〈呪術とは炎への情憬である〉
呪術王ザラマンの言葉より
「炎を畏れろ......ですか」
「ああ、そうだ」
「呪術とは炎を御するものではないのですか?」
「当然それもまた然りだ。しかし扱いを間違えれば死よりも悲惨なことになる。
あの時はわからなかったが、あの人はそれを身をもって知っていたんだろう....」
初老の男──ザラマンは遠くを見つめ過去に想いを馳せる。
「ザラマン様の師匠ですか....。その方はどう言った人だったのですか?」
「............とても綺麗な人だったよ。.....なんだ、聞きたいか?」
「はい!」
「ははは、そうか。 そうだな あれはここからずっと遠い場所での出来事だ。私はそこで出会ったんだ」
──炎、と聞いて何を思い浮かべるだろう
鍛冶屋に言わせればそれは仕事道具で、
宗教家からすれば闇を祓う光で、子供だったら暖炉や焚火の温もりを連想するかもしれない。
そしてきっと悪魔に言わせれば全てを灰にする破壊の象徴だ。
きっと人によって炎に何を見るかは違うのだろう。
私はあのとき、あの炎に狂った。
息も出来ないほどに激しく燃え盛る炎に魅了された。
その炎に少しでも近づきたいと思ったのだ。
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つまらない人生だと思う。
なんの指標もなく、息をして食べて寝ることだけを繰り返す。
なまじ裕福な家庭に生まれ不自由もないことで苦労する必要もない。
家も兄が継ぐので責任とも無縁の人生だ。
何をしていても感情が揺れ動くようなことがない。
私以外にもこういった人間は数多くいるのかもしれないが少なくとも周囲の人間は何か自分の生きる目的を定めているように思える。幸か不幸か同類とは出会えないまま生きてきた。
誰かが人生はあっという間だという。たかだか数十年しか生きられないのだから何かを成すにはあまりに短いと。
だが私のように何もない存在から言わせれば数十年という時間はあまりにも長い。死ぬまでの長い長い時間を食い潰すだけではなんの感慨も得られはしない。
そもそも何かを成すことに意味はあるのかもわからない
不死のように膨大な時間があれば何かを極めることが出来るのかもしれないが人の生の中でできることなんて限られる。
そしてどうせみんな最後は死んで今までやってきたことも全て死体と共に土に還る。
そんな悟ったようなことを考えながらも毎日死ぬことなく生きているのは何故なのか。
理由はわかっている。ただ怖いのだ。
死ぬことが怖いのではない。
本当に何もないまま自分という存在がいたことすら世界が忘れてしまうことが怖い。
プライドなどないと思っていたが自ら孤独に死ぬのは僅かに残った矜恃が許さなかった。死ねば何もかも意味を失くすというのに。自分のことながら聞き分けのない子供のような考え方だ。
かといって何か目標を据えて生きることもできないのだから我ながら呆れてしまう。
理由はわかっている。
本気で挑戦し失敗したとき、自らが凡人であることが決定づけられるのが怖いのだ。
自分が取るに足らない有象無象の一人であることが確定してしまう。
そうなれば私はきっと耐えられない。
初めから何もしなければ自らや他者に言い訳ができる。
本当に私は度し難い愚か者だ。
このまま私はただなんの意志もなく、唯一残った惰性で死ぬまで生き続けるのだろう。
そう信じて疑わなかった。
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そんな私にある日転機が訪れた。
聖女の巡礼の旅の供回をすることになったのだ。
といっても私が進んで何かをしたわけではない。
家にとって益のない私を両親が有効活用しようとした結果だ。
三男坊とはいえ貴族の息子を聖女の巡礼に差し出したとなれば聞こえがいい。それが実際はなんの役にも立たない男でも、だ。
巡礼の旅は死の危険が当然付き纏う。
