「というわけで整備局の一員であることを忘れずに夏休みを過ごしてください。」
校長のながーい演説が終わり。今日俺たちは夏休みに入る。まぁ毎度お決まりだが誰一人として校長の話を聞く奴はいない。それに、夏休みって言っても帰省するぐらいしかやることがない寂しい奴らの集まりということもあり、お盆以外は大体クラス艦に残るらしい。君ら本当にそれでいいのかい?
「あー!やっと長い前期が終わったよ。女子ナンパしにいかね?」
「バカ。女子は春先の事件の関係で夏休みが少なくなってるからしばらくは授業があるんだってさ。」
そういいながら近づいてきたのは古庄幸喜。横須賀女子教官、古庄薫さんの弟だ。歳かなり離れてるけど。ちなみに艦長でもある。
「海斗はいいよなー。なんせ横女始まって以来の天才が彼女ってどんだけ徳積めばいいのかわっかんねぇや。」
「あれはあれで大変なんだけどな。成績落とせないし。」裏で努力してるんです。特に女性問題に対して。
そんな『すいりゅう』のクラスメート。実はほぼ全員が横須賀近辺出身ということもあり、夏休み期間でもほぼ艦に残るやつが多い。もちろん寮でも生活するが、狭い艦内で生活したいとか最早色々やばい。
「そんなことより、今日の打ち上げどうなってんの?」クラスのどこからかそんな声が聞こえてくる。
「今日は・・・焼肉だぁぁ!!!」
その言葉に大歓声が艦内のブリーフィングルームに響き渡る。やっぱり夜は焼肉、男子高校生なら尚更だ。
「そのためにだ・・・今回艦の予算を少し回したからな。貸し切りにしてもらったぜ!!」
高校生が貸切、というのも大きい話だがこの学校では珍しいことではない。実は艦ごとに予算が組まれていて、その中で実習中の購買や文化祭の出し物などを行えるようになっている。女子よりも生徒数が少なく、艦の数もそこまで多くはないがゆえの特権だ。
もちろんこれには理由がある。ホワイトドルフィンの業務の一つに『ブルーマーメイドでは立ち入ることのできない事態に対応する』というものがある。大規模テロや沈没船の捜索等、女性では対応することが困難である任務に即座に対応するため、学生のうちからある程度の現場に対応することがある。命を伴う任務だけありいわゆる特別手当ってやつだ。潜水艦乗りもいるし、この『すいりゅう』だってある特別な存在理由があるから。
「無事に前期終わったし今日は騒ぐぞー!ただし他の組と合同なのも忘れるな!!」
そんなわけで。今日の打ち上げはこれまた学校恒例の合同焼肉会だ。ちなみにこれができるのもOBが経営している店だからだ。ありがたい。
というか、前回を思い返すと貸切じゃないと色々大問題になる気がする。うん。
とりあえず、時間までは自室で休むことにした。この夏休みは何をしようか。去年は艦で花火見ながらバーベキューもしたし、全員でキャンプもした。もちろん今年もしたいけど・・・
「今年は、もえかがいるからな。」自室でぼそっと天井に呟いてみる。そう、恋人のもえかだ。
多分、というかきっと今日も追加講義がなければ間違いなく参加しようとしてただろう。そして僕は間違いなく委員会に滅せられる。
あ、委員会って公式じゃなくてあれね。自警団というか。自称『リア充撲滅隊』が動き出すのが厄介。しかも彼女いるやつは敵だって学年全体がやってんだもん。逃げられないよ。うん。
というか前に見つかったやついたけど、その時はあれか。潜水艇で4次元移動させられてたな。あれはひどかった。僕は絶対いやだ。三半規管弱いし。というかあれどうやって操艦してたんだ?潜水艦乗りってホントわけわかんない。
「おーい、海斗いるかー?」扉をノックする音の後で幸喜が入ってきた。
「そろそろ移動しないと間に合わないから呼びに来た。」
「ってもうそんな時間か。これだから休みは嫌いなんだ。」時間が短く感じるからな。
・・・
「というわけで前期お疲れ様でしたー!!かんぱーい!!!!」
4クラスが一つの店に集まるとさすがに息苦しいな。というか肉なくなるの早すぎでしょ。なんなん。
「カルビ!カルビ!カルビぃ!」
「おい!俺のタン食うなよ!!」「食わないお前が悪いんだよ!!」なんてことだ。交流会が祭りみたいになってやがる。
「あーあ…結局こうなるのね。」目の前の網に残るカルビの残骸を食べる。うわ、焦げてやがる。
振り返ればこの会も何回目か。元々先輩方から続く伝統だったが、僕たちの代は何かしら理由をつけてこの会を始める。体育祭終了記念、クリスマスなんてやってられねぇぜ記念。ああ、なんと悲しい同級生。だから彼女持ちがほとんどいないのだろう。
なんてことを自慢したやつが翌日校舎屋上から吊るされていたのはいい思い出だ。だけど、そんな場所がとても居心地がいいのは、間違いなくこの同期達のおかげだろう。
とまぁ、そんな楽しい時間はすぐに過ぎていく。
「というわけで最後に海斗からお言葉をもらおうか!!」おい。いきなりすぎないか。何も考えてないんだが。
しかし呼ばれてしまったからには出ないとまずいし、とりあえずマイクの前に立つ。俺こういうの苦手なんだよなぁ。
「えーっと、まずまたみんな・・・とは言えなかったけど、この会を開けたことを感謝したい。春先の大規模火災は、俺たちにとって大きな分岐点になったはずだ。そして、春の女子で起こった大規模事件においても、そうだ。それに関してはみんなに感謝しないとな。俺の幼馴染を、間接的とは言え助けてくれてありがとう。」
春先の大規模火災、そして春先のRATs事件含め、ホワイトドルフィン候補生である俺たちも現場に出ることが多くなった。そんな中、待機命令が出ていた春の事件では焦る俺を止め、事件解決に向けて全力でサポートしてくれたやつら。そんな友人たちがいることが心強かった。
「今年含め、俺たちはあと二年でここを卒業する。もしかしたら、全員揃って卒業ができないかもしれない。現場にいかず、海洋大や本局希望もいるかもしれない。けど、忘れないでほしい。この、俺たちが纏う白の制服は、ブルーマーメイドと共にこの海を守る誇りであることを。俺たちは、どこに行ってもこの海で会える。俺たちは永遠に仲間であり良き友人でライバルだ。今日はありがとう。」
そんな挨拶で締め、俺たちは横須賀の夜の商店街を背に、帰路についたのだった。