がっこうぐらし!称号「自宅警備員」獲得ルート(完結) 作:島国住み
今回投稿する『早すぎた邂逅』は、9日目、つまり『家庭訪問の日程プリントって配られたっけ?』の翌日として時系列を合わせています。
『ウチとソト』と時系列的には一緒です。なので『ウチとソト』と若干話が重複しています。
これまで続いていた話のifルートだと思ってください。
ですが、『乱世に於ける一女学生の遺せる独善的訪問の概括』は8日目の出来事なのでこっちのルートでも有効です。
ややこしいですよね。申し訳ないです。
でも、書いちゃった、からには、ネ……?
早すぎた邂逅
おはようございます。
それでは今日も元気にやっていきま……あれ、なんかダメージ受けてるぞ?
なんで一日の初めに見る景色が床なんですかねぇ……?
どうやらベッドから落ちてしまったようです。熟睡中の出来事だったようで、まだ画面がぐらついてます。
どっかを痛めたわけではなさそうです。ダメージはガッツリ受けましたけどね。ははは。
時間は……早朝といったところでしょうか。起きるか二度寝するか微妙な時間ですね。最低限の睡眠時間は取れてるので今起きてもデバフはかからないです。
「う~~~ん………」
大きな音が出ちゃったので妹も反応してますね。……ん?
ちょっと気になることがあるので布団を剥がしちゃいます。
……やっぱりな。見てください。横向きに寝てますね。飛真君側に寝返りを打ったのは間違いないです。そしてこの足! 飛真君が落ちたの妹に蹴られたからでしょ!
一人で寝る時でさえ寝返りを打ったらぎりぎりのサイズなのに、無理やり二人で寝たらまぁ、こうなるか。遠慮がちに縁の方で寝てしまったのも災いしましたね。
ダメージは受けるわ、寝不足一歩手前で起こされるわ、朝から散々です。
なのに妹はまだのうのうと寝ている。これは不公平だよなぁ?
今日から朝活を始めます! 理由はもちろんお分かりですね? あなたが熟睡している兄を蹴り落とし、安眠を破壊したからです! 起床の準備をしておいてください。時間になったら問答無用で起きてもらいます。今から起こされる楽しみにしておいて下さい! いいですね!
というわけで布団を没収します。これで起きるだろ。
「んん…………あれ?」
「おはよう。探してるのはこれか?」
「………………ふとんかえして。ねむい」
起きましたね(にっこり)
第一、布団は飛真君のものだし。ダメージを受けずに朝を迎えられただけありがたいと思え。
「いや返さない」
「今日何もないんだしもっと寝てても……あれ? お兄ちゃん、顔にアザがあるよ!?」
「あー、どうしてだと思う? ヒントは出来立てほやほや」
「……さっき何かが落ちる音聞いた気がする。もしかして、ベッドから落ちた?」
「その通り」
すごい微妙な顔してますね。何故こんな事になってしまったのか、思い当たるフシがあるんでしょうねぇ……
「……今は痛いの?」
「もう大丈夫。随分痛みは引いた」
「良かった。……その、じゃあ、起きるよ」
「あ、ちょっと待って」
「……何?」
「朝何がいい?」
「そうだなぁ……ミネストローネがいいかな。戸棚にインスタントのやつがあるはず」
「了解」
「……うん」
そそくさと自分の部屋の方に行きましたね。
なんとなーく気まずい感じではありますが、一日を始めていきましょう!
