その歌声に想いを乗せて   作:送検

8 / 24
第7話

おーけー。

 

俺の中で何が滾ってライブ会場に来ちまったのかとか、そんな哲学的なことは分からんが、何故俺がこの女と出会っちまったかってのは何とか分かる。

 

原因は簡単、あのダフ野郎のせいだ。人のせいにするなとは我ながら思うしあの時、あの瞬間にあの野郎の勢いに押されてしまった俺も俺だが、こうでもしないと俺は心を整えることが出来なかったのさ。

 

 

 

 

 

 

 

「初瀬君!?」

 

この状況を釈明するに当たって必要なのは、経緯と動機である。それさえ説明出来てしまえば、この目を見開き唖然としている女の子の考えそうな『初瀬くんってアイドルに興味あったんだー(笑)』的な誤解を解くことも容易いことであろう。

 

だが、現実はそう甘くはない。

 

普段屋上で啀み合うことにより、信用度が何処ぞの羊飼いの少年レベルに堕ちてる俺が何かを発しようとしたところで、直ぐには信用してもらえず結局なあなあになり、彼女の頭の中に初瀬=アイドルオタクという構図が残り続けることだろう。

 

そうなると俺に待っているのはアイドルオタクを馬鹿にするであろう陰口。

そしてその苦行は即ちクラス内での死を意味している。

 

これが天命ってか。

巫山戯んなよ、人事は尽くしてないだろ。

自重しろよ天命。

 

「どうしてここにいるの‥‥‥」

 

「ダフ屋」

 

「‥‥‥禁止されてるはずだけど」

 

通りすがりのジジイに渡されたんだよ。

俺を咎めるならあのジジイも咎めやがってくれないだろうか。

結局、奴は名乗りもせずに俺の目の前から姿を消したんだからな。

 

「‥‥‥まさか、高木社長?」

 

「知らん」

 

「‥‥‥その、スーツを着ている初老の男の人だったり」

 

「‥‥‥あー」

 

そうそう。

高木何某だかなんだかは知らんがそんな感じのジジイにチケットを渡されたんだ。

何度断っても押し付けられるもんで本当に困ったね。まあ、チケット取るか迷ってたところだったから役得なんだがな。

 

「おーけぃ。確かにそんな奴からチケットは貰ったね。ついでに言うなら眼鏡を掛けてたんじゃないか?」

 

「‥‥‥それ、絶対高木社長じゃない。何かしたの?」

 

「お前は俺を何かしないと済まない問題児だとでも思ってんのか‥‥‥?」

 

「だって初瀬君が社長からチケットを貰うなんて、誰も予想出来ないわよ。興味がないだろうから『欲しい』だなんて言うこともないだろうし‥‥‥」

 

成程、一理ある。

だがな、人間誰しも人の思ったように動くだなんて思わない方がいいな。

人が人という人間を完全に理解するのには限界がある。結局のところ、予想なんて何にも当てにならないのさ。

 

「所で、お前さんは何時までしかめっ面でいるんだろうな。そんなんじゃ折角の可愛い顔が台無しだ、いつものように凛々しくいろよ」

 

「かっ‥‥‥巫山戯てるの?」

 

さあ、どうなんだろうな。

 

ただお前がそうやって赤面している限り俺はお前を言葉という切れ味抜群の変化球で攻め続けるぞ。

一転攻勢なんてさせやしない勢いで女の子を言葉で弄るのは義務教育のガキの利点なんじゃねえのかと俺は思うね。こういうの、大人になったら変な目で見られるだろうし。

 

ベンチに座り、海を見る。この景色ってのも爽快なもんで、広がる青に心が浄化されていく感覚がする。あくまで感覚だ、アテにはならん。

 

「にしても、最上がアイドルやる所を見るなんてな。偶然の産物ってこのことを言うのかね」

 

「私だって意外よ。まさか初瀬君がチケットを渡されたとしても会場に来るなんて」

 

「もったいないお化けが怖いもんでな、生憎物は大切にする主義なんだ。例えそれが消耗品でもな、はっはー」

 

「もったいないお化けって‥‥‥幼稚園児じゃないんだから」

 

最上が俺の隣の少し離れた位置に座る。ええい、長い髪が風に揺れて視界に入る。鬱陶しいったらありゃしない。

 

「けど、初瀬くんがここに来た理由‥‥‥何となく分かるかも」

 

「分かるも何も、理由はさっき言ったはずなんだけどな」

 

「それはそうだけど‥‥‥ほら、初瀬くん私と初めて会った時なんて皮肉を言ったか覚えてる?」

 

