龍の国 日本   作:揚物

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27.1638年末

 パーパルディア国内はルディアスと他の皇族の間で考え方に差異が現れている。

 パーパルディア皇国の発展を大事にするルディアス、国も大事ではあるがパーパルディア皇国の他国での評判は良くなく、他国の要人と関わる事で体面を気にしはじめていた。

 美容サロンでのたわいない談話でも、ミリシアルやムーの高級官僚の婦人ともなれば、その知識の蓄積はレミールを上回り、国の在り方や財政など、パーパルディア皇国の政治体制に疑問を感じながら限界であると知るのは容易であった。

 体面は大事なものではある、そしてその体面もメンツではなく、貴族としての務めであると考える事が出来れば、曲りなりとも理性的近代国家であると言える。

 前世界では日本が小さな謀略を積み重ねルディアスとレミールを引き離したが、今回は皇族や貴族の女性陣が自ら周りの目、それを気にして夫に話したりそのことでどうにかしようとする夫婦、他国どころか魔道都市も訪れず侮る者と、亀裂が発生していた。

 ほんの少しの予定が明確な亀裂、これは思っていたよりパーパルディア皇国の女性陣は明晰、というより他国からの体面も気にし、さらに夫に対して強く出れるという立場が理由であった。

 そして皇族からの命令により、一部ではあるが隣接する10州が皇族直属の開発管理属領として体制を得た。A・リンドヴルム、そしてワイバーンロードと歩兵一旅団、たったそれだけでも皇族や貴族から集め兵団を構成する小さな軍隊。 

 開発管理領地では軍官民全てが開発という名目で新たな試み、つまりムーなど先進国の法律ややり方を取り入れ、発展させる試みとなる。

 皇族たちは、魔道都市を首都としたパールネウス国の建国、元はパーパルディア皇国の皇族の過半数が独立させるためにひそかに行動を始めていた。

 日本としては少々予定とは異なるものの、パーパルディアを新たなモデル国家として、連邦制として成り立たせるための基本的工作を始めていく。

 大陸の国民性から独立させても戦乱しか生まない為、平和のための統一とは異なり、平和のための連邦統合化への試験的試みとなる。これもまた、次の世界で必要としたときの経験を積むため。

 

 皇族の中で話し合いが行われ、筆頭としたのはいまだ迷いのある中レミールが選ばれ、軍を整え農地をまとめ直すなどをはじめるなど、静かにそして着実に動き始める。

 やはりルディアスは皇帝として皇都から離れる事がなく、日本が接触する為にいくつか手を尽くしたが列強の皇帝である以上側近への面会さえできなかった。

 

 

 

 日本

 海魔とは人に近い知性を持つ人型ではない生き物であり、かつ人間に対して敵対的であると定義された。

 では人に近い知性を持ちつつ敵対的ではないのなら、すなわちそれは海魔ではないということになり、慌てて日本は輸入や漁獲していた生物を急ぎ調べたが、一般的な蟹にはそのような事はなくほっと一息つくことになった。

 レイダークラヴ族の代表者、といっても規模は100杯くらいであり、いくつもある集団のうちの一つでしかない。

 話し合いの結果日本に協力してもらえることになり、彼らは食料と水竜族との仲介を引き換えに戦力の提供を申し出てくれた。

 彼らはリンドヴルムより甲殻が硬く、そして力も非常に優れ片言ながら人語を話せる。本当に優れた レイダークラヴ族 だった。

 合わせて30杯、彼らは協力するとして現在メガフロートに集まっている。

 

「ケイビ? というものをすればよいのか?」

「ジュンカイして アヤシイものを捕えればよいのダナ」

 

 少々アクセントに不都合があるモノの、意思疎通に全く問題はない。

 陸上生活も定期的に体を沈める海水があればよいとのこと、そして彼らは捕食者から身を守る生活をしていたことから、非常にルールというものに厳しく、二か月の間問題がなかったことからチープ兵装の一部を任せる事となった。

 

 

