その歌声に想いを乗せて   作:送検

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第4話

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスメイトと話すことに関して重要性を感じないと言えば、それは嘘になる。

元々ぼっちでもなければ会話だってできる俺にとって、話すことは大切だと思うし時には人と話し合い、意見をぶつけることでより良い考えを編み出せるというのも分かっている。

現に今の俺は苦手なピーマンを食べる子どもさながら春日とそれなりに話すことに徹している。

苦手に立ち向かう俺の意志を褒めて欲しいもんだね。

 

しかし、その意志とは裏腹に昨日の夜、1件の電話が俺の下宿している家にかかってきた。

ワケあって遠縁の親戚のおやっさんの家で1年間暮らすことになっている俺。

それ故に『電話に出ろ』という遠縁のおやっさんの言葉を反故にすることは出来ず、渋々電話に出ることになったのだ。

いや、反故にすることも出来たよ。

けど、その場合情状酌量の余地なしでおやっさんからキャメルクラッチ&下宿先から追い出されるという恐怖の2コンボを喰らう羽目になる。

下宿生活4日目で帰郷は避けたい俺には電話に出る他なかった。

 

結果として、両親に言われたのは『とにかく友達を作ること』。そして『お小遣いの5000円は考えて使うこと』。それらを言われて電話をプツリと切られた。

俺はこれから遠足に行くことになった幼稚園児かと自分で自分を嘲りたくなったが、親から見れば俺なんてその程度にしか見られていないということだ。

 

どれだけ大人ぶろうが所詮は14歳の中坊。

両親や遠縁のおやっさんからしたら結局俺はまだまだガキ。

だからこそ心配もされる。

奴等は俺を1人では何もすることの出来ない子どもだと思ってんのさ。

 

だから、先ずは両親達の信頼を得るために行動してみようと思う。

言われたことをしっかりこなし、俺はアンタらに言われたことをちゃんとこなせる、そして自主的に生きることの出来る男だということを両親に知らしめ、大人への第1歩を踏み出すのだ。

 

両親の信頼を得れるなら、苦手なヤツとも話してやる。

今の俺の心の中はそんな気概に満ち溢れていたんだ。

 

「というわけで最上、俺はお前に言いたいことがあるんだ。序に友達になろう、あわよくば親友にでも‥‥‥」

 

「私は初瀬くんと話したくないんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。

舞台は戻って学校の屋上。

いつも通り昼休みに安寧の時を過ごそうと屋上へたどり着き、これまたいつも通り最上に一番乗りを譲っている自称『やればできる子』の俺。

そんな俺が最上に対して友好的な態度を取って、友達になろうと画策したのだが、俺の思いは最上に伝わらず、逆に冷たい視線を送られ、辛辣な言葉を送られてしまう。

 

下手に出たのが愚策だったか。

いや、逆に傲慢に接したらいつもと同じ険悪な空気になってしまうでは無いか。

反省しろ、俺。

 

「まあ、そう言うな。俺にとって最上はこの学校で初めてまともに話して、初めてまともに喧嘩した仲なんだ」

 

尤も、その情報は春日の受け売りなんですが。

後から『確かに』って思ったからセーフだと俺は思っている。

てか、受け売りとか気にしてたら会話なんてできないよな。

そんなこと気にしてたら友人の『ゆ』の字に近付くことさえままならないだろう。

 

 

 

が、その選択は最上にとっては『No』だったらしく最上は胡乱気な目付きを変えることはなく。

 

「ああ、そう。けど私にとっては何も関係ないただの転校生だから」

 

あーくっそ。

下手に出たのが間違いだったわ‥‥‥なんて、ちょっと前までの気概が何処へやら、俺は最上に対しての敬意など捨て去り、大きな溜息を吐いて併設されているベンチにどかりと座り込んだ。

 