「あ゛ー‥‥‥なんでしたかねぇ?この天下一品の大うつけめに教えて頂ければ嬉しいですー」

 

本当に覚えがない訳では無い。

確か───そうだ。

 

「『青空演奏会擬きの何かに誰かを入場させた覚えもないし、聴かせたつもりもない』‥‥‥そう言って、初瀬君は私を突っぱねたの」

 

「は‥‥‥良くそんなこと覚えてるな」

 

記憶力が良い部類に入るのか。

もしくは、記憶に残るほど俺が嫌で嫌で仕方なかったのか。

どちらにせよ、最上は俺の皮肉を覚えていてくれたらしい。

 

「歌を歌ってしまうほど、歌が好きで仕方ない初瀬君なら───こういう所にも来るんじゃないかなって、それだけよ」

 

「んだよ、そんなことか」

 

「‥‥‥その人を馬鹿にしたような口ぶり、昔から?」

 

「昔からじゃあないな」

 

かつての俺はもう少し明るかったさ。

それこそ希望に満ち溢れた純情少年やってたし、3分の1どころか全てを純情に注いでたと言っても過言ではないだろう。

しかし、人は事実や現実を知って汚れていく。その典型例こそが俺、初瀬翔大である。

 

「人だって成長する生き物だ。環境と意志が俺をこうさせたんだ。お前に分からないわけじゃないだろ」

 

「分からないでもないけど。でも、そうやって人を遠ざける性格は直した方が良いと思う」

 

「‥‥‥そういう説教じみたのが嫌いなんだよ」

 

「説教じゃないわよ、これは忠告。この2週間で初瀬君が心の中で人を遠ざけて、近づいてくる人のことを心の内外で馬鹿にする皮肉屋ってことがハッキリ分かったから」

 

バッチリ、元の性格がバレてやがる。

確かに最初の俺は兎に角人と関わらないように『受け身』の姿勢を貫いてきた。

貫いてきた割にはたった1本の電話でその意志を歪ませた訳なのだが、それでも電話が来るまでの数日間、兎に角俺は人に積極的に関わることはしなかった。

しかし、電話が来て少ししか経ってはいないが俺は人と関わろうと、己の欲の為ではあるのだがそれなりに動いている。

それでも最上にそう言われるってことは───それ程元の俺の馬鹿っぷりが印象に残っていたからか、まだまだ心のどこかで元の性格が芽を開いているのかのどちらかだろうな。

 

空を見上げて、ため息を吐く。

すると、それに合わせるかのように最上が言葉を続ける。

 

「───でも、この前のことは」

 

「あ?」

 

この前のこととは?

そう続けようと口を開くも、声が出かかった『こ』の言葉は最上の言葉に呑まれることになる。

 

「ごめんなさいって言おうと思って」

 

「え」

 

その代わりに口に出たのはあまりにも素っ頓狂な声である。

まさか謝られるとは思っていなかったからか。

己の意志とは裏腹に、口が勝手に素っ頓狂な声を発してしまっていたのだ。

 

「私、初瀬君に褒められた時感謝の1つも言えなかった。折角良い踊りだって言ってくれたのに、ごめんなさい」

 

「や、それは別に気にする必要ねえだろうよ‥‥‥」

 

過ぎた話だ。

最上が何を目指そうがそれは最上の勝手だし、咎めることも無い。

馬鹿にするなんて以ての外である。

それこそ、俺は思ったことを単刀直入に言ったのみ。

最上がその事で負い目を感じる必要なんて微塵もないのだ。

 

「けど」

 

「けどもクソもないんだよ、良いか最上。後にも先にも屋上で努力して、アイドルやっているお前さんの『夢』に対して俺は批判をした覚えはない。俺が抱いてんのは一方的で独善的な尊敬だ。だからお前さんがありがたがる必要は微塵もないし、負い目を感じる必要もない。おーけぃ?」

 

抱いた夢が素晴らしいとか、時間の無駄とか、そんなのはさして俺の問題ではない。

そもそもの話、人の夢に対して賛否を突きつけんのは他人のエゴだ。

そんなエゴに感謝をする必要はないし、されたとしても辛いだけ。

善の押し売りで感謝されるほど、俺にとって息苦しいことはないからな。

 

俺がため息まじりに最上に対して皮肉を混じらせた言葉を送ると、次に最上から送られたのは苦笑いの表情。

まさか尊敬されるとは思っていなかったのだろうか。

だとしたら失敬である、俺は素晴らしいものにはしっかりと尊敬の意を送る人間なのだからな。

 

