横須賀女子海洋学校と横須賀男子海洋学校。姉妹校であるこの二校、実は隣同士にあるわけではない。横須賀女子本校が猿島フロート。男子が走水フロートに建設されている。
そしてブルーマーメイド・ホワイトドルフィンの両基地が横須賀新港にあるわけで。
後から作られたとはいえ、女子の方が何かと便利なのだ。
「・・・ま、こっちはこっちで基地があるから何かってわけじゃないんだけどさ。」
横須賀湾に浮かぶ大型艦すいりゅう。言わずもがな僕の所属する学生艦だ。海の上で活躍する職業・・・といえば確かにブルーマーメイドが一般的。だけど女性だけじゃ解決できない対応やバックアップ等。そういうのに対応するのが僕らホワイトドルフィン。つまるところ、男でも船には乗れるってことだ。なにがいいたいかって?
「・・・学生とはいえ、給料増えないかなぁ。」
そう。僕らは一応国家公務員。だから給料も出るし、ボーナスも出る。学校内の食費なども格安だ。けど女子の方が少し高い。
「最近ホワイトドルフィンだって志望者増えてんのに。」
近年、男子海洋学校の志望者が急激に増えているらしい。今までは防衛大を希望する人が多かったけど。(一説によると、逆に女性も防衛大を希望する人が増えたらしい。)
そんなことを考えていると目的地である横須賀女子海洋学校本校舎へ到着していた。スキッパー楽すぎ。(というか、中型まで取るのって普通じゃあまりいないしなぁ。)
そんなことを考えていると、正面から普段と違う見慣れない制服を着た女性が歩いてきた。しかも誰かから隠れてるみたいだしこっち気づいてないし。
「まったく・・・せっかく横須賀に来たのだからたまには好きなもの食べたっていいじゃない・・・」
「で、のむさんからまーた逃げてるんかい。いい加減野菜食べなよ。」
びっくりした表情でこちらを見るこの女性は宮里十海。呉女子海洋学校で大和クラスの艦長を務めている。なるほど、昨日からやけに港がにぎやかだと思ったら呉が寄港してたのか。
「ちょっと。急に声かけないでもらえるかしら。」「いや、30分ぐらい前からこっち見えてたし。前方不注意は船乗りのにとってやっちゃいけないことなのに、あの呉の大和の艦長が他人になすりつけるなんてことしないよね??」
ぐぬぬと声が聞こえてきそうなぐらい悔しそうな彼女の顔。ぞくぞくしてきた。
「どうせそんなんなら昼もまだなんでしょ?肉食べれるところ連れて行ってあげるからついてきなよ。」
「・・・わかったわよ。もう。」
なんで不満そうな顔をされているのか。いや本当に。
・・・
ところ変わって、横須賀市内のとある肉料理店。僕の行きつけというか、先輩たちから代々伝わってきた男子海洋学校の生徒御用達の店。
「本当にここ、見つからないのよね・・・?」「疑い深くない??」
一番奥の個室にして外から見えないようにしてるんだからわかるわけないでしょうに。まぁ?もえかからはさっきからラインくっそ送られてきてるけど。通知切ってるし、明乃を向かわせて今書類関係手伝わさせてるし。
「まぁ注文しようよ。僕は・・・Tボーンステーキにしよっと。十海は?」
「私も同じのかしら。・・・ふふっ、まさかあなたに名前で呼ばれる日が来るなんて。一年前までは想像もしてなかった。」
そりゃそうだ。お互いエリートクラスとはいえ艦長と方や副艦長。しかもこっちは人見知りだったし。そんな出会いだったけど、なんだかんだで任務を一緒にこなしていくうちに今じゃ艦全体で交流が盛ん。噂じゃ何人かは付き合ってるらしい。
「まぁ、貴方はここ数か月大変だったし連絡が取れなかったのもね。今回私たちが寄港したのもそれが理由だし。」
なるほど。あの事件の時、感染拡大を防ぐためにブルーマーメイド・ホワイトドルフィン艦隊すべてに寄港禁止措置が出された。多分、他の海洋学校の生徒たちも例外になく補給が間に合わなかったのだろう。
その後すぐに来たステーキを一口運ぶと。
「しかも、この件は呉の『組織』も動いてて、実習後の学生艦に対して対応が厳しくなってるみたいなの。感染していないかの検査含めおよそ一週間。これは先に帰港した同級生から聞いた話だけど、どうも呉本部からそういった不安要素を取り除きたいようね。」
なるほど。聞けば聞くほど腹が煮えくりたぎる。要は、表向きは学生の安全確保だが感染が確認されれば隔離か処分か・・・本部が考えそうなことだ。
「まぁ、大方あそこがかかわってるんだろうけど。どこからがシナリオ通りだったのか。」
「・・・あなたが入学した理由は知ってるわ。けど、私は友人が自分から犠牲になるのを止めないほどバカじゃない。」
そういうと十海は僕の手を取った。
「私とあなたはこのままなら間違いなく同時に入局する。私もあなたもほぼ成績は一緒。・・・だからこそ、私は貴方がほしい。私の部下になってほしい。」
「おいおい、プロポーズじゃないんだから。・・・まぁ、考えておくよ。」
二人分の支払いを済ませ、先に店を出る。空は雲一つない快晴。
「簡単に自滅なんかしないさ。」
そうつぶやいた声は、簡単に風に乗って誰にも聞こえることはなかった。