がっこうぐらし!称号「自宅警備員」獲得ルート(完結) 作:島国住み
「ねぇ、お兄ちゃん。……ここ、触って? 混ぜないと……」
「…………手で?」
「他に何があるの?」
「でもさ、普段は咲良が一人でしてたんでしょ。何も僕がやらなくても……」
「あ、相手がいなかったんだから当然でしょ! ほら早く! お兄ちゃんにしてほしいの!」
「分かった。やるよ」
「優しくね。お兄ちゃんが思っている以上には繊細なんだから」
「うんしょ……うゎあ」
「どう?」
「ヘンな感覚。なんかぬちょっとしてるし」
「恥ずかしいからそんな擬音使わないで」
「はいはい……お望み通りかき混ぜたし、オッケーだよな?」
「全然ダメだよ。奥まで入ってないじゃん。表面をなぞるだけじゃ何もしてないのと同じだよ」
「もっと突っ込めってこと!? それはちょっと……」
「なんで? ちゃんときれいだよ? お兄ちゃんのために準備して誰の手にも触れないように気を付けてきたのに別に誰かに頼んでも良かったのに私は一人でさみしく手入れしてずっと守ってきたのにこの時をずっと待ってたのに」
「分かった分かった! やる! やらせてください!」
「分かればよろしい」
「…………」
「はやくしてよ。この体勢けっこう疲れるの」
「……つまりさ、奥まで入ればいいってことだよな。じゃあコレを突き刺して代わりにするのも構わないよね」
「ち、ちょっと……それはまだ早いよ。物事には順序があるっていうか」
「でも結局コレ入れるんでしょ?」
「まぁ、そうだけど。そもそも、突き刺して代わりにするってどういうこと?」
「いや、刺して抜いてを繰り返せばいい感じに耕せるんじゃないかぁと思って」
「そそそ、そんなのダメに決まってるじゃない! なんですべてをすっ飛ばそうとするの? お行儀も悪いし、もっと時間をかけて、その……いじってからでもいいじゃん。手、とかでさ……」
「もう我慢できないんだ。入れるよ」
「話聞いてな……えっ、ちょっ」
……………………
………………
…………
……
「だから! そんなすぐにはできないの!
「えー、もうお腹すいたんだけど。残りのキュウリも突っ込んで終わりにしようよ。早く何か食べたい」
「なら、早速ぬかを混ぜないとね。それから野菜を入れて、終わり。そこまでやったら手を洗ってお昼にしようよ」
「なんでそんな手にこだわるの?」
「手についてる常在菌がぬか床に入っておいしくなるらしいよ。あと、奥まで入れないといけないのは、底の方まで空気を入れるため。お兄ちゃんが嫌そうにしているのを眺めるためでは決してないの。だから、早く。ね?」
「ちゃんと理由を言ってくれればちゃんとやるのに。……はい。混ぜましたよ」
「ありがとう。最近は乳酸菌がもう入ってるぬか床が売られててすごく便利。混ぜる必要もないし」
「えっ」
「さ、野菜入れちゃいましょ」
「今! 今なんて言った?」
「……さぁ? でも常在菌の話は本当だし」
「…………そうですか」
えー、変則的な始まり方になってしまいました。おはようございます!(激遅)
現在はですね、ご覧のとおり妹とぬか漬けを作っています。もうお昼です。
起きたのはもちろん朝なんですけど、何もない平穏な午前中だったので飛ばしました。
午前中のことは動画の右下の枠に倍速で流しときます。
妹は洗濯を、飛真君の方は道路に出てゾンビ狩りをしていただけでした。
なんでぬか漬け? って思いますよね。
ワイトもそう思います。話の流れでそうなったんです。
ぬか漬けは、ランダムイベントの一種ですね。通常プレイの時も遭遇したことがあります。
家庭菜園やお手製発酵食品など、定期的な作業が必要で完成に時間がかかるものを一緒にやろうと誘われることがあります。
今回は妹がおばあちゃんから教わってぬか漬けを作ったことがあるということで、妹主導で事が進みました。
この手のイベントは暇なときに発生しますし、ローリスクであることがほとんどなので基本的に乗っておくのが吉です。
