遠き旅路   作:土星土産

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不死の使命

 

 

 

 

 

 

──ここまでか。

 

体は傷だらけで足にも力が入らない。

 

込み上げてくるものを押し込めることもできず、血を吐いた。

 

赤い鮮血が兜の隙間から流れ落ちる。

こんな時だがたとえ人間ではなくなっても血は赤いのだということに、かつてと変わらないものがあることに安心する自分に笑えてくる。

 

 

ここは北の不死院。

 

不死となったものがこの世の終わりまで幽閉されるという牢獄。

 

周囲を山に囲まれ、崖の上に成り立つこの世の果てだ。

白銀の山々が光を反射する。

その光景は恐ろしいほどに美しい。

しかし、当然美しいだけの場所ではない。

 

耳をすませば亡者のうめき声が、さらに遠くには巨大な化け物の足音が聞こえてくる。

 

ただしく人外魔境という言葉がよく似合う場所だ。

 

幾たびの死を経験し、私は冒険を続けた。

 

〈不死になったものは不死院から古い王たちの地に至り目覚ましの鐘を鳴らし、不死の使命を知れ〉

 

全ては家に伝わる使命を果たすために。

 

 

そのためにここまできた。幾度も幾度も死んで、そのたびに蘇りここを目指した。そしてやっと最初の場所に立ったと思えば結果はこのとおりだ。

 

 

私は選ばれし者じゃあなかった。

きっとそれだけの話なのだろう。

 

運命なんて言葉は使いたくないがきっと最初からそう定められていたのだ。

 

自分に言い聞かせるように、私は同じことを何度も頭の中で繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

そこで私は彼に出会った。

 

 

 

 

 

牢獄の中で、蹲るその男は、亡者か生者かもわからない容貌だった。

なにもかも諦めてしまったかのように、壊れてしまった人形のような雰囲気の男に何を見たのか。

 

何かに導かれるように、そうすることが正しいように、私は鍵を投げ入れた。

 

その結果周辺にいた黒騎士達とも戦う羽目にもなった。

 

非合理だ。使命とは何も関係ないことにこのような労力をかけるなんてかつての私ではありえない。随分とらしくない。

 

こんな亡者になる間際にーーだからこそだろうか?ーー新しい自分を発見することになるとは思わなかった。私が私でいられる最後の時間の使い道が見ず知らずの不死人の救出だとは、旅に出た時は思いもよらなかった。

 

 

 

黒騎士から逃げるために飛び込んだ穴から落ちてこのザマだ。

鉄格子の扉は歪み、外に出ることは叶わない。

 

なんとも間抜けな最後だ。

 

ここで誰に知られることもなく私は私でなくなるのだろう。

使命も達成できず、何も残せないまま私は力つきる。

 

──そのはずだった。

 

 

突如、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

私は驚いて声も出なかった。

それは突然現れた鉄球もそうだがなによりも、壊れた壁から姿を現した男に対しての驚き。

 

 

 

──そこには先程私が助けた不死人の姿があった。

 

 

彼は亡者ではないことはその佇まいなどから理解できた。

 

だがなによりもその肩に担いだ()()

 

それを私は知っていた。

武器と言うにはあまりにも巨大で荒々しいその見た目。

それはあの巨大な化け物のーー不死院を守護するデーモンの大槌そのものに違いなかった。

 

彼の服や体には先ほどまで戦っていたであろう痕跡がいくつも見て取れる。

傷もまだ癒えておらずもともと亡者のような見た目が一層酷いものになっている。

 

だが……それでも彼は勝利したのだろう。

 

あの数多くの侵入者や脱走者を捻り潰してきた不死院のデーモンに、ろくな武器ももたない身でありながら。

 

私なら早々に諦め他の道を探していただろう。

 

どこまでも愚直に戦い、打ち倒すことなど私にはきっとできないことだ。

 

そのボロボロの彼が、私には何より光り輝いて見えた。

 

 

 

 

──そうか。君なのか。

 

 

私はそのとき、抗いようのないとてつもなく大きな何かを感じた。いや、感じてしまった。

 

それはきっと……運命と呼ばれるものなのだろう。

 

 

 

 

私には使命を果たすことができなかった。

 

私は選ばれなかった。

 

 

だが、君は……。

 

 

「私の、願いを聞いてくれるか?」

 

気づけば口をついて言葉が出ていた。

 

死ぬ間際の願い。それは私の全て。果たせなかった悔恨と抱いてしまった希望だ。

 

それを見ず知らずの君に押し付けようとしている。

 

彼は頷いた。その人形のような虚ろな目でたしかに私を見て。

 

「ああ、これで希望を持って死ねるよ。」

 

 

ずるい言葉だと思う。これから彼を待つ運命はきっと優しいものではない。だがそれでも願ってしまった。

その先に訪れる結末を私は見ることはないだろう。

それでも希望を抱いてしまったのだ。

 

──たまには()()()()()こともしてみるものだ。

 

何も成せなかった私の人生だが、最後にわたしのした行動には意味があったのかもしれない。

 

 

去っていく彼を見送り、私は短刀を取り出す。

 

ああ、これで満足して死ねる。

 

最期に思い浮かべるのは彼の表情。

 

初めて見たときの全てを諦めているかのような瞳。

 

今後、その空虚な瞳に火が灯ることはあるのだろうか。

彼はなにかを見つけられるだろうか。

 

 

 

 

「彼に炎の導きを……」

 

 

願わくば彼の旅路に光あらんことを。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

火が陰り、世界には不死が溢れた。

 

太陽の王は既に亡く、かつて絶対だった神秘も既に過去のものになって久しい。

 

そんな終わりに向かう世界で、その時代に生きた者たちがいた。

 

これはそんな者たちのお話。

 

神でも悪魔でもなく、何者でもない者達と、

 

 

そしてたった一人の名もなき不死人の、遠き旅路の物語。

 

 

 

 

 

 

 

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