光の国の帝王と影の国の女王   作:アデノシン

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影の使徒

「はああ……」

 

観察者(ウォッチャー)は椅子に凭れると、白亜の天井を見上げる。

ずっと動かし続けてきた体が酷く重いが、不思議なくらいその頭は冴え渡っていた。それが一種の興奮状態であり、後で反動が来ることはわかっていたが、彼には止まることは許されていない。カルデアを担う1人としてこの緊急事態に立ち向かい続けなければならなかった。責任感というよりも、罪悪感がロマニに重い影を落としていた。

 

焼け野原と化したカルデアに他の職員やサーヴァントの力を借りて応急処置を行い、何とか重要中の最重要な機能を優先して回復させることができた。しかし先にも述べたように、レイシフト適正を持つ有能な人材はごく一部を除いて全滅し、カルデアの頭脳であった職員たちも殆どが命を落とした。これにより、レイシフト適正者全員で担う筈であった任務すべてが、あろうことか“一般人”である藤丸リツカとレイ・アニムスフィアいうたった2人の少年少女の背中に圧し掛かろうとしているのだ。

 

「……」

 

しかしロマニがこれほどまでに憔悴しているのは、それらが理由ではない。

この度の実験で仕込んだ“切り札”が呆気なく失われてしまったことにあった。

あの程度の炎でそれを殺すことは不可能であろうが、今のところ2人の人間以外に生体反応は確認されていない。一体どこに行ってしまったのか。もしかして何らかのアクシデントが生じて、本体へと還ってしまったのか。そうなればこの実験自体がロマニにとって失敗となる。それほどまでにロマニにとって“切り札”は重要な意味を持っていたのである。

 

「君は、いったい何処に―――」

 

ロマニの唇からため息と同時に呟きが漏れた。

するとその時、コンコンコンと扉をノックする音が聞こえてきたのだ。

慌てて起き上がったロマニは、態勢を整えると入室を許可する。

 

「失礼します、Dr.ロマニ。

……大丈夫ですか?

あまり顔色がよろしくないようですが」

 

「ああ、問題ないよ。

ありがとう―――エフィアくん」

 

机に突っ伏したロマニの背後からカツンカツンという高い音が近づいてきた。

それは固い床とヒールがぶつかる音で、カルデアに残った職員の中でヒールを履いた女性といえば、ロマニには1人しか思い浮かばなかったのである。その名を口にすると、どうやら正解であったようだ。

ロングタイプの白衣を翻して姿を現したのは、これまたうつくしい女性であった。

薔薇を想わせる髪色に花弁のような唇は、少し微笑んだだけでも妖艶さが香り立つようだ。二重のぱっちりとした瞳は光に当たると僅かに桃色を帯びる。

 

「ご無理をされては体に障ります。

少しお休みください、ドクター。

あとはこのエフィアにお任せを」

 

「……あーもうちょっとやらせてくれるかい?

どうしても気になることがあるんだ」

 

「それは、どのような?」

 

「君に言うようなことじゃあないよ。

僕がただ気にしているだけの、何の根拠もないことだ」

 

「……聞かせてはくれないのですね」

 

「そんなに大層なものじゃないからね」

 

憂いに濡れた瞳がロマニを見つめる。その異性の本能を擽る眼差しは彼女の武器といえよう。エフィアと名乗った年若い女性は、あらゆる部門の秘書兼サポート役として活躍する才色兼備で、カルデアの立て直しにも惜しみない尽力を注ぐ人物であった。

 

ロマニは、自分を心配するエフィアに微笑むとやんわりと申し出を断った。

彼が気にしているのは一言でいうと私情である。この忙しい中、私情で有能な部下を巻き込むわけにはいかないと考えたのだ。

 

「かしこまりました、Dr.ロマニ。

存分になさってください。ですがこれ以上の徹夜は許容できません」

 

「ああ。わかったよ。

じゃあ……あと3時間ほどしたら代わってくれるかい?」

 

「ええ、よろこんで。それではまた」

 

