がっこうぐらし!称号「自宅警備員」獲得ルート(完結) 作:島国住み
「う~~ん……」
起きましたね。
今は……西日がすごいですね。夕方近くまで寝てしまったようです。
泥のように眠りましたね。一睡もせずあんなに動いたんですからそりゃ当然か。
体力も回復してます。正気度も寝る前よりはだいぶマシになってます。メンタルが死んでる時はとりあえず寝るっていうのはローコストかつ効果が高いですからね。もっとも、原因が別にあるのなら効果は限定的なものになってしまいますが……
さてと、妹も治ってるだろうし様子を見に行くか。
「おにいちゃん?」
ちょうど来てくれましたね。ぱっと見は治ってそうですね。服がちょっとヨレヨレですけど。
「大丈夫か?後遺症とかは、ない?」
「こういしょう……?」
何かピンときてないようですね。大げさに首をかしげてる。そこまで大げさだとあざといの部類に入っちゃうと思うゾ。寝ぼけて頭が働いてないのかな?
「まぁ今はいいか。調子はどうだ?」
「んーっと……わかんない!」トテトテ
いやいや分かるでしょ。そしてなんでこっちに来るんだ?心なしか精神年齢が下がってるような……
「んーっ……」スリスリ
うわっ!めっちゃすり寄ってくるんだけど……ど、ドユコト??
「すんすん……すんすん……」
「な、何?に、臭うのか?」
「おにいちゃんのにおい……ふへへ……じゅる……えへ、えへへへへへへ……」
えぇ……(困惑)。キャラ変わりすぎでしょ。正直うっとおしいから離れてほしいんだけど。
「な、なぁ。ひとまずご飯にしようよ?僕の方はもう腹ペコだよ」
「おなかすいた。ごはん!ごはん!」
「そうそう。ご飯。何がいい?」
「おにいちゃん!」
「……冗談はやめてくれ」
「えへへ……おにいちゃん、すき……」ガバッ
うわっ!押し倒された!
「ちょちょちょ……」
「はぁはぁ……わたしの、わたしの、おにいちゃん……すき……だいすき……」
……今の押し倒す力、妹とは思えない強さだった。発言もおかしいし。第一、目がヤベェ。
目が充血して、加えて瞳孔が開ききってる。
しかもカーソルを妹に合わせても……情報が、表示されない。本当に妹なら、人間なら表示されてるはずなのに。
つまり……これは……
「だから、だからさ……ぐえっ!!!」
まだ治ってないってことだろ!!
スマン!蹴っちまった!でも早急に距離を取らないといけないんだ。あとで謝るから!
どうなってんだよ……なんで治ってないんだよ……
「治って、ない……」
「なおる?わたしはけんこうだよぉ……」フラッ
「知能は少し残ってるのか……?」
「うごいたらたべれないよ!だいすきっていったのに!うそつき!」
ダメみたいですね(知能)。話してる内容分かってないな……雰囲気で会話してるぞこれ。記憶もめちゃくちゃだし。
それじゃこっちもガバガバ理論で対抗するか。
「美味しいものは最後に取っとくだろ?僕のことが大好きなら食べるのは後でにしたほうがいいんじゃない……?」
「んー??だいすきだから、たべちゃだめ?だめ……だめ……?」
お!理性を取り戻しかけてる!
「そうだ。思い出せ。あのころを。人間なんて食べたくなかっただろ?」
「たべる……だめ……がまん、してた……。でも、そーしそうあいならがまん、いらない……おにいちゃん……ぐへへ…」
……ポ、ポーズいいっすか?(n回目)
静の呼吸!一の型!阿吽! すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~
……なんとか落ち着きました。
完全に油断してた。想定だにしてなくて今でも信じられない。
でも現実として妹はまだ
意思疎通も無理ですね。しゃべれるけど自分を律する能力を喪失してる。
ロジックがゾンビのそれですね。
でも、100%ゾンビかっていうとそうでもなさそうです。妹にカーソルを合わせても情報が
どうやらまだ人間とゾンビの間を彷徨ってるみたいですね。ただ、限りなくゾンビに近いです。逃げ回っても回復は見込めないでしょう。
くそ。意味が分からない。薬はちゃんと打ったのに……こんなことは初めてだ。
もう!この夜を越えたらクリアだってのに!一体どーなってんの!!!!