「‥‥‥捻くれ者ね、初瀬くん。歌を歌ってた時とは大違い」

 

「俺が二面性を持つ男とでも言いたいってか?」

 

「ええ、歌を歌ってる時は純粋。普段の初瀬君は‥‥‥一悶着起こしかねない危うさがある」

 

なんで出会って数週間で俺のこと勝手にリサーチしてくれてらっしゃるんですかね。

ひょっとしてお前俺のこと好きかよ。

冗談にしては笑えんぞ。あ、今このタイミングでキモキモジョーク脳内生産してる俺も俺だな。

うわキモッ。この手のジョークもう言うの止めよ。

 

「俺が純粋‥‥‥とな」

 

「ええ、純粋。あれが初瀬君の素なんじゃないかな───って時々思う」

 

そう言ってクスリと笑う最上の意図は果たして何を意味しているのだろうか。

歌か、態度か、もしくは両方か。

誠、遺憾な話だ。

 

「‥‥‥笑わないでくれませんかね。あれで歌は俺のアイデンティティなんだよ。歌が大好きで大好きで仕方ない俺の唯一の取り柄なんですよ」

 

「‥‥‥まあ、確かに今は笑っちゃったけど。別に初瀬くんの歌が下手だから笑ってるわけじゃないの」

 

「じゃあなんだってんだ」

 

「初瀬くんの歌声、とても綺麗だったから」

 

「‥‥‥前も言ってたよな、それ」

 

「ええ、何処までも声が透き通ってて、それでもその歌のイメージのような、想いのような何かを歌声に乗せてた。だから‥‥‥なんていうのかな」

 

言い淀む最上。

そして、唖然としている俺。

 

そんな無言の空間が続いたからか、最上は何やら頷くと俺を見て一言。

 

「心に響いたの」

 

そんなことを言ってのけたのだ。

 

その言葉の後、またしても周りは無言の重たい空気と化す。

そんな状態のまま3秒ほど経つのを体感していると、不意に俺と最上の空間に影が差し込む。はて、なんだろうな。

 

「あー!静香ちゃんが男の子とイチャイチャしてるー!!」

 

なんだ、ただのムードブレイカーか‥‥‥って、そうじゃなくてだな。

 

「は!?ち、違うわよ翼!!別に私と初瀬くんは!!」

 

「あはは!静香ちゃんおもしろーい!そんなに顔赤くしても説得力ないし‥‥‥本当に付き合ってるとか?」

 

誤解を弁解しようとして新たな誤解を生み出す最上が地雷過ぎて泣けてくる。

てか、翼とか言ったか。取り敢えず落ち着け、俺と最上は付き合ってなんていない、所謂マブダチ‥‥‥否、例えるなら王女と奴隷の関係でだな。

 

「そんなこと言われても分かんなーい!」

 

「難聴系ヒロイン!?」

 

どいつもこいつも地雷だ。俺も誤解を生み出す地雷だ。どいつもこいつも、ここに居る奴は俺を含めて全員地雷だ。

誰かこの状況を収めてくれるなら俺は喜んでアンタの奴隷になってみせるぞ。

 

「いい加減にして!兎に角行くわよ翼!!」

 

立ち上がり、翼とやらを引き連れて歩き出した最上の後ろ姿は有り体に言って『プンプン』。低俗に言って『マジおこ!』って感じだった(小並感)。

だってほら、見てみろよ。コイツ1歩歩くために歩幅何時もの2倍位の距離で歩いてるんですぜ?

何時もの冷静そうな足取りも、今や『ドスドス』と効果音が付いてもおかしくないくらい荒れてるもん。

これを『マジおこ!』と形容して何が悪い!いや、悪くない!!

 

 

 

「‥‥‥はっ」

 

 

 

まあ、あれだ。

これからアイドルとしてキャピキャピするために今のような怒りは不必要。

今一度最上にはファンサービスの精神、アイドルとしての弛まぬ自覚を思い出してもらおうではないか。

これからアイドル最上を見るのに、十二分なパフォーマンスを魅せてもらわなきゃ折角の時間を使って見に行った意味が全くないからな。

 

「おーい最上ー!!」

 

最上を呼びつける。

律儀に最上が振り返る。

そして、俺は息を吸って───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のサイリウム買っておくからなー!」

 

「馬鹿ッ!!」

 

火に油を注ぐ真似をしてしまった。

 




2020/01/04 01:56 主人公の高木社長に関しての認識を修正。
高木社長→見知らぬジジイ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。