小説二つの同時進行、リアルの忙しさから遅くなってしまいました。
これからも遅くはなっても更新を続ける所存ですので、どうかよろしくお願いいたします。
沸く観客、血みどろの地面…
吐き気すら催す惨状だった…
英雄として見てきたどんな戦場よりも
この戦いが始まってから自分は愚かだった…
英雄としてと体裁なんて保てなかった…
僕には英雄を名乗る資格なんてなかった…
愚かな僕は悪魔に
愚かなアダムとイヴが狡猾な蛇に騙されて禁断の果実を口にする様に。目の前に事実から目を背け…信じることからも目を背け…
僕の横でいつも笑ってくれたあの人はもういない…
僕の腕の中でどんどん冷たくなっていった。
真っ赤なトマトジュースの様な血液の暖かさと、硬く冷たくなったあの人の体の重みだけが腕の中に残った。
心の中には後悔と悲しみと苦しみと怒りと恨み…
ドス黒い感情が渦を巻いて僕を飲み込んだ…
僕はそんな現実から逃げたくて…
目を背けたくて走った。
息を絶え絶えにしながら、ただひたすらに走った。
この悪夢を抜ければ、いつもの日常があると信じて…
あの人がまた僕の横で笑ってくれると信じて…
…
……
だが…これが現実だった…
もう…何もかもがどうでも良くなった…
仲間も…自分も…何もかも…
目の前にいた彼を倒した…
彼は吸血鬼だった…
回復力もパワーも耐久力もあった…
もし生きていればまたライバーとして彼は輝けただろう…
でも彼は死んだ。
いや…僕が殺した…
彼の四肢を切り刻み、彼の胸に刃を突き立てた。
肉を裂き、骨を折る感覚が剣を伝って僕の体に響き渡った…
「でも…仕方ないだろ…
彼は…あの悪魔と友達だったんだ…
死んで当然だったんだ…
僕がやらなきゃいけなかったんだ…」
僕が…やらないと…いけなかった…
本当にそうか?
鏡に映る自分が語りかけてくる。
僕はまた現実から目を背けるために…
僕の罪を他人になすりつけているだけなんじゃないか…
自分で自分の心をズタズタに引き裂いてしまいたかった…
心だけではなく…体をもドス黒い感情が包んだ…
そうなる頃には僕の心には悲しみなんてなかった…
こんな世界…消えてしまえばいいのに…
そんな身勝手な欲望が僕を支配し、突き動かした。
英雄を名乗る資格なんて…もう必要ない…
鏡に映る僕の鎧は漆黒に染まり、まるでこの世に
闇の様だった。
酷くやつれた僕の顔は、見る絶えないくらい醜かった…
でも当然だった…
だって…
「僕はもう英雄なんかじゃないんだから…」
光があるならそれを閉ざすために剣を振るおう…
希望があるなら、絶望に変えて見せよう…
こんな世界に意味なんて…もう無いのだから…
そうでしょう?師匠…」
そう心に告げ、英雄だった男は、コロシアムへと戦いの場へと歩を進めた。
異常なほどの熱気…
肌にピリピリと刺さる歓声に包まれながら両雄は対峙する。
「やぁ、エクス・アルビオ君。
調子はどうですか?」
一風変わってどう言う風の吹き回しか、他人行儀で話しかける叶。
勿論鎌掛けの意味もあるだろうが、彼にとっては葛葉を破った強敵。
しかも葛葉戦から鎧も剣も黒く染まっているのである。
誰だって警戒する、だから用心深い叶はよほど警戒しているのだろう。
エクスの動作一つ一つを事細かに観察する。
「叶さん…貴方は悪魔です。」
突拍子も無く発言したエクスに対し困惑の色を浮かべる叶。
語り出すエクサの目は酷く虚だった。
「貴方は人を欺き、地獄に叩き落とし、それを見て喜ぶ悪魔だ…
だから貴方は死ぬべきだ、僕はそう思う。貴方も…そう思いますよね?」
叶は心の中で驚愕した…
表面上平静を保つので精一杯だった。
エクスの風貌から何から何まで変わったのは葛葉戦からそうだった…
だが人間の中身はそう簡単には変わらない。
罪を犯したものが繰り返しそうするように…
だが、目の前の男は違う…
自分の知っているエクス・アルビオとは別人ではないのか…
と言うほど違う。
「エクス…勝つのは僕だ。
葛葉の為にもね。」
言葉を荒らげる事もなく、口調は優しげに語る叶だったが、その言葉の端々から見え隠れする凶暴さは会場一帯へと伝播する。
「ではお待たせいたしました。
これよりAブロック準決勝第一試合エクス・アルビオVS叶の試合を始めます!」
叶は手にした銃に手をかけ、コッキングハンドルを引き、弾丸を装填する。
開始と同時に斬り込むエクス。
背中に付けられた鞘から引き抜かれていたのは彼の鎧と同じ漆黒に染まった剣だった。
まるで太陽の光すら吸い込んでしまいそうな漆黒をを有する
叶の首元を捉えたはずの剣は空中で何かに阻まれていた。
「危ないなぁ。」
叶は自らの銃、KTR-08でエクスの太刀を受けているのだ。
叶は腰のホルスターにあるスターム ルガー・ブラックホールを抜こうしたその瞬間。
叶の体は宙に浮いた。