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「みんな!大変!起きて!」
突然。眠りに入ったばかりの私の耳に若狭さんの声が入ってきた。緊急事態が起こったに違いない。でも、まだ私はまどろみの中から抜け出せずにいた。
「う~ん……若狭さん?いったいどうしたんですか?」
「飛真君が!来たの!」
「「「「えっ!?」」」」
みんなが一斉に反応する。もちろん、私も。
目が一気に覚めた。霧が晴れたように明瞭になりつつある意識の中でまず考えに昇ったのは自分のだらしのない身なりのことだ。
ゆったりとした格好、つまりパジャマだ。やっと来てくれたというのにこの格好では恥ずかしい。
そうでなくとも部室の中は突然の出来事にてんやわんやだ。その騒がしさが逆に私を冷静にしてくれた。先生である私が倉皇としているわけにはいかないわ!
もちろん着替えるわけにもいかず、観念して明かりをつけた。祠堂さんは飛真君と面識がないから混乱を早く解く意味でもこの判断は正しかった。彼の顔が見えるようになったことで現状を落ち着いて確認することができた。
飛真君はやけに切羽詰まった顔をしている。夜間での移動で疲れてしまったのだろうか?
「さっきは取り乱してしまってごめんなさい。突然でビックリしちゃって……でも、やっと来てくれたんですね。これで全員……あれ?妹さんは?」
それが彼を家に引きとどめた元凶だったはず。
「……今日は、助けてほしくて、来たんです」
「まさか……妹さんの容体が悪化したんですか!?確かにここには一般的な市販薬のストックがあります。保健室に行けばもっと……」
「違うんです。妹が、感染、したんです……」
感染……?そんな……
飛真君がここに来た理由が分かった。確かに私は外で偶然会った時に治療薬があるらしいということを彼に言った。
薬が目的だったのね……
心のどこかに生じたささやかな、でもはっきりと感じる落胆を無理やり押し込める。今こそ助けてもらった借りを返すチャンスじゃない!先生としてここは率先して協力しないと!
「……薬、ですね。分かりました。行きましょう!場所はもう頭の中に入ってます」
元々調査に行く予定ではあった。だから場所も分かるし、障害になるであろう部屋の鍵も職員室で既に回収済みだ。本当は万全な状態で行きたかったけど、しょうがない。
地下へは私と恵飛須沢さん、そして飛真君の三人で行くことにした。あまり多くても帰って危険になってしまう。滞在時間は少ないだろうし少人数の方が都合がいいはずだ。
急がなくちゃいけないけど、最低限の準備は必要よね。ケミカルライトにそれと、それと……
「あの!」
直樹さんの声で我に返る。直樹さんはどうやら感染の経緯が知りたいらしい。言われてみればたしかに気になる。
話によると知ったのは今日の夜らしい。自己申告だから感染後すぐその事実を知ったわけではなさそう。……うん?
「噛まれた、ってことですか?でも妹さんは寝込んでて外に出てなかったんですよね……?」
閉じこもっていれば感染は防げるはずだ。もし噛まれたとしても、その傷は隠しおおせるものではないはず。なにか、なにか引っかかるのよね……
「実は、外でみんなとばったり会った日に妹は僕を探しに一回外に出てるんだ。でもその時は感染した様子はなかった。確認した限りではかすり傷もなかった。でも実際に感染した。原因があるとすればあの時しかない……」
「……私はゾンビ化までのタイムリミットは分かりません。それでも、もしあの日から感染してたとしたら、その、言いにくいんですけど……」
そこだわ!私の知る限りでは感染したら数時間、持っても半日ほどでゾンビになってしまう。一度入ってしまえば増殖のスピードは桁違いに早いということだろう。たとえ微量であっても体内に入れば発症までの期間はさほど変わらないはずだ。
直樹さんは
飛真君のほうも疑われていることに気づいたらしい。そうではないことを伝えようとしているけど……どうしても一度芽生えた疑念を払しょくできない。
極めつけは飛真君の腕の傷だ。指摘されて目線をそこに移すと……
「傷……?あっ」
明らかに妹につけられた傷だ。襲われたってこと?