物腰柔らかく嫋やかな口調でエフィアはそういうと、優雅に一礼をして踵を返した。

見た目は色鮮やかな女性だが、その内面はとてもやわらかくできている。上品なうつくしさと存在感は、ただそこに立つだけで一厘の花となる。その姿は擦り減った職員たちを癒し励ますのだ。疲れている顔など一切見せず、サポートに奔走する姿に“女神”を見るものも少なくはなかった。

 

「……」

 

彼女が去ったあと、ロマニはひたすらに思考を回すことに没頭する。

そうして思考の海へと沈んでいった彼は、気づくことはなかった。

 

 

 

―――その後ろ姿を薔薇の瞳がただじいっと見つめていたことに。

 

 

 

 

 

◇*◇*◇*◇*◇

 

 

 

 

 

「―――はぁっ!!」

 

「っと、あぶないな」

 

飛び交う矢の雨の中を2つの影がひらりひらりと踊る。

弓には剣を、剣には弓をぶつけ合いせめぎ合う2人は、降り積もる雪を踏み締めてひたすらに交差する。

 

偶然かそれとも必然か、奇しくも互いの得物は同じであった。

違いを挙げるとすれば、積み上げた経験か、持ち得る技術か、それとも生身の人間か、それを超越した存在であるか、であろうか。

少年の体中には細い傷が刻まれていて、赤い外套のサーヴァントには傷1つ見当たらなかった。

 

「……っ、は、……やはり、キツイな」

 

空中で身を翻し着地をした少年は、滴る汗を拭い荒い息を吐いた。

ふわりと軽く着地を決めた英霊は、平然とした顔で少年を見下す。

 

「ふん、中々粘るじゃないか。

だがそれも終わりか」

 

「は……。ははっ、」

 

「……? 何を笑う?」

 

「ああ、まあ、こちらのことさ。

肺が擦り切れるような痛み、傷を負う痛み、生死のせめぎ合い……。

ふふ……久しいものだ」

 

白金の髪をくゆらせて、ローズピンクの光が増した。

そんな少年の姿を見てサーヴァントは眉をひそめる。

致命傷こそ喰らっていないが時間の問題であろうほどに、追い詰められて見える少年は、不気味なほど調子を崩さないのだ。サーヴァントとの差は明らかでもはや虫の息ともいえる彼は、追い詰めれば追い詰めるほど、傷つければ傷つけるほど、その輝きを増していく。もしやこの少年は、戦いの中で成長するタイプの人間であるのかもしれないと、サーヴァントは微かな危惧と苛立ちを憶えた。

 

サーヴァント自身もその感情の理由はわからなかったが、ふつふつとこみ上げる苛立ちを抑えることはできなかったのだ。立ち上がる1人の少年。瞳に輝く光は諦めも恐怖もない。立ち向かうものの目であった。唇を噛み締めたサーヴァントは手にした剣を再び構える。人間相手だと慢心していたわけではないが、そろそろケリをつけた方が良いと判断を下して小さく息を吸った。合わせるように、サーヴァントの目の周りの罅が音を立てて広がっていく。

 

「遊びは終わりにしよう。

投影、開始(トレース・オン)……っ!!」

 

夫婦剣が少年目掛けて投擲される。

愚直なまでにまっすぐ飛んできたそれを、軽い身のこなしで少年は弾いた。

だが―――。

 

 

 

 

 

『―――鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

「なに……っ」

 

 

 

 

 

躱したすぐ先に、その赤は出現する。

 

 

 

 

 

『―――心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

「っち、」

 

『―――心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

「あああっ!!」

 

 

 

 

 

首を狙って振り上げられたもう一対の剣をいなそうと少年も剣を握ったが、サーヴァントの方が早かった。確かに正面から攻撃はギリギリ避けられた。しかし返ってきた一対目が、少年の死角を突いたのだ。反応しきれなかった少年の背中に、深く、深く、突き刺さる剣。だが止めを刺すための追撃は止まない。

 

 

 

 

 

『―――唯名(せいめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどき)

 

「っ、……」

 

『―――両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)

