その歌声に想いを乗せて   作:送検

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第3話

 

 

 

 

 

 

妙案を考えた。

 

それは、俺の気分転換に関しての方策。

昨日をもって、俺の気分転換のひとつである屋上休暇は最上静香によって幕を閉じたかに思われた。

しかし、ここで諦める程俺は諦めの早い性格ではない。

初瀬翔大は諦めの悪い性格なんだよ。

 

「と、言うわけで俺はやるぞ‥‥‥春日!!」

 

「おお!?偉いやる気だね翔大!!」

 

机に向かい合い、唐突に発した俺の一言を春日は拾い、俺に顔を近付ける。

その距離から織り成す女の子特有の柔らかな香りに少しドギマギしつつも、俺は続ける。

 

「俺の安寧を取り戻すんだ。その為には、あの憎き最上静香が屋上に来るまでに屋上に行かなければならない」

 

『やるぞ!』と俺が声を上げると春日は『おー!』と声を上げる。そこまで仲良くなった覚えはないが、こうして仲良くすることは悪いことじゃあない。

若干の違和感はあるがそこは放っておこう。

 

「あ、でもでも。静香ちゃんはお昼休みは直ぐに屋上来るし、2-Bの方が階段に近いし、静香ちゃん足も速いし体力もあるし‥‥‥翔大、勝てるの?」

 

「勝てない」

 

そんな公式チートも聴いてない。

環境も、実力もチートなら勝てる術なんてないじゃないか。

それこそ俺が合法、脱法的に授業をサボるようなことをしないとな。

しかし、それも何れはバレる。

虚しいかな、生徒の悪事は先公にバレる運命なのさ。

 

「それなのに、静香ちゃんより先に行くの?」

 

ぽかんとした表情でこちらを見る春日。

その表情に不安は湧くが、ここで諦めるわけにはいかない。

今日、特攻だ。

我がエデンは己の力で取り返してみせるさ。

 

「やってみなければ分からない‥‥‥春日、本気の俺をあまり舐めない方がいいんだぜ‥‥‥!」

 

「でへへ、翔大って結構抜けてるね!」

 

おめーには言われたかねえよ。

クラス内で珍回答を連発しているお前にはな。

 

「それにしても、翔大って変だね。そんなに屋上にこだわらなくたっていいのに」

 

「ゆっくり出来るのは屋上くらいしかないんだよ。教室は騒がしいしな」

 

その溢れ出る情動を少しは外遊びにでも費やして欲しいものなのだが、悲しいかな。部活動という存在が確立されている中学生には昼休みにわざわざサッカーや野球等の外遊びをする気概はないらしい。

基本的な服装が制服だからってのもあるのだろう。汚れるのを忌避する現代じゃ制服でスポーツをすることもあまりない。

 

「えー、でも皆とバドミントンとかしたりするし‥‥‥そうだ!翔大が誘えば?『バドやろーぜー!』って」

 

「俺がその手のタイプだと思うか?言っとくが俺はインドアだ。アウトドアとかは俺の趣味じゃない」

 

「一緒にバドミントンやろう!」

 

「1人でやってろ」

 

いつの間にか手に持っていたラケットを手に、春日は俺にバドミントンを勧める。生憎、その手の類のものに興味がない俺は春日の誘いを突っぱねて、騒がしいクラスメイト達の声をBGMにしつつ机に顔を埋めた。

良くも悪くも普通だと思っていたこのクラスは予想に反して鬱陶しい。

友人や、共通の部活の繋がりがあるからか既にコミュニティは構築されている。

春日みたいなタイプは極めて稀である───が、その希少性が俺の気分を高揚させるきっかけにはなりゃしない。

普通の生活は、俺の安寧の日々は、遥か遠き何処かへと逝ってしまったのか。

 

「やっぱサボるしかないのかね‥‥‥」

 

そうなると頼りになるのはあの屋上しかない。

やはり最上というラスボスを倒さねばならない。

キツツキ戦法でも釣り野伏せでも何でも良い。

あらゆる手を尽くして、屋上という領地を取得せねばならない。

 

俺の心の中の闇が疼き出して来た───なんて厨二チックな事を考えていると、不意に春日が俺の肩をツンツンと叩く。

その行為を煩わしく感じ、顔を上げると春日は少しムッとした表情で俺を見据えていた。

何だろう、何か悪いことをしたか。

 

「なんですか」

 