相変わらず、この空は俺に多幸感をプレゼントしてくれる。

ストレスを紛らわす効果は充分に感じているのだが悲しいかな、最上との会話のせいでストレスゲージはプラマイゼロだ。

おかしい。

可愛い女の子との会話だぞ、普通幸せ感じちゃうだろ?なぜこんなにストレスが溜まる会話になってしまうのやら。

理想と現実は違うってか。

畜生、初対面の『ドストライクな女の子だ!友達になりたい!』だなんて少しでも思っていた感情を返しやがれ。

 

「今、忙しいの」

 

最上はそう言うと、目線を俺からウォークマンへと移す。

忙しい、イソガシイ、いそがしい‥‥‥とな。

となるとあれか。

俺と話す時間も惜しいと、そういう事か。

 

「ノータイム‥‥‥ね」

 

何かやらなきゃいけない事があるのだろうか。

ダンスの発表会とかボンボン‥‥‥チア部の発表会とかだろうかな。

 

「言っておくけど、ダンス部もチア部も私はやってないから」

 

「‥‥‥お前はエスパーか何かなのか?」

 

「昨日言ってたじゃない。ダンス部でもやってるのかって‥‥‥その質問を返しただけ」

 

律儀なこって。

良い奴なのか悪い奴なのかはっきりしない奴だ。

それでも、昨日の俺の質問に答えてくれたってのは俺にとってはプラスに繋がる出来事なのかね。

もやもやしていたものが、パッと晴れた感覚に陥った。気分上々、モチベーションアップでストレス軽減だ。

やったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ、楽しいか?」

 

何処までも広がる群青色の空を見上げながら最上に問うと、ステップを刻む音はパタリと止み、その代わりに聴こえたのは最上の声。

 

「どういう意味?」

 

「純粋な質問さ。それは楽しいのか?」

 

俺と話すのが嫌だから、と結論づけてしまえば最上が今やっていることに熱中している理由も分からなくはない。

しかし、最上は『時間がない』と宣ったのだ。

俺からしたら時間がないと言いながらやるものほど楽しくないものはない、と感じるがね。

 

時間に追われる恐怖ってのは想像以上に嫌なものだ。

幾ら楽しいことだからって『ノータイム』の概念が付き纏ってしまう時点で、その『楽しいもの』とやらには幾つかの制限が重しになる。

例えば、時間がなくて満足に楽しいことを全う出来なかったりとか。

例えば、時間に追われて本来『楽しいもの』が持つストレス発散の効力が無くなってしまったりとか。

 

そういったものがある限り、ノータイムでやることが楽しい事だとは思えない。

それにも関わらず最上は昼休みの中でずっとダンスをしている。好きじゃなきゃ出来ないような熟練のステップの律動を刻み込んでいる。

素晴らしいと思う。

けれど、それは楽しいものなのか。

 

俺が抱いた純粋な疑問が、それだった。

 

最上が俺を見据える。

意志の宿ってそうな強い眼差しだ。

その瞳は何処までも強く俺を見据えている。

そんな瞳を持つ少女は、やがて俺に対して一言。

 

「‥‥‥楽しいとか、そういう問題じゃないから」

 

そう言った。

どうやら楽しいものではないらしい。

 

「そうなのか?」

 

てっきり楽しいからダンスをしていると思っていたのだが違ったか。

寧ろ、楽しめなければこんな上手いリズムを刻めないと思ったんだがな。

 

「私はならなきゃいけないものがあるの。それの為ならどんな厳しい練習だってこなしてみせる。回り道なんて‥‥‥そんな余裕ない」

 

「‥‥‥へぇ」

 

それは、最上なりの覚悟なのかもしれない。

そんなたわいもないことを思ったのは、他の誰でもない俺氏である。

辛い思いを抱くこともある。

それでも負けずに立ち向かうことは俺にとっては素晴らしいことだと思う。

 

敢えて茨の道を邁進していかんとする少女。

尚もステップを刻み続ける彼女の姿に、俺は盛大な拍手を送った。

再びこちらを振り向き、今度はゴミを見るかのように目を細める最上さん。

かわい‥‥‥くないっ。

そんな目つきを浮かべるな。割とマジで傷つくんだからな?