「明日には食べられるようになってるはずだよ。楽しみだね」
「うん。待ち遠しいよ」
あと、こんな風に完成がちょっとした楽しみになります。
外は殺伐としてますからね。誰かとこうやって小さな楽しみを共有できるのはメンタル的にもプラスに働きます。
好感度を上げるきっかけにもなるイベントなので、場合によっては自分から持ち掛けるのもアリだと思ってます。
まぁ、妹との好感度はカンストしてるので関係ないですがね。好感度はいつの間にかマックスで張り付いてます。
ありがたいような怖いような……
とまぁ、ぬか漬けの作業は無事終わったのでお昼を食べてしまいましょう。
割と遅い時間ですが、普通に食べちゃいます。その分夜を少なめにしましょう。
パネトーネ種を使ったパンであればまだまだ腐りません。
そのまま食べることを想定されているんで、たいてい味がついてます。が、これにはちみつをかけて食べます。これが余裕ってやつですよ。
どちらもスーパーに行けば手に入るものなのでケチケチしません。
「賞味期限は一か月半先か……」
「どうした?」
「いや、今はこうやってパンを食べれてるけどさ、半年後とか一年後とかに食べるもの、残ってるのかなって……」
真っ当な懸念ですね。おいしくて長持ちの冷凍食品も設備の維持ができないなら形無しです。どんなに日持ちがする野菜でも年単位持たせるのは厳しいです。
となると保存に特化した限られた食品しか残りません。
自宅警備員の称号を取るためだけなら杞憂に過ぎないですけど、本当に生き続けようとなったら深刻な問題です。
家に籠っていたらじり貧の生活に体力か精神の限界がいつか来てしまいます。だからインフラの整ったがっこうでくらす必要があるんですね。(メガトン構文)
ちゃんと答えれば暗い話にしかなりません。だからはぐらかします。
「大丈夫だよ。その頃になったらゾンビ達はもう動けなくなってると思うよ」
「そうかなぁ」
「まぁ、一緒に工夫して暮らしてれば何とかなるよ。食べ物はまだあるんだし、今のうちに少しずつ考えていけば平気だって」
「……今から心配しててもしょうがないか」
「そうそう。今ははちみつが垂れないように気を付けないと」
「へ? あわわわわわ……」
あと数日の辛抱なんですから、先のことは考えずにいきましょう。
変に煮詰めて正気度を減らされると困ります。
さて、お昼を食べ終わりましたけど急いですることも特にないですね。
ふむ……では、攻めの昼寝といきましょうか。
なんか自宅警備員らしくなってきたぞぉ(偏見)
「お兄ちゃん、昼寝するにはちょっと時間が遅いと思うよ」
「そういう咲良だってあくびしてるじゃん」
「へへへ。まぁね。私も寝ちゃおうかな」
止める人もいないので寝ます!
ちょっとだけ、ちょっとだけだから。まどろむだけ。
~パワーナップは効率的な疲労回復方法です~
お、目が覚めましたね。
……あのぉ、なんで夕焼けが見えるんでしょうか。
寝すぎですね。生活習慣壊れちゃう。
妹はどうしてるんだろ。
まさかまだ寝てるとか……?
「すぅ……」
そのまさかでした。
もういっそこのまま寝かせておいた方がいいかもしれない。
夜中に起きて、全くやってこない眠気に絶望してもらいましょう!
そうと決まればクールに去るぜ……
とはいえ今の飛真君は、たっぷり寝て体力満タンです。
そして暇です。体力と暇を持て余した若い男が何をするかといったら、ひとつしかないですよね。
それはゾンビ狩りです。どんどん経験値を稼いで最強のサバイバルヒューマンになりましょう。
日が暮れるまで少しあります。それまでは外に繰り出して若さを発散しますか。
というわけで外にイクゾー
「どこに行くの?」
「」
「私も一緒に行くよ?」
「寝てたんじゃ……」
「今起きた」
あのですね。これはホラーゲームじゃないんですよ。
心臓の形成収縮率を試すのは、やめようね!
