たった1人の親友を救うため、永劫の輪廻に身を投じ続ける暁美ほむら。
廻り続けたX回目、時間遡行能力を発動したほむらは、見覚えの無い空間に辿り着いていた。
そこで出会った不可思議な姿をした「ソレ」は、自分を救いに来たのだと話しだす。
これは、ほむらに待つ運命、そして彼女の覚悟を再度問い直す物語。

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ミラーズ、つまり鏡の魔女の結界が、ほむらが繰り返す時間旅行により形成されたものだったら?という個人的な設定を元にした小説です。
ほむらの苦悩や決意が表現できるよう、頑張って書きました。
ブランクが長いので読みにくい文章になっているかとは思いますが、お時間のある方は、呼んでいただけると幸いです。


旅の果て。そして鏡層。

 頭痛がする。肺が痛む。

落ちているのか浮かびあがっているのか分からない不思議な浮遊感の中、自分の感覚だけが鮮明だった。

「また…だめだった…」

もうこれで何度目になるのだろう。

たった一人の友人を…まどかを救うと心に決め、キュウべぇに願ったあの日から、私は同じ時を幾度となく繰り返し、それと同じ数だけ彼女の死を看取ってきた。

百回くらいだろうか?それとも千回くらいにはなるのだろうか?

「ふっ」

笑みがこぼれる。

「考えるのもばかばかしいわ。

 元々繰り返した数なんか数えちゃいないし。

 今やるべきことは回想ではなく、次の世界の予測と対策よ。

 次こそは…必ず」

トッ

彼女の思考はそれ以上続かなかった。気がつくと、先ほどまで感じていた不思議な浮遊感は消え去り、足裏に不確かな地面を感じるだけとなっていた。

「ここは…」

見覚えのない光景だ。暗く、少し離れた場所さえ見えないほど空間の雰囲気は「重い」のに、天井に瞬く星のような光が全て自分に降り注がれているため、妙に息苦しく感じる。それになによりも目を引くのが、頭上に広がる鏡だった。鏡は集まり、重なり、また連なりあって巨大なひとつの螺旋階段の様相を呈していた。

「まるで」

自分を写す目の前の鏡に手を伸ばしながら呟く。

「果てなしの、鏡層世界《ミラーズ》…」

「「勘がいいわね。あなたにしては」」

「誰⁉︎」

血の巡りが一気に加速し、精神と肉体が戦闘態勢へと移行する。

(さっきまで気配なんて感じなかったのに…!)

左腕の盾から銃を取り出し構えるが、向けるべき相手が見つからない。

「「誰だなんて心外ね。私たちはずっと一緒だったじゃない。

  それとも、私たちを作り出したという点で、あなたは親である、と言うべきかしら?」」

(正面!)

右腕だけが反射的に動いて声の主に銃口を向け、少し遅れて視認する。

そこにいたのは、

「私?」

そこにいたのは自分自身であった。黒いだけで覇気のない目、後から付けられたような不格好な口、痩せぎすの体(少なくとも彼女にはそう見えている)、いつも鏡で見る自分そのものであった。

ひとつだけ違うのは、髪型が普段のストレートではなく、頭の高いところで分けた二つ結びであるというところだけであった。彼女自身、それは弱かった自分自身を思い出し、嫌気が差すものであるため、『あの日』以来その髪型にはしていない。だが今回に限っては、それは懐かしさを感じるものであった。

頭をよぎる懐かしさに、銃口は一瞬だけゆらいだが、それでも彼女の決断は早かった。

「魔法少女の姿をとるなんて、魔女も悪趣味なことをするものね。

 消えなさい」

ベレッタが火を吹く。

鏡が粉々に砕け散る。

それでも何故か、魔女の結界は消える気配がなかった。

「「相変わらず、無駄な行為がお好きなようね。」」

(今度は後ろ!)