 

 

 

 

 

先に投擲された1対の剣がサーヴァントの持つ1対の剣と引き合い少年を挟み込み、前後から切りつけた。サーヴァントの最初の攻撃こそ避けられたが、背中に走った強い痛みに呻いた隙を突かれ連撃を許してしまう。飛び散る血と滴る血が、石畳を濡らした―――。

 

ぐちゃり、と、何かが潰れた音がした。

サーヴァントの剣が、少年の胸に突き立ったのだ。

肉を裂き、骨を断った音か、人間の心臓(コア)の潰れる音か、少年には判別はできなかったが、それが致死の傷であることは理解できた。

 

ずるりと、剣が抜かれ少年の体は石畳に伏した。

雪に溶ける白金が、赤く、赤く染まっていく。

 

「……せめて、」

 

投影した武器を消したサーヴァントは動かなくなった人間を見下げると、静かに目を閉じた。それは黙祷のようにも、懺悔のようにも見えて。次々に降り注ぐ白に、広がり続ける赤が染み入り、穢れに満ちた寺を飾り立てていった。

 

暫くして、サーヴァントはゆっくりと踵を返していく。

サーヴァントはまだ己の役目は終えていなかったのだ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ぱちゃ、

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

微かに聞こえた水音に、サーヴァントは振り返ると同時に剣を手にした。が。

 

 

 

 

 

「がっ!!あああああっ!!」

 

 

 

 

 

サーヴァントが動くよりも早く、それは飛来した。

どん、という衝撃。右目に走った熱。焼けつくような痛み。

サーヴァントの体が弓なりに仰け反り、その手が右目を覆う。

ぽたぽたと滴るのは、先ほどまで少年の体を染めていたものと同じ。

 

「ば、……か、な、なぜ……?」

 

「……」

 

「な、ぜ……、たち、あがる?」

 

「……」

 

「心臓は、つぶした……はず、」

 

「最初から、お前に勝つつもりはなかった」

 

「は……?」

 

()()()()()()、この体でお前を相手取るのは不可能(むり)だ。

だがここで消えるわけにはいかんしな。

それに、お前のその目も、弓も、気に入らん」

 

はあ、とため息を吐いた唇からは、まだ鮮血が溢れ返っている。ぺっと吐き出すと地面に赤い花が咲いた。いつの間にか立ち上がっていた少年は、手にした弓をそのままにサーヴァントへと近づく。心臓を潰した人間が立ち上がったことに驚いていたサーヴァントは、少年の持つ“蒼い弓”を目にした途端、ぴたりと動きを止めた。

 

驚愕がさらなる驚愕に染まり、ふと力の抜けた体が地面へと落ちる。

石畳の上に尻もちを付いたサーヴァントは、心底信じられないという表情で呆然と少年を見上げた。震える指先が、少年へと向けられる。

 

「―――っ、あ……」

 

「本当は両目をと思ったが、まあ良い」

 

「あ、……ああ、……そん、な」

 

「この体を傷つけた罰は重いぞ―――なあ、シロウ」

 

白金の髪は、青緑のそれへ。

ローズピンクの瞳は、髪と同じ色へ。

まだあどけなさを残す少年の体は、精悍な青年の体つきへ。

―――月が姿を変えるが如く、その体は形を変えた。

 

良く知ったその姿に、存在に、瞳を揺らしたサーヴァントへと、それは微笑むと彼と同じように手を伸ばす。そしてその白い指先が、サーヴァントの右目を射抜いた矢に触れたかと思うと。

 

「っ、ひ……!?うああっ!」

 

「呻くな、情けない」

 

ずぶん、と生々しい音を立てながら引っ張られた矢。矢先に連なるのは小さな玉。玉に付随する筋のようなものに構わずそれを抜くと、ぶちぶちと何かが切れる感触が響く。

摘出したそれは真っ黒に黒ずんでおり、汚らわしいとでもいうように見ると、ぽいと投げ捨てた。

 

「ぐうう、」

 

「少しは正気に戻ったか?」

 

「……っ、ぐ、……俺は、はじめから」

 

「ほう? 初めから正気であったと?」

 

「……せ、……せん、せい」

 

力任せに眼球ごと矢を抜き取られ、通っている神経群を引き千切られたサーヴァントは当然ながら痛みに悶絶をする。それを口元に笑みは浮かんでいるものの全く目が笑っていないという、サーヴァントにとって死の宣告にも等しい意味を持つ顔をした男は一蹴した。

 

「お前からそう呼ばれるのは、随分久しいな」

 

「っ……なぜ、……貴方がここにいるんだ!!