寝起きで髪を整えられてないのにバールはちゃんと持ってるじゃないですかやだー。
「ひ、暇だから、朝の続きをしようと思っただけだよ……」
「もう暗いから。だめ」
「わかってるよ。ははは……」
「暇ならゲームして遊ぼうよ。たっぷり昼寝して、お互い頭が冴えてるはずだよ」
はいやってまいりましたミニゲームタイムです。
がっこうにいた時は大人数だったので大富豪とかできましたけど、今は当然ながらサシでできるものしか選択できないです。
これね、正気度削れててイマジナリーフレンドを召喚していた場合は一人なのにオセロとかできたりするんですよ。面白いですよね(白目)
一回だけ、めぐねえを召喚したゆきちゃんとすべてを受け入れたくるみちゃんと主人公の三人で、人生ゲーム(定員4人)をやったことがあります。めぐねえの番が来るたびに正気を残した人間たちはゴリゴリ正気度を失っていました。
私自身がもう耐えられなくなってリタイアしましたね。はい。
そんな不吉な思い出話はどうでもいいですね。
エンジョイ、です!
今回はチェスをやってみましょうか。
お互いに定跡を知らないド素人の徒手空拳です。じっくり見られると恥ずかしいのでもろちん倍速です。
~クイーン強すぎで草~
何回かやってみましたけど、未だによくわからないですね(バカ)
初めこそビギナーズラックで勝てましたが、知力の差には抗えず負けが込んでます。
そしてこれ、すごい時間がかかりますね。もうライトがないと何も見えないです。
あくまでも遊びなので、適当にスナックをつまみながらのんびりやってました。
手番に時間制限を設けるべきでしたね。
「なんか、熱中しちゃったね」
「一回一回が長いからな。でも、結構楽しいな」
ひとりと二人の違いはここですよね。遊び相手がいるだけで随分とメンタル面の環境が改善されます。みーくんと圭ちゃんはきっと深く頷いてくれるはず。
すでにいつも寝ている時刻になってます。
プレイヤーの方が疲れました。眠気がなくてもベッドに横になってもらいます。
きょ、きょうはこれくらいにしといてやるよ(逃げ)
「それはそれとして、今日はもう寝よう」
「えー、私まだぜんぜん眠くないよ」
「朝起きれなくなるぞ」
「明日何もないんだし、いいじゃん」
「頭使いすぎて疲れた」
「もう……あ、ちょっと待ってて」
なんだ?
「私のドライシャンプー使ってみてよ」
これは……臭ってるということですね。昨日シャワー浴びたのに。
痛む心を隠して大人しく受け取りましょう。
男は泣いちゃいけないんだぞ!(ジェンダーステレオタイプ)
だけど、こんなあからさまだと傷ついちゃいますよね。
ここはあえて
「でも使い方わからないな」
「いや、こないだしてたじゃん……あー、なるほどね。分かったよ。やるよ」
「話が早くて助かる」
攻略的なことを言うと、シャンプーをしてもらっているのはマッサージ扱いになります。
貨幣経済は崩壊してるので、信頼がないと基本的に誰もやってくれません。
その代わりといいますか、アイテムを消費しない体力の回復手段としては効率的な部類に入ります。今回はドライシャンプー使ってますけどね。
相互扶助だいじ。
「誤解してほしくないんだけど、別に臭いとかそういうのじゃないからね」
「じゃあなんで」
「……そのシャンプーの香りが気に食わなかったから」
その気持ちは分からなくもないです。りーさんからふわりと漂う甘い香り(決めつけ)はシャンプーに依るところが少なからずあるでしょう。
それが兄から漏れ出てるんですから、だいぶ違和感あるでしょうね。
「僕は結構好きな香りなんだけどな」
「…………誰かさんとおそろいだもんねー」
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ!
