龍の国 日本 作:揚物
ムー国
戦時状況として市民の活動は安全の為に制限が実施されている、しかし原則として非戦時とさほど変わらないものであった。
むろん軍需工場へ資材の優先などは行われているが、クイラからの大量に輸送されてくる資源によって不足は然程発生しておらず、製造の遅れ程度で済んでいた。
ムー国最西端の都市 アルー
国境線の向こう側では、グラ・バルカス帝国のバルカルス基地が存在する。最前線でありながら防衛設備はない。しかしただ退くだけでは戦意が下がり今後に影響が考えられ、希望者を募り決死隊がアルー防衛に残っていた。
榴弾砲は届くだろう。だからこそ民間人を避難させ、都市内に残っているのは決死の作戦を選んだ死にたがりで構成された規模は一個大隊のみ。最新兵器は肌に合わぬと拒否する熟練兵、諸事情によって戦死見舞金の為に激戦地を望んだ兵士、事情はそれぞれながらもムーを守るという意思だけは共通している。
砲撃の煙を監視していたムー国兵士が発見し、通信機に声を張り警報のスイッチを入れる。
「砲煙確認! 来るぞ!」
即座に警報が鳴り響き兵士達は半地下壕や建物の中に避難、時間が経過し砲撃は建物まで到達、歴史ある建物が崩れ悲鳴が響き半地下壕にも振動が伝わる。
混乱を始める住民をまとめながら、いまさらになってようやく町を出る覚悟を決めた人達を町の東側へと誘導、トラックやバスに乗ってもらい順次町を離れていく。
時間が経ち攻撃が止み防衛隊本部から各部隊へと有線通信によって状況報告を求める。
「第一から第九小隊まで状況を報告せよ」
「第五小隊から連絡なし。 第六小隊から砲撃によって第五小隊拠点崩壊を確認」
「第二小隊隊から連絡。 グラ・バルカス帝国の陸戦部隊が国境を越えた」
「第七 第八小隊 民間人の誘導完了」
「各員作戦に従い、グラ・バルカス帝国兵にムーの勇猛さを知らしめよ。 通信はこれで終わる」
仮設司令部に居たムーの佐官たちも銃器を手に出ていく。半地下式防空壕からトラックにけん引され 一基一〇〇発 単純な構造のロケット弾発射機が姿を現す。日本がムーに融通したC規格装備であり、コンテナの数は30あるので3000発、ムーの兵士によってロックが外され前後ではなく左右の壁が開かれ、導火線に火がつけられると1秒に1発ずつ発射され空に消えて行く。
反撃の砲撃も塹壕もない事から悠々と進むグラ・バルカス帝国兵は至近で訪れた攻撃、手りゅう弾二発程度の低威力とはいえ3000発ものロケット弾は装甲車両を傷付け歩兵を殺傷していく。
油断していたとはいえ後陣に攻撃を受け一時的な混乱に陥るが、先陣や中陣に居たグラ・バルカス帝国の機甲師団は数か所からアルーへと入り、いまだ規律こそ保たれてはいるものの先ほど受けた砲兵による攻撃で建物や道は破壊されている。
先陣の部隊がいくつかの家々に押し入るが誰も居らず、敵はいないものと決めてかかり銃を肩に担いで略奪した食料や酒を片手に家々から出てくる。
「逃げやがったか」
「所詮は蛮族連中だ。 大したものもみえんな」
その様子をムーの軍人は静かに4階建ての家の屋根から隠れながら見ていた。合図とともに大通りに面する4階建て以上の家や古びた車が爆発し、残骸をまき散らしながらグラ・バルカス帝国兵を破片が襲う。
「なっ、敵襲! 敵し」
言葉を続ける事は出来ず、近くの建物の屋上及び室内に陣取っていたムー第五小隊から機関銃の銃撃を受け倒れていく。
「あの建物だ! 3号車撃て!」
砲身が向けられ砲撃を受けた家の一部が崩れ銃撃が止み、歩兵の突入によって制圧される。中にいたのはほんの10名足らず。
「くそ! どこに潜んでやがる!!」
悪態をつきながら周囲をグラ・バルカス帝国の兵士達は銃を向けながら周囲を見回す。
「かまわん! 周囲の建物ごと砲撃で壊せ!」
ハウンド中戦車によって周囲の建物を数件吹き飛ばすが悲鳴も何もなく、ただ建物が崩れる音だけが響くだけ。警戒しながらも再び侵攻を進めるが。
一区間進んだところで地面に仕掛けられた爆薬が爆発し、塞がれていた大穴が口を開き2両の戦車を地面に飲み込む。
「かかれぇ!!」
号令と共に周囲の建物の屋上に伏せていたムーの小隊は銃撃と共に手りゅう弾や火炎瓶をグラ・バルカス帝国の列に投げる。