早起きしたからといって朝のルーティンは変わりません。自分の支度を済ませたら、ぼちぼち朝ご飯の準備を始めます。
凝ったものは作りたくないけど、「料理上手」は是非とも発動させたいですね。正気度は多くて困るものじゃないですから。飛真君は別にいいとして、妹の方がちょっと心配です。
一時期と比べたら見違えるほど回復してますが、まだ初期値を下回っています。
その初期値も高いわけじゃないんですよね。まぁ、りーさんとのがっこうぐらしで鍛えられた正気度管理術があれば余裕なんですけど(一敗)
献立考えるのめんどくさいし、好物の方が食事の効果が高い。
だから妹のリクエストを聞いておく必要があったんですね。
起き抜けの出来事はさっさと水に流して、仲良くしましょう!(腹いせに布団を強奪する人間の屑)
ミネストローネなら主食は缶詰パンですね。食事としてはこれで完成でいいんですけど、もう一押しということでジャガイモを茹でます。
ガスボンベも水も昨日持ってきたので残量に怯えずに作れます。でも茹で時間は減らしたいので一口サイズに切っておきます。切ったので「料理上手」が発動します。このガバガバ発動基準にいつも助けられてます。
ミネストローネに投入するつもりなので塩は入れません。日本人は塩分を摂りすぎているって、それ一番言われてるから。
ハイ完成です。と同時に妹が降りてきました。すごい眠そうな顔してます。
「「いただきます」」
お互い覇気のない声ですね。昨日二人とも大働きでしたからね。寝足りないのもあって既にお疲れムードです。
今日は外に行くつもりないですし、お昼寝しても問題なし!
むしろこれくらいテンションが低い方が自宅警備員の勤務姿勢として正しいかもしれないです。
二人がもさもさ食べてる間にやることを確認します。
まず思いつくのは昨日持ってきた荷物の整理ですね。外におきっぱの物がかなりあります。
あと貯水タンクも設置したいです。
……それくらいですかね。
「あの、お兄ちゃん」
「うん?」
「多分、ベッドから落ちたの私が蹴ったからだと思う。ごめんなさい」
「わざとじゃないんだろ? ならいいよ。でもこれからは自分のベッドで寝てくれないと。目覚ましとしては、あまりにも体への負担が大きすぎる」
正気度回復を期待してそのままにしてましたけど、一緒に寝るのは本当に精神がヤバい時以外やめた方がいいですね。元々無理がありましたし。貴重な体力回復手段である睡眠で体力削られたらたまったもんじゃない。正気度に関しては回復手段が色々あるので別にこだわらなくてもいいし。
「そうだよね……だって、迷惑、だもんね……」
やけに深刻に捉えるなぁ。
このままだと食卓の空気が胴体着陸しちゃうので話題を変えましょう。
「それで今日のことなんだけど、外の荷物回収したり、給水タンク設置したりで外で作業することになりそうなんだ」
「……うん」
「僕が作業してる間、ベランダから危険がないか見張っててくれないか?」
「わかった」
難しいですねぇ(会話苦手部)
ま、まぁ? やることないとそれはそれで精神すり減らしますからね。それを前もってケアしておいたんですよ。
兄を蹴り落としてしまったことをこんなにも気に病んでいるなら、それだけ心優しいひとだってことにもなりますしおすし。
ご飯も終わったのでぼちぼち動いていきましょう。まずは荷物の回収です。
後ろは妹に任せて下に降り……
「そういえば雨水」
「……置いたままだったね」
これは、ガバですね。ポリタンクはちゃんと昨日用意したのに詰めが甘い。
このままじゃベランダ通れないし、さっさと水を移し替えちゃいましょう。
持ってきた20Lのやつが数個ほどいっぱいになりました。
次の雨までこれで十分保つはずです。
これで荷物の積み込みができます。
朝のこの時間は通勤のタイミングになるからゾンビは多めですね。
ですけど一人監視役がいれば各個撃破余裕です。おとなしく経験値になってもらいましょう。
ふー、終わりました。
はしご何往復もしたんで疲れが蓄積してますね。後半はなんだか動きがもっさりしてました。
「一旦休憩しよう。ちょっと疲れた」
「そうだね。ふわぁ……」
「まだ眠いの?」
「うん。見張りって神経使うから。あと筋肉痛がすごくて」
筋肉痛か! 飛真君のもっさりムーブの原因はそれかもしれないですね。
動きなれていない妹ならなおさらでしょう。
外観た感じ、雨降りそうもないです。貯水タンクは後回しでもいいですね。
「じゃあ昼寝するか」
「え? いいの?」
「早起きしたんだし、昼寝してもバチは当たらないだろ」
「たしかにそうだね」
「咲良が起きたら貯水タンクを始めよう」
「え、お兄ちゃん寝ないの?」
「今はいいかな。あとで寝るよ」
今寝てもいいんですけど、ちょっとやりたいことがありまして。
ずばり、里芋の煮っころがしを作りたいと思います!
