クリムゾンスタンピート   作:たまねちゃん

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契約

 だから、俺が悪いことはよく分かっている……つもりだ。

 仕事がいやなわけではない、人間関係を当たり障り無く継続することが出来ないだけだ、それが言い訳だとは泣きたいほど分かっている。

 今日も何となくバイトが嫌になって、バックれて、なけなしの三千円をパチンコに投資して……負けた。

 あの野郎が悪い、他人の詮索をするくらいなら金を貰ってるんだから黙って手だけ動かしていればいいんだ。

 分かっている、俺が悪いんだ。あんな会話で何を真面目に答えようと思ったのか『好きな女はいるか』『どんな女が好みか』当たり前なたった二つの問いに、俺はうわずって、変な裏声になってしまった、昨日のことだ。

 行く当てもなく、こうして見知った通りを歩く、ただ家から一歩でも離れたい、そう強く望んでも、日が暮れて一時間としない内に俺はあの玄関を開けて、親の哀れみとも諦めともつかない顔を見ることになる。それが分かってて、でもまだ歩いていたかった。

 誰か、こんな欠陥品の俺を、まだどうにかなると、どうしようもなく騙してほしい。

 

 無言の帰宅、この間のバイトを辞めたとは言えない、週末にはまた黙って親の財布から金を盗むと思うと、もう死んだ方がいいんじゃないのかと思う、いや思わなくても百人に聞けば百人死ねと言われるだろう。俺は死ねばいいのに。

 食卓に着く、おかずは焼き鮭だった三日前に安売りしていた物を大量に購入したせいで三食焼き鮭だった。でも文句をいう資格も無く黙って口に運ぶ。

 パサパサだ、俺のかーちゃんは肉関係はこれでもかと言うほど火を通したがる、まるで干物だ。でも文句を言う資格はない。ああクソッ、口の中がパサパサだ、塩っ気が多いんだ、ご飯が進むけど、口の中が砂漠だ。

「あんたコレ、サインしておいたから」

 そう母親が醤油の飛沫で汚れた紙を俺に差し出した。署名欄に親の文字で俺の名前が書かれて、親の判子で印可されていた。領収書の様だった。「何か頼んでたっけ?」色々と予約している物があるから心当たりは多い。

「洗濯で忙しかったから適当にやっといたけど、まったく稼がない癖に通販ばっかりやって、いつまでもバイトで大丈夫なの?」

 多分ダメだろう。ハローワークで真っ白のエントリーシートと三時間向き合い、自分の中身のなさには裏付けがなされている。

「うん……いや、大丈夫」

 今日初めての会話だった。当然『何』が大丈夫なのか、分かっていない事を分かっていない。

 こうして逃げ続けて、いつか本当に破綻するまで大丈夫だと言い続けるのか。多分破綻しても大丈夫って言ってるんだろう。

 俺はとっとと飯を平らげると、部屋に逃げ込んだ。俺の心情と同じくゴミが散乱する薄汚れた部屋だ。こんな空間が一番落ち着くのだから俺はゴミなのだろう。

 今パソコンを付けると、明日の朝までまた無駄な時間を過ごすだろう、そしてそのまま眠ってそのまま明後日まで引きずって無駄な時間を無駄に潰すだろう。

 やめよう、少しでもどうにか良い方向へ変わらないと、本当に取り返しが付かなくなる、ダメだ、今日はやめよう。

 

 日の出を迎えて「だからダメなんだろうな」と思い知らされる。意志が弱いんだ。何万回目の同じ言い訳だろう、俺のこんな思いを口に出したところで、聞き入れる人は世界に一人もいないだろう。

 まったく、俺は何回同じスレッドを更新すれば気が済むんだ?

