がっこうぐらし!称号「自宅警備員」獲得ルート(完結)   作:島国住み

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stay home してたら5月になっていた件について


ウチとソト

おはようございます。

 

太陽の位置から察するに結構寝てしまったようです。

でも、おかげで疲労はバッチリ回復してます。

 

妹は……まだ寝てますね。

 

昨日は気にならなかったけど、こうやって明るい中見るとこの部屋散らかってるな……

持ってきた物をそのままドサッと置いただけだからさすがに整理しないと。

 

とは言っても、昨日物資調達したおかげで今日はあんまりすることないですね。

のんびりできそう。

 

まずはベッドから出よう。それをしないと何も始まらない。

 

……動いたら妹起こしちゃうよな。

寝てるとこ悪いけど、朝もいい時間だからいっそ起こしてしまおう。

 

「……お兄ちゃんおはよう。」

 

まだ寝ぼけまなこですね。

じきに目は覚めてくるだろうから飛真君は朝食を作りに行っちゃいます。

 

「いてててて………………………」

 

急に痛がりだしたぞ。寝違えたの?

 

「筋肉痛。………………痛い。こんなに痛いと動けない。動きたくない。」

 

動きたくないって……妹のほうが自宅警備員の素質あるんじゃないか?

お望みとあらばここに朝食を持ってくるけど……

 

「大丈夫大丈夫。動こうと思えばっ!……いちおう、動けるから。………………すごく痛いけど。」

 

本当に痛そうだな……

慣れないスキーを一日中した次の日みたいな状態なんだろうなぁ

動けるけど動きたくないって気持ちはよくわかる。自分は毎日そんな感じですからね。

 

朝ごはんどうしよう。なんも思いつかん。

昨日正気度減っただろうから多少はメニューを考えないとダメだからな……

 

……咲良は朝、何がいい?

 

「別になんでもいいけど……しいて言うならミネストローネ、かな?」

 

それならインスタントであったな。缶詰パンと合わせれば十分か。

早速準備しよ。

まぁ、準備と言ってもお湯沸かすだけですけど。

 

もうできた。早い。さすがインスタント。

妹はああ言ってたけど、二階に食事を持っていこう。

 

「言ってくれれば下に降りたのに……」

 

せっかく持ってきたんだし、ここで食べようよ。

 

「うん……いただきます。」

 

食べてる間に今日することを整理するか。

部屋の整理と貯水タンクを設置して……それくらいか。

 

ご飯終わったな。後回しにする前に貯水タンクを設置しますか。

 

あれ?

というか昨日ベランダに貯めた水、移してないような……

 

「あっ」

 

はいガバ。二人して忘れるとかさてはゾンビパニック初心者だな?

ポリタンクは昨日持ってきたから早急に移し替えよう。

 

「昨日いろいろありすぎてすっかり忘れてた……水が大事って言ったの私なのに……」

 

これに関しては……二人とも悪いですね。

まぁ昨日帰ってきたらめっちゃ疲れてたし腹減ってたし暗かったしあの手紙のこともあったし……(言い訳)

 

20Lのやつが何個かいっぱいになりました。

ありったけベランダに並べたかいがありました。

 

さて、片付いたので貯水タンクに取り掛かろう。

飛真君が下で設置作業して妹がベランダからかれらがやってこないか監視する感じでやろうかな。

 

「分かった。……作業しようにも私今日まともに動けそうもないし」

 

多分飛真君も筋肉痛あると思うけど、ステータスには変化が表れてないので無視!

働くぞ働くぞ働くぞ働くぞ……

 

途中何度もかれらが職場体験に来たけど事前に妹が教えてくれるから難なく処理できたな

作業の方も特に躓くことなく済んだし。

 

外におきっぱだった昨日の戦利品の残りを回収しておうちに戻ろう。

 

「お疲れ様。お昼にしようよ。」

 

もうそんな時間か。

あとは部屋を整理するだけだしのんびりできるな。

 

昼にするにはちょっと時間が遅いからおやつぐらいの感覚でいいかも。

 

「じゃあ、お茶にしましょ。私、淹れてくるわ。」

 

飛真君疲れてるからお言葉に甘えようかな。

紅茶とクッキー☆で優雅なご↑ご↓

たまらねぇぜ。

 

これに音楽があったら最高だな!