里芋は保存がかなり効きますからね。今までノータッチでしたが、この頃は献立に難儀してるんで使ってみようかなと。
最近やっとクリアまでの道筋が見えてきましたし、少々手間のかかる料理を作る余裕ができました。
煮っころがしなら家にあるものだけで作れます。早速一階に行って作りましょう。
里芋は皮むきがちょっと大変ですよね。手がかゆくなってきます。
飛真君にはそんなこと関係ないので休みなく切ってもらいますが。
煮汁の準備ができたら後は煮詰めていくだけです。
完成まではすることないんで、ぐつぐつしてる鍋をぼーっと眺めてます。
こういう何の変哲もない時間が大事なんですよねぇ。
学校にいたらこんな平穏は訪れませんよ。
やっぱ家最高! ビバ、自宅警備員!
「飛真君ー! いますかー?」
…………???
え。き、聞こえました? なんか聞こえるはずのない声が聞こえたんですけど??
この声は、りーさんですね。二階から聞こえました。
とりあえず行きましょう。もしかしたら、聞き間違えかもしれない。
「あ、飛真君、突然お邪魔してごめんなさい。これには訳があって……」
おいおいおいおいおい……
アイエエエエ!? センセイ!? センセイナンデ!?
他にはみーくんがいますね。
三人ともベランダに立ってます。そして妹が飛真君のベッドに腰かけてます。
飛真君が来て、妹が明らかにホッとした顔してます。
どういう状況? いつから居たんだ? マジでわからん。
迎えに来たのだとすればマズイですね。この場に妹がいますし、口裏を合わせられていない。
「昨日置手紙を置いていったんですけど、読みましたか?」
「ハイ。ヨミマシタ」
やっばーい。お迎えじゃん。妹含め全員の目線が飛真君に集まってます。
りーさんとめぐねえはなんか笑顔がちょっと怖いし、みーくんは何やら物言いたげな表情をしてます。
べべべ別に逃げたりしませんよぉ。
「手紙の通り迎えに来たんですけど……ちょっと助けてほしいことがあって」
「なんですか?」
「私の友達を救出してほしいんです」
みーくんの友達……この時期だと、圭ちゃんかな?
「わかりました。行きましょう。それで、他の方たちは?」
妹よ。そんな目で見ないでくれ。これは作戦なんだよ。
こういう時は考える間もなくレスポンスして勢いで状況を確定させた方がいい。
この速さに相手が驚くぐらいがちょうどいい……はず。
「えっと、来たのは私たち三人だけです」
「その友達はどこにいるかわかりますか?」
「はい。巡ヶ丘駅の北口にある、駅長室にいると言っていました。少し前に、ラジオで」
「ラジオ?」
やっぱり圭ちゃんだ。
「ゆきがラジオのチューニングをいじってたら、その放送を受信したの」
「放送ではショッピングモールにも一人いるって言ってて。これは多分私のことです。私がそこに居たことを知ってる人は圭しかいない。放送は今朝あった。今なら、まだ助けに行ける……!」
「でも学校を完全に開けておくことも怖くて、飛真君と先に合流することにしたんです」
なるほどね……完全に理解した。
つまり、学校の方はまだあめのひの襲撃から回復しきっていない。昨日もこの家にアポなし突撃してましたしね。修復に十分なリソースを向けられていない。そこに舞い込んだSOSイベント。
もちろん助けに行きたいが、戦力を全投入すると学校を失うリスクがある。そこで守護神くるみちゃんと大天使ゆきちゃんは学校に残して、戦闘力のある飛真君を回収したらそのまま救出に向かおう、ってことですね。
……これはむしろ好都合ですね。飛真君は行きます。断る理由はないですから。でも妹は連れていきません。
りーさんは完全に戦闘向きじゃないですし、他二人も自衛はできますが救出となると不安が残ります。ましてや妹はやっとバールを扱えるようになった新人ゾンビパニック民です。
人数が多ければいいってモンじゃないですからね。少数精鋭こそ至高。
家に妹がいれば当然帰る理由になります。
助けには行くが、流れでがっこうぐらしするつもりはありません。
すべては称号のためです。
「それなら急がないと。ここには車で来ましたか?」
「はい」
「なら僕は自転車で行きます。場所は分かるので先導します。装備は何を持ってきましたか?」
「えっと、防犯ブザーとケミカルライトです」
「僕も少し持ってきます。ちょっと待っててください。すぐに取ってきます」
急げ急げ。妹を連れていくべきかなんて話が出る前に出発してしまうのだ!
