その歌声に想いを乗せて   作:送検

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第2話

 

人が仮に1人で生きられるのかと考えた時、真っ先に思い浮かぶのが『Yes』の感情である。

そもそもの話、俺は1人で生きることを苦にしない。

大切なことは自分を保つこと。

心頭滅却を測ることにより、自分が何をするべきかということが分かればこちらのものだ。

後は必要に応じたものを行動に移せば良い。

 

 

 

たったそれだけの話なんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の出会いは、ぶっちゃけ最悪だったと言えよう。

ぼっち歌を聴かれ、褒められた挙句喧嘩した。

吐き気がするとまで言われたのだ。

第一印象でこれならもう終わりだ。人類が世界平和を希求して、それが叶っちゃう位の確率で俺とあの子の仲が良くなることはないだろう。

 

性格が真反対の人同士はなかなか反りが合うことはない。それを実感した瞬間である。

 

 

 

「おはよー!翔大!!」

 

まあ、今現在進行形で真反対の性格してる奴に絡まれているわけなのだが。

 

「‥‥‥何ですかね春日さん」

 

この少女の名前は春日未来。

転校初日から俺に絡み、その破天荒ぶりで俺のメンタルを疲れさせている原因となっている元気溌剌を絵に描いたようなサイドポニー少女。

分け隔てなく人に接するそのクレイジーっぷりはある意味ぼっちの俺にとって救いなのか、はたまた公開処刑のようなものなのか。

 

「えー、だって目と目が合ったら挨拶するでしょ?」

 

「え、なにそのエンカウント的な何か。俺別にそういうの求めていないんですけど」

 

「あはは、翔大って面白いね!!」

 

この少女と話すことの何がキツいって時に話が全く噛み合わなくなる時が来ることだ。

勿論俺にだって非はある。奴のせいだけにしないほどの気概も持っている。

ただ、自らがやりたくないと思うものに自分から突っ込んでいくほど愚かな性格じゃないということも理解している。

故に、自分から春日に話しかけに行くようなことはしない訳なのだが───悲しいかな、春日の方から絡んでくるからその努力は泡になる。

 

「この前数学の授業で赤点取っちゃってさ、本当に参ったよ」

 

「勉強したらどうっすか」

 

「あ、そう言えば最近やってたドラマが凄い面白いんだ!!翔大も見てみてよ!!」

 

「機会があったら見ます。ところで、そろそろ始業なんで───」

 

「静香ちゃんとは話した?」

 

「話聞けよ」

 

さっきから会話を出来るだけ終わらせようと誘導しているのにも関わらず、この女は次々と俺に話題を提供してくる。

俺の努力は徒労ってか。

巫山戯んなよマジで。

 

そもそも、折角忘れかけてた話題を蒸し返す春日の悪魔的思考よ。

俺だって空気くらいは読むのにも関わらず、良い意味でも悪い意味でも空気をぶち壊す元気を孕んだ春日のその一言は俺の周囲にどんよりとしたオーラを再度吹かせる。

 

春日がゴジラなのだとしたら、俺はそのゴジラに建物が壊されているのを傍観するしかない街の一般人だ。

コミュ力という圧倒的な戦力差に、俺のメンタルはズタボロです。

 

誰かこの状況を救ってください───なんて願ったところで転校生の俺に手を差し伸べてくれる友達はいない。

交友関係がクラスメイトになってからそれなりに話すようになった目の前の春日に、屋上で出会い犬猿の仲と化した最上くらいしかいないんだ。

そういった物を期待した俺が馬鹿だったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しいことに、俺の行為は周囲にとってはクラスの背信的行為らしい。

クラスでも一定の地位を確立しているっぽい春日を無視するという行為がクラスにとっては許容されることは無く、先程から辛辣な言葉を投げかけている俺に、クラスの視線はやや鋭い。

 

視線というものは往々にして痛みを感じるものだ。

具体的には、心が痛くなる。

そして、俺がこの痛みに長時間耐えられる訳が無いことは俺が1番知っている。

紙メンタルの初瀬たぁ、俺のことよ。

 

「翔大って、歌が好きなの?」

 

「はぁ、まぁ‥‥‥それなりに」

 

何処から拾ってきた情報か分からない話題を春日は何度も何度も提供する。

バラエティに富んだ話題は飽きることはないのだが、特に話す用事もない俺にとっては少しばかり胸が痛む。

何せ、何度も何度も話題を提供されているのにそれを返せるボキャブラリーや知識が無い為に会話が続かないのだ。

 

「やっぱり!静香ちゃんから話を聞いたんだ!!性格は終わってるけど歌は綺麗な王子様!!」

 

