がっこうぐらし!称号「自宅警備員」獲得ルート(完結) 作:島国住み
ひとりでに目が覚める。
今日はお兄ちゃんに起こされなかった。
安心して寝れたからというのもあるけど、きっと精神的に疲れていたのだと思う。
最近は毎日晴れだ。どんよりした曇りよりは好きだけどそろそろ雨もほしい。
そんなことを思ってるうちに明日にでも雨になるかもしれない。そう考えるとこの晴れを有効活用しなきゃという気分になる。
まずは布団を干さなきゃね。寝てしまえば気にならないが、やっぱり湿ってきてる。
人は寝てる間にかなりの量の水分を放出してるって聞いたことがあるし、それが二人分となればなおさらだろう。
「お日様の匂い」は一体何の匂いなんだろう?ダニの死骸だとか言われてるけど私は信じてない。新品の布団でも干せばお日様の匂いがするからきっと別の何かの匂いなんだろうな。
じめっとした布団はどことなく不潔な気がするから定期的に干さないとね。
あとは洗濯ね。まとめてやろうなんて思ってたらいつの間にかたまっちゃった。
お兄ちゃんも最近は外出を控えてるから洗うより捨てたほうがいいようなひどい汚れ方をした服が減った。もともと私はあまり外に出ないから着た服はほとんど洗濯物になる。
手洗いは初めてじゃないから要領はわかってる。でも、前回とは量が違う。気合を入れて取り組まないといけないかも。
お兄ちゃんが作った軽い朝食をとってから行動を開始する。
布団を干すのは別に大変じゃないからすぐ終わった。ベランダに余裕があったから私の部屋の布団もついでに干した。
にしてもいい天気だ。ほんとうならどの家もベランダに洗濯物が干してあるはずだけど……
人が消えた町は何も動かないし何も聞こえない。気まぐれに聞こえる鳥のさえずりくらいしか自分たち以外の生物を感じる機会がない。
取り込み忘れた洗濯物が風にあおられて心細げに揺れている光景はあるべきものが欠けている気がして気味が悪かった。
本当に空っぽだ。ひしめき合うように家が立ち並んでいるくせに誰一人ここにはいないのだ。
……外を見てるとかえって気が滅入っちゃう。
お兄ちゃんはなんか穴を掘ってた。集中しているのか無心で同じ作業を繰り返してる。
私も外を漫然と眺めてる場合ではない。さっさと洗濯を始めちゃいましょ
洗濯は私の服から始める。量が多いからね。
洗濯表示は特に見ないでじゃんじゃん洗ってまとめてすすぐ。
基本的に何度も着てた服を着るようにしてたから大丈夫なはず。洗濯機でオッケーなら手洗いがダメなはずない……と思う。
覚悟してたけどすすぎで結構な量の水を使う。ケチケチして洗剤が残っていたら体に悪いしこればっかりはしょうがないか。
さぁ次はお兄ちゃんの服だ。といっても私のよりは量が少ないからそんなに大変じゃないはず。
洗い始めようとして気づく。ズボンとかシャツとかは抵抗なく洗えるけど……し、下着は……
どうしよう。考えてなかった。洗濯するって言っちゃった以上、やらなきゃいけないよね……
そう!これは仕事だもん。こういう分担になってるからそうするだけであってそれ以上でも以下でもない。
だいたいお兄ちゃんの下着一つで大げさだ。意識しすぎなんだ。他の洗濯物と何も変わらないじゃない。お兄ちゃんも誰が洗おうが気にしないはずだ。
頭ではわかっているのだけど、いざ洗おうとパンツに手を伸ばすと何か悪いことをしてる気がして顔を真っ赤にしてひったくるように取った後、他の洗濯物も洗剤液にねじ込んで一心不乱に洗った
ジャブジャブジャブ……
なんとか、なったわ。こんなことにドギマギするなんてホントに私どうしちゃったんだろ……
洗濯に慣れてないからだ。きっとそう。男物を洗ったことないからちょっと動揺しちゃっただけに決まってるわ
さぁ後は昨日着た服だけね。
よく見るとズボンのポケットが膨らんでた。今回は手洗いだから特に問題はないけどちゃんと中の物は出してほしかったな。
出てきたのはハンカチだった
…?これ、どう見てもお兄ちゃんのやつじゃないな。
何の変哲もないタオルハンカチ。でもレースがあしらわれていたり節々から女性らしさが伝わってくる。私のではない。持っていたらお気に入りのハンカチになっていたはずだ。それくらいセンスがいいハンカチだった。
お兄ちゃんのズボンのポケットに女物のハンカチが入っているのはなんだか気に食わない。誰のだろう?というか、いつのものなの?
