東雲くんは気付かない   作:レンリ

5 / 5
 明けましておめでとうございます。
今回から名前(■■■■■に気付かない)を変えてみました。



師匠と帰還

 □迷宮都市シルド

 

 

 東雲は今日、自身の魔法の師の所へ来ていた。

 そこは呪われてると言っても過言ではないほど憂鬱な雰囲気を発していて、普通の人なら視界に入れることさえ嫌い、慣れているシルドの住人でもあまり近寄りがたい屋敷であった。

 

「失礼しまーす!」

 

 が、東雲は全く気にせずに入り込む、本来ならば侵入者用の迎撃システム(罠魔法)は歓迎するのだが東雲は弟子として登録されているのでそんなことはない、余談だが迎撃システムに殺傷能力は皆無だが精神的にかなりのダメージを負う、酷い風邪のような呪いに罹るといった陰湿なもの。

 外見と裏腹に意外と綺麗な屋敷内をすいすいと進み目的の部屋の前に到着する。

 扉を壊れない程度に強く叩きながら部屋の主に声を掛ける。

 

「師匠!東雲でーす!」

「遅いぞ!さっさと入らんか!」

「はーい!」

 

 そこには、腰を痛めたのかベッドで横になっている老人がいた、手元に眼鏡が置いてあることから普段は眼鏡をかけているのが分かる。

 ぱっと見近所に居そうなご老人なのだが東雲の魔法の師である。

 

「それで師匠大丈夫なの?ぎっくり腰」

「これを見て大丈夫に思うか?」

「え、どこを?」

「この状況だ!気付け!」

 

 この爺さん元気だろ、と思うがよくよく見るとぷるぷると震えていることから痛いのを我慢しているのだろう……………だったら騒がなければいいのに。

 

「結局のところどれくらいで治るの?長引くなら観念してお手伝いさん雇えばいいのに。お金もあるんでしょ」

「信用ならん者をこの屋敷に入れる訳なかろう」

「ん?俺の場合はどうなの?弟子入り即許可されたけど」

「それはそれだ!」

「はあ、結局、今日はどんな用事で?なんか手紙には『来い』としか書いていませんでしたが。まさかぎっくり腰を治せって訳じゃないでしょうね?」

「腰は自前の魔法で一日でもあれば治る。しかし、一日しなければ治らないという訳だ。師匠からの命令だ、そこにやることが書いてあることをさっさとやれ」

 

 そこには屋敷の掃除などの家事についてが書いてあった、この爺さん、横暴というか何というか、かなり性格に難がある人である。

 我慢強い人でも普通なら顔に出なくても内心激怒しているだろう、この爺さんについていけるのはよっぽどな聖人か、

 

「いつもの修業ですね。行ってきます!」

 

 この様に、そもそも横暴だと気付かずにいる東雲ような人だけだろう。

 実際に東雲は、

 

(この雑用も全て何かに繋がるはず。実際に魔法も上達したから今回も何か伝えるためにわざわざぎっくり腰の演技をして!)

 

 と、内心こう思っている。

 いや、お前の師匠は気付いていないだけで本当にぎっくり腰だから。

 そんなこんなで、時間は過ぎてお昼時、東雲は師匠が寝ている部屋以外の屋敷の掃除を全て終わらせて昼食を作り師匠の所へやって来た。

 

「師匠、入りますよ」

「ん?もうそんな時間か」

 

 どうやら研究に関する本を読んでいたようで、今は眼鏡をかけていた。

 

「で?どこまで進んだ?」

「掃除は後この部屋だけですよ。一応病人(という設定)なんですからおとなしくしていてください。にしても機嫌がいいですね」

「ああ、聞いて驚け!なんと、あの古代の大賢者シルドの魔法の解析がまた一つできたのだ!」

「あの字の汚い本の著者ですか」

 

 実際に癖があり、文字も古いこともあって解読には相当苦労する。

 

「お前は本当に…。話は変わるが、あの連中がこの街からお前を置いてどこかへ行ったというのは本当か?」

「委員長たちですか?(遠征に行ったので)まあ、はい。それにしても相変わらず委員長たちが嫌いなんですね」

「当たり前だ、あれは全魔術師を侮辱するような魔法を使いおって!」

 

 怒りながらも東雲が作った料理を食べる。

 文句も言わずに完食していることから東雲の家事スキルの高さが伺える、東雲の家事スキルはここで鍛えられたと言っても過言でもない。

 

「実際に使っているから何となく分かりますけど、委員長たちの魔法ってほとんど『能力』、師匠的に言うと『ギフト』のようなものですからね」

「あれはダメだ。あれならまだ王都で生きているあのクソ爺の方がまだマシだ」

「へー、そう言えば解析し終わった魔法は何ですか?」

 

 すると、さっきまでの不機嫌な表情とは一変してご機嫌な様子で話始める。

 まあ、不機嫌になるような話題を振ったのは東雲だが。

 

「何でも【帰還】の上位魔法、次元が異なっている場所でも元の場所に帰す魔法だな。使用例としては、異世界から召喚されたバケモノを帰すというところか。そもそも時間経過で召喚獣は帰還するからよっぽどのバケモノを一刻も早く退場させたい時くらいにしか使えんな」

 

 え、それって元の世界に帰還できる魔法では?

 

「んー、個人的には『夢』から覚める魔法が欲しいです師匠」

 

 しかし、東雲はこの世界を『夢』だと思っていて、元の世界に戻るにはこの『(世界)』から覚める必要があると考えているから、その興味がない。

 

「どうしてその魔法なんだ?」

「委員長たちも探している魔法なので」

 

 この街に来た目的もそれですからと、答えた。

 本人たちが居れば違うと否定しただろう、彼らはここを『夢』とは思っていない完全な異世界だと思っている。

 すると、師匠はニヤリと邪悪に嗤った、それに対して珍しくドン引きする東雲。

 そうかそうか、と呟きながら東雲にある研究資料をここに持ってくるように命令して、まだ嗤っている。

 

「持ってきましたけど」

 

 東雲はNo.43と付けられた資料を持って来た。

 それを受け取るとペラペラとページを捲り、中身を確認すると再び東雲に渡して、

 

「お前にやる。持っていけ」

 

 と、一言。

 

「え、これって師匠の研究資料じゃ」

「なに、師匠から弟子へのプレゼントだ。ついでにさっき解読し終わったこれも渡しておく。同じカテゴリーだからな」

 

 未だに邪悪な笑みを浮かべたまま言われても説得力は皆無だが、東雲は多少疑問を覚えたものの受け取った。

 そして、今日はもういいぞ、と言われて東雲は帰宅した。

 珍しく東雲はペースを崩された日であった、帰り際に、

 

「これであの連中も…ふふ、ざまあみろ」

 

 と、師匠が呟いていたのをいつもの通り、東雲は気付かなかった。

 

 その後、渡された(プレゼントされた)資料は結局のところ専門用語が多く、弟子入りして半年も経っていない東雲には分からず、暫く自室の本棚に並ぶことになる。

 状況から受け取った資料にはどんな魔法が入っているのかは推測可能だったのだが、いつもの通りの東雲だった、とだけ言っておこう。

 

 

 意図せずに二つの帰還方法を手に入れたことと、師匠の意図に気付かない東雲であった。

 

 

 




 東雲くん、頭は良い方だが周りが凄すぎて、あまり頭が良いとは思っていない。今回の資料も半年もしたら理解できるようになるよ。


 今月から来月まで忙しいので更新は厳しくなります。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。