一応空の水筒を持っていきます。無事救出できたら学校に立ち寄ることになるでしょう。
どうせ行くなら学校の浄化水を採ってしまいましょう。こいつは空気感染を防いでくれるスグレモノ、いや必須のアイテムですから。
「準備できました。行きましょう!」
あまりの速さにお三方が固まってます。これならうやむやのまま行って帰ってこれるな。
さっさと梯子降りちゃいます!
と、その前に。忘れるとこだった。
「あ、咲良。下に煮っころがしあるから仕上げよろしく。竹串刺して難なく通るようになったら頃合いだから」
「へ? 煮っころがし? う、うん」
「家を頼むよ。いってきます」
ハイこれで帰宅確定。ここまで帰る気満々の態度を取っておけば、まさか無理やり学校に押し込めようなんて誰も思わないでしょう。
フラグを立てる者が、未来を創ってゆくのですよ。
結局飛真君が一番先に降りました。学園生活部の面々が降りてくるのを待ちましょう。
おっと、このカメラワークはひじょーにマズいですね(ニチャァ……)
制服ってゾンビサバイバル向けじゃないと思うの(正論)
この動画では紹介しませんが、主要キャラが
好感度やその他パラメータによって反応と効果が変わるんですよ。凝ってますよね。
え? 何で知ってんのかって? そりゃまぁ……攻略WIKIにそう書いてたからデスヨ。
最後尾のりーさんがやっと降りてきました。この間一度も上を向かなかった飛真君を褒めてほしい。黄金の精神が試されていました。
「……車はこっちです。行きましょう!」
言われなくとも。もう自転車に跨ってます。
「お兄ちゃん! いってらっしゃい!」
なんか妹すごい元気ですね。今日一の笑顔ですよ。
ようわからんけど、嬉しそうならヨシ!
それでは、参りますか!
────────────────────
気が付いたら私は、家の近くの幹線道路に立っていた。なぜか中学の体操着を着ている。
目線の先にはラフな格好のお兄ちゃんがいる。
私に何かを伝えようとしているけど、良く聞こえない。そんなに離れてないはずなのに。
「………………ろ!」
「へ? 何? 聞こえない!」
何度かそんな問答があった。ついにお兄ちゃんは諦めて、私の向いている方向へ走っていった。
どうしたんだろ。まるで何かから逃げてるみたい。そう思って何気なく後ろを向いた。
後ろには夥しい量のゾンビがこちらに向かって走っていた。どうして今まで気付かなかったの!
「あ、あれ? う、動けない……」
全力で走ろうとする。でも身体が蝋で固められたようにビクともしない。
このままじゃ食べられる!
足を動かそうと力む。
動け、動け、動け………………!!!
ドスン!!
……?
遠くの方で音がした。爆発?
いやそんなこと考えてる場合じゃない。ゾンビはすぐそこまで迫ってる。
逃げなきゃ!
足は一歩だけ踏み出せていた。でもその次が続かない。
それに、なんだか急に寒くなってきた。一体どうなっているのだろう。なんか変だ。
えっと、布団、布団…………布団?
