東雲くんは気付かない 作:レンリ
異世界転移が現実だと気付かない
何の変哲もない、いつもの通りの日常だった。
平日は朝、学校に登校して、友達と話をし、授業を受けて、夕方からは部活動や帰宅、もしくは習い事に行くといった日々が卒業まで繰り返される、そう思っていた。
だが、今日は違った、昼休みが終わる直前まで教室にいた記憶はクラスのみんなにあったがどう見てもここは教室ではないことは一目で分かる。
その印象は『神秘的』という他ない、同時に直感的にここは自分たちがいた世界ではないかと理解した。
『気付きましたか』
巫女装束にベールのようなもので顔を隠している人?がいた。
頭に響くような優しい声、クラスのみんなは綺麗な声だなと思った、しかし、すぐにクラス委員長である田中君がハッとして、
「ここは一体何なんだ!?どうしてここは教室ではない?」
「そ、そうだよ。さっきまで僕たち教室にいたはずなんだけど…え?どういうこと?!」
「夢よね?ちょっと眠たくなって寝てしまったのよ!」
ざわざわとそれぞれの不安や疑問を口にするクラスメイトたち、優等生である田中君や桂君、若葉さん達も例外でもない。
『落ち着いて、今から質問に答えるから』
巫女姿の女性からそう言われると徐々に静かになっていった、不思議とその声を聞くと心が落ち着くのだ。
最初の質問者は田中君、
「俺達はこれからどうなるのですか?」
『貴方達はこれから、そうね、貴方達からすると異世界に飛ばされるでしょう』
「どうして?!」
『原因は私からは何とも言えないわ』
「どうして私達はここにいるの?」
『貴方達がこれから飛ばされる世界で無事に生きられるように手助けするため』
「手助けって?」
『貴方達に適した能力になるモノよ』
「元の世界に帰れるの?」
『可能よ』
それから何人かが質問をし、しばらくすると、
『貴方達からの質問は終わりよ』
「ま、まだ聞きたいことが!」
「お願い!後少しだけ」
何人かのクラスメイトが女性に懇願するが、
『いいえ、ここで貴方達からの質問は終了です。これから能力の欠片を与えます、どうなるのかは貴方達次第になります』
バッサリと切り捨てると、全員に『能力の欠片』というモノを与える。
『それでは』
『能力の欠片』について騒ぎ出す間もなく送り出される。
『……………この状況下でよく寝れますね』
そう、ただ一人、爆睡している我らが東雲を除いて、実は東雲、これまでずっと寝ていたのだ。
これには、女性も驚きあきれている、まさかこの状況下で寝ているとは思ってもみなかったのだ。
『起きなさい』
女性は親切にも軽く肩を揺らしながら声をかけて起こそうとするが、気のせいかより深い眠りに落ちている東雲。
数分後、頬っぺたをふにふにして漸く東雲は気が付いた。
「…夢か」
訂正、まだ気が付いていない、いやでも分からないでもない、起きたら頬っぺたを正体不明の巫女姿の女性にふにふにされていたら夢だと思うだろう、これに関して言えば東雲は悪くない。
『夢じゃないのだけど、間違ってもいないのよね』
「…あー、うーん。まあ、いいや。東雲ミコト、親が女の子の名前しか用意していなかったので、まだ男の子として通じるという訳で『ミコト』って名付けられました」
本当のことだが、普通そこまで言わない、東雲ミコトです、でいいと思うのだけど。
『何というか、マイペースな子ね』
「よく言われます。貴女の名前は?」
『私?私もミコトって名前なのよ』
「へー、巫女の姿って神職系の仕事ですか?」
へーの一言で済ませる当たり反応の薄さが伺える。
因みにいつもはこんな感じではない……………とも言い切れないが、今の東雲はこの状況を明晰夢だと思っている、昼休み中ほぼ寝ていたし、起きたときもアレだったから、何より、こんな非現実的なこと起こるはずないだろう、と思っている。
『神様見習いってところかしら』