 

「‥‥‥今度は何?」

 

ため息混じりに続ける最上。

彼女は俺が発しようとした言葉を待っている。

さっきのさっきで物事を忘れてしまうほど馬鹿野郎でもあるまいし、このまま無駄に時間をつぶすのも忍びない。

正直に思いを伝えてやるさ。

 

「やっぱ尊敬するわ」

 

「え」

 

「最上はならなきゃいけないものの為ならなんだってしてみせるって決意を中学生の分際でちゃんと持ってる。意志の強い奴だと思うよ」

 

「‥‥‥当たり前のことだと思うんだけど」

 

「ソー、アタリマエってやつだ。けれどそれを継続するのは難しいんだぜ?」

 

 

『継続は力になるから自分を信じて突っ走れ』

 

今、俺が下宿している家のおやっさんが好きな選手の応援歌にこのような言葉がある。

間違っていない。

名選手に努力をしない選手はいない。

けれど、一般人の俺からしてみたらこれほど難しいと感じる言葉はない。

何せ継続をしながら、先行きの見えない恐怖に打ち勝ち、自分を信じなければならないのだから。

 

正気を疑うね。

けれど、そんな当たり前を当たり前のように行う最上静香って女の子が俺の目の前に居る。存在しているんだ。

最上には悪いけど拍手せずにはいられなかったさ。

 

 

「だからこれからも安心して自分に厳しくして良い。あわよくばそのまま突っ走っちまえよ、夢への架け橋をよ」

 

 

「‥‥‥言われなくたって、そうしてみせるわ」

 

そうかい。

それなら俺は結構だ。

精々一直線に突き進んで勝手に上へと上り詰めてけ。

間違ったことは何一つしていないってことが伝われば万事オーケーだ。

 

 

「───その」

 

「あん?」

 

「‥‥‥何でもない、さようなら」

 

 

そのまま最上は屋上を後にする。

ドアの軋んだ音と同時に聴こえたのは最上が階段を降りる足音。

それが聞こえなくなれば音は風の音以外聞こえなくなる。

たった1人、俺だけがこの場所に取り残された。

 

「‥‥‥ふぅ」

 

夢があることは素晴らしいことだ。

夢にときめけることも素晴らしいことだ。

夢のために努力出来るのはもっと素晴らしいことだ。

少なくとも、それは『初瀬翔大』にはできない事だからな。

 

尊敬もする。

真似しようとか、そんなことは思わないが素直に───凄いことだとは思ってるさ。

 

「‥‥‥お?」

 

最上が立っていた所にちんまりしたものが落ちてることに気が付き、拾い上げる。

ちんまりしたものの正体はイヤホン。最上が付けていたイヤホンと同義のもの。

 

「‥‥‥クソッタレ」

 

どうやら俺はイヤホンと同時に面倒事まで拾い上げちまったらしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みが終わり、授業に入る。

5限の授業は化学である。

理系の頭ってのがほとほと理解出来ない俺にとっては文系以外の成績は壊滅的。赤点を取らないギリギリを攻める男が俺だ。

そんな化学の授業は真面目に受けなければならない。

ノートを取って、しっかり暗記して、少しでも点数を上げようと努力をする。

自助努力の力で全ての教科の点数を平均点にしてみせるさ。

 

「しょ、翔大‥‥‥」

 

と、普段授業に対して根性の欠片も見せない俺が偶には気合いを入れようとしていると、不意に春日が顔を青ざめて俺を見遣る。

まさに困惑という風体を絵に書いたかのような表情に、流石の俺も少し真面目に春日に問いかける。

 

「どうした」

 

「きょ、教科書忘れた‥‥‥」

 

「へっ」

 

「鼻で笑われた!?」

 

ざまあねえな、春日。

教科書を忘れたら授業も元も子もない。

お前がこのままなら今日は先生に叱られるか、合法・脱法的に授業をサボるしかない。

 

「そうだな、保健室なんて良いんじゃねえか?頭の治療と体操してくるって先生に言ったら可能性あるんじゃねえの?」

 

「む、無理だよ!今から始まる化学の授業の先生厳しいんだよ!?翔大は知らないだろうけど!」

 

