祟神 旺里は魔王である   作:暗愚魯鈍

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初めまして暗愚魯鈍と申します。個人的に勇者であるシリーズの中で一番好きなキャラは風先輩と樹ちゃんです。全員可愛いけどこの二人が推しです。二人がヒロインな作品を描きたいな〜と考え、ならゆゆゆと相性が良さげなカンピオーネ!とクロスオーバーさせようと考えました。

もし分からないところがあれば教えてください、誤字脱字の報告も是非教えてください。ゆゆゆとカンピオーネ!の魅力を伝えられる様に頑張ります!後、屍姫はマイナーだけど凄く面白いからもし機会があれば検索してみてください

ではまずは序章とかプロローグみたいな感じの話をどうぞ


魔王と勇者達の邂逅

視界一面が火で覆われていた。そこは戦いと殺戮の跡地だった。つい先程まで二柱の神が戦っていたとはとても思えぬ程静かだった。

 

この地の名は讃岐国…後に香川と呼ばれる土地の中央にある地…かつてかの大英雄 源義経が平氏を打ち破った屋島の戦いが有名な地だ。奇しくも当時の戦乱を再現するかの様な神同士の戦がこの場所で起こったのだ。

 

一柱は四国の守護神にして日本最大の怨霊神である大魔縁。もう一柱は天狗と呼ばれ歌唄う太陽神の末裔。そして大魔縁率いる八つの首持つ大蛇、弓持つ《鋼》の従属神、九本の尾持つ妖狐、大群なす屍の兵士達。天狗が率いる《鋼》の英雄と武士達。その者達が屋島の戦いを超える神話の如き戦場を作り上げていたのだ。

 

だが、その神々と眷属達はもういない。天狗は四国を去り、大魔縁は人の子の手で殺逆された(・・・・・)。故にこの地は静寂で包まれていた。

 

 

そんな地に一人の少年がただ立ち尽くす。その少年の衣服はボロ切れの様に引き裂かれ、血で汚れていた。光を失った黒曜石の様な瞳はただ涙を流すのみで、何もない空間を眺めていた。

 

「あ……あぁ……」

 

少年は守れなかった。家族も、友人も、仲間も、人々も、師匠も。誰も助けられなかった。なのに自分だけ生き残ってしまった。自らの師を殺め(・・・・・・・)神殺(・・)しの獣(・・・)となる事で生き延びてしまった。

 

「あああぁぁ……あああぁぁぁぁぁ……!」

 

自分が守ると誓った姉と妹を、自分達家族を引き取ってくれた院長を、自分を兄の様に慕ってくれた幼い子供達を、自分達を受け入れ優しく接してくれた人々を、そして自分に呪術を教えてくれた師匠を…彼は守れなかった。

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁ………!!」

 

師匠は彼が殺した。彼がその右手に握る血塗られた黒き彎刀…スサノオ、ヤマトタケルと名だたる鋼の英傑が振るった武器たる神剣 天叢雲剣で。その胸を裂き、その命を絶ったのだ。

 

「ああアああアアぁァァァぁァぁぁぁーーー!!」

 

守ると誓った者を守れず、自分を我が子に接してくれた()をその手で殺し、師を狂わした神を殺し損ねた。ああ、これを喜劇と言わず何という?

 

「あア"ああ"あああア"アアあああ"ぁぁァぁぁ"ぁぁァァァ"ぁぁぁァぁぁぁァァぁーーー!!!」

 

悔恨と怨嗟と憤激と妄執と悲哀と憎悪と絶望。それらが混ざり合った呪詛の如き獣の咆哮。それが神を殺し神を殺す事を天命とし新たに生を受けた獣の第一声であった。

 

「あああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ア"ア"ア"ア"アあアああアアアああ"あ"ア"ア"ア"あ"ア"あ"あ"ア"ア"アアアアあああああぁァぁぁ"ァーーーー!!!!」

 

(少年)咆哮した(叫んだ)。何故、何故、何故。家族は、孤児院の仲間は、町の人達は、何の罪もない人達が死ななければ、師匠を殺さねばならなかったのか?

