あと今回は少し短めです。
煌々と照る太陽の下、熱された地表に
この場で
そんな闘いが行われて来た戦場で、今一度行われる拳と拳をぶつけ合う。
古来より行われて来たそれは、三手という少ない選択肢の中で幾万もの可能性を考慮し、手を掲げる。
その闘いを題して人間達はこう呼んだ…
…
……
………
ジャンケン!
一陣の風が吹く中対峙する二人。
「さ〜、出揃ったな。
今回戦う二人の紹介だ!
因みに今回は事前申告により勝負の方法が変わっている事をお伝えするぜ!」
異例の報告に騒つく会場を他所に話を進めるMC。
「まずはこの漢‼︎
にじさんじ一期生の重荷をその小さき身体に背負うその背中は紛うこと無き漢。
その拳に載せるものは、一期生としてのプライドか?!
違う…
負かしてきた奴らの想いか?!
違う…
この漢が拳に込めるものはただ一つ…
自らがVtuberとして歩んで来た時代の重み!
その拳の重さは
にじさんじ一期生、鈴谷あき!」
拳を握りしめ、目の前に立つ
「続いて、鈴谷あきに対峙する相手の紹介だ!
その目の前にある物は全て壊す。
無に返される事こそが道理である!
破壊こそ至高!
殺戮こそ人生。
今お前達の目の前に立つのは美大生か?!
否!
最恐で最凶!
にじさんじが誇る
鈴原るる!」
鈴谷あきに対峙する鈴原るる…
その手にはジャンケンには絶対に必要無いであろうマチェットを
「こんるる〜、あき先輩。
楽しみましょうね!」
ニコニコと微笑む鈴原るる。
その笑顔の裏にあるのは、目の前にいる獲物を一刻も早く潰したいと言う欲求か…
それとも筋肉量、武器から見る実力差の余裕か…
…
違う!
対峙する鈴谷あきだけは感じていた…
鈴原るるに裏の思惑などないのだと…
心の底からただひたすらに、喜びを感じているのだと。
「そうだね、鈴原さん。
楽しもうね…」
背筋に冷や汗がつたるのを感じながら拳を構える。
「さーて、客席のギャラリー達にも説明しよう!
今回行われる勝負は、今までの血生臭い戦いじゃない。
由緒正しい、日本古来の勝負さ!
ジャンケン!
そんなもんは遊びだと思った奴は回れ右!
遊びじゃねぇ、今から行われるのは本気のジャンケンさ!」
ザワザワ、騒然とする観客達を尻目に進行する。
「さーて、では掛け声だ!」
MCの声で口火を切った二人は拳を後ろに引き、掛け声を合わせる。
じゃん!
けん!
鈴谷あきはその一瞬、振り下ろされんとする鈴谷るるの拳の形を見て勝利を確信した。
彼女の拳は指が二本突き出された形…
所謂チョキ!
それに対し鈴谷あきの手はグー。
つまり、チョキに対して必勝。
勝った!