刹那の間に後ろを振り向き、再度銃口を向ける。

向けられた相手は、先ほどと変わらず自分の姿のままであった。

「無駄かどうかは、やってみなくては」 

「「分かるのよ。

  私はあなたの写身。

  あなたの旅そのもの

  尽きることなど、無いのだから。」」

銃口がゆらぐ。今度は一瞬では止まらない。

「なんですって?」

魔女(?)の言葉を聞き、思わず聞き返してしまった。

本来であれば、魔女が人語を解すことなどあり得ない。

もし話しかけてきたとしても、聞き入れる必要など一切ない。

理屈ではそう分かっていても、何故かこの魔女の言葉だけは無視することが出来なかった。

にやり

ソレが不気味に微笑む。

「「これを見なさい」」

ソレが両手を天にかざす。すると、今まで頭上にあった鏡の螺旋階段が砕け散り、音もなく目の前へと降ってくる。

「きゃ…」

思わず目を瞑り、頭を守るが、鏡たちが彼女にぶつかることはなかった。

鏡たちは地面の少し手前で静止し、幾重にも縦に並んだあと、ゆっくりと彼女の周囲を回り始めた。

「「これは€回目」」

ソレが話すと同時に、目に見えない手のようなものに首元を掴まれ、無理やり鏡の前に頭を差し出される。

「やめなさい…、離して!」

抵抗のため必死に体をよじるが、見えない手の力は凄まじく、振り払うどころか微動だにすることもできなかった。

それでももがくうち、思わず鏡の中の光景が目に入ってしまう。

そこに写っていたものは、

「…!!」

巨大な魔女がいた。首の無い制服姿をしていて、はだけたスカートからは不釣り合いに大きな脚を覗かせている。

それに立ち向かう五人の魔法少女…。

ばちんっ

鏡の中の映像が突如として消え、別の景色が映し出される。

「「これは£※回目」」

またさっきの魔法少女たちだ。どこかのアパートの一室だろうか。五人で一つのテーブルを囲み、美味しそうなお菓子を食べている。彼女たちの目はきらきらとしていて、暗い表情をしている子など一人もいない。

そうだ。

このころは。

みんなが明日の希望を信じていた…。

ばちんっ

景色が変わる。

「「これは#$@回目」」

雨が降っている。殺風景だが、遠くに崩れたビルがあるあたり、どこかの都市なのだろうか。

中心に少女が二人。

ピンク色のふんわりとしたドレスを着た魔法少女が、もう一人の紫色の魔法少女に抱き抱えられながら、何か囁いている。

……

………やめて

私はこの先を知っている

いや、知っているのではない。

実際に体験している。

もはや彼女の視界は鏡の中の景色を見せられているのではなく、鏡の中の紫色の魔法少女のものとなっていた。

左手に抱き抱えているのは彼女。

右手には拳銃。

(やめて)

彼女の意思とは裏腹に、拳銃がピンク色の魔法少女の頭へと近づいていく。

(やめて)

引き金に指がかかる。

(お願いだから)

鹿目まどかが、私に微笑みかける。

 

ぶつり

 

「私にまどかを殺させないで!」

気づくと彼女は、先ほどまでの鏡の世界にいた。相変わらず首元を凄い力で押さえつけられてはいるが、それ以外は自分の意思で動かせるようだった。

そして目の前には、ソレがいる。

「「これで分かってくれたかしら?

  私はあなたの写身。私はあなたの旅そのもの。

  今のは映像を見せたのではなく、過去を追体験させてあげたの」」

「どうして、そんなことを?」

否定したい!

ソレの話すことだけでなく、ソレの存在を否定してやりたい!

頭で強く思っていても、彼女にはどうしてもそれができなかった。

ソレの言動には、そうさせるだけの真実味と威圧感があったのだ。

「「あなたを救いたいの。

  まどかを救うあなたの旅に、終わりなどないのだから。」」

「何を根拠に!」

「「まだ分からないの?

  私はあなたの写身。私はあなたの旅そのもの。」」

一瞬の静寂。

「「鏡合わせの世界に 終わりなんてない。」」

言葉が出なかった。

もしも

もしもソレの言うことが本当で。

向かい合わせた二枚の鏡を覗き込んだ時のように、私の時間旅行に未来永劫終わりが訪れないのだとしたら?

私のしてきたことの意味は?

いや、そもそも私とは、何なの…?

「「私は私よ。

  私はもう、自分の人生を自分のために生きるべき。」」

気づくとソレは、彼女を後ろから抱きしめ、包み込むような口調で話しかけてきた。

「「そう思っているのは私だけではないわ」」

そう言いながらソレは、ぐにゃぐにゃと形を変え出した。

 

弾けるリボン。精悍な顔つき。

「「暁美さん。あなたは十分にやりきったのよ。

  もう頑張らなくていいの

  あなたという人と一緒に魔法少女をやれたこと、私は誇りに思うわ」」

 

なびくマント。勇敢な表情。

「「あんたは良くやったよ。

  今のまどかがあるのはあんたのおかげさ。

  それに大丈夫だって!なんたって、まどかにはあたしがいるからね〜

  もし死ぬことになっても…まどかには寂しい思い、させないよ。」」

 