 

「……………す」

 

答えは決まっている。神だ。神話から抜け出し、つまらぬ理由で人を殺す神を語る偽りの神。それがこの美しい世界に存在しているからだ。この世という美しい一枚の絵を汚す汚物。それがまつろわぬ神()である。

 

「……す……ろす」

 

少年は呪詛を呟く様に口を開いた。

 

「殺す……殺してやる!」

 

それは憎悪だった。神々への、運命への呪いたる言霊。日本に誕生した魔王…否、魔縁は誓う、自分から全てを奪った神に、そんな神の存在を許す世界と運命を呪うと。そして必ず殺すと。

 

後に彼はこう呼ばれる。倭国(日本)神殺し(カンピオーネ)、神殺しの魔王(魔縁)、屍の王、闇の太陽…そして祟神魔縁(すがみまえん)と。

 

 

 

【グリニッジの賢人議会によって作成された祟神 旺里についての調査報告より抜粋】

 

祟神 旺里(すがみ おうり)は日本で最初に誕生したカンピオーネである。18世紀中頃にまつろわぬ崇徳院を殺害し神殺しになったと推測されます。祟神 旺里はかの狼王 ヴォバン侯爵と並ぶ古参の魔王にしてサーシャ・デヤンスタール・ヴォバン(以下、ヴォバン侯爵)の盟友である。戯れで命を奪う暴虐無人の魔王と民衆を守護し善行を重んじる魔王。性格、性質共に真反対であるにも関わらず、友人関係を築いている。他にもアレクサンドリアのカンピオーネであるアイーシャ夫人や同じ日本出身のカンピオーネ 草薙護堂(くさなぎ ごどう)とは義兄妹の契りを交わしている。逆に中華の魔王 羅濠(らごう)教主との仲は最悪のようで出会う度に殺し合いを始め、その度に山や土地が全壊している。黒王子(ブラックプリンス) アレクサンドル・ガスコインや冥王 ジョン・プルートー・スミス、剣の王 サルバトーレ・ドニとは仕事の連絡を取り合う程信用はしている模様。

 

祟神 旺里は他のカンピオーネと違い、まつろわぬ神や同族との交戦で破壊した建物や土地を修復し、魔術結社に自らが作製した魔道具の売却を行うなどの異質な行動をしており、また民衆を保護する権能を持ち合わせている為、かの王が戦った際の人的被害は無いに等しい。これらの点を踏まえ、祟神 旺里は草薙王と同じ守護者の性質を持つカンピオーネなのだと推察出来る。

 

祟神 旺里が最初に殺害したのは日本の大魔縁にして怨霊神、そして祟神王の出身地である四国の守護神たる崇徳院(すとくいん)と推測される。

 

崇徳院は太陽神の末裔にして黄金の鳶の翼持つ天狗の王、日本最大の怨霊神とされ日本に本当に実在した人物が神格化され神となった存在である。

 

鳥羽上皇の第一子であり、天皇になったのにも関わらず、実権は鳥羽上皇に握られ、実父たる鳥羽上皇に疎んじられていた為、天皇の位を近衛天皇に譲渡され、上皇となった後も政治に関われなかったとされる(一説によると崇徳院は鳥羽院の子ではなく、待賢門院と白河院との子であったという説がある。そのため鳥羽院は崇徳院を嫌い、「叔父子」と呼んだとされる)

 

鳥羽院が崩御した後も崇徳院は遺言により見舞いすら許されず、崇徳院は実権を手にするべく挙兵を決断し後白河帝と崇徳院に日の本を二分にした保元の乱を起こす。だが、一晩にして崇徳院は敗れ讃岐に流刑となったとされる。

 

崇徳院は流刑先の讃岐ではその高貴と智恵により善政を築き、讃岐の民より慕われていたとされる。そこで己の罪を悔い、反省の印として五部大乗経を写経し後白河天皇に送ったが、後白河天皇からは一方的に呪いと疑われ送り返された事で崇徳院は憤慨し、怒りのあまり舌を噛み切ってその血を混ぜた墨で五部大乗経に「日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん」と書いたとされる。そして崇徳院は生きながら天狗となり、後に安元の大火などの厄災を起こしたとされ、菅原道真と同じく怨霊鎮魂の為、その御霊を神と祀ったのだ。

 

