カルトアルパス港
「きたぞぉぉぉ!」
魔信から上がる連絡、ミリシアルやムーが制止しても出航し迎え撃つと盛り上がる文明圏国家群、それを諫める為に主力艦隊を見てから決めろとミリシアルとムーは制した。
列強統合空母打撃群 総艦隊数10隻にして、第一第二列強最高の兵器を揃える艦隊。
神聖ミシリアル帝国の艦隊にも、ムーの3隻にも劣らぬ威容に文明圏国家群は艦隊の派遣を取りやめる判断に至った。
カルトアルパス沖
レーダーに映るグラ・バルカス帝国の艦隊
超弩級戦艦1隻
高速戦艦2隻
重巡洋艦3隻
巡洋艦2隻
駆逐艦5隻
後方十数キロから飛来し先制攻撃を狙う空母機動部隊所属艦載機 250機
迎え撃つのはアルファ4制空機にベータ4爆撃機 各50機
そして打撃群のハリアーⅡ ACV 20機
しかしハリアーⅡ ACVにある7個のハードポイントには、日本でローカテゴリーとしてほそぼそと改良しつつ現役生産されているSAM-2Lが搭載されている。
SAM-2L:
91式地対空誘導弾の改良モデル、近距離多目的汎用空誘導弾タイプ91。特別な改良は何もなく、航空機にも搭載できるようにと僅かに射程延伸の改良がされたに留まる。
1ポイント3発 1機あたり最大18発 日本からの有償軍事援助物資ではある。20機分の360発は十分にあり、即座に展開可能なように搭載が急がれていた。
グラ・バルカス帝国 第一編 航空隊
相手はほぼ同等かそれよりわずかに劣る航空機を配備している可能性が高い。それがグラ・バルカス帝国の航空機パイロット達に伝えられていた。だからこそ今までとは異なり、緊張をもって任務にあたっていた。
「第1から第8部隊はこのまま敵航空機の露払い。 第9以降は爆撃隊の援護。 敵機は我々とほぼ同等の性能と言うのを忘れるな!」
「「「了解!」」」
航空隊長の命令に各員は迎え撃つべく、操縦桿を握る手に力を込めた。視界に敵の航空機らしい黒い点が見えたと思った直後、急速に接近し20機のアンタレスが爆発。
「なっ、何事だ!?」
ハリアーⅡACVに搭載されている射程6kmの対空誘導弾、不具合もなくすべてがアンタレスを叩き落した。
そしてミリシアルのアルファ4制空機隊が、アンタレス部隊が状況を理解する前に襲い掛かる。まだ本来の性能を完全に発揮しているとは言い難いが、それでもアルファ3の様に風神の涙を飛行補助に必要がなく、720kmまで最高速度を向上させることに成功した機体。
問題はいまだ航空機に搭載できるサイズの誘導弾を製造できない為、近接航空戦が必要な欠点はまだ拭えていないのだが。
「ミリシアルの航空機が来やがった、全機散開して迎え撃て!! 爆撃機に近寄らせるな!」
高度上空から急降下してくる存在に気付いたのは小隊長機、プロペラが無い未知の航空機、それでも情報だけは得られていた。彼らが不幸だったのは与えられた情報は一世代前のアルファ3であり、新鋭のアルファ4ではなかったことだ。
左右に急旋回する者、機首を引き上げ迎え撃とうとする者、それぞれが対応しようとしたが、ミシリアルの航空機の翼と機首に備えられた魔導機銃によって放たれた高速の光弾、10機のアンタレスに当たると貫通せず爆発、容易く装甲を破壊し翼がへし折られてしまう。
最初の誘導弾の交差で20、さらにミリシアルの航空部隊による高高度上空からの強襲で30、合計50機が3分と経たずに消えた。
しかしまだ200機は残り、爆撃機の護衛である140機のアンタレス、そして60機の爆撃機が健在であった。
「くそ! 情報と違うぞ!!」
言葉をつづける暇もなく、護衛のアンタレス部隊は迫りくるミリシアルの航空機から逃れる為操縦桿を倒し、Gに耐えながら急降下ではなく急旋回を行い引き離そうと試みる。
甲高い音を立ててミリシアルの航空機が急降下を選んだアンタレスを追撃、光の攻撃が機体に喰らい付き小さな爆発が連続するとアンタレスがバラバラになる。
火力そのものが違うことに恐怖する暇もなく、ミリシアルのアルファ4の攻撃から逃れた20機は黒い点が視界に入った瞬間意識が途絶えた。