自分がやったという主張は直樹さんによって簡単に覆され、飛真君は観念したように本当のことを話し始めた。
「どうしてもって言われたから仕方なく……向こうから頼んだんだ。理性があったからそうやって頼むこともできたし、血だけで済んだ。そうだろ?」
血を欲しがる……普通の人間ならまずそんなことは頼まない。そう、
きっとみんなの頭にはある懸念がもたげているはずだ。『もうゾンビなんじゃないか』、と。
もし彼が言ったことが事実だったとしても、なぜそれを許したのかと詰問したくなる。
漂流した人間に海水を飲ませるようなものだ。渇きは、思いとは裏腹に抑えがたいものになるはず。
ねだるのも、与えるのもどっちも間違ってる。
お互いを信頼してるから?仲がいいから?……この行為には、なにか薄暗いものを感じる。
月明りに照らされた昏い、昏い部屋で血を滴らせる兄とそれを吸う妹。
想起されたこのイメージに思わずゾッとした。私たちの奥底にある何かを逆撫されたかのように鳥肌が止まらない。
「それでも、私たちがやるべきことは一つです!飛真君を信じましょう!……助ける方法はそれしか、ないんですから!」
肌が粟立つ感覚そのままに、私はこう宣言していた。
上手くは言えない。でも、彼がまとっている濃密な空気は、どこか、腐臭がする。
その必死さも、献身も、美談では済まないような、額面通りに受け取ることを拒むような気配を内包させている。
それでも、やるしかない。話の信ぴょう性はこの際無視しよう。彼たっての望みなのだから。助けるしかない!
完全に割り切れたとは言えない頭を出発の準備でどうにか一つにまとめようとする。バリケードの外に出るのだ。気がそぞろになっていたら命に関わる。
「それでは、いってきます」
「いってらっしゃーい!」
すぐに出発すると思ったら。飛真君はなぜか水筒に水を入れている。持参してきたということはそうするつもりだったってことね。そんなに水状況が逼迫してるのかしら……?
長く、家に居すぎたのかも。
一人では孤独には耐えられない。それなら二人なら?
家族といえども二人の人間であることには変わりはない。孤独を回避できる最小単位は組織の最小単位でもある。編み上げブーツのように規則正しく交わっているだけなら問題は何もないけど、もし
……多少強引でも二人を早くここに連れてくればよかったわ。
向こうで何が起こっていたのかまだ判断がつかないけど、学校に来ていればこんなことには……
「もう大丈夫。行こう」
声を聞いて初めて、私は考えごとをしていたことに気づく。
いけないわ。集中しないと。
気を取り直して、バリケードを越える。ここからは一階。危険な場所だ。
恵飛須沢さんと飛真君がいるおかげで目的の扉まではスムーズにたどり着けた。……鍵がかかってるわ。
鍵は既に回収済みだ。障害にはならない。でも……それは中にいるゾンビが保存されていることを意味している。これは厄介だ。
「どうだ?」
「……結構な数がいる。あの、佐倉先生」
「めぐねえでいいわよ」
今は自分の呼ばれ方について拘泥している場合じゃない。
……威厳というか立場上あだ名はあんまり好ましくないと思うけど、もうめぐねえでもいいかなって意志が傾きかけている自分がいることは否定できない。そっちの方が呼びやすいのは事実だし。
飛真君の提案で私たちが地下室に向かい、彼は退路を確保する役割を果たすことになった。
彼は余裕だと殊勝にも言い放ったけど、いかに飛真君がゾンビの処理に慣れていてもこの量は厳しいと素人ながら思った。つまり、彼が稼いでくれた時間は一秒でも無駄にできないということだ。ここまでして妹を助けたいという強い気持ちを感じた。
飛真君の負担は大きい。でもこれ以上の妙案は浮かばなかった。
私たちは
「頼みます。……恵飛須沢さん」
「おうよ。……頼んだぜ」
私たちはそう言い残すと、機械室に急いだ。ここにも鍵がかかっていたけど、冷静に開錠できた。
そこにもゾンビが二体いた。部屋は狭い。避けることは……