「痛い痛い痛い」
なんか機嫌悪いですね。
誰かさんって、だだだ誰でしょうね(震え)
確かにシャンプー借りましたけど……どうしてそのことを知ってるんだ? 話してないぞ。
……たぶん当てずっぽうだろうな。うん。
このままでは頭皮が大ダメージを負ってしまう。りーさん係で鍛えた話術を生かして機嫌を直してもらいましょう。頭髪保全主義です。
「……でも、幸せだな」
「マゾなの?」
「違う違う。最近なんだかんだ忙しなかっただろ。一日中家でゆっくりできて良かったなって。こうやって咲良と一緒にいるのが一番落ち着くよ」
これは本心です。そもそも自宅警備員ですし、無難に日々が過ぎるのが一番です。
「ふーん。痒いところない?」
「ないよ。ありがとう」
「…………♪」
ほらね。機嫌が悪くなった原因は分からないけど、直し方は分かってきました。
信頼感をチラつかせるのですよ。好感度が高ければこれでごり押しできると気付きました。
「はい、シャンプー終わり。あとは自分でやってね」
「いやー、気持ちよかった。癖になりそうだよ。」
「……そんなに気持ちいいなら、今度お兄ちゃんにしてもらおうかな」
「なんなら今からでもいいぞ」
「きょ、今日はいいかな。おなかいっぱいだから……」
「そんなにお菓子食べてたっけ」
「こっちの話。じゃあね、お兄ちゃん。おやすみ!」
とととととっ
忙しないな。どうしたんだろ。
まぁいいや。妹のおかげで寝る支度はだいぶ整いました。
あとは飛真君に無理やり寝てもらうだけです。
横になってりゃ勝手に眠くなるだろ。
いやー今日は何もない素晴らしい一日でした。
がっこうぐらし要素がなければないほど称号がグッと近くなりますね。
画面が完全に暗くなるまで見守っているつもりですが、動画はここで一旦切ります。
それでは、いい朝を!
────────────────────────
屋上のドアがぎいと音を立てて開く。
その音は私の心に似ていて、私の求めた静けさとは真逆だった。
「あ、先生。どうしたんですか?」
「悠里さん。いたんですね。ちょっと外の空気が吸いたくて。……家計簿書いてたの?」
「はい、外の景色を見ながらやろうかなと思って。先生と同じ、気分転換です。」
ちらりとフェンスの向こうを見てみる。
太陽はまだまだ高い位置にあり、雲が気まぐれに空を漂っている。
その下には押し黙った街並み。グラウンドにいる人影は、皆生ける屍だ。
少し強く吹く風はグラウンドの砂を巻き上げて、また色のないうねりに戻っていた。
平和と言えば平和な風景だけど、どこか荒涼としている。
家計簿をつけるには、風が邪魔だと感じる。
その不便を押して、味気ない外に目を配るのは、気分転換だけが目的とは考えにくい。
「今日はずいぶん熱心ね」
「新しい部員も増えましたし、アップデートしないと。それに、飛真くんのこともありますし」
「飛真君のこと?」
「はい。男の人だから必要な物も変わってくるし、食べる量だって私たちとは違うはずです。お部屋をどこにするかも決めてないし、当番も……あっ、買い出しのことも考えなきゃ。近くにあるお店だったら私も一緒に行けるはず……」
「えっと、悠里さん?」
やっぱり、
「まだまだ考えなきゃいけないことが多いですね。だけど、こうやって色々考えるのが楽しいんです」
その柔らかくゆるんだ口元は確かに楽しげだ。
水を差すようで罪悪感がちくちくするけど、せっかくの機会だ。今、切り出そう。
一人で考えるよりはいいかもしれない。
あの日私と一緒に彼の家を訪ねていった悠里さんなら、私が抱えている不安を分かってくれるはず。
「……飛真君は本当に学校に来る気があるのかしら。口ではああ言ってたけど、今日も来な────「来ますよ。絶対」
「私、約束したんです。約束を破るはず、ありませんから」
約束? そんなの聞いてないわ
「……そうだったんですね。でも、悠里さん、どうして私に約束のこと教えてくれなかったんですか? 飛真君、当然のように家に帰ってしまって……私だって不安だったんです」
「飛真くんの家は
ずれた答えが返ってきて、私は少なからず混乱した。
運命って聞こえたような。でもそれは自分に言い聞かせているようにも見える。
疑問がどんどん増えていったせいで、スタスタと屋上を後にしようとする悠里さんに反応するのが遅れてしまった。
「悠里さん?」
「夕飯の支度してきます」
ギィィィィィ…………バタン!
