がっこうぐらし!称号「自宅警備員」獲得ルート(完結) 作:島国住み
「ここ……ですかね?」
「表札に『青木』って書いてありますからそうだと思います。」
「……見た目から察するにここで間違いなさそうだな」
飛真君の家は住宅街の一角にあった。
一階は完全に封鎖されてベランダへ伸びる梯子がぶら下がっている。きっと二階から出入りするようにしているのだろう。
かれらの侵攻を抑えるために地面には様々な障害物が設置してあった。
まるで私たちを拒絶しているみたい……
……そんなわけないじゃない。やむにやまれぬ事情があって来れないだけ。私たちがこうやって迎えに来るのをきっと待ってるはずだわ!
梯子を登ってベランダに降り立つと雨水がいっぱい入った容器が目についた。
「おっとっと。危うく蹴っちゃうところだったぜ」
「……どうして水をためているのでしょう?」
めぐねえの声は微かに震えていた。
合流するつもりならこの家には長居しない。だから水をためる必要はないはず。つまり……
いや、まだそうと決まったわけじゃない。この家の中に彼はいるはずなのだから彼に聞けばいいのだ。
「おじゃましま~す。お迎えに来ました~。……あれ?」
「留守?おーい!迎えにきたぞー!」
部屋という部屋全部確認したけど誰もいなかった。でもさっきまで人がいた雰囲気はする。
「飛真君どこにいっちゃったんだろう……」
「……そういえば、外に自転車あったかしら?」
「もしかして、行き違いになってる?」
くるみが言ったように行き違いになっているだけなのかも。
……でも、もしそうならどうして水をためる必要があるの?
洗い場にある二人分の食器、読みかけの漫画が散らばった部屋。生活感にあふれていることがそうではないことを物語っている。
となると考えられるのは物資調達だ。さっきテーブルにカードリッジが空の状態のガスコンロがあった。インスタント食品はまだ残ってたけど、ウォーターサーバーの水が残りわずかしかなかった。そういった必需品を調達しに
一度そう思うともう止まらない。
そういえばあの時急に一人で帰るって言いだして荷物も全部持って帰っちゃった。住宅街だから車で行くのは危ないというのが理由だったけど……今思えば方便だったのかも。でもどうして?裏切られる理由がわからないわ。学校のほうが生活しやすいのは在学生の飛真君ならすぐわかるはず。なにが嫌だったのだろう?いや、違う。別の要因があるはずだわ。
……
「…………しばらく、ここで待ってましょう。」
めぐねえもそう感じたらしい。
行くときの明るい表情がウソみたいに沈鬱な顔になってる。
まだ決まったわけじゃないけど、私たちは騙されていた可能性が高い。
「え?でもゆき達にはすぐ帰るって言っちゃったし……」
「きっとすぐに帰ってきますよ。だから少し待つだけです」
「まぁ、ちょっとくらいなら大丈夫か」
くるみはすぐにも帰りたそうにしてたけどめぐねえが説き伏せた。
すこし遅れることより飛真君の無事をこの目で確認する方が大事に決まってるじゃない。
待つとは言ってもこんなこと想定してなかったから暇だ。
めぐねえがベランダに出て外を見ているから私は特に何もしなくていいし……
手持ち無沙汰になって辺りを見渡す。
トランプでも持っていけばよかったわ。暇つぶしになるものでもあればいいのだけど……
「なんだりーさん、男の部屋がそんなに興味深いのか?」
「へ?い、いや……別にそういうわけじゃ……」
くるみがいたずらっぽい笑みを湛えながらからかってきた。
本当にそんなつもりなかったのに指摘されてなぜか赤面してしまう。
そういえばここは飛真君の部屋だったわ。急に緊張してきた。
くるみは勝手知ったるといった顔でベッドに腰掛けてる。
こういう時に自然体にふるまえるくるみが羨ましい。
「ん?枕が二つ?なんか一流ホテルみたいだな……」
枕が二つ?……それってもしかして。
横の部屋に行って確認する。この部屋にもベッドが置いてある。インテリアから察するに飛真君の妹の部屋で間違いないだろう。
やっぱり。
ここに枕はない。……つまりあの狭いベッドで二人寄り添って眠っていた、ということになる
たまたま今日だけなのだろうか?それとも毎日……
いや頻度とかの問題じゃない。姉妹とかならまだわかる。私も妹に頼まれたら添い寝すると思う。でも、いくら仲が良い兄妹でも一緒に寝たりはしないはずだ。
狭いベッドで二人がひしめき合って寝る理由が見当たらない。寝具は人数分ある。お互いを温め合うほど寒いわけでもない……
……まぁ、そういうこともある、ってことかな?