……ラジオでやってるかな?

 

「えっと……周波数どれだったけ……え?」

 

『た……助けて……』

 

オイオイオイオイ。

これって圭ちゃんのSOSじゃないか!

声の調子からしてすごい消耗してるな。これは助けに行くべきか?

 

「…………………………」

 

あ。切っちゃった。

 

「冷めちゃうから早く飲みましょ?」

 

え、うん。

正直放課後ティータイムって気分じゃないんだが。

称号獲得が危うくなるような行動はとりたくないけど、消え入りそうな声で助けを呼ぶ声を聞いたら……

チャリで二けつすれば帰ってこれるか?駅はかれらが多いから防犯ブザーは絶対いるな。

学園生活部がもしかしたら救出に向かってるかもしれないから協力すればあるいは……

 

「……助けに行こう、なんて思ってないよね?」

 

…………………………お、お、思ってないよ?

 

「ダメ。絶対にダメ。」

 

いや行くなんて言ってないじゃん!手を!手を放して!痛いから!

あとその感情のこもってない目もやめて!

 

「今の私たちに人助けする余裕はない。なぜune autre personne(他人)のために死のリスクを負わなきゃいけないの?」

 

実際一人で行くのは無謀だからその通りなんだけど……

いやでもそうだよな。あきらめるしかないよな。

 

「……お兄ちゃんは別にあの人を()()()()わけじゃないんだよ?ミイラ取りがミイラになってしまうから止めてるの。これは当然の判断で、お兄ちゃんはそのことで気に病まなくていいんだよ?」

 

怖いと思ったら急に優しくなる。これもうわけわかんねぇな。

慰めてくれるのは嬉しいんですけどね。

なんか最近の妹はドライになった気がする。冷徹というか人を信用してないというか……

 

「そんなことないよ。そんな風に思われてるなんて心外だなー」

 

手を握られたんだが。なぜ?

 

「ほら。私の手、あったかいでしょ?だから心もあったかいの!」

 

それ逆だったような……

それはそうと、こう手を握られてると紅茶が飲めないデス。

 

「あ、ごめん」

 

……手は放してくれたんだけど、距離感は近いままだからなんか飲みづらい。

さっきまでは妹が椅子に座って、飛真君がベッドに腰掛けてたからある程度離れてたんだけど……今はすごい近いな。

 

「その、大事な話があるんだけど……」

 

え?何?

 

「昨日の手紙のこと」

 

ああ、そういえば。

 

「そういえばって………それでお兄ちゃんはどうするの?」

 

どうするも何も断るしかないでしょ。称号がかかってますからね。

ゆくゆくは合流したいとは思ってるけどそれはクリア後の話だから実現できませんし。

上手い言い訳を考えておかないとなぁ

 

「……お兄ちゃんもっと優柔不断だと思ってた。」

 

優柔不断だとしてもここは譲れませんよ。

あと数日なら家でも十分安全に暮らせますしわざわざ行く理由もないですしね。

 

「それならどうにか穏便に帰ってもらう方法を考えないと」

 

穏便かぁ……

本当は入部したかったんだけどやっぱやめます、てへぺろ☆……とか?

 

()()()()()()()()()()??」

 

な~んてn……な、なんか無表情になってますけど……どうされました?

 

「本当は?私といるのは嫌々なの?怒らないから、ねぇ怒らないから本当のこと言ってよどっちなの?ねぇ?ねぇ?」

 

……じょ冗談だよ!本気にしないでよやだなぁ~!

妹にはたくさん助けてもらってますからね。なんで嫌いになる必要があるんですか(正論)

私はおうち(称号)ファーストで走らせてもらってますからね!

自宅警備員以外、ありえない!