射程に収められてしまえば、回避するすべもなく撃ち落とされる攻撃、ようやく視界に入った敵航空機の姿はミリシアルの様にプロペラを持たぬ航空機であった。
「攻撃が来るぞ!」
各機は編隊ごとに高度を上げたり大きく旋回したり、真正面から挑むそれぞれ戦法を選んだ。しかしハリアーⅡACV側として誘導弾があるのに態々危険を伴うドッグファイトなどするつもりはなかった。
新たに目標を設定された40発の誘導弾を次々と発射、そして踵を返すように急旋回しアンタレスの射程から逃れていく。
「なっ、逃げた……のか?」
攻撃起点を視界で捕えたことで、速度が遅いロケット系の攻撃と判断、大きく飛行航路を変える事で確実に命中から逃れようとしたが、誘導弾はアンタレスを追尾するように方向を変え40のアンタレスが爆炎に包まれ海面に落ちていった。
旗艦 空母 ヨージョン CIC
「アルファ4、第一から第四までは爆撃機迎撃へ。 残りは敵制空機をかく乱せよ」
空母のCICからレーダー情報を元に各編隊に情報が伝えられ、戦術官によって大勢をみつつ判断される。その間にもミリシアルの艦隊及びムーの4隻は対空戦と砲撃戦の準備を進めていた。
各部から上がる報告をCICで纏められ、総司令官は状況を把握していたが想定を崩され少々焦っていた。
そしてハリアーⅡACVから情報から敵艦の位置情報を汎用C誘導弾Mk3に設定され、手作業で甲板に並べられ統制機1に従属機4が1編隊ごと甲板を離れていく。
戦艦ラ・マトヤ
旗艦であるヨージョンから伝えられる敵航空機の防空網の突破、船内は慌ただしく最終チェックが行われる。
「砲弾装填よし!」
「機関部問題ありません! いつでも全力稼働いけます!!」
「対空砲座、対応準備完了」
対空対潜戦艦ラ・カサミ改壱
報告を聞きラ・カサミの艦長であるミニラルは、あくまで対潜対空戦艦であるがゆえに、主砲の口径は203mmと小さく重巡洋艦という規模に留まる。それに歯がゆさを感じながらも、これからは空母と対空対潜巡洋艦の時代、戦艦技術の一時休眠となる最後の艦がラ・マトヤ級超弩級戦艦、それは勇ましくも儚い最後の光であった。
CICがないため艦橋から艦内全てに届く放送用のマイクを手に取り、ミニラルは声を上げる。
「対空戦闘用意。 敵の航空機は艦に重大な損傷を与える可能性が高い。 訓練を思い出し各員奮戦を期待する」
すぐそばを航行する新鋭のラ・ネート級対空対潜巡洋艦、巡洋艦と言う枠組みではあるがその規模はラ・カサミ級戦艦とほぼ同じ、限定した範囲内であればラ・カサミ以上に性能を発揮する。
ラ・トーネやラ・マトヤに使われた技術を試験を名目にラ・カサミに反映し、徹底した対空兵装にレーダー設備、簡易的ではあるが機械式照準システムも対空砲や対空機銃に積まれている。
艦橋から見えてくる敵航空機、これから起こるのは苛烈な急降下爆撃と応戦する地獄のような対空戦。
列強打撃空母群よりはるか前にミリシアル艦隊、そこから数キロ前に陣取るムーの4隻の艦隊が控えている。性能が劣り過ぎるミリシアルの二線級の艦隊では対空戦は荷が重すぎるとの判断と、そこまで多数がハリアーⅡACVとアルファ4の迎撃を抜けてくるとは考えていなかったためだ。
しかしその考えに反し、数の力によって31機の急降下爆撃機と護衛のアンタレス54機が抜けていた。
「最初の獲物だ! 各機一番でかい奴に攻撃せよ!!」
「「了解!」」
爆撃隊隊長機の命令に各機がもっとも巨大な艦に向け降下攻撃を開始するが、その返礼は狂ったような対空砲火であった。
周囲を航行する巡洋艦からも打ち上げられる対空砲、そして目標艦からも打ち上げられるそれは、視界を近接信管の爆発で埋め尽くされ、伝わってくる衝撃波と爆発音で操縦桿が激しく揺れる。
「くそ! なんだこれは!?」
「15番機! エンジン被弾!!!」