「んん…………あれ?」
見慣れた部屋とお兄ちゃんを見て、私は夢の中にいたことを知る。
あまりいい夢ではなかったから夢から醒めてほっとすると同時に、強烈な眠気も感じる。
それもそのはずだ。いつも起きる時間よりだいぶ早い。
もう一度寝よう。でも、そのためには、お兄ちゃんが何故か持っている布団がどうしても必要だ。
「………………ふとんかえして。ねむい」
返してくれないみたい。
なぜこんな意地悪をするのか意味が分からない。別にふざけているわけでもなさそうだし。
真意を伺うためにお兄ちゃんの顔を見ていたら、アザがあることに気付いた。
それはついさっきできたらしい。
お兄ちゃんも私と一緒に寝てたはずだ。それなのにアザができてしまうとしたら、考えられる理由は……ベッドから落ちたくらいしかない。
そうなると、まだ生々しく記憶に残っている夢との関連が当然連想される。何かが落ちるような音を聞いたし、夢の中で私は走りだそうと必死だった。
たぶん……私が、お兄ちゃんを蹴ったんだ。
悪気はなかった。それはお兄ちゃんも分かってくれた。でも、狭いベッドで二人して寝ていなければこんなことは起こらなかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになって逃げるように私の部屋に行く。
私を無理やり起こす必要はなかったことは分かっているけど、顔に付いた痛そうなアザを見て、お兄ちゃんを責める気持ちはしぼんでしまった。
身だしなみを整えてる間も気持ちはまったく晴れてくれない。
『飛真君はあなたのせいで学校に行けず迷惑してる』
昨日のメモ書きを思い出す。
あの言葉通りになっちゃったな……
お兄ちゃんはいつも通り朝ご飯を用意してくれていた。献立を思いつけなかっただけかもしれないけど、私の希望を叶えてくれた。
朝のことを謝まらなくちゃなと思うせいで、あまり食事に集中できない。
お兄ちゃんの態度がいつも通りだからこそ、切り出し方が分からなくなる。
「あの、お兄ちゃん」
「うん?」
「多分、ベッドから落ちたの私が蹴ったからだと思う。ごめんなさい」
「わざとじゃないんだろ? ならいいよ。でもこれからは自分のベッドで寝てくれないと。目覚ましとしては、あまりにも体への負担が大きすぎる」
やっぱりお兄ちゃんは許してくれた。それなのに気持ちはむしろもっと落ち込んだ。
元々一緒に寝るのは無理があったんだ。今回のことは起こるべくして起こった。その通りだ。
あやふやだった部分がハッキリして、私は自分の落胆の深さを自覚させられた。
どうしてお兄ちゃんともう一緒に寝れないことがこんなにも悲しいのだろう?
昔はそんなの当たり前だったし、頼まれたって絶対しなかった。
でも、このチクチク痛む喪失感は本物で。私は、最近自分のことがよく分からない。
私がこんな調子だから、会話が弾むはずもなく朝ご飯は終わった。
今日はお兄ちゃんが外で作業して、私が外を監視することになった。お兄ちゃんの手伝いをしている間は、きっと気分は多少マシになると思う。
ベランダに出るために、窓に近づく。そこでレースカーテン越しに煌めく光を見た。
あっ、
「そういえば雨水」
「……置いたままだったね」
お兄ちゃんと顔を見合わせて、お互い苦笑する。昨日は疲れすぎて、たくさんのことを後回しにしていた。
仕事が増えてしまったけど、全然苦にはならない。神経は使うけど、あまり動かないから筋肉痛で全身が痛む中でも問題ない。
日が昇っていくにつれて、私も冷静になっていく。
そうだ、お兄ちゃんは別に私を嫌いになったわけじゃない。気に病むほどのことじゃないはずだ。そう考えられるようになった。
一方で、太陽は気温を徐々に上げていき、寝不足の私はその陽気にやられそうだった。
私がぼーっとしていたらお兄ちゃんが危険だ。だからお兄ちゃんが作業している間は集中できていたけど、ひと段落したら一気に眠気がやって来た。
そんな私を見て、お兄ちゃんはお昼寝を提案してきた。
