
第2部では、日常を交えつつそれぞれの『夢』に関する本質を書いていきたいです。もがみんは『壁』、オリシュー君は『過去』。
是非是非妄想を膨らまして頂ければ幸いでございます。
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