そんな日本国最大最強の大魔縁を殺害し、簒奪した権能『第六天魔王波旬・祟神魔縁(シックス・ザ・サタンプレゼンス)』は草薙 護堂の『東方の軍神(ザ・ペルシャウォーロード)』やジョン・プルートー・スミスの『超変身(メタモルフォセス)』と同じく複数の発動形態を持つ権能で八つの特殊能力を行使出来る。能力は

 

『天狗王』 『怨霊神』 『八岐大蛇』 『源為朝』

『美福門院』 『五部大乗経典』 『縁切』 『玉音』

 

の八つである。凡庸性はカンピオーネの全権能の中でも随一で黒王子と同じく何かを召喚する系統が多い。日本最大の蛇神や《鋼》の従属神、人々を誑かす妖狐、屍の兵士達の召喚から魔術強化、強力な権能による一撃と実に多彩な権能である。

 

他にも中国神話の魔神 蚩尤から地上のあらゆる武具を形成する『鉄頭銅身・破邪顕正(イターナル・メタルメイク)』やゾロアスター神話の邪竜 アジ・ダハーカから魔術の威力を三倍にする『光輝光輪・諸行無常(クワルナフ・ミセレイニアス)』を簒奪しており、簒奪した神の真名は判明していないが祭火を中心に舞を踊る事で神々を顕現させる擬似神降ろしとも言える『有為転変・日神神楽(イグナイトダンス・イグジステンス)』幻術を対象にかける権能『狂言綺語・胡蝶之夢(イリュージョン・ドリーム)』、民衆や道具に加護を与える『奇怪千万・大慈大悲(ストレンジ・マーシー)』、時間を加速させたり巻き戻す『永劫回帰・輪廻転生(エタナール・トラベラー)』など最低でも七つの権能を所持している模様。

 

彼の王がその名を轟かせたのは19世紀初期に起こったヴォバン侯爵と祟神 旺里による二人のカンピオーネの激突…俗に語れる『嵐と血の三日間戦争』である。イギリスのソールズベリー平原を焼け野原にし、ストーンヘンジを余波だけで全壊した事は有名である(その後ストーンヘンジは祟神 旺里が修復した)。ヴォバン侯爵に勝利しておきながらも、何故かヴォバン侯爵を見逃し、それ以降毎年必ず一回以上はヴォバン侯爵から決闘を申し込まれている。

 

祟神 旺里は魔術の達人で、魔術の才に関しては右に出る者はいないと自他共に断言される程。彼が持つ権能もその魔術を強化、補助する権能が多い。剣術と格闘術に関しても剣の王 サルバトーレ・ドニや羅濠教主とも互角に渡り合える程の技量の持ち主(本人曰く少し自分の方が劣っているとの事)。そして草薙 護堂の愛人の一人である清秋院 恵那の剣術と呪術の師である。

 

そして何よりも特筆すべきなのはまつろわぬ神への執着。一度神が顕現すればどんなに遠方にいても彼の王は必ずその神を殺す為に現れる点だ。他のカンピオーネと違い、神との戦闘を楽しむ様子はなく、憎悪をもって戦っている様にも見える。

 

現在、彼の王は行方をくらましている。数週間前、正史編纂委員会が四国に出現した謎の穴の調査を依頼し、その調査に向かった以来王の行方が分からないのだという。すぐ様現地の呪術師達がその謎の穴が出現した場所に向かったが、そこには祟神 旺里の姿は愚か、確かにあった筈の謎の穴まで消えていたという。現在、草薙 護堂を中心に祟神 旺里の行方を捜索しているが一切の手がかりもなし。神との交戦した形跡もない。我々も消えた謎の穴との関連を調べている。

 

 

「……何処だここは?」

 

ーーーキュュゥン?ーーー

 

鬱蒼と茂る草原にポツンと立ち尽くす長い黒髪を一つに束ね、熱を感じない鋭い黒い瞳、服装は右半分が無地で左半分が亀甲柄の羽織を着用している青年 祟神 旺里はそう少々困惑した様な声を上げる。

 

彼は顔馴染みである正史編纂委員会のマスターニンジャから調査の依頼を受け、自分の生まれ故郷、四国の香川へとやって来た。そこで謎の穴を発見しそれが神の仕業か、それとも自分が妹の様に可愛がっているカンピオーネ アイーシャの権能が一つ『妖精郷の通廊(ビヨンド・ザ・タイムレスホライゾン)』で作ったワームホールかの調査に来たのだ。

