龍の国 日本   作:揚物

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49.カルトアルパス沖 海戦

「敵艦の反応あり!」

「主砲用意!」

 

 グラ・バルカス帝国のレーダーに情報が入り、レーダー観測射撃を行う準備が始まる。位置情報が計算室に送られ、技術者が手計算及び機械計算で位置を割り出し、砲術員に情報が送られると次は経験で補正をかけられ46センチ砲及び35.6センチが標的移動予測地点に向けられた。

 準備完了の報告が上がるとともに命令を下される。

 

「撃てぇ!」

 

 凄まじい轟音と共に撃ちだされた砲弾は空高く上り、標的へと向け落ちていく。

 ムーの艦隊はまるで砲弾が見えているかのように航路を変更しているさまがレーダーに映っていた。グラ・バルカス帝国のレーダーは優秀ではあるが、砲弾を確認できるほどではなかった。そして現場の軍人にそこまで技術的造詣の深いものはおらず、おおよそこちらの航路から砲撃地点を推測しているのではないかと参謀は考え、判断を間違えている事に気付くものはいなかった。

 

 砲撃が開始され数分、海面ぎりぎりを飛行していた汎用C誘導弾Mk3の群れが巡洋艦と駆逐艦に襲いかかる。威力は2~3発の手りゅう弾をまとめた程度、巡洋艦や駆逐艦とはいえ、艦の主要構造物を破壊できるほどではないが。

 

「海面近くから飛行物体接近!」

 

 艦橋から監視していた兵士が一人気付き、声を上げた数秒後に艦が爆発で揺れ、艦の側面に複数の煙が上がる。

 

「爆発物だ! 小銃を持ってこい!」

 

 一度目の攻撃で爆発物だと判断し、急ぎ小銃を持ったグラ・バルカス帝国の兵士が甲板に集まる。所詮は航空機に比べて遥かに劣る180km程度、されど単発もしくは連発銃で180kmで飛翔する物体を狙い撃つのは非常に困難である。

 

「撃ち落とせ!」

「近付けさせるな!」

 

 甲板からの銃撃が行われ、偶然スレイブ機が銃撃によって爆発し、接触前に爆発したと感知した統制機は他の統制機と連携をとり、分散し設定された飛行ルートを取り体当たりを試みる。

 駆逐艦や巡洋艦に継続された攻撃に、魚雷攻撃を行う準備など滞りなくできるはずもなく、甲板では魚雷攻撃の準備に大幅に遅れを発生させていた。

 手りゅう弾程度では船腹に穴が開かないと言っても、それが何発もとなると溶接個所のもろい所に亀裂を発生させ徐々に浸水が始まる。

 

 

 

 

 

 

 その頃、ムー艦隊では最大射程にグラ・バルカス帝国の艦隊が近付いたことで準備が進められていた。

 

「右側面、無線誘導魚雷用意」

 

 ラ・トーネ型巡洋艦は艦の側面をグラ・バルカス帝国艦隊に向け、搭載されている4基の発射管が向けられると魚雷が水中に投下された。

 一度に制御できるのは一人のオペレーターに付き2発の合計4発、レーダーとソナー情報を元に無線制御され、海面を10km程度まで制御が可能なのだが、そこから先は僅かに海面下に沈みただ直進するだけとなる。されど40km先の標的に10km地点まで制御できるのは、ただ直進し続けるより命中率をぐっと高める事が出来た。

 巡洋艦である以上砲の数は少なく口径も小さい、それ故に対艦攻撃は無線誘導魚雷のみになる。いずれは対艦誘導弾になる、しかし今はまだ開発中で搭載はされていない。

 巨大な水柱がムー艦隊の至近でいくつも上がると共に、一隻の船から爆発が上がる。

 

「ラ・ネクル被弾!」

 

 ラ・ネート級重巡洋艦 3番艦 ラ・ネクルは戦艦からの砲撃を艦尾に受け航行不可能となった。いくら砲弾の飛翔が分かると言っても、距離が近付けば回避できる時間は限られる。

 

「ミリシアル艦艇、ゴールド級が前に出ます!」

「ゴールド級でか!? ラ・カサミはラ・ネクルの支援に回れ!」

 

 戦線は乱れ有ってないようなものへとかわり、後方数キロから砲撃戦の為にミリシアルの艦隊が前進してきていた。

 ソナーに光点が映り、グラ・バルカス帝国側の駆逐艦から魚雷が迫っている事が伝えられる。

 

「敵艦の魚雷来ます!」

「回避航路をとれ! 機関全開!」

「ミリシアルの艦艇は前進を継続! 魚雷に気付いている様子がありません!」

 

