龍の国 日本   作:揚物

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56.脱出・強行偵察・発注

 空洞山脈以西はグラ・バルカス帝国の手に落ちた。警戒機が定期的に巡回飛行してまわり、生き残りのムー国兵士を探していた。

 そんな敵地の中をアルー防衛隊の生き残りの分隊8名、民間人2名が空洞山脈へ向けて歩いている。

 防衛隊が遅滞戦闘を行っている最中、砲撃によって倒壊した建物で2名の民間人を発見、すでに全ての退避部隊が移動してしまった後の為、1分隊を護衛に退避任務にあたっていた。

 幸いな事は、防空塔群の爆発とドーソン基地占領によって負った損害のためグラ・バルカス帝国陸軍は再編中であり、アルーから空洞山脈間は戦力の空白地帯に等しく時折警戒機が飛ぶだけであった。

 

「お姉ちゃん……」

「大丈夫、きっとキールセキまでいけるから」

 

 子供二人を護衛しながら8人の兵士は周囲を警戒しながら、木々や高めの雑草に身を隠し虫などに集られながらもなんとか進み目的地が近付いていた。

 

「非常時予定ポイントまであと1km、そろそろ見えてくるはず」

 

 想定外の事態によって民間人護衛の撤退部隊からはぐれた場合、そこに集合し救援を求める事になっていた。

 あまり使われていない雑草も生えた荒れた街道、周辺の案内標識が打ち込まれている大きな岩山と雑木林があり、周囲の大小さまざまな岩石が集められた屑山のようではある。近くで見ても苔と雑草の生えた雑多な岩山に見えるのだが、コンクリートで作られた人工物であることに間違いない。

 

「よし、引くぞ」

 

 苔と蔦に覆われた土山のような物の周りには倒木や壊れた看板などが捨てられている。端に落ちていた編まれた蔓をムーの兵士達が一気に引く。

 苔や蔓ごとシートだった土山が取り払われ3台の車両が姿を表す。ムー製最新型6輪機動車両、ここから空洞山脈内まで森や林など身を隠せる場所が全くない為、見つかってしまえば交戦は避けられない危険な地帯に入る。

 空洞山脈まであと30km、全員搭乗し道を空洞山脈内に向け走り出したが、10分程度たったところで哨戒飛行をしていたアンタレスに発見されてしまう。

 

 

 

 

 リュウセイ基地ではシュヴァルベが1機緊急出撃の為滑走路にて最終確認が行われている。

 傍受した敵無線の中に空洞山脈に向けムー国兵士の一団が逃げていると情報があり、通常通り空洞山脈上空を飛行して救援に向かえばレーダーによって察知され迎撃機が送られてしまう。

 それ故に空洞山脈を超低空、山脈間の狭い谷やアーチ状の岩が連続した場所を抜け救援に向かう作戦が建てられた。本来は低速でも飛行が可能なD21を利用した苛酷な訓練飛行の為に使用されていたルートなのだが、そこを時速800kmを超えるジェット戦闘機で抜けるという正気ではない作戦に誰しもが不可能だと発言し、D21に変更し救援を行うとして出撃していった。

 しかしそれでは間に合わないとしてエイノ・バーリング・ユーティライネン大尉が自薦し、新機能搭載による飛行テストで軍事都市からリュウセイ基地に降り立っていたMF-001シュヴァルベによる救援を行うとした。

 最終チェックが終わるとすぐに滑走路を飛び立ち空洞山脈へと機首を向ける。

 

 

 

 

 空洞山脈

 先行してD21の飛行隊6機は渓谷の比較的上層を時速200kmで飛行していた。

 

「3番機崖に寄り過ぎているぞ! 墜落したいのか!」

「これ以上の速度は危険かと」

「仲間が追われているというのに! これ以上急げないとは!」

 

 200kmといっても熟練したパイロット達でも油断は出来ず、安全を確保できる範囲内とはいえ彼らとしては十分に急いでいた。救援に向かっているD21航空隊が焦る気持ちの中、甲高い独特の音が響き谷の低空を高速でシュヴァルベが抜けていく。

