大魔女とドラゴン 作:ディアナ
次に目の前に現れた敵は見覚えがあった。しかし、以前に遭遇したときよりも雰囲気が変わっていた。以前よりも格段に風格が増しており、その身体から放たれる絶望のオーラは魔王と呼ぶに相応しいものであった。こいつが今回の騒動の主犯なのだろうか。
「久方ぶりだな。先の礼に参ったぞ。」
低く恐怖心を煽る声でそう言うと同時に攻撃を仕掛けてきた。一瞬で辺りを覆い尽くした絶望のオーラにより私たちは大打撃を受けた。
「卑怯な!」
私は魔王に大声で叫ぶ。仲間のみんなも同じことを思ったのか一斉にに仕留める構えを取っていた。
「魔王に卑怯も何もないわ!」
魔王がそう叫ぶ頃には私たちは一斉に攻撃を始めていた。いくら風格が変わっても私たちの攻撃力になすすべもなく魔王は倒れた。
「ばかなぁぁぁ……!」
「てめぇはホントはしたっぱだろ。」
シェードはそう言うと私たちを回復してくれた。
「まだ、敵がいるということですか?」
私は回復魔法を受けながらシェードに尋ねる。シェードは少し考えてから自分の持つ情報をひとつひとつ教えてくれた。デュークはあくまでも下級の悪魔だという。言わばクラーケンやケルベロスと同格なようだ。そしてこの近辺には蝿の王ベルゼブブや偽りの王メフィストなどが存在するようだ。いま感じられる気配では敵は残り3体と言うことはわかるがどのような敵が来るかは分からないようだ。
メフィストは嘘つきの悪魔と言うだけあって、敵の言うことを信頼してはならないと言っていた。そもそも戦う相手のことを信頼することなんてないはずだが一応気に止めておこう。そして、蝿の王ベルゼブブはとても高い攻撃力を持ち、おまけに毒を持つ眷属を召喚することで辺り一面を毒の海にできるようだ。そうこう話を聞いているうちに敵の気配が近くなってきた。
「そろそろ敵のお出ましのようだな。」
「何が来てもやることは1つです!」
私はみんなの前に立って敵を迎え撃つ構えをとった。遠くから金色のオーラを纏った白髪の悪魔が現れた。その顔は端正に整っていて見るものを魅了するかのようだった。デュークと違い角がなければ本当にその辺りの人間と区別がつかないくらいの雰囲気だ。想像していた姿と違い私が油断しているとイシスさんが私の肩を叩いた。
「あれはメフィストですよ。私も初めて見ましたが……。」
「ぬしよ、やつは本当に敵かや?対話を求めているようじゃぞ?」
「問答無用!やつの言葉に耳を傾けるな!」
シェードはメフィストが口を開く前に魔法攻撃を仕掛けた。その攻撃を受け後ろに引き下がったメフィストが低い声で私たちを見つめながら語りかけてきた。
「俺はメフィスト。貴様らと取引をしたい。貴様らの力はすでに先ほどまでの戦いで証明済みだ。それを見込んでの提案だ。」
「聞くな!だまされるなお前ら!」
シェードは魔法の手を休めずに攻撃をしているが、私たちは手を止めてメフィストの言葉に耳を傾けようとしていた。
「単刀直入に言う。貴様らが俺を見逃してくれればこの軍を撤退させよう。そうすれば、貴様らの守るべき村に再び安寧がもたらされよう。その代わり、デュークの住んでいた城に不可侵条約を結びたい。」
メフィストはシェードの魔法を受けながらも反撃はせずにこちらに語りかけてくる。私たちは顔を見合わせながらどうするべきかそれぞれ悩んでいた。ここでメフィストを逃がせばまた攻めてくるかもしれない。偽りの悪魔だから嘘をついていて、本当に軍を引くとも限らない。しかし、その誠実な態度は信用に値するし、何よりこの後に控えている敵の相手をしなくて済むようになる。それに村も守られるのなら私たちにとってもよい提案なのではないだろうか?
「信じてもらうために3つ数える。その間俺は手を出さない。貴様らに何をされようともな。では行くぞ。」
メフィストは右手をあげて指を3本立てた。そして唱える。
「……3。」
「命令だ、お嬢さん!一斉攻撃だ!!!」
シェードはそう叫ぶと全魔法をメフィストに叩き込む。私もその声に合わせてよくわからないが一斉攻撃を仕掛けた。メフィストよりはシェードを信じた方がよいと判断した。イシスさんもエンラもそれを見て我に返り一斉に魔法を放った。メフィストはそれをすべて受けて倒れこんだ。メフィストを撃退したがなんとも後味の悪い勝利だった。無抵抗の相手に全力攻撃をしかけたのだ。いくら相手が悪魔で、いくら私が魔女だとはいってもあまりにも酷な戦いだった。
私はメフィストの死体を見下ろしながらシェードさんに問いかけた。シェードさんを信頼できなくなっていたからだ。不意打ちや騙し討ちをしてこれから先も戦っていくとしたら、この人とパーティを組むのは嫌だったからだ。
「シェード……どういうことか説明してください。あんまりです。無抵抗の相手に全力攻撃をするだなんて……。」
「ぬしもそう思うかや?!わっちもそうおもいんせん!ぬしさまよ!納得がいくように説明しんせんか!」
エンラも不服なようでシェードの胸ぐらをつかんでいた。
「ぬしさまよ!ぬしさまに初めて挨拶したときから胡散臭い奴とは思いんしたが、よもやここまでとは!」
エンラの怒りをやれやれと言った呆れ顔でシェードは見ていた。そして、少し鼻で笑った。
「やつはメフィスト。虚言の悪魔。騙し討ちなどお手のものというわけだ。俺が指示していなければお嬢さんたちは全滅だったと思うがな。」
「それは本当ですか?それを証明できますか?」
イシスさんはシェードの目を見ながら問いただすように見つめた。
「証明はできない。証明された頃にはお嬢さんたちは死んでいるからな。ただ、そもそも魔王軍を倒すのに情けなどいらんではないか?」
私たちはその言葉に返す言葉もなく黙り込んでしまった。