 

少し調べただけでアイーシャの権能で作られたワームホール出ない事は分かった。恐らくは旅人の権能を持つ神が作ったものと推測。そこまでは良かったのだがこの穴を作った神の気配を感じず、旺里は首を傾げた。何故神はこの様な穴を作ったのかと。そこでふと彼は思いついた。

 

ーーーこの穴の先に行けば何か答えがあるかもしれない

 

単純明快、ただそれだけの理由で無計画にも穴の中に入り込んだのだ。四国に神の気配がないのなら既に四国から立ち去ったか…もしくはこの穴の先にいるかのどちらだ。もしこの穴の先に神がいるのなら…殺す(・・)。いないのなら他を当たればいい。そんな適当な考えで穴の中に入ったのだ。

 

この穴自体が罠の可能性も考慮した。もしかしたら穴を抜けた先に危険が待っているかも知れないと。だが、それがどうした?「虎穴に入らずんば虎児を得ず」、その言葉の通り危険を顧みなければ何も得られない。それに自分ならば早々死にはしない。そう高を括り穴の中に入り、その穴の中を歩いてここに出た。

 

「……帰り道は…塞がれたか」

 

その穴の外に出た途端穴は消えてしまった。まるで自分をここに呼び出すのが目的だった様に、すぐに消えてしまったのだ。

 

「まあいい、その気になれば帰れる。だが、そんな事よりも…ここは何処だ?観音寺市…とは違うようだな」

 

問題は穴を抜けた先、そこは香川の観音寺市…似た土地だった。確かに観音寺市に似ているが所々違う。一体ここは何処なのかと旺里は首を傾げる。

 

「……過去の四国…いや、違うな。ここは並行世界か」

 

並行世界、旺里達が住む世界とは異なる時間軸にある未知の世界。一度自分もアイーシャの権能で他の魔王と同じく並行世界に飛ばされた事があるので然程驚かなかった。そもそも旺里はアイーシャの「通廊」に10回以上もアイーシャの愚行に巻き込まれ落ちている、または通廊の先に行ったアイーシャを迎えに行った事があるのだ。もう並行世界に辿り着いた程度では驚く筈がない。

 

「………」

 

ふと旺里は空を見上げる。雲一つない青空が広がっている……様に見える(・・・・・)

 

「……結界の類か」

 

だが、旺里はカンピオーネである。それが偽りの空と気づいた。まあ、自分に害がないので放置する事にしたが。

 

ーーークゥゥン?ーーー

 

「案ずるな玉藻。帰ろうと思えば帰れる、それに調査の事もある。少しばかりこの地を観察してみよう。ここにまつろわぬ神がいるかもしれない」

 

彼の右肩に乗る小さな狐…9本のフサフサした尾を生やした30センチ程の大きさの妖狐が心配そうに鳴く。旺里は心配いらないと狐…玉藻と呼んだ狐を優しく撫でる。

 

「……さて、適当にそこらを散策して…」

 

そう呟きかけたその時、背後に人の気配を感じ旺里は首を後ろに向ける。だが、誰もいなかった。ただ一本の大きな木が立っているだけだった。

 

「……気のせいか」

 

そう言ってその場から立ち去る旺里。そのまま街の方へと向かった。

 

そして旺里が立ち去った後、風が吹き旺里が見た大きな木の枝が揺れる。そしていつの間にかその枝に一人の少女が腰掛けていた。

 

「ふふ……久しぶり(・・・・)、いや、この場合は初めましてかな?ようこそ私の同族さん(・・・・)

 

その少女の髪は薄い桃色をポニーテールにし、やや釣り目がちな目も髪と同じ桃色。日焼けしたかの様な褐色の肌…そして常人とは何か違う雰囲気を醸し出していた。

 

「まあ、頑張ってね同族さん。あのイカれた神々の相手は貴方しか出来ないんだから。期待してるよ」

 

少女がそう呟くと少し強めの風が吹く。そして風が止むと…木に腰掛けていた少女の姿はなかった。

 

 

 

突然だが旺里の好物はうどんである。香川と言えばうどん。日本の主食は?と聞かれればうどんと答えるほどのうどん好きだ。そのせいで他のカンピオーネから日本人の主食はうどんだと勘違いされていた。外国に行ってもうどんを食べていた事から魔術師達に陰で「うどん王」と呼称された事もある。

