がっこうぐらし!称号「自宅警備員」獲得ルート(完結)   作:島国住み

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雨上がりの朝って何かを決意するには一番いいシチュだと思うんですよ(早口)


一週間経過
揺れる水面


今日は……晴れ!

 

「おはよ……」

 

妹も飛真君とほとんど同じタイミングで起きてくれました。

ここ一週間の生活の中でリズムみたいなのが形成されつつあるように感じる。

 

鳥のさえずりが戻ってきて気持ちのいい朝です。

まぁ、道路のほうに目を向ければ()()してるかれらがちらほらいるんですけどね……

 

雨は結果的に我々を守ってくれたけど、かれらを無力化してくれたわけではないですからね。

雨で腐敗がさらに進んで弱体化するとかないかな?いや腐っても動いてるわけだから期待できないか。

 

ベランダに置いておいた容器に雨水が溢れんばかりにたまってます。

さすがに飲料としては使えませんがトイレ・洗濯用であれば水質的に問題はない……ハズ。

ぱっと見では一週間くらいなら耐えられそうです。

ダメそうだったらその時考えよう。

 

まずはご飯ですね。

 

……今思ったんだけど、飛真君は昨日の激務(休息)で正気度がかなり回復して特に問題のない域にまで達してるから「料理上手」を無理して発動しなくてもよいのでは?

 

もうズボラ飯でいいよね

ぶっちゃけガスがないから調理ができない。

備蓄状況を確認してなかったからこんなことになるんだよなぁ

 

ですので乾パンとチョコ!以上!

質素オブ質素ですけどこの組み合わせおいしいんですよね。

 

「ねぇお兄ちゃん。ベランダの雨水さ、あのままじゃ良くないと思うよ。」

 

そうだよ。(便乗)

外におきっぱはゴミが入ってしまうな。浴槽に水を移すか。

 

「そこまでするほど量はないから……何か、ポリタンクみたいなのに移し替える方が良いんじゃない?」

 

そうだよ。(イエスマン)

ごもっとも。ただ、家にはないから取りにいかないとな……

 

「水の確保は大切だよね……今回の集め方は場当たり的で効率的とは言えなかった。もっと雨を集めるためには……雨樋を利用した雨水タンク? 昨日はあんなに降ってたのに気づけなかった。もったいない…… でも雨水タンクなんてどこにあるのかな……他の方法もあるかも………ブツブツ……」

 

なんだなんだ?

自分の世界に入ってしまわれた……

調達すべきものを頭の中でリストアップしてたから全然話についていけないゾ……

 

「ねぇ。 お兄ちゃんはどう思う?」

 

ウトウトしてたら先生に指されたみたいな感じだ。どう答えたらいいか全くわからん。

えっと……パ、パードゥン??

 

「もう! 真剣な話してたのに! ……水の確保。 私は雨水タンクを設置したほうが良いと思ったんだけど、どう?」

 

なるほど。完全に理解した。

ベランダだけじゃなくて雨樋からも雨水を集れば確保できる水の量は増えるし、いいんじゃない?

そんなことしなくても一週間は持ちそうだけど……

 

というか妹はずっとここで暮らすつもりなのか。自宅警備員のお前が何言ってんだって感じですけど……

まぁ自分はいわば契約社員ですからね。家の存続より己の称号に気持ちがいってしまうのはしょうがないです。

 

然様(さよう)せい然様せい(四代目将軍)

 

「なんか投げやり……まぁいいや。 そうと決まれば早速設置したいんだけど……雨水タンクがどこにあるか知ってる?」

 

DIYの域に収まるのであればいいんですけど、もしそうじゃないならめんどくさいな……

終わり(称号)が見えちゃってるからなんかやる気でないなぁ

 

ありそうなのは……いつだか行った園芸用品店ですかね。

あそこならガスの替えもありますしちょうどいいかも

 

「あの郊外にある? たしかにありそう。」

 

今日はそこに行く感じですかね。

やっぱ毎日ぐーたらはできないか……無念。

 

ウォーターサーバーの水も少ないから飲料水も補充しないとな。

必要なもののほとんどが水関連だな。サバイバルは結局水に行きついてしまうのか。

 

スコップとリュックもって……出発するかぁ。

 

「…………私も行く。」

 

ファッ!?

危ないから行かないほうがいいって。プレイヤーだから外に出ても大丈夫なわけで……NPCはマズイ。

 

「二人で行ったほうが多くの物をもっていけるでしょ? ……それに、」

 

それに?

