その歌声に想いを乗せて   作:送検

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第5話

 

 

 

 

 

 

 

 

週末間際の金曜日。

いつも通り屋上に来たのだが、そこに憎き最上の姿は見えなかった。

 

「ひょ、ひょっとして‥‥‥マジかよ」

 

今日という今日は安寧の時を過ごせるらしい。

遂に来た、待ちに待ち焦がれたこの時───

 

の、筈なのだが少し物足りなさも感じる今日この頃。俺は、適当にベンチに座りいつものように空を見上げた。

 

相も変わらず、綺麗だ。

暫くこんな時間も体感していなかったということを考えると、まあこんな時間もあって良いと思える。

しかし、以前感じていたような『絶対にこの1人の時間を勝ち取る』なんて考えは薄れてきていたのか、それ程嬉しさは感じられないのだ。

むしろ、誰か来てくれないだろうか───なんて考えちまう程には、侘しさみたいなものを体感せずにはいられなかった。

 

「‥‥‥転校2週間早々で侘しさを感じるとか普通に有り得ねえぞ‥‥‥?」

 

どれだけ濃密な時間を過ごしてきたんだワレ‥‥‥と軽く嘲りながら、俺は1人───今度は誰にも聴こえないように、小声でお歌を歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸いにも、屋上で喧嘩をすることもなければ1人で時間管理をできるほどの余裕もあった俺にとって5限の授業を受ける準備をする為の時間確保をするのは苦ではなかった。

10分前には屋上を後にして、いつも通り春日に絡まれて、渋々会話をしながら支度をする。

 

「また屋上行ってたの?」

 

「ああ、まあ誰もいなかったがな」

 

「そういう日もあるよ!」

 

そういうものかね。

寧ろ、最上に限っては俺が疎ましいから遂に顔を見せるのを辞めたのではないか。

ダンスを練習をするだけなら屋上以外にもできる。

それこそ、空き教室のどこかで自身の振り付けとよろしくやっていたんじゃないですかね。

 

「‥‥‥てか、結局何してるのかも聴いてないし」

 

「え、翔大って静香ちゃんが何やってるのか聞いてないの?」

 

「生憎そういう情報を提供されたことは無い」

 

「でへへー‥‥‥そっかそっか!」

 

お?

なんだその含みのある笑いは。

まあ、春日のことだ。

半々の確率で意味もない含み笑いをすることも無きにしも非ずだが。

 

1度笑みを見せた春日。

彼女は笑みを見せると、今度は俺を見て得意気に胸を張ると一言。

 

「翔大に問題!」

 

「え、そういうの良いから」

 

「問題!」

 

今度はムキになってそう言われた。

ショッピングモールの客引きもビックリのゴリ押し具合だ。

周囲の視線もある。時間はないが、ここは春日のゴリ押しにノるしかないか。

 

「で、問題ってなんだよ」

 

「静香ちゃんは何をやっているでしょうか!」

 

「それが分からねえから困ってんだろうが」

 

分かってたらこんな会話で苦労しねえ。

いや、そもそも此奴は俺と最上の会話を1度しか見ていない。

しかも屋上での会話なんぞ見たことも聞いたこともないのではないか。

だとしたら仕方がない。

だが、忘れ物を届けた時の会話のぎこちなさで俺が最上静香という少女のことなんて何一つ分かってないってことくらい分かりそうなもんなんだけどな。

 

「ヒントを寄越せ」

 

「ヒント?」

 

「ソー、ヒントだ」

 

クイズ番組にはよくある事だ。

流石に春日もそれくらいの常識はあるだろう。

 

「そうだねー‥‥‥歌を歌って!」

 

「おう」

 

「踊る!」

 

「おう」

 

「それで後はー‥‥‥キラキラ!」

 

ジーザス。

ヒントがヒント足り得てない。

しかもヒントの内の2つは既に分かっていることだった。

あまりの情報精度の低さに俺ァ涙が止まらない。

 

まさかこんなヒントで当てろというのか。

え、なんですかイジメですか。

春日さんって割とサディスティックな1面あったんですか。

 