 

「…………もう!変なこと言わないでよ!冗談でも限度があるでしょ!」

 

ごめんなさい。お詫びして訂正いたします。

 

……あああメチャクチャ怖かったぁ

今のは完全に飛真君の失言でしたけどこんなに場の雰囲気が変わるほどだとは思わなかった。

なんでも正直に言ってはいけない(戒め)

なんか最近こんなことが多い気がする。確実に地雷が存在するんだよな。

 

「あの人たちにそんなこと言っちゃ絶対にダメだからね?ご機嫌を取ってたら増長させるだけなんだから。はっきりと拒絶しないと」

 

ソウデスヨネ。ハイ。

 

なんか当たり強いな。もしかして地雷って学園生活部?

ネガティブキャンペーンしすぎたかな。

これいざエンカウントした時にケンカになってしまうかも。

円満にあきらめてもらうには、まず妹の学園生活部に対するマイナスイメージを緩和しないとな。

 

そりゃ小言の一つや二つは言われるかもしれないけど、悪い人たちじゃないんだから向こうも事情を話せばわかってくれるよ。

 

「……話せばわかる相手だとは思わないけど。お兄ちゃん、もっと危機感持ってよ。」

 

心配しすぎだよ。取って食われるわけでもあるまいし。

 

「あの人たちはお兄ちゃんが家に残ると全く考えてない。全部思い通りになると思ってる。だからその勘違いを断ち切ってあげないといけないの。」

 

やっぱ言葉に棘があるなぁ

 

()()()()くらいは言わないと引いてくれないと思うよ?……お兄ちゃんは優しすぎるんだよ。……まぁ、その時には私がついていてあげるから大丈夫だよ。」

 

へ、へー。それなら安心だな(?)

 

妹式の断り方はなんか攻撃的で名案とは思えないな。

……今の妹の前では言えないけど、数日後に合流する確約をつけておけば穏便に済むと思うんだけどなぁ

自分は二週間自宅警備することしか考えてないけど、妹からしてみればこれからも生活する前提で行動しているわけだから設備の整った学校のほうが良いと思うのだけど。

悪者みたいに言ってるけど学園生活部の人たちは()()いい人達だし。

生活するなら断然、学校なのは事実だからなぁ……

お互いに対する無知が悲しい誤解を生んでしまっている。

もう少し妹が学園生活部への警戒感を和らげてくれたら提案してみるか。

 

この話はここら辺で終わりにしよう。……もう地雷は踏みたくない。

 

「お兄ちゃん、お代わりいる?」

 

あ。いただきます。

 

……休憩のつもりだったけど妙に精神を使ったな。

話はひと段落したけど妹は相変わらず飛真君の横にぴったりくっついてるしなんか落ち着かないんだよなぁ

これ飲み終わったら早速部屋を片付けますか。

 

「え?もうちょっとゆっくりしてようよ。今日はもう特にすることないじゃん」

 

確かに急ぎのことはないけど妹のそばにいると地雷を踏みそうで怖いんですよ

部屋の片付けを理由に離れます

 

「私より部屋の掃除の方が大事なんだ……」

 

別にそうは言ってないんですけどね

 

アイテムを分類して収納しないと必要な時どこに置いたかわからなくなるからアイテム整理は意外と大事なんですよね。

普段なら物をなくしてもまた買えばいいやってなるけどこの世界じゃそうもいきませんですからね。

リアルでは絶賛汚部屋でもここでは整頓された部屋を目指します。

 

思ったより時間かかりましたが綺麗になりました。

今回は持ってきた物の量が多かったからその分時間がかかってしまいましたね。

もう夕方です。そろそろご飯の支度をしなくちゃ

 

「私もご飯の支度手伝う!」

 

凝った料理を作るつもりないから大丈夫だよ

 

「でも今日私、何もしなかったし……お兄ちゃんの為に何かしたいの。ダメ?」

 

そこまで言うなら飯盒でご飯作ってもらおうかな。飛真君は牛丼の缶詰を開けることに専念するから火の番ヨロシク!