 

「……ホ、ホラ! トラップに使う資材とか私が選んだ方が良いでしょ! 私が作るわけだし、本に書いてあることも試してみたいし……だから!」

 

わ、わかった。()()()()よくわかった。

でも実際危険すぎる。

学園生活部はそれぞれに得意分野があって元々の生存力はかなりある。仲は良く、しっかり協力できる体制は整っている。

それでも飛真君に助けられるまで追い詰められたのだから……

正直、自分ひとりのことで精いっぱいで助けられそうもない。

やはりこれまで通り飛真君一人で……

 

「……危険なのは私でもわかる。でも、いつまでもお兄ちゃんに頼りっぱなしなのは嫌なの。 お荷物にはならないわ。ねぇ、お願い。私を外に連れてって……」

 

危険を承知で?つまり理性的に判断した結果ってことか。

いやしかしなぁ……

危ないところへは行ってほしくないからダメですね。

家にいた方が絶対に良い。留守番も仕事の一つだよ。

 

「そうやって子ども扱いして! ……………わかったわ。私、髪切る!」

 

え?髪?何のために髪を切るのかわからないのだが。

断髪イベント? このタイミングで?

 

「守られてばっかだった私との決別。それに髪が長いとやつらに髪を掴まれる可能性が高くなるでしょ? 衛生的でもあるし。」

 

なるほど。

 

「一週間たっても外からの救援の兆しが全くないことから察するにこの現象は地域や国規模じゃなくて世界規模のものだと思うの。私たちを引き上げてくれるヘリ(文明)はたぶんもう……。」

 

妹は飛真君以外の人と会ってませんからね。少々悲観的に現状を認識するのは仕方ないか。

実際絶望的な状況ですしね。

 

「今まで私はずっとここで耐えていれば外の状況は好転するはずだって信じてた。でもその考えは甘かった。私は待つんじゃなくて()()()()覚悟を持たないといけない。……外を知らずしてこの世界を生きていくことはできない。だから、だから……」

 

………………わかった。一緒に行こう。

にしてもすごい覚悟だな。()()()()()()の為にそこまで考えていてくれたのか。いつのまに逞しくなって……(ホロリ)

自分には二週間の期限があるけどそれは自分だけの期限だからなぁ……覚悟決まってなきゃこんな世界を生きていけないか。

 

「早速髪を切りたいから手伝って欲しいんだけど……いい?」

 

それは構いませんけど……ガチガチの素人が髪切っていいのか。

絶対ひどい髪形になるのと思うんだが。

って言ってる間にどっかから持ってきた散髪マントを装備してるし。

風呂場の椅子にちょこんと座ってもう準備万端じゃないか。

 

「巧拙なんて気にしないよ。一思いにバシッと! お願いします!」

 

今更引き返せないし……

ええい!ままよ!

 

 ■■■

 

「今までずっとあったものがなくなって不思議な気分。……お兄ちゃん。どう? へ、変じゃないかな?」

 

急にグラフィックが変わったわけだから少し違和感はあるけど、変だとは思わないなぁ

むしろ似合ってるのでは?

 

「本当!?……良かった。」

 

この称号獲得ルートを走ってる間初めてのことずくしだったけど、このイベントは本当に予想外だな……

万全を期すために攻略サイトをいったん確認しよ。

 

 

 

……えーっと、一応あった。 

けど……なんか覚醒イベントの一つの派生バージョンとだけでしか認識されてないな。

 

『覚醒イベントの一環として髪を切るよう頼む、もしくは自分で髪を短くすることが確認されている。

これによってグラフィックが変わるがステータスへの変化は特にない。』か……

 

そのキャラ的には結構デカいイベントだと思うんだけど……ステータスは変わらないらしいし厳密な発生条件もわかってないからそんな重要じゃないんだな。

……ま、いっか。

覚醒イベントは経験済みでステータス自体はそこで底上げされてますし。

本当にグラフィックが変わるだけなの?とは思いますけどね……

 

それよりどう妹を護衛するかだ。

妹の分のチャリはあるけどもちろん自転車スキルは取ってないから危険地帯を「隠密移動」で抜けることはできないし……

いざという時の武器はどうしよう。

 

武器の調達は園芸用品店まで待たないといけないな。

あそこなら十分実用に耐えうる品がそろってる。

なら……道中はできるだけかれらと遭遇しないようにして、いざという時は機動力で突っ切る感じだな。

逃げの一手しかない。

 

「お兄ちゃん!準備できたよ。行こう!」

 

ヘルメット、プロテクター、そして……フライパン?