 スレッドタイトルは『誕生日に妹に告白された件について』。誰も書き込まないスレッドを何度も何度も、誰か面白い事を書いてくれないか、誰か流れを変えてくれないか、スレッド主は帰ってこないか、馬鹿馬鹿しい、俺が一番馬鹿馬鹿しい。

「眠い、寝よう」

 

 ドシンという物音で目が覚めた、工事でもしているのか? カーテン越しに外を見ると光りの加減から昼頃だろう。こんな暑い中工事の人は大変だ。

 視点の定まらないまま階段を下りる、腹が減った。

「チッ、これが資本主義特有の堕落人種か、我が祖国の共産主義では考えられない醜態だ、何もせずに昼時まで寝ているとは何事だ!!」

 聞き慣れない、少年の様な声だった。

「同志春子よ、我が子可愛さも分かるが、愛しているからこその厳しさもある」

 ぼやけた視界に赤い服を着た誰かが近づいてくる。

「気合いを入れろ!!」

 大声と同時に腹に衝撃が入った。俺は膝から落ちると、誰かの声が降ってきた。

「目は覚めたか! どうだ答えろ! それともまだ足りないのか?」

 いきなりなんだ、暴力はいけない。言い返してやろうとか、逃げようという考えは浮かぶが、やり返そうとは脳裏に浮かばなかった。

「す……すいませぇん、だいじょうぶです」

 掠れた声で何とか吐き出した。

「フンッ、軟弱な」

 鼻で笑い飛ばされ、汚い便器に唾を吐き捨てる様に言われた。うう、傷付くなぁ。

「誠二、この子が今日からこの家にホームステイするから、よろしくするんだよ」

 かーちゃんの声が、気のせいか随分遠くからした様だった。殴られた部分はスルーですか。フラフラと立ち上がりさっきの言葉を反芻する、ホームステイ……ホームステイ。

「ホームステイって何?」

「だから、この子が家に住むんだよ、根性なしのあんたの事だから心配してないけど、変な事するんじゃないよ」ケラケラと笑って言って。「殺されるよ」一つトーンを落として言われた。なかなか穏やかじゃない雰囲気だけど、生憎俺は男に手を出す趣味は今のところ無い。

 このまま彼女が出来なければ別に彼氏でもいいかな、痛いのは最初だけともいうし、うう、タチよりネコの方を最初に想定してしまうってことは、俺の役割は家事洗濯か。

「そういう事だ、同志誠二よ、祖国の名は機密だが、私は参謀本部情報調査機関所属、オリガ・ザラフィアンツだ」

 言って、オリガは手を差し出した。歴史の教科書に出て来るようなドイツ軍かロシア軍の雰囲気の制服に身を包んでいた。よく見ると制服の胸元が膨らんでいる、そうか女だったのか。

 肌は白く、黒髪を頭の後ろで纏め、切れ長の厳しい目元は青い瞳が浮かんでいる。可愛いという単語からは旅に出て、綺麗を飛び越えて怖い感じだ。

 俺よりも頭二つ分も小さい、こんな女に殴り倒されたのか、俺がゆっくり手を出すと、早速掴んで上下に振った。

「一応忠告しておくが、私の事は女として扱わなくて結構だ。むしろお前みたいな者に気を遣われては、私のプライドがとても傷つく」

「はあ」

 気の抜けた声が出た。元気な人だ。寝起きで何を言っているのかよく分からないけど、とりあえず知らない人が目の前にいるんだな、もうそれでいいや。

「かーちゃん、まだ眠いから部屋戻るわ」

 すると襟首を捕まれて引き倒された。

「我が祖国に働かない権利はない、同志誠二よ、母からお前の面倒を見るように言われている。木を数える仕事が本望でなければ、身の振り方を改めるんだな」

 だから暴力はいけない。俺は目をそらせて勇気を振り絞って抗議した、さすがにこの扱いは酷すぎる、どうして働かないだけで文句をいわれなきゃいけないんだ。誰にも迷惑をかけていない俺の自由だろ。

「か……かか関係ないだろおおう? それ…れに、俺はききも、君の同志になった覚えはな、ない」

 オリガは胸元から小さい紙を取り出して俺に見せた。

「ではこれは誰の名前だ? この党員志望者の欄にお前のサインがあるだろう」

 初めて見るぞそんな物、と思ったが、アマゾンの領収書に似ている。かーちゃん!! 昨日のサインか!