世界がこんな風になる前に何かの拍子でお兄ちゃんのポケットにこれが収まったのかな?お兄ちゃんの性格ならありえる。ハンカチの存在すら忘れててズボンに入ったまま今日この日を迎えたとしても不思議じゃない。
あ。でも使った形跡がある。昨日汗かいたとか言ってたしこれで拭いたのかな?
においをかいでみる。怖いもの見たさじゃないけど絶対に臭いと分かっているのについにおいをかいでしまうことがある。なんでなんだろう。
案の定汗臭い。……あれ?柔軟剤の、香り……?
自分の家で使っていたものとは違う。これはこのハンカチの持ち主が自分の家の人間ではないことを示している。
それよりも!どうしてまだ微かに柔軟剤の香りが残っているのか、これが問題だ。
明らかにおかしい。ポケットに入れたままだったのならとっくに香りは霧散している。
現時点で生き残っている人間は知ってる限りでは両手で足りる人数しかいない。正確なことはまだ分からないけど、持ち主とハンカチがお兄ちゃんの手に渡った時期はだいたい見当がつく。
昨日、お兄ちゃんはあいつらに会ったなんて一言も言ってくれなかった。
……いや、隠してたんだ。
そうとしか考えられない。たしかに空白の時間があった。だから何があったのか昨日ちゃんと聞いたのに。
一人で夜を過ごしたあの日、私は悟ったんだ。それまでは別々で行動してた。私たちは確かに用心深くなったけど、行動の本質的な部分は何も変わってなかった。でもそれじゃダメだって。お互いのことは一つ残らず知っておかないといけないだってはぐれた時に連絡を取る手段がないし一緒に暮らすんだから隠し事はご法度に決まってる。
あいつらに会ってからお兄ちゃんはおかしくなった。お兄ちゃんは私だけを見てたのによそ見をするようになった。まぁ家にまで押しかけてくるくらいだから無視するのは難しいかもしれないけど……
私を選んだんじゃないの?あの時あいつらの口車にほだされていたら学校に行こうと私を説得しようとしたはずだ。
だから家にいようって言ってくれて嬉しかった。家族と一緒に居るのが一番だ。お兄ちゃんは流されやすい性格だけど、ちゃんと大切なことは分かってるんだって。
私を探し出してくれた時も、もちろん私が外に出たのはお兄ちゃんのせいだ。でも私をちゃんと見つけてくれた。あの時のお兄ちゃんの目には安堵と焦燥と、そして何より、私以外何も映ってなかった。
なのに
会ったなら会ったと言えばいい。
嘘だったんだ。今までのことぜんぶぜんぶぜんぶ!
向こうはお兄ちゃんをしつこく追い求めるしお兄ちゃんも関係を断ち切ろうとしない。
一方的に押しかけられて困ってるという態度をとっていたけど、その実お兄ちゃんはまんざらでもなかったのかもしれない。
……いけない。結論を急ぎすぎてる。まずはお兄ちゃんから
まだ、わからない。杞憂の可能性だって十分あるんだから
残りの洗濯物を洗った後すすぎをしてバスタオルを使って水分を吸い取っていく。
服の扱いが手荒になってる気がするけど気のせいだ。私はまだ冷静だ。
洗濯物を干すためにベランダに出るとまだお兄ちゃんは穴を掘ってた。重大な秘密がバレたことなど思いもしてないのだろう。
さてと、お兄ちゃんが話しやすいようにお茶とお菓子を準備しなくちゃ
コンロの使い方はわかる。難なくお湯を沸かすことができた。
お菓子も戸棚にまだ残ってるのを知ってる。
おっと、忘れてた。いざという時の為に
準備は整ったわ。あとは……
「お兄ちゃ~ん」
「どうした?」
「そろそろ休憩しない?」
「ちょうどそうしようと思ってたんだ。今行く」
ちょうど疲れていたのか顔をほころばせてる。私も気配を悟られないように努めて明るい声を出した。
一息ついてから、切り出す。でもいきなり聞くのはよくない。まずは周囲を旋回するように……
察しがいい人ならとっくに言わんとしてることが分かるはずなのに、お兄ちゃんの表情に変化がない。