「うおりゃっ!!」
と思った矢先、とんでもない早業で一体仕留めると
「あたしは後で行く!だからめぐねえは先に……!!」
「わかりました!」
私が先頭となり、地下室へ急ぐ。
始めこそ警戒していたが、どうやら倉庫にまではゾンビは来ていないようで、硬いコンクリートに反響する私の靴音のみが響いていた。
地下室に行くための電子ロックも解除できた。ここからは、存在すら秘匿されていた場所だ。
中は非常灯が若干の明かりを提供していた。太陽光での発電量と利用可能な量が一致してないと思っていたけど、ここで使われてたのね。ここに違いないわ。
一見しただけでも過剰ともいえる物資が蓄積されていた。完全に
とはいえ一つ一つを検分している場合ではない。お目当てのものを早急に見つけないと!
医療品は……ここね。医療品と括っても段ボール何個分といった量だ。備えあれば……って備えすぎよ!!
でも必要なものは意外と早く見つかった。一個、バイオハザードのシンボルマークに緑の注射器が書かれている重々しい箱があった。どう考えてもこれだろう。
早速開ける。すると中には……
「うそ……い、一個しか、ないの……?」
あるにはある。試作品と書かれた一本が、緩衝材に包まれ鎮座していた。
治療薬はあった!これは、喜ぶべきことだ。はやく、はやく飛真君の元へ届けないと!!
「………………」
でも、動けない。
にわかに汗ばむ。暑いからではない。心臓が、早鐘を打つ。走ったからではない。
私は、今、選択を迫られてる。いや、
私はてっきり治療薬は何個もあるものだと思っていた。それなら一個を渡しても惜しくはない。一本でも残れば複製の容易さは格段に上がるのではないかと勝手に考えていた。
……でも、唯一の治療手段が一回限りなら、話は別だ。
今こそ部員のみんなは感染せず、健康でいる。色々な危機を乗り越えて強くなった自信もある。だけど、不慮の事態は起こりかねない。これを渡せば、私たちが感染から回復する手立ては一切なくなる。
治療薬の重要さは私たちが予想していた以上だった。一個しかないのだから、当然おいそれとは使えない。
冷静に、冷静に考えよう。
でも、私たちもそうだが、人類それ自体が危機に瀕しているのだ。今私たちに起こっている現象がどれだけの規模で起こっているのは分からない。それでも推測するに最低でも国単位、ひょっとしたら世界中が未曾有の事態に見舞われているはずだ。生きたいというのは生物の本能だけど、それ以上に生きなくちゃいけない理由がある。人類とか、種とか、そういう昔なら意識しなかったことが私たちの表層に持ち上がってくる。
もし、もしも、そういった包括的な概念が、個人より優越したものだったとしたら……
使った以上は絶対に治ってもらわないといけない。そして、治す価値がある人に使わなければならない。
……選別が、必要になる。
客観的に、あくまでも客観的に見た時、飛真君の妹に治療薬を使うのは、
まず、治るかどうかが怪しい。話を聞いた限りだとゾンビ化がかなり進行しているようだ。もう遅いのかもしれない。一個しかない以上、感染した直後とか確実に治せる状況で使いたい。
それに、彼女は私たちのことをよく思ってないようだし。写真をビリビリに破られてたのを見た時はゾッとした。勝手に悋気を起こされて、飛真君がかわいそうだわ。彼は言葉には出してないし、思ってすらないだろうけど、妹の存在は彼にとって確実に負担になってる。
……今なら、誰にも、気づかれない。
車線変更のレバーは私が握っている。私の決断は、他の人にとっては運命なのだ。
「悪く、思わないでね………………」
震える手で治療薬と抗生物質のラベルを張り替える。
だ、だって、私たちは食料や物資を生産できないもの。生活必需品すら資源と化した。減る一方の資源を巡ってただでさえ減ってしまった人間が争っている場合ではない。ましてや砂漠の水より価値のあるものをドブに捨てるわけにはいかない。もっと大きな視点で見ないと。
そうよ!私情に流されてはいけないんだわ!