「やだなもう、そうならそうと言ってくれれば良かったのに‥‥‥サディスティックにも程があるぜ」

 

「‥‥‥さでぃ?なにそれ」

 

知らないならそれでいい。

知ってても大して意味はないしな。

 

「すまん、お手上げだ。教えてくれ‥‥‥最上が何やってるのかをな」

 

クイズと宣うくらいだ。

それ相応の答えはあるはずだと思い、俺は春日に回答を促す。

しかし、春日はぽかんとした表情のまま俺を見据えている。

まさか、此奴‥‥‥

 

「秘密!」

 

「ガッデム!!」

 

勿体ぶる位ならクイズとか言うな。

ちょっと期待しちゃっただろうが。

 

「それにしても、まさかお前が最上の秘密を握っていたとはな‥‥‥」

 

答えは割と近くにぽかんと置いてあったらしい。

それに気がつけぬのは程々俺の落ち度ではあるのだが、こうも最上のやっていることを知りたがっている俺は一体全体なんなのだろうかね。

好奇心にしては気持ち悪いし、猫をも殺しかねない好奇心に任せて行動するほど俺は馬鹿じゃない。

もっと、好奇心とは違う───俺の琴線に触れるような何かが俺の心を痛いほどに擽るのだ。

訳が分からないだろう?

当たり前だ、俺も訳が分からん。

 

「でへへ、いつになったら気が付くのかな‥‥‥翔大は」

 

「吐け」

 

「それは出来ない相談だね♪」

 

楽をして答えを聞き出そうとする方策は春日的には『ノー』らしい。

先程から得意げに『ふふーん』と胸を張る春日が酷く憎たらしい。

仲間外れみたいで気が乗らないんだぞ、こういうの。

 

 

以前として最上が何をやっているのか分からない俺。

ダンスして、歌って、そしてキラキラする。

春日にとってのヒントをヒントたらしめる為に、俺は授業中、必死で頭を動かした。

しかし、俺には最上が果たして何をやっているのかが分からぬ。

ひょっとしたら分かろうともしていないかもしれない。

分かりたい、分かりたいと願う気持ちは実は『嘘』で、本当は分かりたくもない、いっその事爆ぜてしまえ‥‥‥なんて深層心理の中では考えている大馬鹿者の可能性だってある。

そういう奴だとは思いたくない。

だがしかし、そういう人間だという自覚は多少持っている。

 

頭の中で下衆なことを考えているのがその最たる例だ。

 

「‥‥‥最上静香、ねぇ」

 

気になるという気持ちはある。

調べてみたいという気持ちも持っている。

しかし、このまま興味本意で調べたとして俺はソイツの邪魔をせずに素直に応援することが出来るのだろうか。

無論、分からぬ。

 

知るべきなのか。

知らないべきなのか。

 

少し頭の中で考えて───結果、自然に任せることにした。

 

仕方ない。

俺ってば、単なる一般人でいる為にここに来たんだ。

福岡の暮らしが荒れていたって訳では無い。

けれど、諸般の事情諸々で肩身の狭い生活を送ってきたってのは俺の過去の紛れもない事実。

 

好きなことして、その好きなことを勝手に放り出して、それなりに苦しい生活をしてきた。

この学校に転校したのは『傷心旅行』のつもりだ。

自分が本気で『やりたくない』と思ったものには極力手を付けたくないもんなんだがな。

 

 

 

「春日との会話と屋上は‥‥‥プラマイゼロってな」

 

「何か言ったか転校生」

 

「いいえ、何もないです」

 

「そうか‥‥‥で、この英文を和訳して欲しいんだが」

 

「アイ・ドント・ノー」

 

「立ってろ」

 

理不尽だ。

 

「後‥‥‥そこで居眠りこいてるお前!起きろッ!!」

 

「もう食べられなぃよぅ‥‥‥」

 

クレイジー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欠伸が出るほどの6限が遂に終わり、俺の中で1週間史上最高の1日、土曜日がやってくる。

土曜の一日は至高である。

何せ、時を忘れるほど眠りこけてもOK。夜に明日遅刻するのか心配する必要もない。

俺にとってはストレスが1番かからない日なのさ。

 