「日本での長期滞在は費用がかさむのでな、有志を募り協力を仰ぐことにしたのだ」

 詐欺じゃないか、ひどい。

「ちなみにぃ、この紙の隅にきっちりと記載してある一文をお忘れ無く『三年以内の脱党は違約金五万米国ドルを支払う』とあるからなぁ」

「サインするときはちゃんと見なさいって、あれほど言ってもこれなんだから」

 と、かーちゃんがつぶやいた。すげぇ、俺に責任が飛んできた。

「さぁ、同志誠二よ寝ている暇は無いぞ、共産主義者ならば『自分の物は党の物、党の物は党の物』精神だ、しっかり働いて我が党の為に尽くすのだ。資本主義者の豚共から金という金を資本という資本を吸い上げ堕落の深淵に突き落とし、いかに連中の認識が愚かだったのか思い知らせてやるのだ」

 言ってオリガは高笑いを上げた。

 そしてぴたりと笑いを止めて「それでだ、職安とやらはどこだ?」逃れられそうになかった。

 先週入り口まで行ったハロワにまた行かなければならないのか、いや下手な言い訳をして機嫌を損ねたらその方が恐い。残念なことに外に着ていく服の洗濯は終わっていたのだ。俺は仕方なく、嫌々ながらハロワに向かうことにした。

 もう何度も往復した道。行く時は重苦しく、戻る時は焦りで浮き足立つ、そんな記憶が体に染み付いていて、早速オリガに遅いと怒られてしまった。

 ハロワは相変わらず今日も大盛況だった。老若男女、入りきらないほど集まっていた。遠巻きに見ていてもタバコの匂いが鼻につく、みんなタバコを買う金はあるらしい。

 オリガは怪訝な表情を浮かべた。

「この国の職安は炊き出しでもあるのか?」んなわけあるかい、と心で突っ込んで無視した。

「いいかよく見ておくのだ同志誠二よ、資本主義というのは資本家が金を稼ぐ自由はあるが、労働者が自由になる権利はないのだ。だから利益追求の果てに、労働力は人件費の安い諸外国へ流れ、人件費の高いこの国では、こうして仕事からあぶれる者が大量に出てしまう」

 よく分からないんだけど、オリガは共産主義者なんだよな、共産主義っていうと赤い色の旗ってイメージしかないけど、なんで赤いんだったっけ、学校の先生は粛正の色だとか言ってたかな。

 オリガは続けていた。

「このようにゴミの山から拾ってきた衣服に身を包み、何ヶ月も体も洗えず、飯場の片隅で残飯を漁り、通行人に哀れみを乞う毎日だ!!」

 何を言っているんだお前は! 確かに十人に一人くらいは該当しそうな風貌の方は目に付きますけど、それはハゲに向かってハゲという様な失礼な言い方だ。

 嫌な視線を感じる。俺たちはすでに並んでいる方々のハートを掴んでいたようだ。凄い睨まれている、物理的に影響が出てもおかしくないほどに。

「だから、そう、私は拝金主義を資本主義を憎んでいるのだ!!」

 なんでここで叫ぶんですかお嬢さん、握り拳なんか作っちゃって、勘弁してください。

「えーっと、すいませんオリガさん。ちょっと黙ってて下さい、お願いします、すいません、すいません、すいません」

 小さく、でも俺の真剣な重いが伝わったのか、慌てて恥ずかしそうに周りを見回して俯いた。

「すまない、興奮してしまった。私が危険思想の持ち主だと気付かれないように注意してくれたのだな」

 危険思想ではなく危ない人止まりだから大丈夫だろう、この間駅前で知らないおじさんも大声で政府は爬虫人類に支配されているとか大声で演説してたし。

 ハローワークには半年前に登録しておいたんだけど、こうして探すのは久しぶりだった。とりあえず検索用パソコンの番号の書かれた紙を貰う。うーむ、満席じゃないか、もう一度番号を確認すると、隅っこのパソコンだった。