「そう、これは、これは、仕方のないこと……」
他の部員たちにルビコン川を渡らせるわけにはいかない。彼女はいわば部外者。助け合いの手は、そこまでは伸ばせない。見捨てたわけじゃない、
誰だってそうするはず。私のせいじゃない私のせいじゃない私のせいじゃない……
「あったか!?」
「……は、はい!ありました!戻りましょう!」
危なかった。モタモタしてたらラベルを張り替えていた所を見られていたかもしれない。
悟られたらまずい。嫌な汗がべったりと私を覆う中、元来た道を急ぐ。
ジワジワと湧き出てくる罪悪感を振り切るためにも、逡巡してた時間を取り戻すためにも急ぐことだけを考えた。
恵飛須沢さんが道中のつゆ払いをしてくれたおかげですぐに戻ってこれた。
機械室から出た時に目に入ったのは、挟み撃ちに遭い絶体絶命に陥っている飛真君だった。
助けなきゃ!!
そう思った瞬間にはもう体が動いていた。飛真君の背後を脅かすゾンビに対して何の躊躇いもなく、バットを振り落とした。
ドスッ!!
「大丈夫ですか!?」
絶望で濁った彼の目に希望の帳が降りるのを見た時、私の中で何かが弾けた。
「あれ全部殺ったのか……すごいな」
「さすがに疲れました……薬は!?」
一体どれくらいのゾンビたちを無力化したのだろう、飛真君は血で濡れそぼっていた。
恵飛須沢さんもあまりの量に嘆息していた。彼ではなかったらしんがりは絶対に務まらなかっただろう。
その分消耗も激しいはず。返り血が付いたままなのも危険だわ。
「あります。でもその前に、返り血が凄いです。拭かないと……」
「そんなことより……」
「そんなことじゃないです!あなたが感染したらどうするんですか!もっと自分の事を気にかけてください!」
「めぐねえの言う通りだぜ。ここで一呼吸おいておかないと帰りが危ないぜ?……あたしが残党狩りをするからさ」
彼には薬しか目に入っていないようだった。私は
……それに、もう急ぐ必要はなくなったもの。このまま薬だけ渡してさよならなんてちょっと寂しいわ
恵飛須沢さんが周りの安全を確保してくれたので、少しだけゆっくりする余裕ができた。
血を拭いてあげる。戸惑いながらもされるがままにされてて、従順な子なんだなと改めて思う。
上着を脱いで、他の部分についた血を拭うとかなり雰囲気が変わった。見た目も態度もどこか殺伐としていたけど、少しだけ落ち着くことができたみたいだ。
今のうちに
「……!これが、薬……ありがとうございます!これで、これで妹は助かる……」
「………………。」
どうやら信じてくれたみたいだ。今日初めて彼が笑っているのを見た。それはとても弱々しい笑顔だったけど、心底ホッとしている様子が伝わってくる。
あぁ……この子、私があげた薬が本物だと信じ切ってるんだわ……
そう思うと居ても立っても居られなくなり、思わず
「飛真君……」
抱きしめてしまった。
「……少しだけお話をさせてください。今、あなたは相当無理をしています。分かってます。妹さんの、大事な家族のためですよね?その気持ちは、行動から痛いほどわかります。でも、傍から見ていると……とても、とても危なっかしいです。今にも泣きそうな顔なのに目だけは燃えんばかりに煌めいていて……」
想定の埒外にあったようで、飛真君は私の行動に対して何のレスポンスも返せていない。ふふふ……
それでもやっと、
「せ、先生……?」
返事があった。そこには困惑の声色が多分に含まれていたけど、少なくとも嫌がってはいないみたい。