「‥‥‥よし」

 

あれから立ちっぱなしではなかったものの退屈な授業に居眠りする暇もなく問題を投げかけられ、その度に間違え説教を喰らい疲労はピーク状態となっている。

今日くらいは眠らなければ俺の体力が持たない。

こんな時に、お淑やかで可愛い女の子でも居れば気分が紛れるのだろうが‥‥‥

 

「翔大、校門まで一緒に帰ろー!」

 

‥‥‥認めよう。

春日は確かに可愛い。

けれど、俺はお転婆な女の子はタイプじゃない。

そして、今もそういう子を求めてはいない。

耳元でわいわい騒ぐのは勘弁して欲しいものだ。

 

「‥‥‥お前、友達いないのかよ」

 

「居るよ?」

 

「帰れよ」

 

「誰と?」

 

「友達とだよッ!!」

 

てか、お前部活入ってねえのかよ‥‥‥と考えたところで、俺はとあることに気が付く。

よくよく考えてみたら俺は春日未来という少女に対してお転婆で喧しくて、かつ最上と友人の間柄ってこと以外には何も知らない。

最上と友人だったことすら少し前までは知らなかったのだ。

あれから2週間、殆どのクラスメイトとは挨拶位する関係にはなったが、春日とはお話したり最上に一緒に会いに行ったりと何かと縁がある。

これを機に色々聞いてみても良いのかもしれないが‥‥‥それもまた面倒だ。

 

「うん、だから友達と帰るんだって」

 

「‥‥‥その友達が、俺と?」

 

「うん───えへへ、私部活色々やってたんだけどのっぴきらない事情で、止めちゃってさ。友達は全員部活やってるし‥‥‥ダメかな?」

 

「お前さぁ‥‥‥本当にお前ってさぁ‥‥‥」

 

そういう事情があるのなら先に言って欲しい。

その背景さえ分かっていれば、冷たく突っぱねることもなかった。

言い訳に聴こえるだろうし、事実言い訳をしているのだが本音でもあるためなんとも言えないのが苦しい。

 

「‥‥‥校門までなら構わないぞ」

 

「本当!?」

 

所謂、謝罪代わりだ。

俺がそう言って、立ち上がると春日が『わーい!』と万歳三唱で俺の肩を押す。

男子との距離が近いのは、彼女なりの良いところなのだろう。それが吉と出るか凶と出るかは俺には知らん。

だが、今のこの瞬間は───春日の笑みを見る限りじゃあ奴にとっては吉なのかね?

 

「仕方なしだ、俺もお前に聴きたいことは幾つかあるからな」

 

「私もー!何処に居たのかとか、好きな食べ物とかー‥‥‥女の子のタイプとか!」

 

「内容によるが、最後の質問には答えかねるな」

 

「えー」

 

好きな女の子のタイプは無論最上のような外見の女の子である。アイツを一目見たときの胸のときめきったら最高に弾んでたぜ。

だが、奴は俺が嫌いだ。そして、俺も奴が非常に嫌いだ。

タイプだろうが、第一印象、第二印象が悪けりゃ話にならん。好意すら向けられてない女の子に好意を持つような男じゃない。

 

「俺は福岡出身だ。一応博多に住んでたから好きな物はラーメン、そんだけ」

 

「福岡!?」

 

「はぇ、言ってなかったっけか」

 

「初耳だよ!」

 

驚いて1歩分俺から離れる春日。

そう言えば、自己紹介する時も名前しか言ってなかったけか。

もう少し凝った自己紹介をすれば良かったと、少し反省。

 

「うわぁー‥‥‥良いなぁ、博多!ラーメンとか美味しそうだし、それにほら!えーっと‥‥‥博多弁!」

 

「あぁ、博多弁か」

 

ここじゃ確かに珍しいわな。

中学校なんて全国から人が集まるほどグローバルな学校じゃあない。

私立以外は殆ど小学校からの繰り上がり。

俺みたいな奴は割かし希少な部類に入るのだろう。

 

「ただ、博多弁はもう言わないな。ここの生活に慣れたってのもあるし‥‥‥中学校からそういうの使ってないんだわ」

 