というよりも死ぬ危険の方が大きいだろう。
ソルロンドなどでは本来不死となった聖職者の役目であるそうだ。
私はきっとつまらない死に方をするだろうと思っていたがまさかわざわざ人の世を外れた場所へ死にに行くとは思わなかった。
信仰心の欠片もない私が巡礼の旅とは随分と大掛かりなお笑いだ。
聖女や他の護衛の者たちと連れ立ちいざ祖国を離れてみればそこは今まで培ってきた常識というものが何一つ通用しない世界だった。
まず当然のように生身の人間がいない。
出会うものは皆不死者ばかりだ。
今まで生きてきた世界で見ることなんてほぼなかった不死が当たり前のように闊歩しているのだ。
最初にあった火防女というのも人間ではないのだという。まるでたちの悪い冗談のような場所だ。
ほとんど伝説上の存在であった悪魔も見た。遥か上空を竜が飛んでいくのを見た。なんだというのだ。確かに危険な場所だというのは知っていたがいくらなんでも理から外れすぎている。今まで人の世界でのうのうと生きてきた私には刺激が少々強すぎる。
みれば聖女や護衛たちも口をぽかんと開けて間抜け面を晒しているではないか。
私もきっと同じような表情をしているのだろう。
これからこの世界を旅して回るとは、正直先が思いやられる。
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「クソ!数が多すぎる!」
「円になれ!絶対に奴らを近寄らせるな!」
やっぱりだ。
ここは本当に人がどうこうできるような世界ではないようだ。
そこらを平然と闊歩するかつて人だったモノ達。
眼は落ち窪みその奥に暗い光を宿す魂食らいの化け物。
亡者と呼ばれるソレらはどこから湧くのか知らないが眼前を埋め尽くしている。
倒しても倒しても湧いてくる亡者共に囲まれ私達一行は追い詰められていた。
いわゆる絶体絶命というやつだ。
怒号が虚しく響く。
数が数だ。守りが崩れるのも時間の問題だろう。
こんな魔境に来たのだ。どうせ死ぬのならドラマチックな死を迎えたいと思っていたが.........。竜と戦って死んだならまだ聞こえがいいのだが相手が亡者というのは少々残念だ。
こんな状況でもつらつらと場違いな思考を巡らせる己に笑ってしまう。
さあ、せめてもの抵抗をしようではないか、そう考えた。
そんな時だった。
突如飛来した巨大な炎の球体が爆ぜた。
周りを囲っていた亡者達が焼かれ悶えだす。
肉の焦げる匂いが辺りに立ち込める。枯れ木のような体をくねらせ亡者達が呻き声とも悲鳴ともつかぬ声を上げた。
さらに間を置かずに豪炎が立ち昇る。
息をすれば喉が焼けてしまいそうなほどの熱を放ちながら火柱が荒れ狂う。
それは蹂躙だった。形を持たないはずの炎が生き物のように動き敵を屠っていく。
私の知る炎ではない。
それはどこまでも禍々しく、歪んでいて。
──それでいてどこまでも美しい炎だった。
既に虫の息だった亡者達が消炭となって崩れ落ちる。
後に残るのは亡者達だったもの、そして今もなお熱を放つ溶岩のような得体のしれない何か。
今までの苦戦が嘘だったかのように何もかも無くなってしまった。
あまりにも現実感のない光景だ。
しかし炭化した地面が今起きたことが夢でないことを教えてくれる。
煙の向こうに炎の主の姿が現れる。
黒いローブとフードを見に纏いその素性の一切をしる術がないがそんなことはどうだってよかった。
それをみた私はきっとここにきたばかりの時よりも間抜けな顔をしていたことだろう。
あんなものを見せられて興奮しないわけがない。
例え物語の英雄と対峙してもこんな感情は抱かないだろう。
こんな圧倒的な力が世界にあることなんて知らなかった。
かつて宮廷魔術師の魔術を見た。
司祭の起こす奇跡を見た。
そのどれもが遠く霞んで見えた。
比較することもおこがましいとすら言える。
自分の見ていた世界の狭さを痛感する。
初めて心に血が通ったように思えた。
ずっと、何を見ても何をしても何も感じなかった。