なかなかシュール。気合が入ってるのは分かるけど少しズレてる気がする。

地底大陸……ハラペコザウルス……うっ頭が……

 

武器が何もないよりはマシかな?

グズグズしてると昼になっちゃうから出発しますか。

しらせ号が待ってます。

 

住宅地は視界が悪いから慎重に一体一体処理して幹線道路に入ったらスピードを上げていこうと思います。

 

「……わかったわ。」

 

フライパンをぎゅっと握ってるところ悪いけどたぶんそれを使う機会はないと思う。

むしろ使う状況になったらヤバい。

 

あー責任重大。

気合入れて、イクゾー!(例のメロディー)

 

 

妹がつかず離れずの位置にいるおかげで危なげなく住宅街を抜けられましたね。

ただ、途中何体か妹の目の前でかれらをやっつけちゃったからなぁ……正気度は大丈夫だろうか?

 

大丈夫そうですね。むしろ予想より正気度が高い。昨日の安静が効いたのかな

何気に好感度が最大値になってるし。いつ上がったんだ?

ついていくって言ったのは好感度が関係してるのかもしれないな……

 

おっと、ぼーっとしてちゃダメだ。

先を急がないと。

 

 

着きましたね。

良かったぁ~無事着いたぁ~

 

「ふぅ……行くだけで疲れちゃった。」

 

慣れますよ(光のない目)

飛真君みたいに「隠密移動」を駆使すればスタミナ消費が凄いから精神的疲労を意識する暇さえなくなりますよ??

まずは妹の武器を探さないとな。

 

「そうだよね。お兄ちゃんが戦ってるところをみて思ったけど、フライパンじゃ何の役にも立ちそうにない……」

 

やっぱりスコップか?いやナタとかのほうが良いか?もし殺傷をためらうようなら刺股も選択肢に入ってくるな……

 

 

「スコップは私の力じゃ扱えなさそうだから……バールとかがいいのかな?」

 

バールか……対ゾンビとしてベタな武器だけどちょっとリーチに不安があるな。

でも基本的にかれらから逃げるように立ち回るから、それを阻害しない携帯性といざという時の攻撃力を備えているとも考えられるか。

それでいこう。

 

バールが売ってそうなところは前回来た時に把握してるから注意しながらそこを目指そう。

 

そうそうここ。()()()()()()

……店員絶対置くコーナー間違えてるよ。防犯(物理)しちゃってるじゃん。

本来の用途で使うことが想定されていないのか……

 

妹は六角バールを選んだみたいですね。

いやに物々しいのにしたな……素振りしてる姿にちょっと恐怖を感じる。

 

刺股もありますね。これも持っていきましょう。

開けたところにいったん出て、試し討ちをしましょうか(マジキチスマイル)

本当のことを言うといざという時にちゃんと動けるように()()経験をしてほしい。

初回は正気度もゴリっと逝くからコントロール下で行ったほうが安全。

 

飛真君は刺股係になってもらって妹がとどめを刺す……といった感じで行きたい。

 

「分かった。……頑張る」

 

かれらを一人おびき寄せて……刺股で足止め!

それでもなお飛真君のほうに向かってくる隙に……

 

ゴキュ!

 

うへぇ、嫌な音。容赦なく頭を狙ったな。これは逝っただろ。

 

「や、やった……キャッ!」

 

まだ動いてる!クソッ!

 

刺股を足のほうにずらして思いっきり押す!

こけたところをスコップで!

 

グサッ!

 

頭部と胴体の今生の別れ。やっと倒せた……

絶対倒したと思ったのに。力が入り切れてなかったのかな?

 

「あ、ありがとう……」

 

妹の顔が真っ青だ……

これはちとマズったな。正気度は……あれ?意外と平気だ。

 

「もう一回。……お願い。 次は確実に殺って見せる」

 

……真剣な目。伊達に覚悟キマってないな。

正直こんな好戦的だとは思わなかった。

そんな本気にならなくても。どうせクリアまで()()()()()()()()のだからさ……

 

学園生活部と合流したほうが絶対楽なのに自分の縛りのせいで……

ここまで必死だと罪悪感を感じる。

もうちょっと肩の力を緩めてくれないとこっちもなんか接しづらいなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

ちょうど目を覚ました時、お兄ちゃんも起きたみたい。

 

気持ちのいい朝だ。水たまりが朝日を反射してキラキラしてる。

ベランダに置いた容器にもたっぷり雨水が入ってる。

これまで生活してきて水の大切さを痛いほど感じた。これで数日分だろうか?節約すればもっと持つかもしれない。

次いつ雨が降ってくれるかわからない。水の確保を怠っていたのは結構重大なミスかも。

 