「なんで?」

 

「なんでって‥‥‥なんか、嫌だったんだよ」

 

特に深いエピソードはない。

ただ憧れの先輩が次第にそういうのを使わなくなって、それに倣っただけというか‥‥‥そう、俺という人間が博多弁に向かなかったと言うべきか。

 

「良いじゃん博多弁‥‥‥聞きたいなぁ」

 

「俺が博多弁をここで使っても需要がないだろ」

 

「私が聴きたいんだよ!えーと、ほら。じゅよー?ときょーきゅー‥‥‥ってやつ!」

 

「ナチュラルに博多弁を俺の所有物扱いするの止めてくんない?」

 

「今ならお菓子も───」

 

「だから要らないって‥‥‥要らないんだよそういうのはー‥‥‥」

 

今の俺は博多弁を売り物にする気もないし、喋る気概もないのだ。

これに懲りたら博多弁をせがむのは辞めて欲しい。

というか、せがまないで欲しい。

 

「むー、じゃあさ!静香ちゃんは?」

 

「最上?」

 

そこで何故最上の名前が出てくるのかは俺の知ったことではない。

訳を話せ、何故ここで最上の名前が出てきた。

 

「好きな女の子のタイプだよー」

 

春日の口からそんな言葉が出るなんて思わなんだ。

てっきりコイツは色恋沙汰になんて興味の欠片もない、好きな四字熟語を答えろと言われたら『焼肉定食』と答えるような奴だと思ってたんだがな。

此奴も年頃の女の子って訳か。

素晴らしいね、成長ってやつは。

 

「最上‥‥‥そうだな、ロマンではあるよな」

 

「ろまん?」

 

「ああ、奴の意志の篭った目付き。見た目クールな割にちょっと幼げな顔つきも残したあどけない表情。そして‥‥‥靡く黒髪!あれはロマンだ、誰だって憧れる可愛い子なんだろう」

 

サイドポニーのお前にはロングヘアーの魔力が分かるまい。

ロングヘアーの奴はお淑やかなお嬢様───そんなイメージを持っている俺にとって、靡く黒髪ロングは何にも変えられない魔性のそれだ。

その黒髪がポニーテールとしてまとめあげられた日には俺は卒倒するね。

 

俺ともなれば、前髪の1部のみがパツンとなってる最上の髪型さえも魅力的に思える。

あれで本当に性格さえ良ければなぁ‥‥‥なんて自らのことを棚に上げながら考えていると春日が笑顔で俺を見つめてくる。

 

「静香ちゃんのこと大好きなんだね!」

 

「違う」

 

それとこれとは話が別だ。

 

「翔大は大胆だなー、静香ちゃんの好きなところ沢山言えちゃうんだもん!」

 

「寝言は寝て言え。言っとくが最上には口外すんなよ。俺が被害を被ることになるんだからな」

 

「照れちゃって〜」

 

「あの、そういうの本当にやめてくれませんか?」

 

てしてしと俺の腕を叩きながら俺を冷やかす春日。

俺にとっては憎たらしいことこの上なく、非常に腹が立つ。

やはりこいつと帰った俺の選択肢は間違いだったのか。

いや、そもそもコイツの性格なんぞ分かりきっていたことではないか。

今更そんなことを言って後悔すんのは流石に卑怯であろう。

コレは俺の選択だ。後悔もクソもない。

 

「前髪パツンも、お嬢様みたいなロングヘアーも、俺にとっちゃロマンであって、可愛いって感じるだけだ。別に他意はねえよ」

 

春日のマシンガントークを避けるために必要なのは、話題を打ち切りにすることである。打ち切ってしまえば続きも何もない。

それが会話なら尚更である。

 

「えー‥‥‥もうちょっと聴きたかったのになー」

 

「常々思うけど、俺を玩具にすんの本当に止めてよね。そういう趣味とか微塵もないから」

 

「おもちゃ?」

 

そんな雑談も程々に俺は自分のクラスの下駄箱へ向かった───

 

 

 

 

 

 

 

「───あ?」

 

「ッ!?」

 