惰性で生きて、きっと退屈な死を迎えるだろうと思っていた。
ーー私は泣いていた。
まるで神に縋る敬虔な信徒のように、そうすることが正しいかのように、気がつけば跪いていた。
たとえこの身が焼かれようとも構わない。
ただあの炎に近づきたいと願ってしまった。
♦︎
「それで、私を探していたと?」
「随分とあちこち回りましたよ。あの後すぐに居なくなってしまうのですから」
あのあと聖女一行は一度故郷に帰ることになった。
はじめの一歩目でこの世界のイカレっぷりを痛感したのだ。
それもしょうがないだろう。
そして私はといえばここに一人で残ることにした。
あの炎のことがどうしても忘れられなかったのだ。
正直何度も死にそうになったがなんとか大沼というところにたどり着き彼女を見つけることができた。
「はあ......それで、私に何を求める?」
「私にあの炎の術を教えてください!!」
「.......まあ私が見えるようだし、才能もそこそこあるようだ。構わないよ」
彼女は了承してくれた。まさかこんなにすんなり話が進むとは思ってもいなかった。彼女の前でなければ小躍りでもしていたかもしれない。
「私も弟子を取るのは初めてだ。加減もわからん。それでもいいのか?」
「はい!」
「そうか。 それで.....あー、何と呼べばいい?」
「申し訳ありません。名乗るのが遅れました。私はザラマンと言います。これからよろしくお願いします!」
♦︎
「それがザラマン様の呪術のはじまりなのですね」
「ああ、まだ世間知らずの小僧だった時の話だ。」
いや、あの人に言わせればまだまだ今も小僧なのだろう。
それからの毎日は本当に楽しかった。
あの炎は呪術というらしく毎日修行に励んだ。
もしも時間に密度というものがあるのならここ最近は師匠に出会う前の何倍も濃い毎日が送れているだろう。楽しくてしょうがないのだ。
何かを学ぶことが楽しいと感じたのは初めてのことだった。
ゆっくりでも今日の自分は昨日の自分より進んでいる。
きっと明日の自分は今日の自分よりも。
そう思えることがただ嬉しかった。
呪術というものは奥が深い。
一つの火を一生をかけてただ大事に育てていく。
その火はもう一つの自分自身。だからその火を他者に分け与えることは血を分けることと同じなのだ。
秘めた荒れ狂うような力をただ静かに育てていく。
そしてそれが外に出た時、あの醜さと美しさが同居した炎が生まれる。
これが師匠の言う”炎の業“なのだろう、そう思った。
♦︎
「今日も成果なしか。お前は本当に出来が悪いな。」
師匠に怒られてしまったが、そう言いながらも彼女は私を見捨てないでいてくれる。
本当にこの人は優しい人である。
(こんなことを言えば師匠は怒るだろうから言わないが)
「火球はなんとか習得できたのですが.......やはりその上は難しいですね」
「忍耐も必要だと言うことだ。そもそも一朝一夕にできるわけがないだろう。特にお前はな」
師匠の言う通り、ずば抜けた才能というものがわたしにはないようで、結局のところ地道に一歩ずつ進んでいくしかない。
かつてアレだけ恐れていたというのに、自らが凡人である事実を突きつけられても大してショックを受けなかったのが意外だった。壁を破ってみれば何のことはない。昨日の自分よりも成長した自分がいるのだ。
嬉しくないわけがない。
呪術とは炎の探究だ。
ただひたすらに炎を見つめ続けるものだ。少なくとも私はそう考えている。
いつの日かあの日見た炎を私は使えるようになりたい。
しかし、あの日の炎について師匠はまだ教えてくれない。
いつか私の実力がともなえば教えてくれるはずだ、そう考えてただ目の前のことに集中する。
思い描くのは鮮烈な赤。記憶の中の最も美しい炎だ。
師匠はただ見ていてくれた。
♦︎
「師匠!ついに火の玉を習得できました!!」
「ああ。そうはしゃぐな馬鹿弟子。ちゃんと見ていたさ」
ああ、これはきっと呪術師として小さな進歩だ。