私たちと一緒に生活するようになるわけだし兄妹どうしの仲は良いほうが円滑に暮らせるわよね、うん。
なんかモヤモヤするけどそう思うことにしよう。考えすぎてはいけない、そんな気がした。
枕のないベッドから目をそらすと、横にあったゴミ箱に気づいた。小さな何の変哲もないゴミ箱だ。その中にはビリビリになった紙が入っていた。
もちろん人の家のゴミをあさる趣味はない。飛真君の部屋の生活感に比べてよそよそしさを感じる部屋の中、そこだけ感情が残っている気がしたのだ。
紙だと思ったら写真のようだ。写真をビリビリにして捨てるなんて何かあったのだろうか?
え?
私たちの、写真?
それは活動記録の為に撮った記念写真
なんでこの写真がここにあるの?……いや、それは大した問題じゃない。
問題はどうして破られた状態で捨てられていたのか、だ。
場所から考えてこれをしたのは飛真君の妹だ。彼女からすれば兄が急に一日いなくなったのだ。帰ってきた飛馬君に対して無事を安心する気持ちより怒りの気持ちが先立ってしまい、
でも突発的な行動の結果と考えるには破り方が丁寧だ。
……私たちのことが気に食わなくて破ったってこと?
破り方から考えればこれが一番しっくりくるけど、となるとどうして私たちが嫌われているのかがわからない。
そういえば妹が賛成してくれるかわからないって飛馬君言ってたっけ。一人で帰った理由も妹さんが理由だった。
飛馬君は了承してくれたけど、だからと言って私たちは妹さんに学校に来ることを強制することはできない。
だから飛馬君が説得に行く……説得といっても飛馬君が学校に来ることは
でも飛馬君が約束の時間に来なかったのとこの写真の惨状を考えれば二人の間で意見が割れてしまったことは容易に想像できる。
飛真君の提案に反対する理由なんてない。このような状況なのだから設備の整った場所で協力し合って生活するのが一番に決まっているのに……
きっと妹さんは精神的に不安定なんだわ。これは氷山の一角で飛真君は妹さんのヒステリーに悩まされてるのかもしれない。
常に死の危険が迫っている中正気を保つのは確かに大変だけど八つ当たりをされてる飛真君がかわいそうだ。
まるでヒーローの如く私たちを助けてくれた飛真君だったけど彼にもこんな悩みがあったのね……
やっぱりあれは運命だったのね!あの時出会ってなければ私たちは生きていなかったし、飛真君も妹さんとの生活に遅かれ早かれ参ってしまっただろう。
「若狭さんどうしました?」
考え事に夢中になっていてめぐねえが来たのに気が付かなかった。
「実は……」
めぐねえには話しておいた方が良いかもしれない。
枕と写真のことを話した。私が予想した妹さんの人物像も一緒に言った。一筋縄ではいかない相手かもしれないのだ。疑念を共有しないと。
「素性の分からない人と突然一緒に暮らすとなると困惑してしまうと思って、その写真は飛真君に託したんです。飛真君が脅されて言っているわけではないと信じてもらうためでもあったんですが……」
「あ、写真を渡したのは先生だったんですね」
「ええ。完全に裏目にでてしまったようですけど……」
しょんぼりしてしまってめぐねえが小さく見える。慰めようとした矢先
「……まさか……いえ、そんなことあり得ないわ……」
「どうしたんですか?」
「いや……なんでもないの。それよりも、彼女には心のケアが必要かもしれないわね……絶対にあの二人を学校に連れて行かなきゃいけないわ。一人きりは危険だけど二人だけというのも危険なの。閉鎖的な環境だと一度関係性が確立したらそれを変えるのは難しい。止める者もいないからエスカレートする傾向もある。私が、私が救ってあげなくちゃ……」
何かに気づいたようだったけどはぐらかされた。なんだろう?エスカレートって何が?