「王子様とかないわ、死んでくれませんか?」

 

「酷い!?」

 

そもそも女に王子様と言われて嬉しい男などこの世にいるのだろうか。

少なくとも俺は、王子様なんてのはあまりに高貴なイメージが先行してしまい仮にそんなことを言われた日には現実と理想のギャップに困惑するのみであろう。

現に今がそうだ。

己が王子様と言われるほどの財力も顔も持っていないことを突きつけられているみたいで、恥ずかしい。

 

ていうか最上は王子様とか言うキャラじゃねーだろ。本当に一言一句逃さず理解して言ってんのかコイツは。

 

「‥‥‥って、あの野郎バラしやがったのか」

 

憎い女だ、最上静香。

彼女がどのような気持ちで俺の痴態を春日にバラしたのか想像するだけ腹が立ってくる。

これで俺がぼっち歌を歌っていたことがバレ、クラスからは好奇の視線で見られる。

自業自得とはいえ、早速俺は中学生デビューに失敗したのだ。

虚しいったらありゃしないね。

 

「でへへ‥‥‥でも、翔大の歌は本当に上手だって言ってたよ?嬉しくないの?」

 

「あのな、屋上で歌を歌っているなんてのをバラされたら普通恥ずかしいだろ。歌を褒められた嬉しさよりも、歌を歌っていることをバラされた恥ずかしさが先行してるってお前さんは気付かないのか?」

 

そう言うと、目を見開き、ポカンと口を開く春日。その顔つきは『‥‥‥そういうことか!』という言葉を雄弁に示している。

春日の顔を見た俺は、それに気が付く。

何故かイラッときたのはその先に続く言葉が分かっているからか。

 

「翔大が天才だぁ!?」

 

「煽ってんのか?煽ってんだな。よし、表出ろ春日」

 

春日未来はとんだクレイジーガールである。

その点について意思がブレたことは今のところ1度としてないと自覚している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直、俺は油断していたのかもしれない。

昼休み、ブレイクタイム。

朝っぱらから俺にとってのダブルサイクロンの1つであるところの春日未来を相手取り、見事なほどに疲弊していた俺はかつての情景を思い浮かべる。

 

青い空、美味しい空気、差し込む太陽。

屋上への誘惑の狭間で、俺は選択を強いられていた。

 

「‥‥‥オーライ、んなこたぁ分かってるんだぜ」

 

屋上に行けば高確率でダブルサイクロンの片割れ、最上に出会ってしまうことをな。

態々リスクは背負って立たないのは何度も何度も言う俺の信条だ。

何度も何度も同じ手に引っかかると思ってんのか、屋上さんよ。

 

俺は‥‥‥

 

俺はそんな餌に───!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「釣られクマァァァァァァッ!!!!!」

 

「!?」

 

やはりダメだったかと半ば諦めの心境のまま空を見上げた。

目の前には、屋上でビクリと肩を跳ね上げた最上。イヤホン耳にかけて、手足が中途半端な位置で固まっているってことは───ダンスでもしてたってか。

間が悪かったな、出直そう。

 

「あー、悪い。屋上が俺に餌を与えやがった結果思わず釣られちまった‥‥‥お楽しみのところ悪かったな」

 

と、俺が言うのと同時にイヤホンを外す最上。

俺を捉えたその視線は胡乱気な表情。

端的に言って、俺の痴態に呆れているような、そんな疑わしい目付きだった。

 

「五月蝿い」

 

「屋上はお前だけの場所じゃないが確かに悪かったと思ってる」

 

やがて皮肉混じりの弁解を最上に送ると、最上は挑発的な笑みを送り俺の皮肉に対抗する。

 

「‥‥‥いいえ、初瀬くんの情緒不安定さを見切れなかった私の落ち度だから。こちらこそごめんなさい」

 

謝られているのに謝られた気がしない。

いや、謝られていないんだよなこれ。

勝気な奴だ。

そんなに俺が嫌いかね。

 

まあ、いい。最上がここにいる以上俺のすべきことはひとつだ。

元々ここで休むつもりでもなかった。

ここに来たのは悪魔的な何かのせいである。

そうだな‥‥‥餌を振り撒いた屋上君のせいだとでも言い訳しとこうか。

 

「もう道は覚えたの?」

 

「最低限、自分が行かなければいけない教室位はな」

 

俺も大馬鹿ではない。

1度犯した失敗を繰り返す程人間落ちぶれちゃいないし、物忘れが激しい訳でもない。

今日は先生からの呼び出しもなし。

大勝利である。

 

ただ、この大勝利が完全勝利になるのかはこれからの俺次第だと言えよう。

 

「そういうお前さんはイヤホン片手に何をしてるんだ?」

 

イヤホンを外し、俺を睨みつける最上にそう問いかけると彼女はため息を吐いて俺に語りかける。

 

「別に初瀬君に言う必要はないでしょう?」

 

「や、まあそれはそうだが‥‥‥気になるじゃないか。あんなに綺麗な踊りを見せてたらさ」

 

「お世辞?」

 

「ちげーよ」

 

なんですかその即答は。

あれか、俺がダンスを褒めるのは見当違いってか?