でも『先生』はいただけないわねぇ……あまりにも他人行儀だわ
せめて佐倉先生と呼んで欲しいところだけど、それだと
「めぐねえでいいんですよ?……ひとりでしょい込まないでください。先生はあなたが心配です。このままだとあなたまで壊れてしまいます。これからも、何かあったら遠慮なく私を頼ってください。私を含め学園生活一同はあなたの帰りを待っています。あなたを必要としている人、あなたが助けを求めることができる人がここにはいます。だから、そんなに思いつめないでください。
優しく、
そう、何も心配することはないの。あとはなるようにしかならないわ。これは確かに
そうよ!私は、ヤドリギのように寄生しているあの女から彼を解放してあげるんだわ!
……でも、飛真君からすれば家族を失ってしまうということになる。だからそれがいかに彼を案じた醇乎たる衷心から出たものであったとしても、妹思いの彼だから、その悲しみはきっと深いはず。
だから、だから私がいないといけないんだわ!彼の心にぽっかり空いてしまった空白を埋めてあげられるのは私しかいないもの。うふふふふふふふふふ……苦しみは一時的なものです。そういうのは後で、私が、全部、溶かしてあげますからね?
現在心を支配している感情が一体何なのかは言葉で表現できない。でも、感情一つ一つを細かく分解すれば、そのどれにも見知った感情が立ち現れるはずだ。
私に抱かれている青年の人間らしい体温が、心の底にあった何かを呼び覚ましてしまったみたい。
紆余曲折はあったけど、これで何の憂いもなく……
「あ、あの……ありがとう、ございます…」
「少しは落ち着きましたか?……ふふっ、顔に赤みが戻ってきましたね」
少し冷静になってしまったのだろう、向こうから離れてしまった。前に比べたら随分と血色がよくなってる。
でも、
「そろそろ行ったほうがいいんじゃ……って、なんか今抱き合ってなかったか?」
「そんなことないですよ、ね?飛真君?」
「え、あ、ハイ」
「ま、何でもいいけどよ」
誤解されたら困るわ。私はちょっと、彼を
「もう大丈夫です。行けます。本当に今日はありがとうございます」
「オイオイ。お礼を言われることは何もしてないぜ?」
「そうです。私たちは当然のことをしたまでです」
飛真君が助けてくれなかったら、私たちはショッピングモールでその生涯を終えていたことでしょう。部員たちを監督する立場にありながら、誰一人守れなかったことを悔やむことしかできなかったはずです。
なんてお礼を言ったらいいかわかりません。言葉では、返せるものでないのです。
これは、ほんの恩返しです。
私はもう同じ轍は踏みません。今度こそ、
もちろん、飛真君、あなたも大事な大事な部員の一人です。
「いっちまったな。めぐn……なんで笑ってるんだ……?」ゾワッ
「笑ってなんかないですよ?……さぁ、目的は果たせたんです、私たちも戻りましょう!」
「あ、あぁ……そうだな……」
たしかに私は笑ってたかもしれません。だって、誰しも
まだ、借りを返しきれていません。私は、こういうことはキッチリしたいタイプなんです。
残りは、たっぷり利子をつけて返してあげますからね?
……完済するまでは、絶対に、はなしませんから。
めぐねえファンの皆さんごめんなさい。今回、優しさ控えめです。ゲズねえです。
いやぁ~書いてて心苦しかったですよぉ~(満面の笑み)
次こそはホントに大丈夫なので、ハイ。最終回までたどり着けると思います。