 その光景を見ていたD21のパイロットたちは余りの異常な速さに正気を疑いたくなるも、救援が間に合うのではないかと希望にも見えていた。

 一方でエイノ大尉は強烈な精神的負担に冷汗さえも流す余裕もない状況であった。

 

(次、左方向へ高度にアーチ)

 

 機体を傾けジェットエンジンが奏でる轟音が反響、衝撃波が渓谷に生えている木々を酷く揺らし鳥たちが逃げ惑い飛び立つ。

 4度操縦桿がずれてしまえば谷やアーチに激突、2秒も操作が遅れても谷やアーチに激突、ほんのわずかに操縦桿を傾け谷の間を抜けていく。時折谷の崖まで10mを割るまで接近し、極限の状況の中視界全てがゆっくりと減速し本来ならば不可能なことに体が反応する。代償は過大な脳内麻薬の分泌による脳や神経等を含めた体への負荷による寿命を削る事、それでも太陽神の使いが操る戦闘機に勝る為に鍛え込んだ体は耐えていた。

 

 

 哨戒機として危険なものを排除するために3機中2機が安全な距離から上昇と降下を行いながら機銃の銃撃を、残る1機は安全な高度で追跡しつつバルクルス基地へと通信を行っていた。

 撤退中の部隊は砲塔の重機関銃を撃つものの、アンタレスには大した牽制にすらなっていない。それでも民間人が載っている一両を逃す為に、残り二両は守る様に意図して目立つ銃撃を行っている。そんな状況で1時間はなんとか持たせていたものの、一両が機銃の銃撃を受け、運悪く燃料タンクを貫かれ引火しあっという間に火だるまになる。

 

「これ以上やらせるな!」

「手持ちでもいい! 撃ち続けろ!」

 

 装甲車が走る中でも運転席の扉をあけ放ち、身を乗り出しながら手持ちの機関銃さえも撃ち続ける。だがそれも長く持たないと理解している中、甲高い音が響き一機の航空機が近い事が伝わってきた。

 

「きたか!?」

 

 視線を向けた先からは特徴的な薄灰色に染められた国章も何もない航空機が見えた。

 しかしムー軍の兵士なら間違えるはずもない存在、ムー国初のジェット戦闘機として大々的に広報され、太陽神の使いからムー独自の戦闘機であると認められたMF-001ジェット戦闘機 シュヴァルベ。

 機体中心近くに吊り下げられた二基のジェットエンジンから赤い光を放ち、地面から僅か15mの高さをシュヴァルベは抜ける、グラ・バルカス帝国のレーダーは時折反応が小さく出るだけで機器の異常によるバグか敵機か判別できず、即座に迎撃機を送り出す事は出来ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国 第5哨戒隊

 

「敵機か!?」

 

 レーダーに感があれば連絡が来るはずだが、それでも状況でこちらに高速で向かってくる存在が見える。

 

「ムーの敵機! 数は1だ!」

「単機で当たるな!」

 

 即座に地上の敵から現れた敵航空機へと標的を切り替え機首を向ける。だがその感覚はあくまで同等程度であると相手を認識していたがゆえに、戦闘速度である900kmとの相対はほんのわずかで行われてしまった。

 機首を上げコックピット横のムー製20mm機関砲から放たれた弾丸は防弾が施されているアンタレスを容易く貫き、1機が機体から火を噴きながら墜落していく。

 それとほぼ同時に正面からの撃ち合いを避けるかのように機体を左に傾け旋回していく。

 

「逃がすか!」

 

 アンタレスのパイロットは降下する加速も利用して追いすがろうとするが、エンジンらしきものがから噴き出す赤い光がさらに灼熱化し急加速によって容易く突き放されてしまう。

 新機能である試作アフターバーナー搭載エンジン、アフターバーナー連続稼働時間僅か1分程度である上に一度の出撃で5回までしかエンジンが持たないなど問題は多いが、そのテストの為に精鋭が集まっているリュウセイ基地へと赴いていた。