もちろん私は賛成だ。貯水タンクはひと眠りしてから設置するということになった。
お兄ちゃんはまだ寝ないらしい。私は遠慮なくお昼寝をさせてもらおう。
二階には私一人だ。
お兄ちゃんの部屋は今ちょうど太陽が当たっていて、ポカポカと暖かい。布団もさぞぬくぬくだろう。
あんなことがあった後だ。私が寝るべきなのは、当然私のベッドだ。
だけど。いや、だからこそ、お兄ちゃんのベッドは今しか潜り込めない。
「あったかいし、ちょっとだけだから、いいよね……?」
言い訳を空に吐いて、私は数時間前までいた場所に還った。
やっぱり落ち着く。
もうここ以外じゃ寝れなくなっているんじゃないか、などと思っているうちに私は意識を手放していた。
ガラスをコンコンと叩く音、そしてガラガラと窓を開ける音。それらが意識の端に現れて、私は目を覚ました。あと誰かの呼びかける声みたいなのも聞こえた気がする。
「おにいちゃん……?」
まだまだ覚醒しきってない状態で声の先を見遣る。
「あっ………………はじめまして」
見たことのない女が、いた。正確には写真では見たことのある女二人と、全く知らない女一人だ。
その初めて見た女は、とりあえずといった様子でそう挨拶した。笑おうとしているらしいが、顔が引きつっている。
何人だろうと大した問題じゃない。私はこの異物の侵入によって一気に目が覚めた。
ベッドから上半身を上げただけの状態でいるのもなんだか間抜けだ。私はベッドから起き上がったけど、向こう側の椅子に座りなおすまでの間がイヤだったからベッドの縁に腰かけるに留めた。
ここでやっと、私はお兄ちゃんのベッドで寝ていたことを思い出す。
ヤバい。
がっつり見られた。
顔がみるみるうちに赤くなるのが、私にも分かる。
ここが私の部屋だと言い張るにはあまりにも無理がある。この人たちは一度この家に来ているはずだ。横の部屋が私の部屋だということは、一度見れば明らかだ。
昨日の手紙のことといい、枕が戻されていたことといい、私とお兄ちゃんの関係を快く思っていない人が少なくとも一人はいるのだ。今ここにいる三人が、そうではないことを祈るばかりだ。
そうでなくとも、これは恥ずかしい。なんでと聞かれてまともに答えられる自信がない。
頭を全力で回転させて、次善策と今の状況の把握を試みる。
「ええと……高校の方たち、ですか?」
まずはこの人たちがいったい誰なのか。それを確かめなくちゃ。
表情は三者三様だけど、三人とも名前と学年や身分を言ってくれた。それとあの写真の顔を脳内で照合する。
まず、写真にはいなかった人は佐倉慈と名乗った。お兄ちゃんが通っていた高校で国語教師をしていたという。今は学園生活部の顧問をしているらしい。
彼女が昨日の手紙の主か。国語教師なら、あの字の綺麗さにも納得がいく。
美人というよりは、かわいい系の人だ。若いけど、髪がウェーブしていて顔つきも私なんかよりずっと大人だ。ぴょこんと一房髪が跳ねているのも愛嬌があっていいと思う。
こんな人が担任だったらクラスの男子たちはきっと大喜びだろう。お兄ちゃんもその内の一人になってるはずだ。最悪。
他の二人はそれぞれ直樹美紀、若狭悠里と名乗った。二年と三年生らしい。お兄ちゃんは二年生だから知り合いだったかもしれない。
二人はあの写真でお兄ちゃんの近くに陣取っていた。しかもはにかんだ笑みをカメラに向けていた。要注意だ。
直樹さんはショートヘアーでクールな印象を受ける。三人の中では一番知的な感じがするのに、ガーターベルト付のストッキングという攻めた足元をしている。
普段からこれなのかな? ……まだ中学生の私には、わからないことだらけだ。
表情はニュートラルで、緊張しているようだけど、敵意も警戒心も見当たらない。
一方の若狭さんは、初めから穏やかではない雰囲気をしていた。
大人しそうだけど、こげ茶のストレートロングとツリ気味の大きな目は注目を集めるに十分な魅力がある。
……本当はもっと目線を集めてしまうものを彼女は持っているのだけど、癪だから言及したくない。