「知るか。てか、教科書忘れたんなら他クラスの奴に借りるなりなんなりしてこいよ」

 

それこそ最上に借りれば良いじゃないかと春日に言うと、春日の顔は僅かながらも希望に染まり、笑みを浮かべる。

藁に縋るほど絶望的な状況じゃあないと思うんだがな。

 

「そうだ!その手があった!!」

 

「普通いち早く気が付くことだろうがよ。なんだお前、良い子ちゃんか」

 

「そうかな!えへへ‥‥‥翔大に褒められちゃった!」

 

「そういうのいいから早く行けよ」

 

さもなければお前の成績が逝くぞ。

 

「わっ‥‥‥分かってるよ!翔大のあんち!!アンチ!!」

 

「アンチ!?」

 

果たしてこの女は己が発した発言の意味を分かっているのだろうか。

意味をそのまま受け取ると、あたかも俺がアンチ春日を先攻してるみたいで非常に遺憾なのだが。

言っておくが俺は春日のことを苦手とは思っているが、アンチというほど嫌っているわけでもない。

寧ろ、何時も元気溌剌なその姿と明朗快活アホ丸出しの心意気に尊敬の念すら抱いている。

最初に話しかけてきてくれたのも春日だ。割と感謝してるんだぜ?

 

「もうアンチで良いから早く行ってこい」

 

「そ、そうだね!急いで静香ちゃんに借りに行かなくちゃ!」

 

「───あ、ちょっと待ってくれ春日」

 

ちょうど良いや。

屋上で拾った最上のイヤホンを返しに行こう───と席を立つと、廊下へと向かう教室のドアへ歩を進めていた春日の身体が一気に俺に向く。

目がキラキラしているその様は、まさに餌を欲しがる犬のよう。

そんな瞳をされても、春日が喜びそうなことは何も言えないのだが、どうしたら良いんだろうな。

 

「もしかして静香ちゃんとお話したいの?」

 

「違う。俺も少し最上に用があるんだ」

 

落とした最上のイヤホン。

春日に預けて最上に渡させるのも一興だが、ここは恩を売って、軽く最上を煽りたい。

俗に言うマウンティングだ。

『そんなことにも気づかなかったのぉ?』ってドヤ顔してやる。

 

「そっか、なら一緒に行こう!」

 

「おー」

 

「静香ちゃんの化学の教科書をGETするぞー!!」

 

「ういー」

 

気の抜けた返事と共に先導する春日に追従していく。

休み時間の残りは8分。

次の授業の支度も含めたら5分の間に最上に教科書を借りて、更にはイヤホンも返さなければならない。

割とハードスケジュールのこの展開。

なんならイヤホン返すのは後でも良いとは思ったが、日を跨ぐのも良くないし、かといって後で1人で最上に会いに行くのも変な噂立てられそうだし、自分で渡してマウンティングしたいし。

やっぱりこのタイミングが1番だな、間違いない!

 

「春日、教科書はなるべく早く借りてこい。あわよくばかっさらえ。音速で教科書を借りろ」

 

「わ、分かった!重大ミッションだね!」

 

「報酬は特にないがな」

 

「え、翔大の友好度が上がるとかは?」

 

「たった今、俺のお前に対する友好度が100減った」

 

「ええっ!?ち、因みにMAXは?」

 

「100‥‥‥ああ、下がる前の友好度は10だから現時点でマイナスな」

 

「マイナスに突っ切った!?」

 

冗談だ。

まあ、評価値がまだ低いというのはあながち間違いではないのだが。

と、そんなことを話しているとあっという間に2-Bへと辿り着く。

当たり前だよな、隣同士だし。

時空が歪められたりとか、そんなこともない。

至って普通に道を通れるのなら、早く辿り着くのも自明の理である。

 

「さーて、最上は‥‥‥っと」

 

2-Bを適当に覗いてみる。

居た。簡単に見つかった。

後ろの席で予習をしている。

成績優良者のやることっぽいが、成績は良いのかね。まあ、聡明そうな顔してるし頭は良いんだろうな。

見掛け倒しなんてことが有り得るのは創作物の世界だけだ。

頭の良さげな奴は頭が普通に良い。

知性が備わっていれば、気品も身に付いているからだ。

 