失礼な奴だ。こっちはそれなりに褒めてるってのによう。

 

「‥‥‥兎に角、別に何か重大な違反をしている訳じゃないんだし。干渉しないで」

 

「‥‥‥悪かったな」

 

何処までもいけ好かない人間だ。

いや、これが最上静香という少女なのだろう。

鋭い目付きに、物怖じしない態度。

ここまで人を突き放せるその態度はちゃんと見習いたいとも思う。

 

踵を返して出口に向かって歩き出す。

しかし、悪魔の時間はここで終わることは無かった。

サイクロンは俺を心底虐め抜きたいらしく、逃げようとしている俺に言葉というダメージを与え続ける。

 

「部活、決まったの?」

 

「うわうっざ‥‥‥何すか、アンタは俺の親か何かですか?」

 

「そういう訳じゃ‥‥‥ああ、もう。どうしてそういう言い方しか出来ないかな」

 

理由はお前さんと同じだ。

最上に干渉されたくないことがあるように、俺も干渉されたくないことがある。

干渉されたくないことを干渉されないように突き放して何が不満なのだろうか。

語調に関しては勘弁して欲しい。

これが俺の全力だ。

 

「部活に関して干渉されたくないからさ。お前がイヤホン片手に踊っている理由を尋ねられたくないのと同じだ」

 

「‥‥‥ああ、そう」

 

ぷいっとそっぽを向く最上は非常に可愛げのあるものだが、そこに惑わされてはいけない。

そう、可愛いんだ。それは間違いない。

見た目クールの癖していちいち見せる行為が子供臭くて可愛いんだ。

見てくれも悪くねえしな。

ホント、後はいちいち噛み付いてくれなきゃ良いだけなのに。

 

 

まあ、人は完璧なんてないものということも知っておかねばならない。

俺にだって欠点はある。

最上にだって欠点はある。

人に完璧さを求める程馬鹿なことは無い‥‥‥なんてブーメラン的思想をしつつ目の前の女を見る。

 

うん。

 

 

生意気な目付きにムカつく言動。

俺はお前をこのまま許容することは出来ない。

何せ俺は完璧ではないからな。

だから───

 

「最上」

 

「‥‥‥何か」

 

仕返しだ。

 

「良いダンスしてんじゃねえか」

 

「───は?」

 

「正直、見惚れてた。ああ、ダンスをしてるお前も普通のお前さんにもな。正直、一目惚れだ」

 

最後にそう言い切ると、えも言われぬ高揚感とやりきった感が俺の身を襲う。

それは何故か、そんなもの分かりきっている。

 

「───巫山戯てるの?」

 

激おこもがみんが爆誕したから───ってな。

笑えん、実に笑えん。

だがしかし、言いたいことを言えるのは本当に気持ち良い。

言いたいことを言って良かったのかということに関しての答えは笑えない現状と気持ちが良い思いとの間で板挟みとなり、分からん。

一種のジレンマじゃないのかね、こういうの。

 

「じゃあな」

 

「待ちなさい!!大体貴方は───」

 

最上がなんか言ってるが無視だ無視。

聞いてやる義理はない。

求めてもいないしな。

 

すたこらさっさと屋上のドアを開けて、階段を降りる。

全く、俺もガキだ。

いや、事実ガキだから年相応で別に良いんだが。

仕返しはするなと親父に言われたのにも関わらず仕返しをしてしまったことに若干の負い目を抱かないと言えば嘘になる。

俺の不手際に、涙が止まらない。

 

3階まで降りきったところで、後ろを見遣る。

そこに最上は居らず、また足音も聴こえない。

見事脱出に成功できた訳だ。

しかし、言いたいことを勝手に言ってとっとと逃げた割には心の中に何かがつっかえ、気持ちが悪い。

その理由は、親父の言いつけを破ったからか。

はたまた、多少なりとも心の中で最上に謝罪の念を抱いていたからか。

どちらにせよ、俺の心中が穏やかではなかったのは確かで。

 

「‥‥‥もうやだ」

 

ったく。

 

らしくねえぞ、俺───なんてこれまたらしくないことを考え耽っていた。

 

 

 

 

 

 

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