 

「…………」

 

ーーークゥゥン……ーーー

 

まあ何が言いたいかと言えばだ、彼は街の散策中にある店屋の看板に目をやった。「かめや」といううどん屋だ。

 

「……そう言えばまだ昼飯を食べていなかったな」

 

そう呟いてフラフラとかめやへと向かう旺里、玉藻はペシペシと尾で旺里の頬を叩く。

 

ーーーキュュゥン!キュン!ーーー

 

うどんを食べてる暇はない、今はこの地を調べるのではなかったのか?そう言いたげな玉藻。人語は喋れない様だが彼女が何が言いたいのかはっきりと分かった。

 

「勘違いするな玉藻、これは英気を養う為だ。もし神と出会った時、腹が減っていては力が出ないだろう?「腹が減っては戦はできぬ」、ならばここでうどんを食べ腹を満たし、英気を養おうと考えただけだ。それに並行世界の食べ物が俺が住んでいた世界の食べ物と同じ味なのか調べる為でもある。決して、単にうどんが食べたい訳ではない」

 

ーーークゥゥン………ーーー

 

そう正論ぽい事を言ってさも自分がこれから行う行動が正しいのだと諭す様に言う旺里。だが実際は単にうどんが食べたいだけである。玉藻は呆れた様な鳴き声を上げ尾の一本で頭を抱える。

 

「では…この世界のうどんが美味か否か…確かめるとするか」

 

ーーーキュュゥン……ーーー

 

あ〜もうどうにでもなれ。そう言わんばかりに玉藻は脱力する。そんな彼女を気にせず旺里はかめやの扉を開けるのだった。

 

 

 

事の始まりは二通の手紙と封筒だった。讃州中学校3年生にして勇者部部長 犬吠埼 風(いぬぼうさき ふう)は勇者部の部室である家庭科準備室にある机に置かれた手紙と封筒を見つけた。手紙には風達勇者部に当てた依頼の手紙だったのだが…そこにはもう一通の封筒はここで開けてはダメ、だとか依頼内容は指定された時間に指定した場所で話すとややこしい内容だった。

 

「それにしても何でこんな面倒くさい依頼のやり方なのかしらね?」

 

そう風は件の片手に持った手紙と封筒を見ながらそう呟く。会うのは良しとしてもだ、依頼内容くらい手紙に書いてもいいんじゃなきか、何でそんなややこしい事をするのかと首を傾げる。

 

「もしかしたら手紙で伝えるのが難しいくらい困った内容なのかも…」

 

赤色の瞳と髪が特徴的な桜の花びらを模した髪飾りをつけた少女…結城 友奈(ゆうき ゆうな)は車椅子に乗った長い黒髪を青地に2本の白い線が入ったリボンで纏め上げ、前に垂らしている少女…東郷美森(とうごう みもり)の車椅子を押しながらそう風に語りかける。

 

「確かにその可能性もあるわね…でも、いくらなんでも手紙に何も書かない、て言うのはおかしくないかしら?」

 

「そうですよね。どんな内容にしても何も書かないなんて少しおかしい気がします」

 

美森と風の妹…小柄で黄色の短い髪が特徴的な少女 犬吠埼 樹(いぬぼうさき いつき)はおかしくないかと呟く。もしかしたら悪戯とかの類かもしれないと。

 

「まあ、その時はその時よ。とにかく言ってみないと始まらないし」

 

そう言っている合間に待ち合わせ場所であるかめやに辿り着いた。指定された時間は確かに四時過ぎだった筈だ。風はスマホを取り出し時間を確認する。もう四時は過ぎている。依頼人が来ている筈だ。

 

「あ、そういえば私達肝心の依頼をくれた人の顔を知らないんですけど、どうすればいいんですか?」

 

「その点は心配いらないわ。手紙に書かれてたんだけど依頼主の特徴は黒髪に黒い目、和服を着て170センチくらいの男…て、書かれてるから」

 

「わ、和服…確かにそれならどの人が依頼人なのか分かるね」

 

今時和服なんて珍しいな〜と呟く友奈と樹、風はかめやの扉を開け店内に入る。

 

「あら、いらっしゃい。今日は早かったのね」

 