なんだか今日もお兄ちゃんはのんびりしてる。

ごはんもなんだか手抜きだ。

 

水のこともあんまり真剣に考えてないみたい。

確かに昨日の雨で水はとりあえず大丈夫だけど……()()()()()()()()()()()ことを考慮するともっと安定的に水を手に入れる方法を見つけないと。

 

結局貯水タンクがいいのではないかという話になった。……私が一人で決めたようなものだけど。

なんだか気乗りしない風だったけどお兄ちゃんは早速行くつもりらしい。

 

……お兄ちゃんはいつもそうだ。十分な説明もないまますぐ行動に移す。まるで私を置いていくみたいに。

少し前の私だったら例え行ってほしくなくても「いってらっしゃい」と言って家で待っているだろう。

でも素直に帰りを待つには一人の夜の記憶は生々しく、鮮明だった。

嫌だ。あの時だってそうやってお兄ちゃんは……

 

「…………私も行く。」

 

思わずそう言っていた。

お兄ちゃんはポカンとした後、慌てて私を家に引き留めようとした。

 

気持ちばかりが先立ち上手くお兄ちゃんを説得できない。

お兄ちゃんがどこかへ行ってしまう気がして離れたくないとは言えない。本当はそうなんだけど、そうじゃなくて……そうじゃなくて……

 

『留守番も仕事の一つだよ』

 

「そうやって子ども扱いして! ……………わかったわ。私、髪切る!」

 

だんだん自分の思っていたことが言葉になってきた。そう、私は一人前になりたいんだ。

 

今までの私は通常の災害と同じスタンスを取っていた。助けはいつかは来る。それまでいかに生きるか……

その前提に立っているなら私がお兄ちゃんの庇護を受けるのはある程度合理的だった。

動かないのが仕事。最大の目的は延命だった。安全を確保し、待つ。お兄ちゃんには物資調達という大変な役割を押し付ける形になってしまったけど私が行くよりは適任だった。

 

でも、その()()が来ないとなると話は変わってくる。私たちの生活が持続可能である必要が出てくる。家だって然るべき避難施設への繋ぎではなく生活の場所へとその性質が変化する。

もちろん、私がやるべきことも……

 

()()()

この世界を拒絶するのではなく順応しないといけない。

お兄ちゃんがそうしていたように私も外に出なくちゃ

もう一方的に守られる存在ではいられなくなったんだ。お互いに助け合えるようになってやっと私はお兄ちゃんのそばにいていいような気がする。

 

私がもっと強くなれば一緒に買い物だってできるようになるし、何よりお兄ちゃんの負担が減る。

自分の足で歩けるようになれないとお兄ちゃんの歩調に合わせることも、間違った方向に進むのを止めることもできない。

力が、必要なのだ。

私はお兄ちゃんとずっと一緒に暮らすんだ。そのささやかな幸せを侵害する物事を排除できる力が……

 

 

お兄ちゃんは渋々といった様子で同行を許可してくれた。

 

行く前に髪を切って欲しいと頼んだ。

くしで髪をとかした後、躊躇してるお兄ちゃんに思いっきりやってくれと頼む。

ジョキジョキとあまり愉快ではない音が後ろから聞こえる。

 

ずっと私は長い髪と共に生きてきたからそれを失うのに抵抗はある。自分でも気に入っていたからなおさら。

それでもお兄ちゃんに切って欲しかった。

私は本気なんだ。……私は大切な髪を()()()()()の為に切るんだよ?

まだこういった形でしか気持ちを示せないけど、これからはちゃんと行動で表現したいな。

 

切り終わった後の私はまるで私じゃないみたいだった。

頭が軽く感じる。実際は切った髪の重さはあっても数百グラム程度しかないだろうけど、見た目が変わるのだから気持ちの変化は大きい。

お兄ちゃんが似合ってると言ってくれたのは意外だった。

別におしゃれのために切ったわけではないのだけど……でもそう言われると勝手に声のトーンが上がってしまうのだから我ながら単純だなと思ってしまう。

 

出発の準備はいつもお兄ちゃんが行くときにしている格好をまねした。スコップは持ってなかったからフライパンを武器として持つことにした。

『フライパンは強い』ってどこかで聞いたような気がする。

 

そして、出発。

 