それに、なぜあんな姿を……!!」

 

「まあ落ち着け」

 

「落ち着いていられるかっ……!!」

 

「落ち着けと俺は言った筈だ、エミヤ」

 

「……!」

 

右目を抑える指間から血が滴るが、構いもせずサーヴァント(エミヤ)は少年の姿をしていた(ソラスハ)へと掴み掛らんばかりの勢いで詰め寄った。

ソラスハは面倒くさそうに片目を閉じると、エミヤを一瞥する。

 

「質問するのは俺だ、良いな?」

 

「……承知した」

 

「ふふ。やけに素直じゃないか」

 

「今回のは、その……俺にも、非がある」

 

「非があるというのは?」

 

「……。貴方の、正体を見破れなかったことだ」

 

「ははっ、それは当然だろう。

たとえ冠位のついた魔術師であっても、こればかりは見抜けまい」

 

「……?」

 

「この体は人間そのものを素材としている。

今の俺に魂は創れないからな。

空いた魂の部分に、俺の意識を詰め込んだんだ」

 

「……っ、それ、は……!

生贄というわけか……!?」

 

「あー待て待て、それは誤解だ。

この体は俺が殺したわけでも、生贄に捧げられたものではない。

奪った、という表現が正しいか」

 

「……どういうことだ、師匠」

 

エミヤの疑問は最もである。

なぜ光の国にいるはずの師が、こんな特異点のど真ん中にいるのか。

しかもなぜか人間の体を使って、完璧に人間と同化しているのだ。

おかしいを突き抜けて、ついに頭が狂ったのかと思ってしまう。

 

エミヤはソラスハの放浪癖を知っていたし、暇にさせておくと碌なことが起こらないというのは身をもって体験済みである。だから百歩ちょっと譲って、このような特異点をふらついているのは理解できないが、まあわかる。だが、人に扮している点について、突っ込まずにはいられなかった。

 

「色々あってな。マスターとしてレイシフトに参加したんだが……。

ちょっとばかしエラーが起きて、この人間はそのエラーで死んだ。

……。それは別に良い。誰にでも起こることだ、若人にも老人にも等しく訪れるもの。

だが、少し……気になることがあってな」

 

「気になること……?」

 

「……いや、ここで話すことではない。

それよりもお前はどうする」

 

「……。俺、は」

 

エミヤから視線を逸らすとソラスハは腕を組み、大雑把にあらすじを語った。ソラスハは少年―――レイの姿をとっていた理由をエミヤに明確に伝えなかったが、彼なりに思うことがあってのことであった。

 

遥か昔より、光は生命の誕生の象徴で、影は生命の瞑目の象徴(イメージ)が定着している。故にその概念は光の化身であるソラスハと、影の化身であるスカサハにも投影され、2人は決して相容れることは許されない存在となった。

 

―――ソラスハは(かげ)に触れてはならない、スカサハは(ひかり)に触れてはならない。

 

ソラスハが亡骸に魔力を注ぎ込むと、形を取り戻した心臓が脈動を始める。

ソラスハが肉体に霊気を吹き込むと、気を取り戻した意識が覚醒を始める。

だが“今の”ソラスハに彼の魂を戻すことは、できない。

これで体は歴とした人間で、その意識だけに宿ることに成功したのである。

 

ソラスハの思惑は彼の沈黙を以て秘された。だが、1つ言えるのはこれは決して正体がばれることがないように、と念に念を押しさらに圧を掛けて来た友人のためだけではないということである。