気づかないのならしょうがない。
「お兄ちゃんが昨日履いてたズボンのポケットに入ってたんだけど」
「これ、なぁに?」
効果はてきめん
一瞬ポカンとしてハッとしたかと思うと、みるみる顔が青ざめていく。お手本のような顔色の変化だ。
お兄ちゃんのこういう分かりやすい所は好きだけど、いただけないのが本人は仏頂面を貫けていると信じ切ってるところだ。
「……ハンカチだな」
だからこんなことを言う。まだ隠しおおせる余地があると思ってるんだ。
イラっときたから嫌味ったらしく言ってあげるとさすがに置かれた状況を理解したらしい
「あ、あのな。実は、昨日言わなかったことがあるんだ……」
「言わなかった?隠してたの間違いじゃないの?……まぁいいや。それで、このハンカチは一体どのような経緯を経てお兄ちゃんのポケットに収まったの?」
そうだ。聞きたいことはそこだ。返答次第では……
「それはですね……外に出て、そろそろ帰ろうかなって時に偶然あの人たちと会ったんだ。その時自分は汗だくだったから……それでハンカチを頂いたんだ」
やっぱり会ってた。口調から判断するにハンカチの持ち主は先生のようだ。お兄ちゃんに変なものを渡さないで欲しい。
お兄ちゃんもお兄ちゃんだ。
……信用できない。嘘をついてるかもしれない。まだ隠してることがあるはずだ。言いにくいことなのかな?
「このまま学校に連れてかれそうな勢いだったけど……断って家に帰ってきたんだ。本当にそれだけなんだ。心配するようなことは何一つ起きてない」
「僕が頼んで、もう家に来ないようにしてもらったんだよ。これでもう安心だよ。黙ってたのは……謝るよ。けど咲良を騙そうと思ってしたことじゃないんだ。時期を見て言うつもりだったし、もう学園生活部の人たちとは会わないだろうから自分の中では終わった話だったんだ」
「………………」
さっきから言葉がするする私を通り抜けていく。お兄ちゃんの必死の弁明に反比例するかのように疑念は深くなっていく
庇おうとしてる。どうしてあいつらの肩を持とうとするのだろう?
お兄ちゃんが、どんどん私から離れていってしまう。そんなのだめお兄ちゃんが心を開いていいのは家族の私だけ外は良くないものがいっぱいある現に危ない観念に囚われてるこうやって私たちを引き離そうとしてるんだそうに違いない止めないと止めないと止めない今毒に侵されてないのは私だけ私が助けてあげないと……
「勝手に家に上がり込んで気味悪い置手紙を残してく人がそんなすぐにあきらめるなんて考えられない。それにお兄ちゃんも学校に行きたいんでしょ?そうに決まってるそういえば夜も起きて窓を見てたやっぱり逃げ出す機会をうかがってたんだ……いいわ。あくまでも綱引きをしようっていうのなら……断ち切ってやるわだってお兄ちゃんは私のなんだもん奪われるくらいならいっそ、いっそ……」
なんだか視界がふわふわしてる。同時に頭も上手く働いていないように感じるのに口は動く。体の間の連絡が唐突に取れなくなってそれぞれの器官が勝手に動いてる一方で強烈な感情だけが奇妙な一体感を以って私を統率してる
「待っててねお兄ちゃん。ちょっと痛いかもしれないけど……」
今は危急存亡の秋なんだ。家族がバラバラになっちゃう。お兄ちゃんはそのことに気づいてないばかりかそれに協力さえしている。これは私に対する重大な裏切りなんだからお兄ちゃんはある程度痛い目に遭ってもしょうがないよね?
私だってお兄ちゃんに鈍器を振りかざすのは心苦しい。こんなことしなくたって私の気持ちを信じてくれるって信じてたんだから。でもこれは必要な処置だったってきっと分かってくれるはず。
当分の間は動けなくなるとは思うけど、その間は身の回りのことは全部私がやってあげるし、足りないものは私が調達するから。そして傷が完治する頃にはお兄ちゃんは完全に私の………………うふふふふふふふっ、なんて完璧な計画なの!これが怪我の功名ってやつかしら?