 

「わかった。……ってお兄ちゃん楽しすぎでしょ。私飯盒自信ないからお兄ちゃんもそばにいてよ」

 

そうなると手伝うというより一緒に飯盒が炊けるのを眺める会になってしまうのだが……

 

「♪」

 

楽しそうだしいいか。飯盒に劇的な変化が訪れるわけではないから面白い眺めだとは思わないけど妹にとっては新鮮なのかな。

飯盒で炊くとキャンプ感がしてワクワクしてたけど何回も炊いてるうちにそんな気持ちも薄れちゃったなぁ

 

無事炊けました。分量もちゃんと守ったので硬さも問題ないです。

牛丼がこんなご時世に食べれるなんて幸せだなぁ

一つ難点を挙げるとすれば値段が高いことですが今は値段なんて関係ないですからね。缶詰だから賞味期限は長いのでいうことなしです。

 

でも妹は牛丼にしないで鶏そぼろの缶詰を選んだみたいです。

種類がいっぱいあるおかげで全然飽きないですね。気分で食べる味を変える余裕があるのはかなりありがたい。

 

「私のもあげるからさ、お兄ちゃんの牛丼ちょっと食べていい?」

 

いいよ。

 

「じゃあ、ハイ。」

 

え?お皿を交換するんじゃないの?スプーンを差し出されても……

 

「食べないの?」

 

いや食べるけど……これって俗にいう『あーん』じゃん。

まぁ……向こうは気にしてないみたいだしこっちも気にしなくていいか

 

■■■

 

「その牛丼も美味しかったね」

 

そうだね。どっちの缶詰も当たりだったな。

夕飯も終わったし寝る支度しますか。

 

「今日はどっちが奥側で寝る?」

 

……わかっちゃいたけど、一緒に寝るのは既定路線なんですか。

なんか最近、というか今日は特に飛真君に対して距離が近いよなぁ

 

「……お兄ちゃんも距離が近いとかそういうこと言うんだ」

 

()

 

「こ、言葉の綾だよ。それで、どっちにするの?」

 

どっちでもいいんだけど……

奥側にしようかな。

 

「じゃあ私着替えて来るね」

 

飛真君のほうもさっさと着替えて寝ちゃいましょう。

今日は誰かが訪問してきたり外に出たわけではないのでとても穏やかな一日でした。

……本当に平穏無事かと言われたらそうでもないんですけど。

学園生活部は圭ちゃんの救出に行ったんでしょうね。妹が思った以上に彼女たちに対して敵愾心を抱いていたので今日鉢合わせるとヤバかったかもしれませんね。

 

あとはおとなしく過ごすだけなのですが学園生活部との問題がまだ解決してないですし、妹もなんか未だに自分には理解しかねる行動をとってたりしますし……

圭ちゃんの救援ラジオの件とかチャンネルを変えるくらいの気軽さでラジオを切ってたので唖然としちゃいましたよ。

リアリストの側面は確かに持ってたけど、まさかあれほどまで冷徹だとは思わなかったですね。

一緒に寝るとかもそうです。最初は正気度回復の為だと思ってましたけど最近じゃ習慣みたいになってるのが良くわからない。

 

……ここだけの話、ちょっと妹が怖いんですよね。

急に雰囲気が変わったりとかするから会話してて神経を使うというかなんというか……

 

「もうお兄ちゃん寝ちゃったかな?」

 

ギクッ!

急に現れたからビックリしたぁ……

まぁここだけの話はこっちの世界の話(メタ発言)なので飛真君は普通に寝てるんですけど、なんか後ろめたいな。

やっぱ唯一の同居人の悪口を言うのは良くないですよね。

 

「…………………………」

 

妹も寝たみたいですね

 

何もないわりに今日は疲れたな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 

お兄ちゃんに起こされた時には既に太陽は高い位置にあった。

昨日あんなに動いたからまぁしょうがないかな。学校もないしたっぷり睡眠が取れるのは嬉しい。

疲労は取れてる。けど……

 

ああ、やっぱり。

動こうとすると激痛がする。

筋肉痛になるだろうなぁとは思ってたから別に驚かないけど痛いものは痛い。

 

大げさに言ったからお兄ちゃんを過剰に心配させてしまった。

そのせいか大丈夫っていったのにご飯を持ってきてくれた。

 

朝食が終わって一息ついていたら、お兄ちゃんが昨日の水をまだ容器に移し替えてないことに気が付いた。

すっかり忘れてた。容器を取りに昨日出かけたのに二人して目的を忘れちゃうなんて……

手紙の事とかあったからしょうがないか。

 

そうだ。手紙。

昨日は二人とも疲れててうやむやになっちゃってたけど、お兄ちゃんはどうするつもりなんだろう?