 

言葉を濁したソラスハに物言いたげな視線を向けていたエミヤは、続いてなされた問いに動揺を見せる。

 

「……俺の使命は、ここの」

 

「なんだ、まだ正気ではなかったのか?」

 

「い、いや……っ。だが、俺は聖杯によって歪められたサーヴァントに過ぎない。

正当なサーヴァントではないといった筈だぞ」

 

「ほう? 聖杯とはそのような力も持つのか。

どれ、ちょっと弄ってやろう」

 

「は……!? ま、待ってくれ、ししょ、」

 

「ふむ? これはこれは、ひどい呪いを掛けられたものだ。

お前自体が楔か、いや、違うな。守護の命。神に類するものからの。

奴らも随分好き勝手してくれるじゃないか」

 

「……師匠」

 

「ははっ。わかっているさ。

俺はお前の生き様に口を出す気はない。

……手は出すがな」

 

「!?」

 

ソラスハはエミヤへと手を翳すと、魔力を巡らせた(スキャンした)

レントゲン検査にも似た行為により、ソラスハは目の前のエミヤの存在を改めて確信する。どうやら腹に一物抱えているのは彼だけではないらしい。

師弟揃って同じことをしている、と呆れた顔をしたソラスハはぱちりと指を擦り合わせた。

 

「厄介なものを背負わされたものだ。

しかも、お前は黙ってそれを受け入れた。

……いや。いい。何も言うな。

今のお前を責め立てようと、お前の在り方は何一つ変わることはない。

だがな。どうせ消える運命にあるお前を、どう扱っても構わんだろう?」

 

エミヤに力と、祝福を与えた存在として、ソラスハは織り成すいくつもの運命の根源に関与していた。しかしそれ以上でもそれ以上でもない。たとえその気にさえなれば、彼を縛り囲うすべてものから解き放つことができようとも、ソラスハはただ傍観者で在り続けることを選ぶだろう。

 

「エミヤ。この際お前の事情はどうでも良い」

 

「……隅々まで視られた挙句直球(ストレート)に言われると、リアクションに困るのだが」

 

「だが、お前は俺の事情に付き合う理由があろう?」

 

「心当たりがないのだがね……!」

 

「ははっ、俺の秘密を知ってしまったからにはそうはいかんよ。

それにまだお前の修行は終わっていない」

 

「……!」

 

当然のように言ってのけた師匠に、弟子は頬を引き攣らせた。

王としての気質か、それとも性格の問題かはわからないが、ソラスハは無意識に無茶ぶりを仕掛けてくることが多々あり、それに巻き込まれるのはいつだって彼が認めたものたちである。師は人の心を解さないのだろうかと頭を抱えた記憶は、エミヤにとって古くも新しい。

エミヤにとってソラスハは、のちの口伝に優れた人格者のような感じに伝えられていることを知った時には、絶句を通り越して発狂しそうになったくらいに、あらゆる意味でインパクトに溢れた師匠でもあった。

 

「……はあ。貴方はいつだってそうだ、我が師ソラスハよ」

 

「ふふっ。精々このような師を選んだ自分を呪え」

 

「いや、呪わんよ。勝手に付いていくと決めたのはこの俺だ」

 

エミヤの中でやっと動揺の波がおさまった気がした。

どんな無茶を仕掛けてこようとも、いつだって自分を導いてくれるのはこの師なのだ。いつ如何なる時であっても、その教えはエミヤという存在の根源に染み付いている。

 

エミヤはソラスハを見据えた。

右目の痛みも、動揺も、すべて飲み込み静かに向き合う。

 

「こんな(なり)だが、俺を使ってくれるか?

……我が(マスター)よ」

 

「俺は別に、形を求めたわけではないのだが」

 

「いや、中途半端は良くない。

俺はあなたに力を貸すと決めた。ならば、契約を求めるのは当然のことであろう?」

 

「……まあ、そうだな」

 

覚悟を決めた様子の愛弟子を、ソラスハはそれ以上拒否することはできなかった。

 

 

 

 

 

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