「今この状況もお仕事の一環で?」
『……………何というか、貴方が寝ていたから起こったので、どちらかというと仕事が終わったと思ったら仕事がまだ残っていた言うのが正しいかな?』
「?」
『えっと、まず……………』
真面目に東雲の質問に答えようする様子から誠実さからミコトという女性の誠実さが分かる、きっと現代社会なら損するタイプだろう。
何気に東雲ファインプレー、『ミコト』から話させることで質問しないで大量の情報をゲット、そして、クラスメイトのことも把握した。
『これで分かったかしら』
「『貴方からすると異世界に飛ばされる』って言ったけど、ミコトからするとどんな所なの?」
『世界に限りなく近いけど、世界に届かない可能性のある夢かしら』
「なるほど、そこを実像である俺たちが観測者となり、そこを観測することで実在する世界へと昇華されるのか、原因は不明というよりは初めて起こった現象または事故ってところか。結構よくできた夢だな、アレかな、つい最近シュレディンガーについての本を読んだからかな?」
『なんでそんなところには気付いて、これが夢だと気付かないの?』
「えっ、結局今から行く場所も夢なんでしょ?どう転んでも夢じゃん」
『……………』
「?」
『質問はあと一回です。何か質問があれば』
「『ミコト』と連絡を取るにはどうすればいい?」
『そうですね、ではこれを』
「あ、何か不思議な暗号が頭に入り込んできた」
『最初が私のプライベート用の連絡先で、次が職場の連絡先です。一応ここはサポートセンターみたいなところなので』
ちょっと待って、そんなの聞いていないよ!とクラスのみんなが残っていればそう叫んでいただろう。
『それにしても、何でさっきの人達は聞かなかったのでしょうか?私、そんなに頼りないように見えるのでしょうか?』
「委員長たちのこと?あの人達みんな何かしら凄い特技とか持っているから別に大丈夫だと判断したんだと思うよ。まさか、聞き忘れとか無いだろうし」
『そうですか、ここでしか質問ができないと思っていたような感じがしたのでちょっと心配だったんです。念のため、貴方に渡したのとは別な手段での連絡方法を渡しておいたのですけどちょっと過保護でしたね』
東雲と『ミコト』、その委員長たちがここに連絡を取れないと思っていることに気付いていない。
東雲はその他に世界の深淵に関わる情報とか何気に得ているが、結構重要な情報だと気づいていない、ここに第三者が居ればまた違っただろう。
『それでは『能力の欠片』は与えてありますので、後は送り出すだけです』
「『能力の欠片』……………触媒っぽい感じがするけど『能力を発現させる能力の欠片ほどのモノ』ってところかな、流石に違うか」
『……………さとり妖怪か何かですか』
「えっ、いや適当に言っただけなんだけど。自分でもネーミングセンス無いなと思ったらくらいなんだけど」
『上司に報告しておきます』
「もしかしてこの名前付けたのって上司?」
『質問はもう受付しておりません』
「えー」
『今度はしっかりと起きていてくださいね。どうやら私を認識していないとちゃんと送り出せないようなので……………それではお気を付けて』
「OK!TRPG的な夢の世界でも楽しんで来るよ!」
東雲、最後の最後によく分からない宣言をして旅立った。
これには『ミコト』も困惑。
『何がどうなってそうなったのでしょうか?』
異世界転移が現実だと気付かない、最後まで夢だと思い込んでいる東雲であった。
東雲くんの最後の発言の意味
最初から夢だと思い込む→話を聞いてどこかで聞いた設定だと思う→TRPGにそんなのあったな→つまりTRPG的な夢の世界なんだな!
ということです。
昨日見たら思いのほか評価が高く、驚いています。これから、不定期になるかもしれませんが投稿していきたい思いますのでよろしくお願いいたします。