だが私にとっては大きな進歩だ。
だからだろう。つい嬉しくなって余計なことを口にしてしまったのは。
「これであの時の師匠の術に近づけたでしょうか?」
「.......それはお前と初めて会った時のことか?」
「はい。.........私の目標です。あの日見た炎は本当に綺麗でしたから。
その時師匠はどんな顔をしていたのだろう。
愚かな私は見ていなかった。
彼女は暗い声で私に言ったのだ。
「綺麗.......か。 いいかザラマン。炎に焦がれるのは構わない。しかし炎を畏れることだけは忘れるな。畏れを忘れれば────炎に飲まれるぞ」
私は呪術に出会う以前の自分が嫌いだった。
だから炎に魅入られ、炎と共にあれるならばに焼かれて死ぬことも良しと考えていたことがきっと師匠にはわかっていたのだろう。
──あの時師匠が抱えていたものがなんだったのか。知っていたなら私は力になれたのだろうか。
いや、きっと無理だろう。私にそんな力がないことは私が何よりも知っている。私は決して英雄などではない、どこにでもいるただの凡人なのだから。
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暖炉でパチパチと音を立てて薪が弾ける。
外に振る雨が窓を打つおとが響く。
そんな中一人の初老の男と青年が向かい合って座っていた。
「その後私は多くの呪術を習得し、私は呪術師として一人前になれたと思った。しかし師匠が私にあの日の術を教えてくれることはなかった。
だから私は死に物狂いで自分なりに探求を続けた。そしてその結果出来たのが大火球だ」
憧れた炎に近づきたくてただひたすらに研究した。
かつて見たものは身も心も焦がすほどに綺麗な炎だったから。
ただあの時の感動をまた味わいたかったのだ。
大火球はあの日見た術をひたすらに思い描き、私の持ちうる全てをつぎ込み辿り着いた業だ。あの日見た炎とは違うがその内包した力は本物だった。
きっと師匠も認めてくれる。そう考えたらいてもたってもいられなかった。
私は喜び勇み師に見せに行った。
師も本当にとても喜んでくれた。
あの時彼女はたぶん泣いていた。 フードを深く被り顔が見えなかったがきっと彼女は泣いていた。その涙に込められた意味は私にはわからなかった。
──そしてもう教えられることはない、そう言って私の前から姿を消したのだ。
「戸惑ったさ。私はあの日、あの人にあって狂わされたんだ。あの人の炎に心を焼かれたんだ。そんな私が師なしでどうやって生きていけばいいのだろうか、と」
今までのことが全て夢だったような錯覚に陥った。
どこを探しても師には会えなかった。
何故突然姿を消したのか。
その理由が知りたかった。
しかし彼女には二度と会うことはなかった。
途中風の噂で父の死を知ったこともあり、失意の中私は一度国に帰ることになった。
「そしてそこで出会ったのがカルミナ、お前だ。」
「僕.......ですか?」
絶望を抱えた私に希望を抱かせてくれた存在。それが彼らだ。
「ああ。お前達を弟子にとり呪術を教えた。お前は私に拾われて救われたというがあの時救われたのは私の方だ」
私はあの人の、クラーナ様の側にいることができなかった。
焦がれ、近づこうとした炎は突如として消えた。
しかしその先で見つけた小さな火が私を救ったのだ。
師のくれたものを、私の全てを彼らは吸収していった。
彼らの見せる炎を見て思うのだ。あの師との日々は私の中に今もあるのだと。
私は彼らに呪術とは炎への情憬であると説いた。
私がそうであったように。
そして彼らはそれを受け取りどんどんと成長していった。
私がかつて憧れたものは間違いではなかったのだと思えた。
あの日見た炎をまた見ることは叶わなかったがそれにも勝る美しい炎を見ることができた。
特にカルミナは私を遥かに超える天才だ。
彼はこれから見たこともない世界を私に見せてくれるだろう。
そう考えたら楽しみでしょうがないのだ。