 雷跡が伸びていくと巨大な水柱が上がり、ゴールド級戦艦が傾き始める。

 それとほぼ同時、ムーの放った12発の誘導魚雷、そのうち6発が命中し駆逐艦2隻が巨大な水柱と共に大きく傾き急速に沈んでいく。

 ムーの魚雷は少々日本のモノとは発想が異なり、二回りは大きく威力と射程を優先されていた。もちろん小型化できない高出力無線を搭載するという理由もあるのだが、破壊目標とした装甲厚がラ・マトヤであったことが原因である。

 そんなものが駆逐艦に当たってしまえば、僅かでも耐えられるはずもない。遠目には傾いて見えていただけで、命中した周辺の構造物は完全に破壊されえぐり取られていた。

 

「ラ・マトヤ、砲撃を開始します!」

 

 凄まじい轟音と共に大口径の砲弾が敵艦に向かっていく。確かにグレードアトラスターと同口径の46cm砲、しかし技術開発をムーは怠らず、いくつか砲弾を生みだした。

 標準的な徹甲弾・散弾、そして遅延信管を組み込んだ仮帽付徹甲榴弾、ただでさえ特別大口径故に高価な通常弾より、さらに高価なためにムーの財務大臣が卒倒しかけ、徹甲弾6・散弾3・徹甲榴弾1と砲弾の搭載割合を限られていた。

 ミリシアル艦艇から光弾が撃ちだされ、光の尾を引きながら敵艦隊へと向かっていく。

 旧式化したとはいえミリシアルの艦艇、ある程度は改良され照準器や計算機も更新され、高い精度を誇るがゆえに夾叉でグラ・バルカス帝国の高速戦艦が水をかぶる。

 しかしグレードアトラスターの砲手は才能に溢れるらしく、18発砲撃されれば一発は当たるという狂ったような命中精度を誇り、長い装填時間が終わるたびにミリシアルの艦艇が一隻ずつ爆沈していくという地獄のような状況が起きていた。

 

 

 

 

 

 

 轟音と共にグレードアトラスターの船体が激しく揺れ、被弾したことを知らせていた。

 

「損傷報告せよ!」

 

 艦長であるラクスタルは揺れる艦長席にしっかりと座りながら命令を下す。

 

「第一砲塔に被弾!」

「第一砲塔各部確認中!」

 

 慌ただしく艦橋で各員が情報収集と艦の運航に奔走し、数分して状況が判明していく。

 

「ターレットリングに異常あり! 第一砲塔使用不能!」

「人員が多数負傷!」

 

「あの巨大艦からの砲弾か。 やってくれる」

 

 ラクスタルは報告を聞き、冷や汗を流しながら対策を考える。カルトアルパス港で見かけていたグレードアトラスターと良く似た戦艦。あの艦が持つ主砲からの砲撃と考えれば、被弾と同時に異常が発生してもおかしくはない。

 他の戦艦では搭乗員の質から考えても、相手にはならぬだろう。ならばグレードアトラスターが主となるしかない。

 

「第一砲塔要員は第二及び第三の補佐に回るように。 砲撃は敵巨大艦へと集中せよ。 他の艦には大型艦以外への砲撃を継続。 敵は乱れている、焦らずに攻撃を継続せよ」

 

 

 

 

 

 

 1時間の交戦でミリシアルの二線級艦隊はほぼ壊滅、救助を行う為にもはや戦力とは数えられず、ムーの艦隊もラ・ネート級二隻が沈められ、ラ・マトヤ及びラ・カサミのみが残っていた。

 ラ・カサミからは多数の救命ボートが下ろされ、海に漂う船員や他のボートの救援に当たっている。

 

「許可が下りた! 対艦誘導弾を使用する!」

 

 ラ・ネート級巡洋艦の一隻目が損傷を負った直後に本国の海軍総司令部に上申し、CICにある日本の衛星通信を利用した回線から許可がいまこのとき通達された。

 艦長は首から下げているドッグタグに繋げられていた鍵を掴み、CICの隅に置かれている頑丈な鉄製の箱が開けられ、中に入っていたケースが取り出され割られて中に収められていた紙が取り出される。

 

「認証コード *************」

 

 CICから入力が行われ、艦橋の背部に設置されている大型誘導弾二発が納められた筒が専用アームによって海上にせり出し垂直に立てられる。

 

「敵位置の情報を入力」

「入力情報の再確認、……良し」

 

「発射せよ!」

 

 全長15mはある巨大な筒、下部から強烈な噴煙炎が海面を叩き、上空に上がると二度先端が姿勢制御の噴射をし、轟音を上げて急加速し音速を突破、標的となるグラ・バルカス帝国艦隊へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 大型対艦誘導弾は海面近くを飛翔、急速に上昇すると艦橋真下に直撃し、巨大な火球が発生し高速戦艦二隻が飲み込まれる。