よくわからないけどそれがシリアスな問題であることはめぐねえの表情から分かる。
「若狭さん。このことは他の部員には内緒にしましょう」
「え?」
「みんなにこのことを伝えたら妹さんの心証が悪くなってしまいます。飛真君もまだ写真については気づいてないはずです。私たちが黙っていれば不和も起きません。」
「は、はい。そうですね。」
いつになく真剣な表情だ。思わずうなずいてしまった。部内の平穏を優先したのだろうけど私は納得できなかった。あんなひどいことをする人とは仲良くなれそうもない。
「二人とも向こうの部屋で何してたんだよー」
くるみは漫画を読んでくつろいでいた。さっきから静かだったのはそのせいか。
「何か遊べるものがないか探してたんです」
めぐねえが流れるように嘘をついた。どうやら有言実行するつもりらしい。
「新しい漫画とかあった?」
「いえ、特にこれと言ったものはなかったです」
「なーんだ。残念。トランプぐらいあると思うんだけどな」
「じゃあ私が一階を捜して来るわ」
「りーさん。まぁ待て。私に心当たりがあーる」
くるみはなぜかニヤニヤしてる。良からぬことを思いついたのだろう
「それは……ベッドの下だ!」
「「ベッドの下?」」
「
相場ってどこの?よくわからないがくるみは得意げだ。なにか根拠があるのだろうか?
「はいはい迷推理、迷推理。お見事ですねー」
「む。信用してないな?それなら今から証明して見せよう」
そういうと本当にベッドの下に手を伸ばしだした。あんまり綺麗なところじゃないからやめた方が良いと思うのだけど……
「ちょ、ちょっと恵飛須沢さん。男性の部屋でそれは……」
「めぐねえは詳しいねぇ……」
「ち、ち、ち、違います!詳しくなんかないです!ただ私は親しき中にも礼儀ありということをですねぇ……」
「大丈夫大丈夫。あんなの都市伝説だから、見つかりっこないって」
話が見えないけど、どうやら『大事な物を隠すならベッドの下!』といった風潮があるらしい。大切な物なら金庫とかにしまっておくべきじゃないのかしら?
「お。なんか箱がある」
「恵飛須沢さん!!いけません!!」
めぐねえは何故か顔が真っ赤だ。
「よいしょっと」
出てきたのは四角い収納ケースだった。これが、大事な物?とてもそんな風には見えないけど。
埃もかぶってて大事にされている感じはしない。
「じゃあ早速あけr「ダメです。」
開けようとするくるみの手をめぐねえが抑えた。
「人には誰だってプライバシーがあります。それを侵害してはいけません」
「ちえっ……わかったよ」
「分かればいいんです」
確かに人の家の収納をあれこれ開けるのは不躾だ。くるみもこれであきらめ……
「……と思わせて!」
「あっ」
……なかった。
箱の中にはカードがいっぱい詰まってた。
たしか『投☆資☆王~キャピタリズムモンスターズ~』とか言ったっけ。昔からある有名なカードゲームだ。コンビニとかでもカードが売ってたような気がする。
それにしてもすごい量のカード……集めるのにどれくらいかかったんだろう
「な?何ともなかっただろ?」
「それでもダメです!早く閉まってください!……全くもう!」
「あっ、ちょっちょ……」
重さを確かめようと箱を持ち上げたくるみに対してめぐねえはそれを阻止しようと手を伸ばした。
虚を突かれたくるみは思わず力を緩めてしまって……
ドシャ!
中身をぶちまけてしまった。
「「「あっ」」」
本来ならすぐにでもカードを拾わないといけないのだが、私たちは皆一様に固まってしあった。
箱の中身はカードだけではなかったのだ。中身をひっくり返してしまったことにより
それは本、いや雑誌だった。カラーで、肌色が多くて、隠れて然るべきところが隠れていない女性が写った……雑誌だった。
今私たちが見えるのはその一冊だけでその下にはまだ何冊かあったけど誰も表紙や中身を確認しようとしない。
永久の沈黙を破ったのはくるみだった。
「その……ほんとにあるとは思わなくて…………スマン!!」
そういうことか。
私たちじゃなくて飛真君に謝るべきだと思う。
「……と、とりあえず元通りにしましょ?」
「そう、ですね……」
見た目は何事もなかったのように元通りになったけど、くるみはひたすら気まずそうにしてめぐねえは素知らぬふりをしようと頑張ってるけど顔が真っ赤だから全く隠せてない。
きっと私も顔が赤くなってると思う。
事故でとはいえ人が最も隠したいと思っている一辺を見てしまったのだ。意味もなく心臓がドキドキして頭も真っ白。どう振舞えばいいのか皆目見当もつかない。