断るだろうとは思うけどあんなに熱心に書かれていたんだ、もしかしたら……

 

心中穏やかじゃない。

お兄ちゃんに頼まれてベランダからかれらがやってこないか監視してる時も落ち着かなかった。

あの人達の押しの強さにお兄ちゃんの決意が揺らいじゃったらどうしよう。

 

……ちゃんと話し合わないとダメだよね。

 

外の作業が終わってからお兄ちゃんをお茶に誘った。

もちろん労いの意味もあるけど、話し合うための口実でもある。

 

ちょっと前まではのんびりお茶ができるなんて夢にも思わなかったけど、今ではこうする余裕がある。

こんな穏やかな毎日が続けばいいなぁ……

 

そんな甘い考えはラジオによってかき消された。

何の気なしにつけたラジオから予想だにしていない声が聞こえた。

 

女の人の、助けを求める声。

 

私たちの町の駅にいるらしい。

助けに行こうと思えば行ける距離だ。……ということは

 

やっぱり。お兄ちゃんが急にソワソワしだした。

 

耳障りなラジオを消してもお兄ちゃんは落ち着かないみたい。

なんてタイミングの悪い。興ざめた。

 

「……助けに行こう、なんて思ってないよね?」

 

そんなことないと口では言ってるけど目が泳いでる。

()()人助けをしようと思ってるんだ。

そんなことしたってロクなことにならないのに。

 

思いとどまってくれたけど、なんか哀しそうな顔をしてる。

お兄ちゃんは優しいから助けに行くのを当然のことだと思っているせいで罪の意識を感じてるんだ。

駅はどう考えても危険な場所だ。そんな場所に赤の他人を助けに行くなんて無理。

優しさが他の人に向かってるのが気に食わない。

私とお兄ちゃんがこうやって生活できてるだけで十分じゃない。そんな些事(救援要請)に拘泥してないでもっと私を見て欲しいな……

 

……おっと。本題を忘れてた。昨日の手紙のことについて話をしないと。

 

また()()()を発揮して煮え切らない態度をとるものだと思ってたけど、あきらめてもらうしかないってキッパリ言った。

そうそう家に迎えに来る甲斐甲斐しさに騙されちゃいけない。不当な契約なんだからクーリングオフしちゃえばいいのよ!

お兄ちゃんはちゃんと分かってた!そう、思ってたのに。

 

()()()()()()()()()()??」

 

お兄ちゃんもこれが失言だとすぐに気づいたらしく顔に『しまった!』って書いてある。

失言だったら大問題だ。本当はそう思ってたってことなんだから。

疑念はあっという間に私の心の中に展開して強固な陣営を作ってしまった。

それは冗談なの?本音?どっち?

 

……どうやらお兄ちゃんなりの()便()だったらしい。

相手を持ち上げようって寸法だ。お兄ちゃんは甘い。そんなことをしたら相手は付け上がってくるに決まってる。

お兄ちゃんは断ることを後ろめたく感じているせいでそんな風に弱腰になっちゃうんだ。そんな断り方じゃあの人達の粘着は止みそうもない。

お兄ちゃんの為に私が心を鬼にして断らないとダメね!