驚いた。

下駄箱があることにより作為的に作られた曲がり角を曲がり、靴を取ろうとすると、最上がロッカーに寄りかかっていたのだから。

顔やスタイルが良いからか、どんな体勢でも様になっている。まさかモデルでも生業としてんのかね───流石にそれはないか。

 

「‥‥‥最上」

 

最上の顔は紅潮している。

窓から射し込む夕焼けに染まっているからか、最上の頬は少しだけ染まっていて色っぽい。

何かを堪えるように震え、口を噤んでいるその様子はまるで───

 

 

 

 

 

 

「上」

 

「え」

 

「お前の頭の上の下駄箱、俺のだから退いてくれない?」

 

危ない。

思わずキュンと来る所だった。

ここでときめいて不用意な言葉を浴びせてしまえば、また最上に噛み付かれ、ド正論をかまされてしまうことだろう。

俺としてはそれは最も避けたいものである。

 

「それともお前は頭に土をかけられたいの?そういう趣味なの?やだもう最上さんばっちいなぁ」

 

「───誰のせいでこんなっ‥‥‥」

 

おろ?

俺は何か最上に不都合なことでもしてしまったのだうか。

してしまったのだとしたら心得てはいないので何をしたのか教えて欲しいのだが。

 

「‥‥‥ったく」

 

仕方ないのでローファーを右手で掴み、最上の頭の上に手を添え土が付かないようにする。

幸いにも土は落ちず。そもそもの心配をする必要がなかった。

いっその事落ちちまえ───なんて考えもしたが流石にそれは陰湿にも程があるぜ。

俺は、気に入らない奴は真正面から敵対するタイプだ。

間違っても机に花なんて置かないし、バケツで水をかけたりもしない。

正々堂々言論の自由をふんだんに使った言い回しで敵対者を言い負かしてやるのだ。

なお、勝ったことはない。

 

「あれ?なんで静香ちゃん顔が赤いの?」

 

やがて春日が俺の横から顔を覗かせると、ハッとなった最上がその瞳で春日を捉え、慌てて俺の目の前から離れる。

 

「そ、そんなことはどうでも良いから!早く行くわよ未来!!」

 

何をそんなに慌ててるんだか。

そんなに俺の顔を見るのは嫌なのか。

 

「え、でも静香ちゃん!折角翔大と来たんだし途中まででも───」

 

「それは絶対に嫌っ!」

 

当たり前だ。

俺だってそう思う。

 

最上に明確な拒絶を示されたので、これ以上俺が出来ることはあるまい。

帰ろう。

 

「あばよ、春日。どうやら奴さんは俺の顔すらまともに見たくないらしいからな」

 

「え、待ってよ翔大!別に静香ちゃんは───」

 

「一応───校舎までだよな。約束は守ったから」

 

これ以上俺が春日に拘束される謂れはない。

悪いが帰らせてもらおう。

ぶっちゃけこれ以上最上と喧嘩する位なら1人寂しく帰った方がマシだしな。

 

上履きを下駄箱に入れて、靴を履く。

世界が変わったような感覚にはなりゃしないが、これでも12分に帰宅意欲が増す。

元々学校が億劫で早く帰りたいとか思っている人種だ。

そんな人間が更に帰宅意欲を増してしまえば、どうなるかは一目瞭然である。

 

無論、テンションが爆上げになることだろう。

 

「うっしゃ、早く帰ってゲームするぜ!!」

 

最後に一言、そう言って外へ出ると不意に肩に衝撃が走る。

パンチでもされたかのような痛み───その痛みが肩を起点に走り、思わず膝を着く。

 

「ぐっお‥‥‥!?」

 

痛い───

いや、マジで痛いんですけど。

しかし、その心の中の訴えは誰に届くわけでもなく、気がつけば俺の目の前に居た春日と最上が俺を見下ろしていた。

春日はおろおろしながら、最上は目の前の敵を見るような鋭い眼差しで。

 

「───仕返しよ、馬鹿っ‥‥‥」

 

一言、最上に呟かれ2人は先に帰っていった。

 

解せぬ。

 

 

 

 

 

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