「ポンっ!」
鈴谷あきは確信していた。
相手の手の形を一瞬でも見たのだから自分が勝つことは必然であると。
人間の反応速度は如何に鍛えたとしても最速レスポンス0.3秒。
しかし手を振り下ろすまでは1秒もかかっておらず、ただの美大生がそんな見た超人じみたことができるはずがない…と。
それが…唯一の誤算だと知らずに…
鈴谷あきは突き出された鈴原るるの手を目にした瞬間凍りついた…
「な…なんで…確かに鈴原さんはチョキを出していたはず…
なぜ…パーを出しているんだ…」
そう、鈴原るるの手はチョキではなく、パー。
グーに必勝の手。
少なくとも鈴谷あき本人は鈴原るるが手を出してから形を変えることは不可能である…とそう言い切れる。
この観衆が見ている中、そのような不正がまかり通るはずがないのだから。
「ど…どういう事だよ…」
目をぐるぐると回し、目の前で起こる理解不能な状況を必死に理解しようと頭が回転する。
そんな鈴谷あきの目の前で、尚ニコニコと微笑む鈴原るる。
「やった!鈴原勝ちました!」
ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる様は前回までの狂戦士っぷりとは似ても似つかない。
そして…鈴谷あきは理解した。
この大会に常識的などありえない…
この戦場で普通な物など何もない…
鈴原るるは…一言で言えば異常。
鈴谷あきの手を見た後、僅か0.3秒の速さで自らの手の形を変えた。
現実的に考えれば不可能。
だが、彼女には可能。
常人にとってほぼ不可能とは、鈴原るるにとって可能を意味するのだ。
人間としての体を成すための器を維持したまま、最高のスペック、最強のポテンシャルを秘めるている。
人間の体を成しているだけの…怪物…
それを可能にするのは、彼女の常軌を逸した動体視力、常人の何倍もの速さを誇る反射神経である。
鈴谷あきは自らが選択し、出した答えであるグーの手を見つめながら、空を仰ぐ。
「あぁ…もう終わっちゃったか…
ま、仕方ないよね…」
悔しさと尊敬の念が入り混じったような表情で話しかける鈴谷あき。
「はい!また今度戦うときは、アキニウム光線教えて下さいね!」
と満面の笑みで返す鈴原るる。
この大会で初めて血を流さず平和的に試合が終わる…
はずだった…
「鈴原さん、頑張って!
応援してるから。」
踵を返し、果てしなく深いと思えるほどの闇の中に歩を進める鈴谷あき。
その背中を見送る鈴原るるがポツリと呟く…
「まだ…足りないよ…?」
無造作に投げられていたマチェットを拾い上げ、刃を太陽に透かすように掲げ、微笑む。
「私…まだ足りないよ?」
そう一言呟くと、後ろに腕を振り被り刃を投擲する。
その刃は愚かにも無防備に背中を見せた鈴谷あきを捉えていた。
刃が風を切る音と共に、鈴谷あきの背中に走る激痛。
「ああァァアアぁあぁぁぁああ!」
バタリと地面に伏せた彼は背中に刺さるマチェットのせいでのたうちまわる事さえも許されず、痛みに顔を歪めるしない…
「ごめんなさい、あき先輩。
やっぱり鈴原、まだ足りません。」
先程と変わらず満面の笑みで、鈴谷あきの背中に刺さる刃の
冷たく、固い異物が鈴谷あきの細く白い身体から引き抜かれる。
その純白の衣装は真っ赤に染まり、まるでそこに泉でも湧いたかのように血が永遠と流れ続ける。
マチェットの刃からは血が
「…イタイ…イタイ…
もうやめてよ…鈴原さん…」
必死の形相で訴えるもその言葉が
「次は…右肩っ!」
鈴原るるは目を見開き、今し方引き抜いたマチェットを今度は勢いよく右肩に振り下ろす。
まるでナタでスイカを切るように、いとも簡単に鈴谷あきの右肩より下の部分は切り離された。
「ァァアアァァァァアァァアアァァァァア」
会場内にこだまする絶叫の声。
腹の底から絞り出されたその叫びに会場の人々は絶句する。
雑談面からは骨や肉が露わになり、血が溢れ出す。
人間は自身の体内にある血液の30%以上を失うと生命の危機に陥る。
勿論そんな量はゆうに超えている。
ドバドバと尚も溢れ出す血を見つめる鈴谷あきの目から光が失われてゆく。
そんな事はいざ知らず、鈴原るるは自身の欲望のままに続けていく。
左肩から下を切断し、右足、左足と順々に切断した。
やがて鈴谷あきが何も反応しなくなった事に気付いた鈴原るるは、壊れたおもちゃを見つめるような顔で、さも残念そうな表情を浮かべていた。
その手に握られているマチェットは脂と血液でベトベトであり、本来その刃に存在するはずの金属光沢は見る影もない。
彼女の私服は真っ赤に染まり、顔にも血が付着している。
「あき先輩!
楽しかったです、さよなら!」
言切れた鈴谷あきにそう一言告げるとスキップでも始めそうなテンションで鈴原るるは闇の中へ去っていった…