 オリガは興味津々といった様子で俺の後ろに付いてきた。俺は特に相手もせずに、椅子に座ってパソコンに条件を入力した。

 年齢19歳、専門学校卒業、資格……特に無し、いや自動車免許(AT限定)があった。まぁ田舎だから持ってないと動けないからな。

 試しに条件に正社員を入れて検索すると二、三件あった。年間の休みが95日で月給12万賞与無しとかそんな感じの物しかなかった。あとは派遣とパート、要資格? パートなのに……マジかよ。

 俺の脳裏に「詰み」の二文字が浮かんだ。ああ現実なんて知りたくなかった。何か特別な目標があるわけでもない、何か取り柄があるわけでもない、こんな中身も外見もスッカラカンの俺は、これ以上社会に迷惑を掛ける前に自己処理した方が良い。

「この国の生活水準からすると、随分買い叩かれているな」オリガが顎に手を当てて感慨深そうに言った。

「職歴とか資格が無ければこんなもんですよ、会社も金も時間も無いから、人を育てる余裕が無いんですよ」

 オリガはいぶかしげに眉をひそめた。

「人を育てずして国の繁栄があるのか? それが世界有数の先進国である日本の方針なのか?」

「難しいことは分からないけど、人並みに稼げる仕事を、俺が掴めないのが現実です」

 そりゃあ定職に就いた方がいいけど、特に目標も持たずに流されるまま生きてきたんだから、良いも悪いもこの今を受け入れるしか無いじゃないか。それくらい開き直らなきゃ、これからの人生の責任なんか背負えないよ。

「でも、こんな田舎じゃあ仕事があるだけまだ良いって話ですけどね」喉が乾燥して上手くしゃべれなくなる。愛想笑いも出来やしない。

「働きたいか、誠二よ」

 オリガは何気なく問いかけた。改めて言葉で聞くと、返答に困った。俺がこうしてハローワークに登録したのも、別に働きたいわけではないのだ。生きるために必要だと教わったからだ。

 しかし、働かなくても俺は親の金でいきていられる。少なくとも今は。

 俺は働きたいのか「多分働きたくはない」オリガは腕を組むと「そう言うと思っていたぞ」と呆れ顔で笑い飛ばした。

 特に目ぼしい情報も無かったから、俺たちはハローワークを後にした。

「確かに」足取りの重い俺にオリガは言った。「金さえあれば労働から解放される、そこまで行かなくともモラトリアムをある程度得る事も可能だ。まったく、資本主義特有の病気だな」

「金があれば俺だって遊んで暮らしたいですよ」

「遊んでばかりでは人生は閉じるだけだぞ同志誠二、私の靴のマイスターは言っていた。『靴底を張り替えただけ人生は厚くなる』とな」

「そうは言ってもあんな仕事なんか……」思い出す求人情報、最低賃金のオンパレード。バイトもろくに続かない、それ以前にコミュニケーションもおぼつかない。

「朝起きて労働力を社会に提供して代価を受ける、そして家に帰り家族と食事を楽しむ、そういう当たり前の日々に変わるだけだ」

 オリガのそれはネットで見る話と全然違う。

 朝は飯を食う時間も無く五時に起きて六時に出勤。昼休みも半分以上は仕事で潰れる。定時で帰れることはなくて夜中の三時くらいまで残業して、そこから帰って家に着くのは四時。その後風呂に入ったりで五時に寝る。酷い時は残業が翌朝七時八時になることもある。