かつて不死ならば何かを極めることができるのかと考えたことがあった。
そもそも何かを成す意味などないのではないかと考えたこともあった。
しかし人はこれでいいのだと今は思う。
短い人生で足掻いて何かを掴んで、次の者に託す。
自らの中の火をただ次の者に分け与えるのだ。そしてその受け継がれた火はさらに大きな人なって人々を照らすだろう。
「カルミナ、炎への畏れを忘れるな。だが決して炎への憧れも捨ててはならない」
ーー私が炎に魅了されたように。
ーーあの日、貴女に心を焼かれたように。
「炎への情景こそが呪術の根源だ。......少なくとも私はそう思う。さあ、手を出しなさい。これでこの炎はお前の物だ」
今までに私自身が成したことなんてたかが知れている。
だがカルミナ達やその次の託された者達ならばどうだろうか。
この世界のどこかにいるであろう師のことを思う。
師を救うことは私には出来なかった。だがいつか誰かに託された者が師を救ってくれるかも知れない。そんな気がしてならないのだ。
ああ、この世界は本当に──
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「............」
「師よ。突然黙ってしまってどうしたのだ」
「........いや。 少し昔のことを思い出してな.。お前はあいつよりは物覚えがいいなと思ってな」
「あいつ....?」
「一人目の弟子.......つまりお前の兄弟子だ。人の世では呪術王なんて偉そうな名で呼ばれているらしいが本当に出来の悪い弟子だったよ。何を教えても時間がかかってな。」
かつて出会ったザラマンという男を思い出す。やつは誰よりも炎を愛していた。
母の生み出した混沌の炎に魅入られ、自らの破滅すらも考慮せずにただ進んでいくような男だった。
そんな危うい男だったから、混沌の炎から彼を遠ざけた。
そんな男が混沌の業から別の新たな業を生んだのだ。
あれは呪術というより失われた炎の魔術に近いものだ。
ずっと償いと称して炎の探究を続けてきた。しかし作られるのは皆醜い炎ばかりだった。
そんな中で出来の悪い弟子があれだけのものを作ったのだ。
あの男は混沌の炎を美しいと言った。
だが私からすればあいつが生み出した炎の方が何倍も何十倍も美しく見えた。
あの馬鹿な弟子はそれがどれだけ嬉しかったかわかってもいないのだろう。
私はあの日確かに救われたのだ。
あの後逃げ出したのは私の弱さ故だ。
あれ以上一緒にいたら助けを求めてしまいそうだった。
不死でもなく、たった一つの短い命しか持たない彼に頼ってしまいそうだった。
きっとあれで良かったのだと思う。彼には人の世で生きて欲しいと思ったから。
「本当に馬鹿な........弟子だったよ.......」
きっとあの男は人の世界を捨ててでもここに残っただろう。本当に仕方のない男なのだ。
そして2人目の弟子は、母と同じく最初の王である墓王を殺すに至った。
この男はイザリスの魔女を倒すと言った。
この男にはそれを成すだけの力が既にある。
千年前に私がやるべきだったことを、やれなかったことをこの弟子はやろうとしている。
弱い私の弟子達はどちらも私なんかよりよっぽど強い男になってしまった。
後悔ばかりの人生の中で胸を張って自慢できる数少ない存在だ。
「少々無駄話をし過ぎたな。さあ、もう行け。亡者になんてなるんじゃないぞ。」
話を無理やり切り上げる。
素直にも文句も言わず礼をして去っていく弟子の背中を見送る。
少し大きくなったように感じるその背には今何を背負っているのだろう。
その肩にはどれだけの重荷が乗っているのだろう。
それを背負わせたのは私達だというのに何もしてやれない自分が情けない。
彼はどんな未来を掴むのだろうか。
それがどんな物であっても、選ぶのがどんな道であっても祝福してやりたいと思った。
「お前達は本当に私の自慢の弟子だよ」
誰にも聞こえない声でそう呟いた。
純度100%の完全捏造