「静香ちゃんはね、頭が良いんだよ」

 

「へー」

 

春日からの太鼓判を頂いたことで、ハッキリした。

やっぱり頭が良いのか。

ダンスもキレッキレで頭も冴える。

文武両道ってか、カッコイイねぇ最上さん。

 

「っしゃ、取り敢えず最上の席に行くぞ。エスコート頼む、春日」

 

「任せて!」

 

そう言うと、春日は胸いっぱいに息を貯めるべく深呼吸───深呼吸?

 

「おい、ちょっと待て───」

 

「静香ちゃーん!」

 

春日が深呼吸をした途端、朧気ながら俺はこの少女が何をするのかを察した。

だからこそ、それを阻止する為に俺は制止を促したのだが───

 

「‥‥‥クレイジー」

 

言いやがった。

大声で叫びやがったよ。

授業前だぞ、よく変に注目浴びるようなことを簡単にこなしてくれるな。

 

「恥とかお前にはないのかよ‥‥‥」

 

「え、なんで?静香ちゃん呼んだだけでしょ?」

 

違う。

俺が聞きたいのはそういう意味じゃないから。

 

しかし、大声を出したのが幸いしてか最上は春日の存在に気が付き、目を見開く。

そして、もう1人───俺の存在に気が付くと、今度は非常に嫌そうに顔を歪ませこちらへと向かってきた。

 

お?なんだ?やんのか、あ゛っあ゛ぁ゛ん?

 

「未来、どうかしたの?」

 

「えへへ、静香ちゃんに化学の教科書貸して欲しくて‥‥‥」

 

「全く、授業の支度は前日に行いなさいっていつも言ってるでしょう?」

 

「はーい」

 

「本当に反省してるのかな‥‥‥」

 

そう独りごちた最上は自身の机に戻り、化学の教科書を引っ張ってこちらへと戻る。

その間、俺と最上の会話は無し。

目も合わせられない状況だ。

悲しい。泣きたい。

 

「はい。言っておくけど落書きは‥‥‥」

 

「し、しないよ!」

 

「なら良いけど‥‥‥で、未来」

 

「?」

 

「隣の男が未来と一緒に来ているのはどうして?」

 

柔和な目付きが鋭い目付きへと変貌し、俺を見据える。

漸く俺と話す気になったのだろうか。

その割には敵意丸出しでチビりそうになるんですが。

 

「えっとね、翔大が静香ちゃんに用があるんだって!」

 

「‥‥‥用?」

 

「ああ、用だ。お前さんに渡したいものがあってきた」

 

その一言に、最上は眉を潜める。

相手にしている暇はない。時間も時間だ。

 

「これ」

 

そう一言だけ言ってイヤホンを最上の前に出す。

すると、最上は目を見開いてまさに驚き───といった表情で俺を見据えた。

 

「え、あ───」

 

ポケットに手をやるも、感触はなかったのか慌てた様子で口を開いた最上。

漸く気が付いたのか。うっかりな奴め。

 

「大事なもんだろ。忘れんな」

 

「‥‥‥あ、ありがと」

 

掲げたイヤホンを受け取り、少し恥ずかしげに目を背けるその様子は年相応の少女であり普通に可愛いのだが、これまた騙されるワケにはいかん。

どうせ、今回だけだ。

そして、俺には日頃の辛辣っぷりを倍返しするためにやらねばならないことがある。

こんな可愛さに誤魔化されて本来したかったことを忘れるほど俺は愚かな性格じゃあないってな。

 

その後の俺がどうするか。

そんなの既に決まってんだよ。

 

「えぇ〜?最上さんはぁ、自分のイヤホンが落ちたことにも気が付かなかったんですかぁ?」

 

「‥‥‥未来、この男殴っても良い?」

 

「ダメだよ静香ちゃん!?」

 

この後無茶苦茶喧嘩した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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