「サボっちゃダメだよ、翔大」

 

言われるまでもなく分かっている。

放っておいてくれないだろうか。

 

「死ぬ時は一緒だよ!」

 

「勝手に道連れにすんの止めてくんない?」

 

春日みたいな女の子の口から『死』という物騒なワードが出てきた真意は俺に知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから何時間か考えて見たものの、打開策はサボり以外には見つからなかった。

 

頭の悪い俺には最上よりも先に屋上に辿り着く術をサボって先に屋上行く他知らない。

しかし、口には出したものの初っ端からサボる気概もなかった俺は普通に授業を受けて出来るだけ速いスピードで屋上へと向かった。

そうなると春日の予言通り俺が勝てるはずもなく。

 

 

「わぁ、おそらがきれい」

 

 

俺は何度も何度も餌に釣られる学習能力のない駄犬である。

なんなら犬の方が学習能力があるのではないか。

尤も、犬語の分からぬ俺には優劣等付けられない訳だが。

 

目の前を見れば青い空に、広がる雲、そして最上。

折角の素晴らしい光景が最上1人のせいで台無しだ。

『良さ』が『悪さ』によって中和されていくこの様に俺は涙が止まらないね。

 

「‥‥‥また来たの?」

 

不快感を顕にさせて最上がそう言う。

いつも通りのどストライクな顔は俺の心を高ぶらせるが、一時の情動に絆される訳にはいかん。

こういうので何度痛い目にあってきたか、俺には数え切れないほどあるからな。

 

「まあ、そう言うな。最近はお前の顔を見るのも慣れてきたんだ。屋上で気分転換するくらい、許して欲しいな」

 

「‥‥‥別に、屋上で気分転換をするなとは言ってないでしょう」

 

デレか。

おい、今のはデレなのか?

にしちゃあ随分と棘のある語調だな。

 

「なら、俺はベンチで休ませて貰いましょうかね」

 

隣接されているベンチにもたれ、一息つく。

屋上は風が涼しく、非常に気持ち良い気候だ。

曇りひとつない空、美味しい空気。屋上はこうでなくてはな。

 

この間、俺と最上の間に会話はなかった。

静寂のみが屋上という空間を包み、自然と聞こえてきたのは風が吹く音のみ。

最上もステップ練習は終えたのか、特に動く音は聞こえて来ず。

心地良いっちゃ心地良いんだが、何か悪い気もする。

 

「───最上」

 

聞いているかどうかは俺には分からぬ。

空を見上げながら放った一言は、空に向かって掻き消えていく。

しかし、掻き消えてしまう前に声は拾われていたらしく、俺の座ったベンチが軋む音と同時に聞こえたのはこの屋上で初めて聞いたあの声と同義のものだった。

 

「何か」

 

らしい一言だ。

この少女は俺に好印象等欠片も持っていない。

無論、俺にもそんなもの持ち合わせてはいない。

そんな2人の会話等弾むはずもなかった。

 

ここから俺が聴くことは単なる好奇心だ。

俺が、最上を見て気になったこと。それを聴くだけのこと。

 

「お前はダンス部なのか?」

 

「‥‥‥は?」

 

「前々から良いダンスしてたからな、少し気になったんだ」

 

無論、俺にダンスなんて心得はない。

しかし、素人目に見ても分かる動きのキレ、素早さ。それらは一朝一夕で取得できるそれでは無いことくらい俺にも分かる。

 

最上の顔を覗いてみる。

結果は───あまり芳しいとは言えない。

鳩が豆鉄砲食らったような表情をしてらっしゃる。

俺としてはここで一発愛想笑いでも良いから最上の笑みを見たかったんだがな。

 

笑顔は人を安心させる。

そんな持論を持っている俺にとって、会話する奴の笑みってのはかなり重要視するものだ。

故に、今のこの状況で最上に笑って貰えないのは何となく、こう‥‥‥辛いものがある。

 

やがて、最上の顔付きが変わる。

驚いた表情から、少し怒りを孕んだ顔付きになる。

ムッとした表情も、これまた可愛いものがあるが今のこの状況じゃあ笑うに笑えない。

 

「初瀬君はダンスをしたことはあるの?」

 

「残念だがランニングマン以外に心得はない」

 