 再び機首を上空へと向けると異常な速さで上昇、高高度で情報を集めながら通信を行っていたアンタレスへ向かっていく。

 高空にいたアンタレスは逃れようとするものの、翼下から発射された何かが高空に居たアンタレスを正確に追尾し機銃を撃つ前に爆破してしまう。

 ムー製の42式誘導弾、技術的限界としてムーのジェット戦闘機でも機首にスペースがあるシュヴァルベ及び橘花しか搭載できないものの、セミアクティブ方式誘導弾は相応に音速を越えているがゆえに、レシプロ戦闘機はチャフやフレアを持たない非ジェット戦闘機では逃れる術はない。

 

「くっ! 第二哨戒隊より本部! ムーの戦闘機はアンタレスを上回る! 繰り返すムーの戦闘機はアンタレスを上回る!」

 

 生存及び撤退が不可能だと悟り、高高度から機体を翻し向かってくる敵機に機首を向けトリガーに指をかける。司令部に情報を送り体当たりを辞さぬ覚悟を持って操縦桿を握るが、アフターバーナーによって短時間ながら最大1100km、アンタレスの500kmの上昇速度と合わせ相対速度は1600kmを越え交差の時間はほんのわずか、訓練もせずに手動照準が合うはずもなく交差する直前に逆に機銃を撃ち込まれアンタレスは墜落していく。

 一方で戦闘機動の過負荷が掛かっている状況でありながらアフターバーナーを多用したことで片側のエンジンが煙を噴き出し停止、速度を下げながらリュウセイ基地へと戻っていった。あくまで新機能のテストで問題が発生しないわけではない。

 

「同胞がやってくれた! 空洞山脈内まで急げ!」

 

 仲間の遺体を回収する暇などなく、撤退部隊に残された2両は再び走り出し無事空洞山脈内に到達、D21飛行隊は僅かな間だけーダーに意図してかかる事でグラ・バルカス帝国の飛行隊をかく乱後交戦をせずに帰還を果たした。

 

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国

 アニュンリール皇国を下した事で多くの技術の再取得が進む中、さらに封鎖軍事都市で科学的知識と知見を得たことで、次々と解明される古代技術によりいまだかつてないほど発展を継げていた。

 宣戦布告を受けているとはいえ、主な戦場は第二文明圏周辺であるがゆえに余裕もあることながら、最新鋭のオリハルコン級戦艦の錬成も順調に進んでいる。

 そんな状況であるため日本はある発注をかけていた。

 

「う……む。 分かってはいたが、この魔導システムの開発は余りにも難しい」

「アトラタテス砲の改良、それだけ難しいと言う事だ。 それも知見を得ただけではなぁ」

「太陽神の使いから概念のレクチャーはもらえたのだ。 やらねばならんよ」

 

 光弾を放つのではなく空対空誘導弾を放つシステムへの改修作業、それはアトラタテス砲の設計と構造を利用したクウ・ウルティマ誘導弾の搭載を試みていた。

 一方で一番割りを喰っているのは取引で研究開発を委託された、ルーンポリス魔導学院など開発生産などを担当する部署であった。

 

 艦隊級極大閃光魔法の改良。日本では前世界で技術購入し細々と研究開発を続けていたものの、優先度が低くなおかつ多くの技術者はパル・キマイラに搭載されていた反重力魔導エンジンと魔素を利用したバリアシステムの改良に人手を取られていた。それ故に技術情報と引き換えにミリシアルに対して物資の輸入や魔道技術開発の発注をかけていた。

 

 アガルタ法国 艦隊級極大閃光魔法

1.現状では一種の熱線で標的を焼き払うだけであり有効性はそれほど高くはない。

2.発動時間はともかく消費魔力量が多過ぎ魔石や個人の魔力が長時間は持たない。

3.艦隊級という大規模魔法陣形成が必要という欠点。

4.現時点では試作未完成品段階であり実用性に欠ける。

 

 帆船のマストほどの大きさがある杖型増幅装置を利用するアガルタ法国であったが、ミリシアルの技術者達が解析及び改良する中で標的への照準は最終詠唱者の脳力に左右されることが判明し、魔法のままでは個人差があまりに大きいとして部分的にミリシアルによる魔導機械式呪術詠唱と増幅器等魔術回路への置換が行われている。

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