普段はあんなに優しい悠里さんが、今はまるで氷のようだ。
原因は明らかだ。私が、彼のことを疑ったから。
なんだかやるせなくなって、ベンチによろよろと腰掛ける。
彼が、学校で暮らすことを避けようとしているように見えるのは私だけなのだろうか。
私たちはわざわざ彼の家に行ったんだ。外出が死と直結するこの世界で、二回も。
でも飛真君は来てくれなかった。
『どうして?』って言えばよかった。これは聞きづらいことだ。だからこそ、大人の私がしっかり尋ねないといけなかった。
実際に私がやったのは、勝手に察して、直接その話題に触れないように気を遣っただけ。
……私は、彼に嫌われるのが怖かった。こんな子供じみた理由で、追及をやめた。
それに、私にはまだ誰にも言えていないことがある。
職員用緊急避難マニュアルのことだ。
大事なことだからみんなが揃ったら言うと決めて数日が経った。
初めてあれを読んだ時のショックはまだ心に残っている。ゾンビの出現が天災であるはずがない。人が関与していたことは誰の目にも明らかだ。でも、それが、私の職場と関係してたなんて……
マニュアルには、地下に大量の物資と
だけど、マニュアルのことをみんなに伝えることは、同時に私が
知らなかった。私も被害者だ。部員の中に、私を糾弾する人はいないはずだ。
頭では分かっている。やましいことなんて一つもない。
でも、もし、私を受け入れてくれなかったら……
私は、みんなが揃わないことを言い訳にしてる。
嫌われるのが怖い。生徒からの評判を気にして、強いことを言えない小心さはこんな世界になってもちっとも変ってない。
彼なら絶対に私を肯定してくれる。そう思うからこそ、私は言い出せない。
ああ、せっかく飛真君がこっちに来たのに。私たちはチャンスを逃した。
あの家に初めて行った時から、嫌な予感はしていた。
昨日それが確信に変わった。
妹だ。彼がこっちに
祠堂さんを助けに行く車の中で、私は密かに決意した。私は彼を救うんだ、と。
もしその決意が形となったなら、屋上でため息をつくこともなかっただろう。
救う……どうやって? 私は自分の命を守ることすらままならないのに。
実際はその逆だ。飛真君に助けられてばっかりだ。
祠堂さんを救い出し、悠里さんのパニックを宥め、二階を瞬く間に制圧した。
どれも彼が居なかったら何一つできなかった。
彼は、学園生活部に欠くべからざる一員だ。今はピースが一つ足りていない状態。だからみんな昨日より元気がなくて、しきりに窓を見てる。私もその一人だ。
悠里さんと私は、あの兄妹のことを
悠里さんは彼を庇ってる。そうやっていい顔をして、自分だけ歓心に浴そうとしているに違いない。ずるい。
ずるいと言えば、昨日の車内でもそうだ。
あまつさえピンチの所を全身全霊で助けてもらったのに、飛真君にあんな懇ろに慰められて。私は車の運転でその場にいたのに蚊帳の外だった。いや、祠堂さんや美紀さんも私と同じだった。あれは、完全に二人の世界だった。
辛いのは悠里さんだけじゃない。私は顧問で、部員を導かないといけない立場だというのは分かっている。でも、だからこそ、私だって泣きたい。慰められたい。
ゾンビの対処の仕方なんて知らない、サバイバル術なんて教職課程になかった。なのに、私は大人だから、教師だからって理由で皆の命を背負わないといけない。
もう降りたい。何が正しいかなんて分からない。この世界において、私はただの運よく生き残った人だ。過去と今の大いなる断絶の前に、肩書なんて亡国の紙幣と同じだ。
「…………私にだって」
園芸用品が入ったロッカーを開ける。中にはほうきが入っている。飛真君がくれた、あのほうき。
私がゾンビを倒せずに落ち込んでいる時に、彼は励ましてくれただけでなく、部員たちとの距離が近くなるきっかけも作ってくれた。これは、妹も悠里さんも知らない、私だけの彼。
ほうきはゾンビをつついたせいで端は赤黒く汚れている。今日それを確認したのは何度目だろう。本当は早く捨てた方がいいけど、あの時触れたものを思い出したくて閉めたままにも、捨てることもできない。
こんなものを見ても何の慰めにもならない。この渇きは、本物にしか満たせない。
口を開けていても、欲しいものは手に入らない。
「飛真君も、こうやってロッカーに閉じ込められたらいいのに」
もう二度と開けない覚悟でロッカーを閉じる。
みんなのために、そして何より私自身のために、奪われた脾臓を取り戻さないと。
これは最優先事項だ。それで誰かと対立することになってもいい。
だって、私たちは
今回はテンポよく進めることを意識しましたが、思ったよりはスイスイいかなかったです。
むずかしい……むずかしい……