虚言を吐かず、誠心誠意対応する。

しかし、最上にとってはそんなものお構い無しだ。

今の俺に必要だったのは誠意などではなく、この状況をどうやって乗り切るか考えることだったらしいな。

好奇心は人を殺す。

どうやらあながち間違ってはいないらしい。

 

「ダンスに心得がなければ、気概もない。そんな状態で私は初瀬君の賞賛をどう受け取れば良いの?」

 

「素直に受け取れば良いと思うが」

 

「その言葉、私が歌を賞賛した時に嫌そうな顔をした初瀬君にそのまま返す」

 

「‥‥‥悪かったよ」

 

あの時は、色々テンパってたんだ。

新しい学校、新しい友達、新しい環境に戸惑ってた俺にとっての唯一のオアシスである所の屋上。

そこで何をとち狂ったのか俺は歌を歌った。

そして、最上静香という少女にそれがバレた。

 

「思わず突っぱねちまったんだ。屋上は誰のものでもないのに、1人で独占欲勝手に抱いて、勝手に恥ずかしく感じたのさ」

 

「‥‥‥別に、歌を歌うことくらい恥ずかしいことじゃないと思うけど」

 

「恥ずかしいだろ」

 

「それは、きっと自信が無いから。本気でやりきったことに恥ずかしい───なんて概念はきっとないと思う‥‥‥ああ、でも初瀬君は違うか。道楽だものね、道楽」

 

「売られた喧嘩は買うぜ‥‥‥へへっ、なんだ。俺、アンタのこと睨みつけて噛み付くだけの腰抜けだと思ってたけど俺をブチ切れさせる程の胆力はあるんだな、見直したよ」

 

ベンチ越しに睨み合う。

やはり、幾ら足掻こうとも1度拗れた俺と最上の仲が改善することはないらしい‥‥‥否、元々改善するほど仲良くもないか、はっはー‥‥‥なんて情けないことを考えつつ、俺はもう一度空を見上げた。

 

「大体さ、干渉されたくないことに対して突っぱねるのは理解できるけど、普段の俺に対してそこまで邪険にしなくたって良いだろ。一方的とはいえ、今回はお前さんのダンスに対して尊敬の念を送ってんだから」

 

「‥‥‥尊敬?」

 

「お前が何を目指しているのかは知らんが、こうして昼休みの時間を使ってまで何かをするってのはなかなか建設的で殊勝な考えじゃないか。普通に尊敬するぜ」

 

幾ら夢に向かって突っ走る奴だとしても昼休みのこの時間を使ってまで努力するやつはひと握りだろう。

割り切らず、弛まぬ努力で何かをしようという精神は普通に尊敬する。

 

「‥‥‥そう、かな」

 

「そうだとも、だからお前さんはそんなお前さんの行動に尊敬している俺に対しての当たりをもう少し優しくすべきだと思うんだ。端的に言って‥‥‥そうだな、もっとお淑やか路線へ進んだらどうかな?」

 

「悪いけどそれは無理。だって初瀬君を見てるだけで腹が立つから」

 

暴論やんけ。

聡明そうな顔してるくせに時々感情に任せて物を言うのは年相応なのか。

よく良く考えれば、こいつ俺と同い年だもんな。

ここら辺の年頃の輩は皆そんなもんなのかね。

 

「それに、別に毎日なんかじゃないわよ。休む日もあれば、オーバーワークを防ぐ時もあるわ」

 

いや、そりゃあな?

それくらい俺も分かってますぜ?

けど休み時間まで頑張る女の子なんてなかなか居ませんぜ?

今一度最上は周りを良く見て、同級生の女の子が何をしているのか確認する必要があると思うのだが。

少なくとも俺は怠惰に暮らしていて、春日は牛乳飲んでんだ。

普通に最上は勤勉なレベルに達していると思うんだがな。

 

しかし、最上の顔は依然として晴れない。

それどころか目を少し細めた。

その瞳はいつもの最上の凛々しく、意志のこもった目ではない弱々しい目付き。

 

「それに、本当なら私だって‥‥‥」

 

「あ?」

 

「‥‥‥何でもない。初瀬君には関係ないことよ」

 

「‥‥‥さいですか」

 

そこから、昼休み終了まで会話は何もなかった。

そりゃそうだ、仲の悪い俺達にとって自然発生的な会話なんてあるはずも無い。

きっかけを作る気概もない。

俺が今現在コイツに思っていることといえば、ちょっと可愛くて、俺の好みにドストライクで、怒った顔も可愛いってこと位だ。

決して仲良くなりたいとか、そんなこと思わないね。

断言したっていい。

 