 月の残業時間は三百時間とも五百時間とも言われている。一説にはとある飲食店では千時間の残業も確認されたらしい。

 有給は当然取れず先輩は次々と精神か体を壊して病院行き。元気だった同期も最近は睡眠薬を飲んでいて顔色も悪い。

 業績が悪ければ社員全員の前で全裸土下座、安い給料の半分は迷惑金と言って会社に取り上げられる。営業回りはホモの客先で性的奉仕を強要される。

 オリガは知らないんだ、働くって事がどれ程超人的な資質を要求されるかを。

「どうしたのだ同志誠二? 難しい顔をして。手始めに明日から簡単な仕事を紹介してやろう、これでも我らは各国にコネクションがあるのだ」

 簡単な仕事……だと? 俺は耳を疑った。

 世間一般の『簡単な仕事』。仕様書と古いパソコン(CPUがペンティアム以前、HDDが16MB)を渡されて明日七時の納期までに新製品の組み込みソフトウェアを作るとか、金属加工で十万分の一の精度出すとか、十メートルを超える製品を十分の一ミリの傷も付けずに組み上げるとか、そんな話だ。

 一体オリガは俺にどんな仕事をやらせようというのだ、恐ろしくなってきた。

「風邪でも引いたのか? 急に震えだしたりして、それに顔も青白くなって来たぞ?」

 俺が普通に社会で出ようなんて思ったのが間違っていたんだ。

 仕事をしたくない、俺には仕事をする才能がない。それらの材料を合わせると、俺は働かない生き方で正解だと確信できる。

 今ならハッキリと自分の意思で自分の言葉で自分の本心が言える。

「分かりましたオリガさん。俺、一生働きません! でも精一杯譲歩してハローワークには行き続けます!」

 俺の気持ちが伝わったのか、オリガは立ち止まり目を閉じてうつむいた。世の中には色んな生き方がある、勝負で勝つ人負ける人、そして勝負をしない人! 俺は戦わない、だから負けない、勝てない。とても素晴らしい選択だ。

「オラァアアアア!!」

 側頭部に衝撃が走り、体ごと吹っ飛ばされた。俺を襲ったのが拳か足かは分からないが、恐ろしく速く、重く、鋭い一撃だというのは実感出来た。

「どういう思考回路だお前は! 嫌なら嫌でも言い方というものがあるだろう! 私の言葉を理解できないのか? または私の日本語の文法に致命的な間違いでもあったのか?」

「文法は合ってます、大丈夫です、保障します」

「ではお前の頭の中身がポンコツなのだな、礼儀を知らぬ者には共産圏特有の修理方を実践してやろう」

 叩いて直すアレだと直感した、昔映画で見たことがある。

「ちょっと待って下さい、痛いのはやめて。ハローワークには行きます、就活はします」

 先ほどと逆の側頭部に蹴りが入った。

「まだ直っていないなぁ、おかしいなぁ……」目が据わり始めた、いけない、もっと痛いのが来る!

 考えろ、ご機嫌を取る方法を考えろ、オリガは働けと言ったんだな、多分言ったと思う、言った様な気がする? でも俺は働きたくない、平行線だ。しかし平行線だと俺の息の根が止まる。でも『働きたい』と言ったら、俺の働きたくない思いはどうなるんだ?

 式にして考えてみよう。

 働きたくない=痛い=嫌だ。

 痛くない=働く=嫌だ。

 痛い=嫌だ=働く。なるほど、どう転んでも嫌なのは変わらないんだ。

 でも待てよ、働きたくない=痛くない、という可能性もあるんじゃ……と、オリガの目が鈍く光りだした、ヤバイ。

「ごめんなさい! 働きます、頑張って仕事します! せてくださいお願いします! なんでもしますから!!」

 我ながら全力の平謝りだ、腰は見事に四十五度に傾いている。

「ん? なんでもするのだな、本当になんでもするのだな」オリガは意味ありげに薄笑いを浮かべた。確実に妙な企みを持っているが、俺は頭を下げるしかない。

「はい、なんでもします!」世の中にこうやって頭を下げるだけの仕事があれば、俺は即戦力でエースを張れる自身がある。

 オリガは何かを確信して、いよいよ悪事を成就させた悪魔の様に笑った。

 変な話だがこの時のオリガは素直に可愛いと思った。

 

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