誰もしゃべらないと閑静な住宅地は本当に鳥のさえずりくらいしか聞こえない。
気まずい。
この状況を作った本人をにらみつけても申し訳なさそうな顔をするだけでこの気まずさが消えるわけではない。
……私は、ちゃんと理解してる。学校でも習った。健康な若い男性なのだからしょうがないことなのだ。それを持っていることに何ら不思議な点はないし寧ろ当然なのだ。うん。
先生からすればまだまだ子供かもしれないけど、高校生なんだから身体的にはもう大人だ。
ゆっくりゆっくり現実を飲み込む。これは事故なのだから次会った時変な顔をしないように気を付けないと。
めぐねえはさっきまで顔が真っ赤だったけど今度は心なしか顔色が悪い。めぐねえは結構顔に出るタイプだからよくわかる。
そんなショッキングだったのかな?でも考えてみれば当たり前のことだからそこまで深刻にとらえなくてもいいと思う。
私が言うのもなんだけどめぐねえはこういったことに耐性がなさすぎるんじゃないかな……
「あ。オセロあるじゃん!……でも三人じゃ遊べないなぁ」
気まずさに耐えかねたくるみはこの部屋を物色してた。ついにゲームを見つけたらしいが確かにオセロだとみんなで遊べない。
「対戦表が入ってる。どれどれ……妹が勝ち越してるな。『お兄ちゃんは角を取ろうとする気持ちが強すぎる』なんて書かれちゃってる……あの二人結構仲いいんだな。」
忘れていた違和感を思い出した。そう、あの二人は一緒に寝るくらい仲がいい。でも兄の学校への誘いはヒステリックに拒絶した。そこがよくわからなかったんだ。
めぐねえは思いついたらしいけど……
「そうですね。あの二人は仲がいいんですね。本当にそれだけならいいんですけど……」
なんだか含みのある物言いだ。めぐねえには何が見えているのだろう?
…………………………
……………………
……まさか。
鳥肌が立って寒気もする。考えるだけでもおぞましい。
普段なら絶対に思いつかないし、思いついたとしてもそんなことはあり得ないと一蹴するだろう。でも今回は違った。
絶対にくっつかない点と点がつながった。
ゾンビが現実の脅威として存在する世界に以前の常識は役に立たない。なにが起こってもおかしくない。それは人間関係でも同じかもしれない。
その一方で変わらないものもある。死体が動くようになっても私たちはお腹がすくし、夜になると眠くなる。生理的欲求は普遍だ。
昔の常識から見ればただの仲良しの兄妹なのかもしれない。でも
仲良しの範疇を超えて執着しているとしたら説明がつく。片時も離れたくないなら一緒に寝てもおかしくないし、私たちの存在も邪魔に見えてしまうだろう。
十分に常軌を逸している考えだと思うけど一番納得できる。
そしてそれが行きつく先は…………………………
「なんか二人とも顔色が悪いぞ。どうしたんだ?」
「いえ、なんでもないです」
「なんでもないわ」
「そういう割にはやっぱ顔色が悪いけどな……さっきからずっと黙ったままだし。そろそろ帰ろうぜ。ゆき達も心配してるだろうしさ。」
気が付けば日が傾いてきてる。まだ明るいうちに帰った方がいいのは分かる。でも
「もう少し待ちましょう。飛真君はきっとすぐここにやってくるはずです」
「でもよー、もう結構待ったぜ?元々そんなに長居するつもりはなかったんだから別日でもいいじゃん?」
「そう、ですね。でしたら置手紙を残しておきましょう。」
これ以上遅くなったら学校にいるゆき達が心配して探しにくるかもしれない。私たちには戻らないといけない場所がある。めぐねえの判断に従うしかない。
……私もみんなもこんな殺伐とした世界に放り込まれて疲れているんだ。あんなことを思いつくんだから私も十分狂ってる。くるみがあんなエッ……成人向けの本を見つけるから発想が暴走しちゃったじゃない!
杞憂に決まってる。今日は会えなかったけど、次はきっと
でも妹さんには一言忠告しておかないとね。頼れる人が飛真君しかいないとしてもべったりしすぎだ。家族ならもっと節度をもって接するべきだわ。しかも写真を破るなんていくらなんでもひどい。性格の悪い人と家族だからという理由で一緒に居ないといけない飛真君がかわいそう。現にあなたのワガママのせいで飛真君は私たちの元に来れていないじゃない。
「そろそろ行こうってめぐねえが言ってたぞ……何書いてんだ?」
「ちょっとね。私からも伝言。今行く」
風通しを良くしないと飛真君まで腐ってしまうわ。
くるみちゃんは色々なことに理解がありそうだなぁ、、、閃いた!……ということで書いた次第です。割と思い付きです。
次は時間を進めていきたいとは思ってる。思ってはいるんですがねぇ……