 

 

 

ただ、一つ心残りがあるとするならば、先程細められた目が屋上を一足先に出ていくまでの間に変化しなかったということだろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言い淀んだ最上の辛く、苦しげな表情が鮮烈に残っている。

 

『私だって‥‥‥』

 

その時の最上の顔は俺を見る時のような敵対心丸出しの鋭い眼差しではない、一転した弱々しい目付きだった。

俺に最上の心情を慮ることには無理があるが、何かがあるということくらい察しがつく。

関係ないことと宣うのなら、俺は必要以上に関与する必要はないんだろうさ。

 

ただ、意志と記憶はまた違う。

 

どれだけ気にせまいと考えても、あの時のギャップから生まれた弱々しい目付きがどうしても思い浮かぶ。

友達が少ないのが、余計だ。

最上の顔だけが頭に浮かんで、他の記憶で埋め尽くすことが出来ない。

 

「巫山戯んなよ、マジで」

 

悪態を突いて、ドアを開ける。

すると、目の前に広がるのは故郷に居た時の学ランではなく普通の制服を着た生徒達が駄弁っていたり、座って授業の支度をしていたりする。

このクラスに、俺を気にするような輩は多くはない。

仮に居たとしても、記憶している中では恐らく1人ほどしかいないだろう。

 

「静香ちゃんとはどうだった?」

 

それがコイツだ。

春日未来。

なんの因果か、クラス内ではコイツとしか話していない。

 

そんな春日から発せられた帰ってきて早々の一言に、俺は開いた口が閉じなかった。

人生何が起こるか分からないもの。とはいえ、流石の俺もドアを開けて早々ドアの前で待機をしていた春日に最上とのことを聞かれるとは思っていなかった。

 

なんだってんだよ。

そんな思いが俺の頭を埋め尽くす中、春日の口は止まることなく継がれていく。

 

「仲良くなった!?」

 

「喧しい。授業前だろ、席に着けやい」

 

周囲がお前の大声&矢継ぎ早に発せられる質問のせいでザワザワしているということをお前自身が理解しないでどうするんだ。

この状態で先生でも来てみろ。俺はもれなく授業前にも関わらず女の子と騒ぐ不良生徒として名を馳せることになる。

編入早々そんな称号付けられてたまるか。

 

「えへへ、ごめん。でも翔大と静香ちゃんには仲良くしてほしいから」

 

「俺と最上が?」

 

「うん!だって翔大にとって、初めてクラス以外の人と話した人が静香ちゃんでしょ?それなのに仲良くなれなかったら、寂しいから」

 

 

‥‥‥。

 

 

まあ、そりゃそうだけど。

確かにクラス以外というよりこの学校の生徒の中で初めてまともに話したのは最上だけれど。

だからといって寂しい訳でもないし何なら未練も感じない訳であって、それについて俺は春日に何と弁解しようかというのを頭の中で考えていた。

 

結果、何も思いつかず。

取り敢えずは春日の思いを汲んでおくことに落ち着いた。

 

「で、仲良くなれた?」

 

無言の空気が俺たちを襲ったからか、春日が話題転換を試みる。

さて、この質問が些か問題だ。

俺は春日を喜ばせるような有益な事実等持っておらず、このままでは春日に失望されてしまいかねない。

虚言を吐こうものなら直ぐにバレる。

会話から察するに春日と最上は親友っぽいからな。

ズッ友だ、ズッ友。死に晒せ。

 

「‥‥‥まあ、あれだ」

 

「あれ?」

 

「お、お話はしたぞっ」

 

さて、最上との会話に関しての本題に入った所で言葉に詰まった俺は握り拳を掲げて、春日に笑いかける。

しかし、上手く笑えた気がしない。

てか、恐らく引き攣ってる。

作り笑いをこれでもかという程練習してきたのにも関わらず、上手く笑えていないのは俺の練習が無駄だったということ。

畜生、こんなことなら愛想笑いの練習じゃなくてお勉強でもしとけば良かった。

 

「お話‥‥‥?」

 

「お、おう!」

 

「どんなお話したの?」

 

「あー‥‥‥そう!ダンスの話!最上ってダンス上手いよなーって話をしたらさぁ!最上に冷ややかな視線向けられちゃってさぁ!参ったよも‥‥‥あ゛」

 

