龍の国 日本 作:揚物
ムーでは現在は軍艦の建造だけではなく、クワ・トイネ及びクイラとの資源貿易用の輸送船などで造船所は許容量を超えてしまっていた。
そのような状況でも軍艦は必要であり、優先度を設け重巡洋艦ラ・トーネ級及び空母を主に建造している。しかし敵潜水艦が北部海域に現れたことが判明し、航行距離が長く船速に優れる軽巡洋艦級や駆逐艦級を必要としているのだが建造してる余裕などなかった。
軍事都市にも4か所ある船渠の第一は損傷を負ったラ・マトヤの修理中、第二はラ・ネート級の建造中、第三では空母の建造が行われ、第四船渠は現在拡張整備中で軍事都市においても余力など皆無であった。
そんな艦船が足りない中、ムー大陸北側ではグラ・バルカス帝国の艦隊が現れていた。
やや旧式化しつつある空母1隻と駆逐艦20隻、問題があり余り価値のない人員達、ムー国の正確な戦力を計るための使い捨てに近いものだが、むろん情報を正しく収集するために、オリオン級高速戦艦1隻には相応の人員が配置されていた。
ムーは対する為に艦隊を差し向けつつ、比較的陸からも近い為航空機を陸からも飛ばすという手段を講じ、陸からは一式戦闘機 隼の編隊総数60機と共に5機の爆撃機が向かっていた。
胴体の過半を潰しそこに装着されたムー国初の空対艦誘導弾、その運用の為に改造されたラ・カオス2世型爆撃機。今回陸地からも比較的近い為、実戦に初使用される。
さほど性能が良くないセミアクティブ・レーダー・ホーミング、空対艦誘導弾は大きく旧ソ連が開発したKS-1とサイズや形状など酷似していた。そして最終誘導は爆撃機ではなく、別機が対応しなくてはならないなど問題は山積みである。しかし900kgもの徹甲弾頭であるがゆえにその威力は絶大で、コンクリートと鉄材で作られた220mm厚の陸上標的を破壊している。だからこそ司令部はその性能以上の期待をかけ無理な命令を下してしまっていた。
航空隊は海上に到達し、司令部から指示のある方角に飛行を続ける。
「左上方に敵機多数! グラ・バルカス帝国の戦闘機だ!!」
「爆撃隊は我々に任せ作戦を遂行せよ。 全機戦闘体制、1番機から20番機は直掩、残りは迎撃に当たれ!」
アンタレス部隊を発見し、護衛の一式戦闘機 隼部隊は隊長機の命令と共に落下増槽を捨て迎撃に向かう。
「右後ろ上方! 雲間から敵機! 多数が突っ込んでくるぞ!」
「敵に読まれていたのか!? それとも情報が漏れたか!?」
「21番から60番までは爆撃機の直掩に回れ!!」
護衛の部隊を半数に分けて対応するが、二方向からの攻撃に対処が遅れた事から銃撃を受けた3機のラ・カオス2世爆撃機が爆発炎上し墜落していく。
辛うじて1番機と4番機は無事だったものの、作戦失敗と判断し1番機は誘導弾を投棄し陸地へと機首を向けた。
しかし、4番機は機首を陸地へと向けようとしない。それどころか高度を急激に下げ振り切ろうと加速しているように見える。
「作戦失敗だ! 4番機! 誘導弾を破棄し帰還せよ!!」
アンタレスから撃ちだされた機銃弾は右翼を貫き煙が上がっている。右舷第二エンジンに被弾したラ・カオス2世爆撃機、護衛隊である隼に搭乗する隊長機が無線に大声を張る。
「まだまだ飛べる! 任務続行するぞ!」
機長は高笑いを上げながら無線に答え、燃料を噴き出す右第二エンジンを停止させ残りのエンジンで飛行を続ける。護衛隊の隼とアンタレスの空戦が行われる中、1機のアンタレスはラ・カオス2世大型爆撃機を低空で追い続けていた。
「ダメです! 一機が食い付き離れません!」
「落とさなくても構わん! 機銃の照準に入れさせるな!!」
海面近くの低空で飛行すると狙いを定めるのは難しく、極低空飛行は操縦主の技量に大いに左右されるが、防空機銃も上方と後方だけの牽制で済む利点もある。制空機側も上方以外からは墜落の危険性が伴い手が限られる。
護衛隊による空中戦、ラ・カオス2世爆撃機の後部と上部銃座の必死の迎撃も数の多いアンタレス相手には苦戦。
銃座要員は必死にアンタレスに向け銃撃を行うも、正確な照準を妨げられる程度は出来ても撃墜には至らない。そして対応できるのはせいぜい一機が限界であったが、それでも十分に時間を稼げている。だが。
「左上方からさらにもう一機! 対応が間に合いません!!」