「ええ、ちょっと色々ありまして」

 

店内に入るなりかめやの店員であるおばちゃんが常連である風達に挨拶を交わす。彼女の両手にはきつねうどんを一つ置いたお盆を持っていた。

 

「そうそう、今日は凄いお客さんがいるのよ」

 

「凄い、お客さん?」

 

おばちゃんが言った凄いお客さんの意味が分からず首を傾げる風。おばちゃんはニコニコ笑いながら四人に語りかける。

 

「そのお客さんたらね、うどんを沢山食べてくれるのよ。風ちゃんよりもね」

 

「え!?風先輩よりも!?それは確かに凄いね!」

 

「ふ、風先輩よりもですか?」

 

「お、お姉ちゃんよりも!?」

 

「おいコラ、それはどう言う反応だ?」

 

風は大食らいでうどん好きである。うどん4杯を軽く平らげる程である。それを超える人物とは…驚きを露わにする妹と後輩二人を風が軽く睨む。

 

「ほら、あそこの席の人よ」

 

おばちゃんが目線を向けた先にいたのは座敷に座っている一人の青年だった。黒髪黒瞳に白の着物の上に右半分が無地で左半分が亀甲柄の羽織を着用した170センチ程の青年がうどんを啜っているのが見える…その青年のテーブルには10杯以上の空になった丼が山積みに重ねられていた。

 

「……あ、あの人だね」

 

「……あの人ね」

 

「……あの人ですね」

 

「……そうみたいね」

 

手紙に書いてあった特徴と一致する、間違いなく彼が依頼人だ。そう判断する勇者部一同。

 

「はい、お代わりのきつねうどんね」

 

「……ありがとう、ございます」

 

静かにうどんを啜りながらお礼を言う青年…そして啜っていたうどんを平らげたのか今しがたおばちゃんが持ってきたうどんを啜り始める青年。

 

「……美味い、ここのうどんは…美味いな」

 

ーーーキュュゥン……ーーー

 

そう目を輝かせながら呟く青年…旺里。そんな旺里に呆れた様に座敷の床にちょこんと座ってため息を吐く玉藻。

 

「まあ、とにかく…話しかけてみる?」

 

「うん。そうだね」

 

そう言って風達は依頼人(と思われる)旺里の方へと歩み寄っていく…この時はまだ自分達に危機が迫っている事など風達は微塵も思ってもみなかった。

 

 

この出会いが偶然ではなく必然である事をこの時は誰も知る余地がなかった。この出会いこそが自分達の運命を左右するとは旺里も、風達も想像がつかなかっただろう。

 

 

これは人に仇なす悪しき神々を退治する神殺しの魔王と勇者達の物語である。これから始まるのは勇者達と魔王が織りなす神殺しの物語である。

 

 

 

 

 

 




崇徳院…日本三大怨霊の一人にして日本三大悪妖怪の一人である日本最大の大魔縁。高嶋ちゃんの酒呑童子と同格と言われるヤベー神様。でも実は崇徳院は四国の守り神だとはあまり知られていません。てなわけで香川県出身の魔王なら香川県に関係する神様だな、というわけでこの方を選びました。

ここで主人公について軽く自己紹介

祟神 旺里 約250歳

好きな物 うどん、あんころ餅
嫌いなもの まつろわぬ神

神は死すべし慈悲はない系主人公。姉がいるけど長男。どっかの狼王とか中華の魔王と違って人々を神や魔王から守ったり、自分が破壊した土地や建物の修復もしたりと、原作主人公である草薙護堂君の次にまともな魔王様。でも他のカンピオーネと同じく頭魔王様なので当然狂ってる部分はある。ヴォバン侯爵や夫人、原作主人公と傍迷惑な人達と友好を結んでるあたりやっぱりこいつカンピオーネだなと思う。そしてうどん大好き

やはりこの主人公香川県(讃岐)出身なのでうどん大好きです。そして風先輩を超える大食感。主人公の容姿は某コミ症の水柱です。なのに煉獄さんか捌倍娘並みに食べる。まあ、これぐらいキャラが濃くないと他のカンピオーネにキャラが食われるので設定モリモリにしました。

次回は戦闘回、あの高嶋ちゃんの切り札「一目連」と深い関わりがある神様が登場する予定です。次回も読んでくださると嬉しいです

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