 甲板装甲を食い破り、指向性をもって艦内で放出された爆発は重要装甲区間を破壊し尽くしてもなお治まらず、砲弾にも引火しもろい部分に集中した力によって船が引き裂かれながら沈んでいった。

 大型対艦誘導弾は、グレードアトラスター級の重装甲戦艦を標的としていた事から、高速戦艦という比較的軽装甲な戦艦ではまったく耐えられなかった。

 

「何事だ!?」

「他艦が敵からの攻撃を受けた模様! 波と噴煙が酷く状況確認中!」

「被害は……前後の艦影が見えません!」

 

 衝撃波は数キロ離れた場所で戦闘航行をしていたグレードアトラスターを揺らし、観測員からは命令を待たずして悲鳴のような報告が上がった。

 

「くそ! なんたることだ!!」

 

 参謀が声を張り上げるも、艦橋員は動揺を隠せなかった。

 

 

 

 

 ミリシアルの艦隊は救護活動を行っている2隻を除いて事実上壊滅。

 ムーの艦隊はラ・マトヤ及びラ・カサミを残し沈没、2隻とも無傷とは言えない。

 列強統合打撃艦隊は無傷で対艦能力はあるにはあるが、対艦誘導弾や大型爆弾を供与していない為戦艦を相手にするのは不可能。

 

 一方でグラ・バルカス帝国艦隊も。

 駆逐艦2隻は汎用C誘導弾によって小破状態で3隻は轟沈、重巡洋艦2隻は沈没、軽巡洋艦は全て沈没、高速戦艦は轟沈し救助さえできなかった。

 グレードアトラスターとて、第一砲塔は被弾によって故障し、このままでは共倒れになるとグレードアトラスターの艦長ラクスタルは判断。

 撤退を開始したグラ・バルカス帝国艦隊を、列強側も追うことなく漂流者の救助を行い、列強側は追い払ったと報告し、グラ・バルカス側は十分な損害を与えたと報告を行い海戦は終結した。

 

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国本土

 日本が輸送してきた売却用のエンジン、その造形及び機能美に惹かれ、レシプロ航空機レース用に細々と研究と改良が続けられていた。ブリストル社製 セントーラス型航空機エンジン Mk.XXII レシプロでありながら3400馬力にブーストで+340馬力と狂った出力を誇り、ムーへの輸出予定と、グラ・バルカス帝国への見せ札として用意された。

 領事館に隣接する空港の整備場にて、厳重に試験台座に固定され、テストが開始されると尋常ではない速度でプロペラが回転、屋根付き試験会場の中は暴風が吹き荒れている。

 

「良い音でしょう! レトロなエンジンですが、あたりと言われるものです!」

 

「たっ、確かに凄いものですな!」

「我が社のエンジンが霞むようだ」

 

 見物しているのはリヒテル発動機と軍の関係者、暴風を予測していた者達はエンジンのやや前方寄りの横に立っていたのだが、それでも強風によって声を張らなければならなかった。後方に立っていた者達は強風で飛ばされそうになり、止めろと声を上げているがエンジン音と暴風に届いていなかった。

 さらに出力を上げると凄まじい風量に試験会場に設置されていた椅子は吹き飛ばされ、屋根がミシミシと音を立て始める。

 

「あの……、これ以上出力を上げるのは」

 

 グラ・バルカス帝国の空軍技術者が試験会場の心配から出力60%程度で止めていた。それは固定台が振動しているのもあるのだが、会場の屋根から酷い異音と壁がきしんでいることもあった。

 

「何をやっているのですか。 出力を最大まで上げませんと、正確な評価が出来ないではないですか」

 

「わ、わかりました」

 

 軍関係者が声をかけ、意を決した技術者が出力を上げるハンドルを回した。強烈な風が前後の扉が解放されている屋内に吹き荒れ、エンジンのやや後方で見学していた軍関係者や技術者達は風に転倒し転がされ、屋根は剥がされ空を舞った。

 その性能を目にした翌日には大金を支払い購入をグラ・バルカス帝国空軍は打診し、輸入元はリヒテル発動機で航空機製造についても担当となりかけたが、リヒテル発動機は軽戦車シェイファーの設計製造元であり、航空機の製造ラインやノウハウは有しておらず、ゲールズ社が搭載機の開発を行う流れとなった。

 解体禁止と言っても、リバースエンジニアリングする事は明白、しかしある段階を超えると単純なプロペラでは限界が訪れるが故に、早めにジェットエンジンに開発をシフトしなければムーに抗うのは難しい。

 彼らが開発の道を誤った、と気付くのは手遅れになってからだろう。

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