 水竜族と関りがありながらも、人型外とは対話が難しいという固定概念に囚われていた。

 さらに他の世界に行った場合、もっと人型と離れたタイプの可能性もある為、多様な生物に大して差のない対話が要求されることに外務省や研究者は頭を抱える事になる。

 もちろんその中には、初の非人型タイプの協力者であるレイダークラヴ族に道具の使い方や対話など、自衛官も苦戦する事になったのだが。

 

 

 

 

 

 

 ムー国

 帰郷が始まった。これからムー国中に広がり、あらゆる技術を発展させ準備しなければならない。

 適度な情報流出と言うミスも犯した事から、防諜に関する緊張感と質の向上につながり、ほとんどの人員や技術者達がムー国へと戻っていった。

 あらゆる新技術を整備運用する為の力を含め、ムーはこれから大きな変化が起きる。

 

 海区 技術者の帰還が行われ、重巡洋艦と空母の建造

 ムーに置いてようやく戦艦が完成した。最初にして最後の超弩級戦艦、これから習熟訓練が行われるため古鷹型 利根型と続き、ようやく熟練した兵士を回すことで習熟航行訓練が行える。

 隼鷹型空母にも搭載可能なレシプロ単翼機のD21だけとはいえ、運用する為に首都防衛隊などから人員をかき集めている。

 領海防衛にはもう少し時間がかかる事だろう。

 

 

 空区 隼とD21の正式な生産

 ジェットエンジンである橘花についてはまだ軍事都市でのみだが、レシプロ機については各生産地に置いてマリンとの世代交代を始めてもらう。

 ようやく防空は十分だろう。

 

 

 陸区 M4戦車及びM4系駆逐戦車とM40自走榴弾砲の正式な生産開始。

 ムーでの生産が始まり、順調に対グラ・バルカス帝国の準備は出来つつある。問題はガンキャリアや重戦車などは生産を行わない方針となった。

 多様な種類を生産するだけの力はあっても、そこまで訓練を出来るほど余裕はない状況であり、時間的余裕を考えれば不可能であった。

 日本の手によって改良されたM4シャーマン、教導団として運用されムー陸軍の底上げに奮闘している。

 

 

 

 

 封鎖軍事都市

 半数以上の人々が国に帰還したが、今度の新技術開発の為に残った者達は日々研究に没頭している。

 もはや各区に置いて日本は指導をすることはほとんどなく、自力での発展を目指す段階に入っていた。

 

 海軍区

 現在対潜装備の開発が進められている。

 研究開発中のソナー及び爆雷なのだが、魚雷についてはとっかかりを掴むことが出来ずにいた。

 

 空軍区

 SAAB29 トゥナンの試作機の飛行試験は始まっている。まだ問題点はあるのだが、少なくとも短時間なら稼働させる事は出来るし飛行する事も出来たのだが。

 パイロットの技量が優れていたため、なんとか脱出する事が出来たが試作一号機は墜落した。単発機故にエンジン不調に対応しきれず、全損という調査も出来ない状況にムーの技術者達は頭を抱えていた。

 

 

 

陸軍区

 ムー独自であり、ガンキャリアを参考にしたことから、イギリス陸軍のブラックプリンス歩兵戦車と中々似ていたが、相違点は強化された装甲とエンジンであり、さらに長砲身の76.2mm戦車砲を搭載していた。

 ムー国製 重戦車 BP

・長砲身76.2mm戦車砲

・約7mの全長と分厚い装甲

・出力改良されたエンジン

 などムーとしてTOGの実戦データを参考に手を加え、装甲と火力そして機動力のバランスを取ろうという試みがなされている。まだまだ技術的には未熟ながら、主力戦車という到達点に近付こうとしていた。

 

 

 一方で中戦車案は苦労していた。元々M4中戦車は完成度が非常に高く、大本のアメリカもM26パーシングを開発するにはそれなりに苦労している。

 なのでそう簡単に開発は進むはずもなく、そもそも重戦車案も76.2mmの長砲身を使うなど対戦車砲の問題まで発生していた。

 あくまで日本が手を貸したのは自衛が出来る範囲までであり、それ以上については独力で自己開発していかなければならない。

 しかし、大量生産と言う枠から外れたことから、残された技術者達は様々な物を考案設計し、模型化までしたりと爆発的にさまざまな中戦車が考案され始めている。

 時期にムーらしい戦車を生み出す事だろう。

 