銃撃程度では効果が無く、手りゅう弾や火炎瓶が届かない後方からハウンド中戦車の砲撃が建物に撃ち込まれ、一部が崩れ始めても攻撃の手を緩めることはなく、戦車や装甲車の陰にグラ・バルカス帝国の兵士は身を隠す。
咆哮を叫びながら銃剣を握り襲い掛かるムー国兵士、集中砲火でたやすく射殺されるもグラ・バルカス帝国兵士に恐怖を与えるのは十分、執拗なまでの遅滞攻撃や奇襲にアル―市内に5箇所から侵攻していた部隊は停滞を余儀なくされた。
「何をやっとるか! 敵は少数だぞ!」
業を煮やした前線指揮車から中隊長が怒鳴り声をあげる。
「う”あ”あ”あ”あ”あ”」
狂った雄叫びと共に建物の3階からムーの兵士が車両に飛び降り、体に巻き付けていた爆弾のピンを引き抜き前線指揮車が吹き飛ぶ。その後も建物や車両、時には地面に埋められていた爆薬による攻撃は執拗に続けられ、グラ・バルカス帝国は精神的負荷をかけられ続けアルー占領は慎重にせざるを得ない状況になっていた。
防空塔群
グラ・バルカス帝国陸軍は、丸二日かけて都市アルーを突破し、空洞山脈までを占領下に納める為アンタレス航空隊と機甲師団がドーソン基地へと向かっていた。
迫りくる100台以上の戦車、そして飛び回る敵航空機、中央防空塔ではCIWS 1Aの対空射撃と残りの防空塔でも必死の対空攻撃が行われている。
弾数があると言っても銃身が過熱し改造CIWS 1Aが定期的に停止、ムー製40mm対空砲はさほど命中率は高くはないが、CIWSの圧倒的命中率に被害を出したアンタレス航空隊は一時撤退、40mm対空砲も幾らか撃墜する事に成功はしたものの、脅威と見られたのは中央防空塔のCIWSであった。
そしてその脅威を手に入れる為、グラ・バルカス帝国は砲爆撃による防空塔破壊ではなく、物資や戦力を枯渇に追い込んだ末での鹵獲を選んだ。
民間人の撤退が済むまで僅か10台の戦車で迎え撃つ。航空支援も砲撃支援もない。屋上から見える光景に恐怖で震える中、ふと一人の兵士が小さな声で口に出した。
「この世は無常だ」
笑えてくるほどに迫ってくる敵兵の数に生き残れることもない。例えM4中戦車だろうと数の暴力には勝てないと。
それでも、アルーに残っていた民間人が空洞山脈内の列車に到達するまでの間、敵の大軍を押しとどめなければならない。
M4中戦車に乗る戦車兵は照準を覗き込みグラ・バルカス帝国の戦車に狙いを定め、戦車壕から砲塔だけを覗かせながら偽装布の下からずっと命令を待つ。
「攻撃開始!」
号令と共に戦車隊は10倍以上の相手に砲撃を開始、先制の砲撃と共に6台のグラ・バルカス帝国の戦車が吹き飛ぶ、しかし100台以上のうちたった6台、それでも時間を稼ぐためには前進するしかない。戦車塹壕に籠っていた所で、集中した砲撃に晒されてしまうだけなのだから。
ほぼ一発ごとにグラ・バルカス帝国の戦車ハウンドは吹き飛び、敵戦車の砲弾が当たったところで鈍い音と共に砲弾が弾かれる。
「9号車! 突出し過ぎるな!」
何台もの中戦車ハウンドが擱座していく中、無謀ともいえる前進で数台のハウンドが突出していたM4中戦車の側面に回り砲撃を始めた。
突出してしまったM4中戦車は後退しつつ砲塔を旋回させ迎撃するものの、10発近く砲撃を受けたことで装甲を貫かれ、運悪く弾薬庫に引火し1両が吹き飛ぶと少し及び腰であった戦車ハウンドは一気に攻めたて始める。
「3号車履帯をやられた!」
「6号車! 支援する!!」
57mm砲ではそう簡単に貫かれない装甲を持つとはいえ、100台を超える故に9台で応戦するも1台ずつ集中した砲撃に晒されてしまい、車体や砲塔の装甲は歪み擱座していく。
「全車連携をとりながら下がれ!」
戦車隊指揮官である1号車は命令を下し、周りこもうとする戦車ハウンドの一台を砲撃によって撃破、衝撃と共に履帯が破壊され車体が停止する。
「本車は履帯破壊により擱座。 後は4号車に指揮権を移管する! 全車構わず交戦を続けよ!」
停車したまま砲塔を向けるが、動けない的となったM4中戦車に一斉に砲撃が集中、装甲が砕かれ貫通した砲弾が車内に飛び込み完全に動きが停止した。
防空塔近くの高さ6mもある円柱の防壁で交戦を続けていたが、周囲を囲まれ比較的装甲の薄い側面を狙われた事で戦車隊が壊滅、野戦砲によって中央防空塔以外破壊され残った中央防空砲塔も現在グラ・バルカス帝国兵の侵入を受けていた。