隼の航空戦を抜け上空からもう1機のアンタレスが接近、機銃弾が胴体から左翼を貫き銃座に座っていた要員が悲鳴を上げる事もなく体を銃撃によって沈黙、そして貫かれた機銃弾は機の破片をまき散らし電装系を引きちぎり燃料が引火、左第三第四エンジンが燃え上がり機内に炎が回っていく。
「敵艦隊発見! 敵空母艦隊が射程圏内に入った!!」
操縦士が飛び散った機体片で血まみれの顔で声を上げる。その言葉と同時に機首を上げ急速に高度を上げ始める。そんなことをすれば速度も落ちる上に照準が合わせやすくなりアンタレスに撃ち抜かれてしまうが、大型対艦誘導弾は一定以上の高度を必要としていた。
「もう十分射程内だ! 投下して機体を捨てろ!!」
護衛部隊の隊長は無線に必死に怒鳴り続ける。機長はそれに応えることなく、逆に無線から怒鳴り声が響いた。
「ムーを、頼んだぞ!!」
空対艦誘導弾は機体から切り離されると同時にロケットが点火し急激に加速。その直後引火し炎を上げながらも稼働していた左エンジン2基が滑落、ラ・カオス2世爆撃機は炎が機体全体に回りながら推力を失い海面に激突。
しかしパイロット達が機体を捨てた様子はない。ギリギリまで機体を保たせるためにその暇がなかったのだろう。
隊長機は墜落したラ・カオス2世大型爆撃機に敬礼する暇もなく、アンタレスとの交戦を続ける。敵艦近くで誘導制御を請け負う隼 13番機の最終誘導電波を受け、空対艦誘導弾は目標である空母へと向かっていく。
グラ・バルカス帝国空母艦隊
アンタレスと隼による航空戦が艦隊近くで行われる中、観測員によって向かってくる物体が確認された。
「大型ロケット弾確認! 向かってきます!!」
「撃ち落とせ!!」
駆逐艦によって打ち上げられる対空砲撃、20隻もの集中したものは猛烈という言葉で片づけるには足りないものだが、それでも隼 13番機の最終誘導電波に従い、音速を超えたムー製空対艦誘導弾は偶然の迎撃など起こらず空母の飛行甲板に突き刺さり大爆発を起こした。
甲板を貫いた大爆発は空母の内部を駆け巡り、空母は数秒と持たず轟沈。空母を失い大幅な航空戦力を失ったグラ・バルカス帝国艦隊は、それから僅かに時間が経ってから到着したムーの艦隊と交戦を始める。
「ムー国艦隊確認! 数は16!」
「大きさから種別は全て巡洋艦と思われる!」
砲撃が行われる前の情報戦、監視員は双眼鏡を手に艦種を判別し、その情報によって作戦が決定される。
「何かを投下した模様! 魚雷の可能性大!」
「魚雷が来るぞ! 監視員は目を凝らせ! 機関全速!」
命中率が非常に高い半誘導魚雷、ただの魚雷としかいまだ知らぬ艦隊は航路を変更し目を凝らして対応しようとする。
ムーの魚雷は確かに水面から確認は出来るし航路も見なくもない。問題は相応の速度である上にそれなりに誘導するということだ。
日本とて距離によっては危険で、迎撃しなくてはならない代物だろう。それをグラ・バルカス帝国が対処できるはずもない。
「ダメだ! 魚雷至近! 直撃するぞ!」
「衝撃に備えろぉぉ!!」
悲鳴のような報告が上がり、数分してグラ・バルカス帝国の駆逐艦は船舷にいくつもの水柱が上がり艦は沈んでいく。いまだグラ・バルカス帝国駆逐艦の魚雷有効射程にも、砲撃射程にはいることもない。ムーが求める艦対艦誘導弾はまだまだ先、それでも長射程無線誘導魚雷は日進月歩で発展していた。
一か八かで発射されたグラ・バルカス帝国の魚雷の航跡は発見しやすく、ほぼ直線に進む事しかできない故に発射が確認されると同時にムー艦隊は射程外へと逃れられてしまっていた。
次々と駆逐艦が沈んでいく中、オリオン級高速戦艦は海域を脱しレイフォルへと情報を持ち帰った。グレードアトラスターの交戦情報によって巨艦の危険性だけではなく、巡洋艦級の危険性及び空母を一撃で仕留められる大型ロケット弾の存在を。少しずつ、そして着実にムーの情報はグラ・バルカス帝国に蓄積されていく。
ムーもまた有効な兵器と減らぬグラ・バルカス帝国の兵力を知り、軍艦のさらなる建造と兵器の生産の必要性が確認された。
空対艦誘導弾の最終誘導を行っていたパイロットは着弾成功の無線を打った後、アンタレスに撃墜されムー国基地に帰る事はなく、護衛を担当していた一式戦闘機 隼の部隊もそのほとんどが帰還する事はなかった。
敵艦隊の壊滅により作戦成功、されど被害は甚大、これ以降は最新兵器頼りの作戦については停止されることになる。
オマージュを訂正しました