天を衝く槍。自信に満ち溢れた眼。

「「あいつならきっと大丈夫さ。

  優しいだけじゃない、芯に強さを持ったやつだった。

  そういう意味では、お前たち二人は似たもの同士なのかもな。」」

 

もはや彼女には、ソレが変えた姿や話す言葉を、虚構だと断ずることが出来なかった。

確信があったのだ。

ソレは過去と未来の自分自身であり、ソレが話す以上、巴マミや美樹さやか、佐倉杏子の言葉は、いつかどこかの世界で自分自身がかけられた言葉であると。

言葉を反芻する。

自分の中で、なんども。なんども。

その度に全身の力が抜けてゆく。

「生まれて…初めてっ…」

「「うん」」

「私を認めてもらえた…」

「「うん」」

「「生まれ…て…!初めて…!」

「「うん」」

「してきたことが、無駄じゃっ…ないって、言ってもらえた…!」

彼女の目からは、涙が止まらなかった。

「もう、いいのかな」

「「…なにが?」」

「まどかのために生きることをやめて、いい…のかな…」

「「いいんだよ。まどかのためではなく、もう自分のために生きようよ。

 全てを放り出して、普通の人生を歩もう。

 私にはその資格がある。」」

そう言葉をかけられた瞬間、目の前がひらけたような感覚がした。

頭にへばりついていた重いものは消え、胸のつかえもすっかりなくなっているようだった。

彼女の心は、もう決まっていた。

「…分かったわ。」

「「! それじゃあ

 

バァン!

 

耳をつんざく轟音。

薬莢がひとつ、彼女の足元へと落ちていく。

「「なん…で…」」

そこには、向こう側が見えるほどの大穴を頭にあけたソレがいた。

いや、ソレだけではない。

発砲した彼女自身の頭にも大穴があいている。

自分ごと撃ち抜いたのだ。

「…けるな」

「「え?」」

「ふざけるな!」

先ほどの発砲音より大きい声量に、初めてソレが驚いた表情を見せる。

「全てを放り出せですって?

 そう考えたことも何度もあった。」

彼女がソレの見えない腕を掴む。

「でも、『これ』は⁉︎

 私の中で叫び続ける『これ』はどうするの⁉︎」

見えない腕が少しずつ押し返される。

「こんなものを抱えたまま、前には進めない…。生きてはいけない!」

見えない腕がミシミシと音をたて始める。

「「そこまで…そこまでいう『これ』とは、いったい…⁉︎」」

彼女は目を見開き、一層大きな声でこう告げる。

「私が私であるというプライドよ!

 まどかは私なの…。

 私の一部はもうまどかなの!

 だから、まどかを忘れて生きるなんて、他の誰が許しても私が許さない。」

「私は、他の誰でもない、私のためにまどかを救う!」

見えない腕が遂にへし折れる。

「「ぐぅうあぁ…。そんな…そんな…」」

ソレが膝をつくと同時に、鏡の世界が崩れ落ちていく。

彼女の体に感覚としての浮遊感が戻り、ソレとの距離が離れていく。

「「おぉ…私よ…。

  暁美ほむらよ…!」」

崩れ落ちる鏡の世界の下敷きになるソレを見ながら、彼女は…暁美ほむらは呟いた。

「さようなら。愛しき私の写身よ。

 もう会うことはないでしょう。」

 

 

気がつくと、視界には天井が広がっていた。

先ほどまでの星が瞬く天井ではない。見慣れた病室の天井である。

(さっきまでのは、夢?

夢にしてはリアルすぎたけれど…。

いえ、これも考えるだけ無駄ね。

だって、)

ほむらはベットから降り、洗面所までの短い距離を歩く。

窓の外には、見慣れた見滝原の街が広がっている。

(だって、どちらにせよ、私のやるべきことは変わらないもの。

私が、そして私の旅が、鏡合わせの世界のように無限に続くのだとするなら。

私は私という鏡を打ち壊してでも。

この旅を、いつか終わりにしてみせる。)

「待っててね、まどか」

頭痛はいつの間にか消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読み頂きありがとうございました。
ほむらの持つ、まどかを救うという気持ち、信念の強さを感じて頂ければ幸いです。
これからも不定期で短編小説をあげていくつもりなので、よかったらお読みください。

また、Twitterにて、@MiNa30Naでまどマギ関連のイラストも投稿しております。
興味のある方は是非どうぞ。


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