 

 

実験区

 のちに航空機に人生を捧げ鬼才で呼ばれる一人のパイロットと、狂人と呼ばれる技術者が居た。

 ムー国パイロットや技術者達が勝てるはずだと油断している中、太陽神の使いとの航空訓練と聞いてから二人は 橘花改 を弄り始めた。

 2丁の機銃を1丁外し、搭載弾薬も半分に減らし、全ての防弾板を引っぺがし、搭載燃料も半分に減らす、さらには不安定化及びエンジン寿命の減少も覚悟したうえで圧縮率まで変更していた。

 そこまでしても勝てるか分からないと、航空機動についても話し合い、当日に向けて出来る事をなしていく。

 

 

 当日朝、大型飛行船ML86XからF-2訓練機が下ろされていくその様子をムー国の兵士達が見守る。

 ムー国空軍司令官はパイロット達とは異なり、冷静に勝てるとは判断していない。それでもある程度は抵抗できないのではないかと考えてはいた。

 昼が過ぎた頃、訓練を行うため上空に上がった橘花改が巡航速度に達したところで、訓練開始の合図である対空砲が撃ちあげられた。

 

「編隊を維持!」

「よし! ムーの精鋭の力を見せつけろ!!」

 

 通信では基本的な命令こそリーダー機から行われるものの、具体的な対処や警戒方法など伝達されることがなく、地上とも連携が全く取れていなかった。

 

 

 這うようにF-2は海上から訓練域に突入、編隊を保っていた橘花改は即座に混乱しばらばらに分かれてしまう。

 ムーは橘花改を運用できると言っても、航空機動や戦術はいまだレシプロ機と大差ない状況であり、その辺りの研究がまだであった。

 地上の戦術官と航空機パイロットの連携、それが出来てやっと個ではなく群である戦闘機となる。たとえ地上から目視管制官によるサポートだったとしても、あるとないとでは大きな差となる。

 ムーはまだまだそう言った面が甘く、次々と撃墜判定を受け滑走路へと向かっていくが、ただ一機だけ異なる橘花改が居た。

 

「1時方向に注意!」

 

 未熟ながらも地上からの管制を受け、後方もしくは下方を取ろうとするF-2から逃れると、スライスバック、水平からマイナス45度バンクし、斜め下方宙返りをすることで振り切ろうとする。

 他の橘花改が3分も持たずに撃墜判定を受けている中、唯一残っているのは奇跡ともとれた。日本側の教官も油断していたわけではなく、橘花改のスペックを調べ上げ、空撮されていた映像から練度をしっかりと把握していた。

 元々複雑な航空機動ではなく速度を生かすべき機体特性、連続した過酷な航空機動かかるGによる体力の消耗、電気的サポートの無い操縦桿とフットペダルに掛かる精神と肉体の負担、それでもなお操縦し続ける根性に教官も感心していた。

 しかし性能の差は残酷、5分ほどで精魂尽き果て、撃墜判定を受ける事になった。

 最後にムー国パイロット達による挨拶が行われ、全員が日本の教官たちの前に並ぶ。教官達は手に持っていたアグレッサーの証として用意していた髑髏の額に星のマークが入ったワッペンを数名に渡した。

 

「負けると言う事は、つまり死ぬことだ。 君達は戦死した」

 

 渡されなかった者達は安堵しているようだが、ムー国パイロット達からアグレッサーになりえる第一段階の選別の行為、渡されなかったものはそれから外れたと言う事になる。

 翌日からは管制官や戦術士官の中からも選別が行われ、最終日、戦術官とパイロットに整備員の合計40名がムー国初のアグレッサーとして新たに編成された。

 

「これからも厳しい訓練を積むことになるだろう。 だがめげるなよ」

 

 特徴となる髑髏マークとスズメバチのマークが隊の部隊章となり、ムー国の飛行隊全ての指標となるべく今後も厳しい自主訓練を続けていくこととなる。

 

 

 

 その後、たった一人、アグレッサーへの入団も断り橘花改にこだわり続ける鬼才パイロットと、変人技術者は以後とんでもない事をしでかすのだが、誰もそれまで気が付くことはなかった。

 

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