あのメモ書きの主は彼女かもしれない。私は彼女たちを救った青年の妹だっていうのに、敵を目測するような不愉快な目線を寄越すような人なんてそう多くないはずだ。
総じて言えるのは、みんな若くてかわいいということだ。こんな人たちとお兄ちゃんは一晩夜を共にしたと思うと、怒りが今更ながらふつふつと湧いてくる。
私も簡単な自己紹介をする。趣味だとか好きな食べ物とかは、もうこの世界ではどうでもいいことだ。
ああ、間が持たない。この場にお兄ちゃんがいたらどんなに良かっただろう。
そうだ、お兄ちゃんだ。
もう来てしまったものはしょうがない。あとは丁重にお引き取りを願うだけだ。
この人たちよりも早くお兄ちゃんと会って、釘を刺しておかなくちゃ。
「おに……兄がいた方がいいですよね。今呼んで───」
「飛真君ー! いますかー?」
げ。
私が呼びに行こうと腰を上げた途端、若狭さんが手をメガホンの形にしてよく通る声で呼びかけた。
先回りされたことで、二人きりで何かを伝えるチャンスはなくなった。
「お兄さんから聞いていると思いますが、私たちは学校を拠点に生活しているんです」
「はい、存じ……知ってます。それで、今日はどうしてここに?」
目上の人だけど、謙譲語を使うのもなんだかなと思って、丁寧語に変える。
白々しいけど、あえてとぼける。事情を呑み込めてないかのように眉根を寄せて困惑顔もしてみる。
「っと、その前に昨日のことを謝らせてください。
「まぁ……はい……」
こんなこと謝られてもな。そう思ってつい生返事になる。
そもそも、私はお兄ちゃんが部員なんて認めてないけどね。この謝罪がすでに不快なのを先生は気づいてないのかな?
ここでやっと、お兄ちゃんは半信半疑といった様子で現れた。
「あ、飛真君、突然お邪魔してごめんなさい。これには訳があって……」
お兄ちゃんが来たら、先生はまるで私なんかいないかのようにお兄ちゃんに話しかけた。
注目は一瞬のうちにお兄ちゃんに移った。
三人からジロジロ見られるのは嫌だったからそこはホッとしているけど、こう露骨だとやはりいい気はしない。
「昨日置手紙を置いていったんですけど、読みましたか?」
「ハイ。ヨミマシタ」
やっぱりそうだよなぁ。
お兄ちゃんはこのストレートな確認にたじろいて返事がカタコトになっている。
しっかりしてよ。
「手紙の通り迎えに来たんですけど……ちょっと助けてほしいことがあって」
だけど、ここに来た目的は私の想像とはちょっとだけ違っていた。
迎えに来た……のもそうだけど、直樹さんの友人を助けてほしいそうだ。
お兄ちゃんはすぐに助けに行くことを決めた。この意思決定の速さには、私含め全員が驚いていたと思う。
きっとこの人たちを助けた時も、考えるより先に動いてたんだろうな。
「その友達はどこにいるかわかりますか?」
「それなら急がないと。ここには車で来ましたか?」
「なら僕は自転車で行きます。場所は分かるので先導します。装備は何を持ってきましたか?」
お兄ちゃんは矢継ぎ早に質問を繰り返して必要な情報を集めると、
「僕も少し持ってきます。ちょっと待っててください。すぐに取ってきます」
駆け足で装備を整えて、
「準備できました。行きましょう!」
出発を待つばかりとなった。
この間私は一切口をはさむことができなかった。学園生活部の人たちも、聞かれたことに答えるので精いっぱいで、何一つ能動的なことができていない。
本当に40秒で支度してしまった。いや実際はもっとかかったんだろうけど、それくらいの素早さだ。
ここまできて、やっと私は状況に追い付いた。
お兄ちゃんは人を助けに、家を出る。
……そして、私は、どうすればいいの?
今のお兄ちゃんの中に、私はいない。人助けという使命に、すべての関心が払われている。
それはきっと、とても素晴らしいことだ。特にこんな世界では、なおさら。
でもその先は? 首尾よくその人を助けて、それからどうするの?
私はどうなるの?