いつも通っていた道は10年放置されたのではと思うほど荒れていた。

自転車で正解だったと強く思う。

お兄ちゃんはこの環境に完全に順応してた。

適切な誘導と間合い。かれらを排除すべきか無視して迂回すべきかを瞬時に判断してた。スコップは冷徹にかれらの急所を突き刺す。

それに、お兄ちゃんの乗ってる自転車から全く音がしない。そんなことってあり得るの?ドラえもんみたいに実は三ミリ浮いてるんじゃないかと疑ってしまう。

お兄ちゃんに聞いたら『自転車をずっと漕いでたらなんか無音で行動できるようになった』だって。なにそれこわい。

 

お兄ちゃんのエスコートのおかげで目的地に無事着けた。

気持ちがいったん緩んだらどっと疲れが来た。片道でこの疲労。肉体よりも精神が先にやられそうだ。

お兄ちゃんはまだ余裕そう。

 

まず私の武器を探すことになった。

お兄ちゃんと同じスコップにしようと思ったけど、私じゃ扱えないからバールにした。

試しに素振りしてみる。……重い。上手く使いこなせるか不安だけど、それ以上にこの重さに安心を感じた。

 

実際にかれらを倒せるか試すことにした。お兄ちゃんが足止めをして私がとどめをさす。

 

広い駐車場に出る。嫌でも鼓動が早くなる。お守りのようにバールを強く握りながらタイミングを待つ。

かれらはお兄ちゃんの刺股に足止めされて私の方を向いていない。チャンスだ!

ためらってなんかいられない。狙うは頭。一発で決める!

 

ゴキュ!

 

今まで聞いたことのないおぞましい音とともにかれらは大きくのけぞる。

 

倒せた!

……と思うのもつかの間、倒したはずのかれらが私の手を掴む。

掴んだ手の力の強さ。うつろな目には何も映っていなかった。あるのは私を食べようとする本能のみ。かれらは虚空に向かって口を開く。その口はそのままの勢いで私に近づいて……

 

突然かれらが視界から消える。

えっと思った時には

 

グサッ!

 

すべてが、終わっていた。

 

お兄ちゃんがかれらを転ばせてとどめを刺したんだ。少しして理解が追い付いた。

助かった……

 

お兄ちゃんがいなかったら私は死んでいた。お兄ちゃんは心配して私のもとに駆け寄ってきた。

正直全然大丈夫じゃない。死がこんなにも近くにあったのは初めてだ。心臓がバクバク鳴っている。まるで生きていることをアピールしてるみたいに。

 

でも、

 

「もう一回。……お願い。 次は確実に殺って見せる」

 

逃げてはダメだ。今回は力がうまく入ってなかった。次こそは、次こそは……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「じゃあ丈槍さん、直樹さん。行ってきます。」

 

「いってらっしゃーい!」

 

「あの、本当に行くんですか?」

 

「めぐねえが見つけた住所はそんなに遠くなかった。そんな心配しなくてもすぐに帰ってくるって。」

 

「約束していたおとといに来なかったことに加えて、昨日の雨……きっと何かあったんです!様子を見に行かないと!」

 

「悠里先輩の気持ちはわかりますけど……やっぱり今日は復旧に専念して明日行くとかのほうが……」

 

「大丈夫ですよ、直樹さん。ちょっと彼を()()()行くだけです。」

 

そう。迎えに行くだけ。

部員が活動に参加していない。これは顧問として見過ごせません。

私と恵飛須沢さんの二人で様子を見に行くつもりでしたが、若狭さんもついてきてくれるようです。

 

昨日は思い出したくもないくらい大変な一日でした。

雨やどりに来たのか学校にかれらが溢れバリケードは次々に突破され絶体絶命まで追い込まれました。若狭さんが校内放送を思いつかなかったら全員助からなかったでしょう。

結果だけ見れば感染者は一人も出なかった。でも次大丈夫な保証はどこにもない。

『彼がいてくれれば……』と思ったのは私だけではないはずです。

 

みんな口には出していませんが疲労と落胆がどんよりとたまっています。おとといの明るい雰囲気はもう曇ってしまいました。

先生も少し、少しだけ、疲れてしまいました……

 

約束を故意に破ったのか、どうしてもいけない理由があったのか、それとも……

なぜ来てくれなかったかは会ってみないと分かりません。

 

でも、彼が私たちを騙すはずがありません!きっと何かあったんだわ!

 

今度は私たちが助けます。だって私たちは部員同士なんですから助け合わないと、ね?()()()

 




書こう書こうと思っていたら4月になってしまっていた。
アイデア不足ぅ……ですかね……

なんか学園生活部がアップを始めたようですがどこに行くのでしょう?

4月からリアルが忙しくなるはずだったのですが……流行り病のせいで比較的暇ですね。(だからと言って投稿ペースが速くなるわけではない)

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