 

でもこれで安心だ。

懸念事項が消えてやっと心の底からティータイムを楽しめる。

邪魔も入らない。何かをする予定もない。

 

お兄ちゃんとお話をしながら優雅な午後を過ごせると思ってたのに、お兄ちゃんはおもむろに立ち上がると部屋の片付けを始めてしまった。

そんなこと今じゃなくてもいいのに。

事務的な話が終わったらすぐにこうやって私から離れる。頼まれもしないのに人を助けようとするくせに、私が頼まないかぎりそばにいてくれないなんておかしい。

第一、 お兄ちゃんは働きすぎなんだ。もっと私に時間を使ってくれてもいいじゃない。

 

いいこと思いついた。私も料理を手伝えばいいんだ。

私はまだ子供だと思われてるからお兄ちゃんは仕事を一人でしようとして時間がなくなってしまう。

私が手伝えばお兄ちゃんもきっと喜んでくれる!

 

お兄ちゃんはあんまり乗り気じゃなかったけどなんとか説得した。

飯盒で米を炊くだけだから手伝いはいらないけど、それなら横に私がいても平気なはずだ。

炊飯器とちがって飯盒は少し手間が増えるけど米が炊きあがってく様子が伝わってきて楽しい。

 

お兄ちゃんがついていてくれたおかげで無事にお米が炊けた。その後、お兄ちゃんは牛丼を、私は鶏そぼろの缶詰を開けて食べた。

 

隣の芝生は青く見えるもので私はお兄ちゃんが食べている牛丼が妙においしそうに見えてしまう。

食べ合いっこを提案したら、乗ってくれた。お兄ちゃんも同じ思いだったらしい。

 

比べてみると、牛丼も美味しかったけどやっぱ鶏そぼろが一番かな。

スプーンを差し出されたその時はよだれがいっぱい出たけど、いざ食べてみると想定内の美味しさだった。やはり鶏そぼろをチョイスした私の選択眼は正しかった。

 

ご飯も終わってあとは寝るだけって時にお兄ちゃんが『最近やけに咲良の距離が近い』って愚痴っぽく言ってきた。

 

「……お兄ちゃんも距離が近いとかそういうこと言うんだ」

 

ショックでついそう言ってしまった。

お兄ちゃんはあのメモのことを知らない。あれは的外れな讒言だったはず。

……でも現にお兄ちゃんの口からその言葉が出た。

 

それからの私の動きは動揺を上手く隠せていたと思う。

そばにいたらボロを出してしまいそうだったから着替えるために離れたのだ。

 

「もうお兄ちゃん寝ちゃったかな?」

 

あんなことを言われたから中に入るのをちょっとためらう。

でも何の反応もないのでそのまま入った。

 

「…………………………」

 

普段ならすぐ寝付くはずなのに中々眠れない。

どうして急にあんなこと言ったんだろう?

私の感覚ではお兄ちゃんとの距離はむしろ遠いくらいなのになんで?

本当はもっと甘えたいけど我慢してる。これでも()()()()()()の?

たしかに昔と比べたら距離は近くなったけど、それは環境が違うからだ。

昔はお互いに無関心でもやっていけてたけど今はお互いに気にかけあう必要がある。こういう時こそ家族は一緒に居るべきなのだ。

それにお兄ちゃんは優しいし頼りになる反面、そのせいで余計なものまで引っ付けて帰ってくるから目を離すなんてできないじゃない。

だから私情を挟まなくても私が傍にいるのは当然。

ラスコー洞窟にもそう描かれている……のは冗談だけどお兄ちゃんにとってもこれは自明の理なのだ。

それなのにどうして……

 

遠慮しちゃってるのかな?私が妹だから甘えちゃいけないと思って気丈に振舞ってるだけなのかも。

それとも……

 

結論は出ない。

 

というかたった一言のためにこんなに悩むなんてバカバカしい。そんなことは分かっている。でも答えが欲しい。安心したい。

いつからお兄ちゃんの一挙手一投足が気になるようになったのだろう。

 

……眠れないのはお兄ちゃんのせいなんだからね!

怒りを込めてお兄ちゃんの背中をちょっと押す。

反応はない。ぐっすり寝てる。

 

はぁ……1周回って目がさえてきちゃったよ……

 

 

 




時間はあるがアイデアがない
アイデアはあるが時間がない

このままだと虚偽表示で訴えられそうなのでタグを少しだけ追加しました。
確かにこのような要素があるのは否定しないがそれがメインというわけでは決してありません(被告人陳述)


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