これでずぅーっと一緒に居れるね、お兄ちゃん………
これからの幸せな生活に思いを馳せていたせいか動きが緩慢になってしまった。
お兄ちゃんは私を無理やり座らせると私の目を見て何やら言っている。
………なにを言ってるんだろう?そして私はどう答えたのかな?
モヤがかかったかのようにすべてのものがあやふやだ。確かなのはただ一つ。私たちの絆は生まれたその日から永遠が担保されていたということ。
「不安になることは何もない。大丈夫、大丈夫だから……」
突然。何か意味のある言葉が飛び出る前に私はお兄ちゃんに包まれていた。
お兄ちゃんの体温が、心臓の鼓動が私の中にある何かを少しずつ溶かしている気がする。
「きゅ、急に何よ。こんなことで誤魔化そうとしたって……」
そうだ。これはお兄ちゃんなりの作戦に違いない。気持ちをしっかり持たないと。一周回って冷静になれた。これは、あまりにも、できすぎている。
欲しかったものが向こうからやってくるなんておかしいわ。
「自分にとって家は一番、一番大切な所なんだ。他の場所に移ろうなんて思ったことは一度もない。だから学園生活部に会ったことは大したことじゃないと思って言わなかったんだ。でも、自分の勝手な判断が咲良を不安にさせてしまったのかもしれない。本当に、本当に誤解なんだ。信じてくれ……」
ほらやっぱり。
抱擁の強さに危うく騙されるところだったわ。お兄ちゃんの言葉にはどこか逃げ道がある。
私をなだめるための方便に違いない。私が安心しきった後、行動を起こすつもりになんだ……
「実は、家じゃなくて……その、咲良が大事なんだ。たまたま助けた人たちよりな。学校なんかに行ったらずっと一緒に居れなくなっちゃうだろ?……でもこんなこと恥ずかしくて面と向かって言えないから今まで胸の内に隠してたんだ……」
息が、止まった。イチバン。私が、私が、お兄ちゃんの、一番……
何もかもがひっくり返ってしまった。ついさっきまで私の中を巣食っていた不信と何か破壊的な情動は朝日を浴びたキョンシーのように燃え尽きてしまった。
「……本当?ほんとに、私が、一番、大事なの?」
疑ってるわけじゃない。ただただもう一度聞きたい。
空虚な言い訳はもうお腹いっぱいでも甘いものは別腹だ。
『騙されるな!』と私の中で警戒のランプが確かに光っているのだが、そこに目を向ける者は誰もいない。
「もちろん。大事に
「……………………えっと、その、私、お兄ちゃんがそんな風に私のこと想ってくれていたなんて知らなくて……取り乱しちゃった。ごめんなさい。」
やっとそれだけ言えた。それどころではない。お兄ちゃんがさっき言ったことをリフレインすることで忙しいのだ。
ましてや今私はお兄ちゃんの胸の中。なんかもう、ドロドロに溶けてしまいそう……
でもお兄ちゃんは仕事は終わったとばかりに離れようとしてる。くっついてるのだから気配で分かる。
「……ダメ!まだ、信用したわけじゃ、ないんだから……」
もっと、もっともっともっと強く抱きしめて欲しい。それに、今私はだらしなくにやけきっててとてもお兄ちゃんに顔見せできる顔ではない
お兄ちゃんは動かない。一応いうことは聞いてくれたが私の意図は汲んでくれないらしい。むぅ。
それにしても、学校に行くと私を独り占めできなくなっちゃうから家にとどまってたなんて……
お兄ちゃんがそんなに独占欲が強いヒトだったなんて知らなかったわ。そーゆーひとは嫌われちゃうんだよ?お兄ちゃん?……ふふふっ
巷にはそういう
あーこわいこわい。こわいからずっと一緒にいなきゃいけないよね。
お互いに密着してるもんだから周りの空気が湿ってきてる。二人分の熱であっためられた空気にはお兄ちゃんの匂いもしていて嗅いでるとなんだか……
あっやば。よだれ出てきちゃった……
「グゥー」
……お腹も鳴っちゃった
ご飯の準備を理由にお兄ちゃんは下に降りてしまった
でも何で今お腹が鳴ったんだろう?空気読んでほしかった
確かにお腹空いてる。なんだか無性に肉が食べたい気分だ。
けほっけほっ
……?