機体を貫くだけではなく、爆発する近接信管は僚機を次々と潰していく。それでもなお17機から投下された爆弾は巨大な艦目掛け落ちていくと、3回の大きな爆発音とともに煙が上がる。
「やったか!?」
対空砲火から逃れ、パイロットは視線を向けると艦後方で爆発の煙がみえるものの特別何か損傷を見つけられない。
それどころかロケットのような物体が迫ってきていた。
「10番機より報告! 急降下爆弾の有効性を認められず! 繰り返す攻撃の」
「くそが! 10番機が食われた! 左上方から敵機接近!!」
「護衛のアンタレス隊は何をやってやがる! 銃座は敵機を近寄らせるなよ!!」
全ての報告を上げる間もなく、護衛であるアルファ4制空機と対空砲火によって爆撃機隊はどんどん数を減らしていく。
爆撃機の自衛銃座についていた兵士によって機銃が火を噴くが、700kmを超える速度で飛行するミリシアルの制空機相手にはまるで照準が合わず、僅かに牽制になるだけであった。
「来るな! 来るなぁぁ!!」
機銃員は視界に広がるミリシアルの制空機に悲鳴を上げるが、光弾が機体に喰らい付き爆発と共に翼がへし折れ海面に落ちていく。
「何かが追尾してくる! 避けきれない!!」
「だめだ! なんとかしてくれ!」
ミリシアルの最新鋭制空機 アルファ4はアンタレスよりも爆撃機を優先し、そしてアンタレスは補給を終えたハリアーⅡACVによって、有効射程に入り次第撃ち出される誘導弾に弄ばれる暇もなく爆発四散していった。
グラ・バルカス帝国艦隊
通信機から響いてくる護衛対象の爆撃機が撃墜されているとの報告、護衛のアンタレスも敵の航空機相手に苦戦し、20機ほどが帰還したが爆撃機は全て未帰還であった。
3将軍の一人であるミレケネス将軍からの命令で、列強の実力を実践において計る事を命じられており、撤退するという選択はない。
本来であればこれだけの被害が出た上に、前時代的艦隊戦などするべきではない事など分かっている。しかし世界に対して相応の存在を示す為、被害をほぼ与えずに退くという判断はない。
艦載機の減った空母は護衛の駆逐艦2隻を付けつつ下がらせ、残りの艦全ては艦隊戦の為に前進を始めた。
ムー艦隊
「誘導弾は、やはり使えるのだが一隻だけでは対応しきれんな。 上には今回の情報を伝え、各艦に対空誘導弾の搭載を具申しよう」
ラ・ネートなどにはまだ搭載されておらず、対空砲の近接信管のみで対応している。それ故に急降下爆撃はかなり危険な状況であった。
幸いな事に急降下爆撃は外れたが、当たってしまえばどれだけの被害があったか予想もつかない。
ムー国 封鎖軍事都市
集められていた技術者達のほとんどは本国各地の工廠に移り、最新の戦略を練っていた将校も帰還していた。生産力もかなり落ちている為、あくまで研究開発や試作製造が主体となり製造設備の半数近くも移設されていた。
元より製造設備の移設が可能なようにムー独自に製造機器も開発していた。だからこそ各企業や工廠では現在問題なくジェット戦闘機や誘導弾などムー内に於いて最新兵器の生産が行われている。
今現在都市に残っているのは家族の病気や研究者達、そして最新兵器の習熟訓練を行っている陸空の元精鋭部隊。この部隊が中核となり、新たに指揮権を変更された陸空混成の一旅団が組み込まれる。
封鎖軍事都市の演習地区
「計算が、この難しいな」
現在大部分が輸送中ではあるが、すでに輸送されていたチープ兵器群の習熟訓練が行われていた。
単純なコンテナ内臓多連装ロケット砲、現在その訓練をしているのだが、発射角度から着弾距離の計算に手間取り、本来のトラック運送による 高速移送・コンテナ側面全開放・角度調整・発射・迅速撤退 が実行できていなかった。
「手計算ではなく、そこの機械を使って距離の計算をすればすぐです。 やってみせますので」
むろん訓練を長らく受けてきた封鎖軍事都市を任せられている部隊は、10代や20代前半の頃からから80年代の技術に慣れ親しんだ若い世代で構成されていたこともあり、新しい技術や道具にもすぐに順応する事が出来ていた。