「2階突破されました!」
「手りゅう弾を投げた後は撃ち続けろ!」
周囲を囲まれさらに防空塔に侵入されている状況ながら、ムーの兵士は降伏などせず銃眼のある3階では下り階段に向け機関銃で応戦していたが、銃身が過熱しもはや突破されるのは時間の問題、何よりも下階からとはいえ、グラ・バルカス帝国軍の銃撃にムー側も死傷者が続出していた。
「自走爆雷を起動しろ!」
「階下にはガソリンを流せ! バルブを全部開け!」
ムーの兵がスイッチを入れると円柱状の防壁の一部を覆っていた鉄板が外れ、火を噴き出しながら横倒しになると左右の端からロケット推進によって転がりはじめ、グラ・バルカス帝国の兵士や車両を圧し潰し無軌道に転がり始める。
日本から供与されたチープ兵器群の一つ対戦車陣地等破壊兵器、正式に次世代型の開発及び生産が始まった為製造された旧式の1基はムーへと売却され、ムーでは防空塔群に運び込まれていた。
「撃て撃て!」
「57mm砲でも止まらん!」
「だめだだめだ! 踏みつぶされるぞ!!」
歩兵のほとんどが防空塔の制圧に動き、戦車や装甲車に残っていたグラ・バルカス帝国の兵士達は逃げ惑うも重量に押しつぶされる。そして5分間の稼働時間を終えると爆発し周囲に石塊と鉄材が撒き散らされ更なる被害をもたらす。
そして防空塔では階下に見えぬよう設置されている散水設備へと繋がるガソリンタンクのバルブを開き階下へと流れ始めるのとほぼ同時に、グラ・バルカス帝国兵が手りゅう弾のピンを抜き3階に向けて投げた。
「手りゅう弾!」
爆発によってムーの兵士が吹き飛ぶと同時にガソリンに引火し1階から4階まで爆炎と衝撃が広がる。足元から伝わる大きな衝撃に終わりの時が近付いているのを防空塔の司令官は理解した。
「最後の連絡をしたい者は居るか?」
5階の指令室には有線で本国への通信回線が敷かれ、それもいまだ気付かれず使用可能であった。しかし誰一人として使うとは言わず首を横に振った。
「そうか。 では我々も職務を全うしよう」
閉じられている最上階の鋼鉄の扉が叩かれ、蝶番が悲鳴を上げる中スイッチを入れるとCIWS 1Aが爆発、そして防空塔が上階から順に爆発し防空塔内部に居たムーの兵士もグラ・バルカス帝国の兵士も飲み込む。
日本から供給されたとっておきのE50爆薬は残骸を吹き飛ばし、飛び散った瓦礫によって周囲に展開していた装甲車までもが巻き込まれ甚大な被害を巻き起こす。
爆発が収まり瓦礫の煙が舞う中、銃眼からの銃撃が届かない所で命令を下していた参謀たちは唖然としていた。
強力無比な対空兵器を鹵獲する為、損耗を覚悟で送りこんだ兵士を失ってしまいながらあと一歩のところで自爆されてしまい、師団長のボーグは歯噛みしながら崩れ落ちた防空塔の残骸を眺めていた。
バルクルス基地
ドーソン基地を無事に制圧し、鹵獲した敵兵器を軍が運んできた中にあったM4中戦車を陸軍責任者たちは確認していた。
「たった10車両に61車両やられたか」
擱座した状態とは言え7両が運び込まれ、担当技官が前戦兵士や整備兵から調べ上げた情報が記載されている書類を手に説明を始める。
「砲口径は76mm、ハウンド1及びハウンド2を一撃で破壊してしまいます。 装甲はまだ判明しておりませんが、少なくともハウンド1の57mm砲では100m以内に接近し10数発撃ち込みませんと効果は見込めません」
「ふむ、装甲はリベットではなく鋳造、いや溶接か。 本土に輸送するよう手配し、それまで残骸は出来る限り集めておけ」
「はっ! 了解いたしました!」
技官が手配の為に足早に向かっていくのを眺めた後、グラ・バルカス帝国陸軍第8軍団長ガオグゲル・キンリーバレッジはため息を付いた。
「こんなものがあるとは聞いていなかった。 情報部は一体何をしている!」
たった10台相手に総数200両の戦車のうち61両もの損失、もしもこの戦車が他の戦域にも投入されているのなら、威力偵察も失敗している可能性がある。
「上にはこれを超える戦車を製造配備してもらわねば、いずれは陸軍は押し負けかねん」
バルカルス基地の責任者でもあるガオグゲルは、自らの要求が難しい事を理解しつつも、軍団長であるがゆえにムーがこれから行うだろう反攻作戦もおおよその推測が立ってしまっていた。