勝手に動き出した世界に取り残された気がして、私は縋るようにお兄ちゃんを見た。
「あ、咲良。下に煮っころがしあるから仕上げよろしく。竹串刺して難なく通るようになったら頃合いだから」
「へ? 煮っころがし? う、うん」
「
お兄ちゃんが考えていたことが、分かった。
なんでこんなに救出に前のめりなのか。これはもちろん時間が惜しいからでもある。
だけどそれだけじゃない。有無を言わせないためだ。
お兄ちゃんを回収してその友達を助ける。そのまま学校に行って学校での滞在を既成事実化する、という三人が考えていただろうプランにノーを突き付けたのだ。
私について全く言及してこなかったのは、私がここに残るのはお兄ちゃんにとって
不安になることなんて一個もない。私はいつも通りお兄ちゃんの帰りを待っていればいい。
だって私は、お兄ちゃんの帰る理由だから。
お兄ちゃんが率先して降りたから他三人も出発するしかなくなってしまった。
「……兄は、突っ走る性格なんです。
気持ちに大きな余裕ができた。だからつい、こんなことを言ってしまう。
直樹さんは軽くお辞儀をするとすぐにお兄ちゃんの後を追った。
残った二人はちょっと固まっていた。目論見が外れちゃったのだから無理もないか。
「……若狭さん、私たちも行きましょう。急がないと」
「……そう、ですね」
「では、咲良さん。また今度」
そう言って先生は降りていった。他にも色々言いたいことがあるのだろうけど、言葉を飲み込んだのはさすが年長者だと思う。
残ったのは非難がましい目を私に送る若狭さんだけになった。
「どうして、飛真君のベッドで寝ていたの?」
お兄ちゃんを呼んだ時とは全然違う、冷たい声だった。
どうしてと聞かれても困ってしまう。正直に答えたら、きっと若狭さんを怒らせちゃうから。
「日が当たって寝心地がいいからですよ。そうだ、あのメモは若狭さんが書いたんですか?」
「そうよ。あんなの、不健全だわ」
「ご忠告痛み入ります。でも、若狭さんは私たちの関係を誤解してますよ。私とお兄ちゃんは、ただ仲良く暮らしているだけです」
「仲良くと執着は違────」
「李下に冠を正さず、ですよね。これからは気を付けます。でも、勝手に詮索して妄想を募らせるのも、いけないことだと思いますよ?」
「……もう、いいわ」
そう言って話を断ち切ると、ムスッとしたまま梯子を降りていった。
きっと若狭さんは潔癖症なんだ。自分が持っている理解の枠組みを広げられないし、外れたものを認められないんだ。
私は若狭さんに何を言われても痛くも痒くもなかった。
だって、これは私が無理やり決めたことじゃない。お兄ちゃんが自分の意志で選んだのだから、若狭さんみたいな他人が掣肘できるはずない。
それにしても、お兄ちゃんはまた厄介な人に目をつけられてしまったなぁ……。
おっと、家に居る身としてお兄ちゃんに
ベランダに行く。そして手をメガホンの形にして、
「お兄ちゃん! いってらっしゃい!」
大切な家族の無事を願った。
皆が見えなくなるまで見送って、部屋に引き返す。
私はお兄ちゃんに頼まれていたことをやらないといけない。
でないと、帰ってきたお兄ちゃんがお腹を空かせてしまう。
鍋の番をしている間も、自然と笑顔になる。
この煮っころがしは、きっと、私たちの幸せの味がするだろうな。
もう完結して久しいのにifルートを書こうと思ったのには訳があるんです。
終わってみて、9日目以降の展開がちょっと粗かったなぁとずっと心残りだったんですよ。
それで、「もし、圭ちゃん救出イベントで学園生活部が飛真君の協力を求めていたら……」という仮定を脳内で作ってみたらなんかいけそうだったんで文字にしてみようと思った次第です。
まだたった半日分しかできていませんが、気が向いたらまた続きを書きます。(安定の見切り発車)
書いたのを見返してみるとなんだかむず痒いですね。
ちょっとは成長しているといいのですけど……