そういえばまだ洗濯物と布団を取り込んでなかった。急いで取り込まなくちゃ
洗濯物を畳むとすることがなくなった。暇だと考えてしまうのは、夕飯のこと。
夕飯のことを考えたら余計腹が減ってきたわ……
本でも読んで気を紛らわせようっと
「できた?」
我慢できなくなって下に降りたらちょうど準備ができたらしい
聞けば今日は獣肉らしい。食べたことないから楽しみだ。
実際食べてみると予想してた臭みはなくて美味しかった。
でも味付けが濃すぎる。加工されきったものじゃなくて、もっとレアで頂きたかったな
生肉!って感じのものが良いんだけどそんな贅沢はもうできないか。
少し前までは缶詰の肉でも十分すぎるほど満足できてたのになんだか数日でグルメになってしまった。あるもので満足しないと。
……あと言わなかったけど量も少なく感じた。量自体はいつもと差はなかった。今日は特別お腹が空いていたのかも。
ご飯を食べたからもう寝る流れになった。
いつも通り着替えて、体をキレイにして……
……私、臭ってないかな?
今の時代はシャワーの代替手段はたくさんある。髪だってドライシャンプーを使って清潔に保つことができる。
でも代替は代替だ。限界があるのかもしれない。
今まではとりあえず清潔を保っていればいいと思ってたけど……
人と寝てるんだからもっと気を遣ったほうがいいかも。念入りに、念入りに……
けほっけほっ
……まただ。風邪かな?
いや、鼻水もでてないし喉は全くの正常だ。
熱を測ってみても平熱よりむしろ低いくらいだった。部屋が埃っぽいのかも。換気もしておけばよかった。
「……もう、勝手に寝ないでよ」
いつもより寝る支度に時間がかかったせいかお兄ちゃんは寝てしまっていた。
ちょっと淡白なんじゃない?
「まぁ別にいいんだけどねっ」
きっとあんなこと言った手前、恥ずかしくなってそそくさと寝てしまおうって魂胆なんだろう。ちゃっかり私の分のスペースを空けてるあたりにお兄ちゃんの本心が透けて見える
お望み通り横に寝るけど、それじゃなんか物足りなくて腕を拝借する。
抱き枕みたいにふっくらしてないけど、あったかくて弾力もある。にへへ……
本丸に突撃したい気持ちはある。でも、まだ恥ずかしい。
それまでは腕でガマンガマン……
「あっ……」
寝がえりを打たれた。お兄ちゃんはまだ起きてるはずだ。だってこんなに近くにいるんですもの。寝たふりなんてすぐにわかるわ。さっきまで動向を見定めるかのように微動だにしなかったのに急に寝がえりを打つなんて不自然だ。
背中が拒絶を表している気がした。昼間は向こうから抱きついてきたくせに私がちょっとぎゅっとしただけで距離を置こうとするなんて……
「わざとだ。今絶対わざと私を避けようとした。ねぇそうでしょ?ねぇねぇねぇ……?」
朝令暮改だ。こんなに変わり身が早いってことはあいつらにだっていい顔をしてるかもしれないお兄ちゃんには『一番』が複数存在してるかもやっぱり念を入れて片足だけでも……
「い、いや。ちょっとびっくりしちゃっただけなんだ……」
「なーんだ。そうだったのね。じゃあ、おやすみ。お兄ちゃん」
気のせいだった。寝かけてる時に急に私がやってきたわけだからそりゃビックリするか。
いけないいけない。疑う癖がついちゃった。もう安心して大丈夫なのに。
そうだ。鳥が逃げてしまうから羽を折るなんてナンセンスだ。そんなことをする人はどうかしてる。でも私はお兄ちゃんのせいとはいえ、実際にそれをしようとしてしまった。反省しないと。もっといい方法があるのに気づけなかった。鳥は鳥かごに入れておけばいいんだわ!
今以上に危ない時代はない。外には捕食者がいっぱい。生き残った人同士でも生存競争にさらされる。だから大事なものは常に手元に置いて盗まれないようにしないとね!
お互いに鍵を掛けあえば絶対に出てこれない。お兄ちゃんだってそれを望んでる。
もう我慢しなくても、いいんだ。
お兄ちゃんの腕を抱き枕に、私はぐっすりと眠った。
冷静になると筆が止まってしまうので少しお酒の力も借りました。
前までは一日分をこれくらいの分量で書けていたのに最近じゃ妹パートだけで一話分になってしまってますね。それだけ一日一日が濃くなったってことですかね(好意的な解釈)。
冗長になってなければ良いのですが……