春日には誘導尋問の素養があるのやもしれん。

いや、これは端的に俺の口が過ぎたことだ。

春日にそのようなセンスはないだろうし、俺は一貫して此奴に対する評価を『アホの子』として見ている。

そんな未来だが、友達想いな1面も見せている。

最上の話をする時の春日は本当に楽しそうに目を細めて、笑っている。

そんな奴に敵対視されているということを悟られてみろ。

俺は春日に大目玉を食らうことになるだろう───『ダメだよ!仲良くしなきゃ!』ってな。

 

「翔大‥‥‥」

 

「へ、へい」

 

春日が俯き、ボソリと一言呟く。

その一言に背筋がビクッとなる感覚を得つつも、俺は何とか平静を装い背筋を正す。

こうなってしまったら仕方がない。

俺も男だ。腹を括って目の前の春日に対抗してみせよう。

その序に言ってやるんだ。

『俺と最上が仲良くなることはない』ってな。

 

 

 

 

 

かかってこいよ、春日─────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだよね!!静香ちゃんのダンス凄い上手だよね!!」

 

「‥‥‥はぇ?」

 

「オマケに可愛いしカッコイイしもう、本当に最高のアイドルだよー!!」

 

肩を捕まれ、ゆっさゆっさと揺らされる。

かなりの強さに俺の脳内は揺れまくるものの、お陰様で冷静さを取り戻すことが出来た。

いやはや、春日には感謝しかない。

 

「あのさ、春日───」

 

「静香ちゃんのダンスのキレは本当に凄い!いやー、翔大にはダンスの目利きのセンスもあったんだね!流石翔大!!」

 

「春日、春日」

 

褒められるのは嬉しいけど少し俺の話を聴いてくれ。

下手したらお前の成績に関わる出来事だ。

落ち着いて聴け。

 

「??」

 

漸く落ち着いたのか、春日が俺の両肩を掴んだまま首を傾げる。

距離の近さに少しドキッとするものの、平静を装い俺は春日に告げた。

 

「先生来てる」

 

「え‥‥‥」

 

春日は漸く我に返り、周りを見渡す。

そして、黒板を見遣ると現状を理解し振り向いたまま固まりやがった。

現実逃避をしたいのか、俺には分からんな。

固まっている暇があるのなら、少しでも弁解をした方が良い。

見た目を悪くしてどうするのやら、せめて取り繕った方が良い結果が出るまである。

 

 

さて、俺もそろそろ自分の身の振り方を考えよう。

目の前に居るのは筋骨隆々の4文字を体現したかのような古典教師が立っている。

ジャージを羽織り、坊主頭。その姿はまさに体育教師。

専攻科目間違えてんじゃねえのかこれ。

 

「春日‥‥‥5限の授業早々から先生を無視した挙句、編入生にカツアゲか‥‥‥?」

 

「え、えーっと」

 

ようやく苦しげに言葉を発した春日は壊れたブリキのような動きで俺を再び見遣る。

どうやら春日は弁明のチャンスを捨て、俺に匙を投げたらしい。

冗談じゃないと言いたいところだが、上等だ。

 

「先生、それは違います」

 

先生は幾つかの勘違いをしている。

先ず、春日はカツアゲなんて行っていないし俺はカツアゲされるほどのお金を持っていない。

お金といえば、帰りにひとり遊びのコイントスをする為の1円しかない。

無論、10円で買えるものが大してないことくらい分かっている。

そして、何より言いたいことは───

 

「ほう‥‥‥ならどういう訳か説明してもらおうか、初瀬」

 

先生が俺を見据える。

古典の先生には似つかわしくないゴリラ顔。大人しい生徒が彼の怒る姿を見れば彼等は恐怖に慄くことであろう。

しかし、事実のみを伝えようとしている俺にはそんな顔をされた所で何ら怖いことは無い。

さあ、これを言ってさっさと罰則でも受けよう。

面倒な事はこっちから迎撃して、歓迎するのだ。

そうすることでモチベーションを上げ、罰則に前向きになることができる。

人間、面倒くさいと感じるほど体感時間は長くなるものさ。

 

だから──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騒いでたのは俺と春日です」

 

「翔大が裏切ったぁ!?」

 

「立ってろぉ!!!」

 

 

 

道連れだ、クラスメイトよ。

 

 

 




こいついつも女の子にドキッとしてんな(コミュ障)。
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