「カハッ?!」
叶は放たれた蹴りによって吹き飛んで、背を地面に擦り付けながら減速する。
ヨロヨロと立ち上がる叶が目にしたのは煙の中から現れるエクスの姿だった。
「いててて…いやぁ、流石。
流石…元英雄だ。」
衣服についた砂埃を払いながら呟く叶。
エクスはただじっと叶を見つめている。
その瞳には一切の淀みなく、まるで新月を映す湖のようだった。
「なんとでも言うといい。
貴方みたいな悪魔はここで死ぬんです。死ぬべきなんです。
貴方自身もそう思いますよね?僕は思います。」
駆け出すエクス。
重厚な鎧に身を包み、大剣を有しているとは思えない俊敏性である。
剣先まで漆黒に染まった刃が叶の命を刈り取る為に近づいてくる。
すぐさまKTR-08を発砲し迎撃する叶。
本来なら鉄板をも貫く7.62ミリ弾を装填するKTR-08。
エクスの鎧がいくら重厚であろうとも彼の肉をえぐり、骨を穿つはずだった…
しかし自らに突進してくるエクスを見て叶は目を見開くことになる。
なんと高速で撃ち込まれる弾丸をエクスは正確に、自らの体に届く弾だけを正確に剣で弾いていたのだ。
勿論数発は鎧を掠めてはいるが、その程度では止まらない。
「嘘でしょ。剣で弾くって…
ライフル弾の初速って音速を超えるはずなんだけど…」
勿論理論上弾くことは可能ではある…だがそれはあくまで机上の空論。
実際にやるとするならば、音速を超える速さの弾丸を目で捉え、確実に弾かなければならない。
剣先の速度はそのリーチに比例し、円周率の二倍の速さを叩き出す。
史実、居合切りの最速は120kmを超えているのだ。
だがそれをエクスは凌駕する。
英雄と呼ばれた男は机上の空論すら凌駕する。
彼の剣先の速度は155kmを超える。
それを可能にするのは彼の筋力、動体視力、そして…
「覚悟だ…命を投げ捨てる覚悟ですよ…」
目の前まで迫るエクス。
自らに向かって振り下ろされる剣を叶はその目に焼き付けた…
剣を目に焼き付けている叶の瞳を映すほどの光沢。
黒曜石の様な美しい黒色に細かく装飾された淀みのある赤。
叶が見惚れるほどだった…
美しいと…そう感じた。
そんな美しい感性と共に降り注ぐ死の恐怖を叶は感じていた。
驚くべき反射神経でバックジャンプする叶。
だが…
「遅いんだよ…」
目の前で吹き出す血、左肩から走る鋭い痛みに叶は顔を歪める。
そのまま受け身を取る形で着地する。
叶の左肩を手から血が滴り落ち、彼の衣服が徐々に赤く染まってゆく。
「浅いな…
だがもう終わりです…」
ゆっくりと…じっくりと近づくエクス。
事実叶がバックジャンプをしなければエクスの刃は彼の骨を断ち、肉を裂いていただろう。
叶の得物、KTR-08は先程切られた際に落とした為、叶の手に武器はない。
確実に一歩ずつ歩みを進めるエクス。
その一歩は彼の悲しみ…
その一歩は彼の憎しみ…
その一歩は彼の後悔…
「僕まだ諦めらんないわ。」
呟いた叶は腰につけたホルスターから一丁の銃を取り出した。
黒を基調としたカラーリング、西部劇に登場する様な銃口の長いフォルム…
その名はスターム ルガー・ブラックホール。
「覚悟ね…そんなの僕だってとっくにしてるよ…」
叶の脳裏に浮かぶのは、御伽原の苦痛に満ちた顔や童田の死体…
口から血を吐きながら彼は銃口をエクスに向けた。
一発だけ撃ち出された弾丸はエクスへと一直線に飛んでいく。
「無駄ですよ…」
剣で弾丸を弾こうと振り下ろしたその時だった。
ガンッ!
重い音と共にエクスがよろめいた。
今までよろめくことなどなかった、塹壕を踏みつぶし進撃する戦車の様に怯まなかったエクスが歩を止めた。
「……」
エクスがこの試合、初めて表情を崩し剣を持つ右腕を見つめた。
剣に刃こぼれなどなく、右腕に損傷もない。
だが…叶が放った弾丸は弾かれて尚、エクスの腕を痺れさせていた。
「やっとまともに食らったね。」
叶は血を流し悲鳴を上げる体を立たせ、銃口を再度エクスへ。
「葛葉…」
今でも鮮明に蘇る友との記憶。
初めて会った時は陰気な奴だと思った…
でも一緒に過ごすうちに、葛葉との時間が楽しくてたまらなくなってきた。
辛い時も、楽しい時も、いろんな味を一緒に噛み締めてきた唯一無二の友…
「ありがとう…葛葉。」
一発…もう一発とエクスへと撃ち込まれてゆく。
エクスはダメージこそ受けてはいないが、その度に怯み、歩を止めていた。
叶は傷を庇う様子もなく、また一発エクスへと弾丸を発砲する。
「クッ…」
ガンッ。
弾かれた弾丸は天に向かって飛んでいく…
エクスがまた歩を止めた。
「なんで抵抗するんです…?
貴方は死ぬべきなんですよ…分かってますよね?
貴方もそう思いますよね?なんで生きようとするんです…?」
叶の視界は霞始め、手先の感覚が冷たくなる。
「そりゃ…あいつの為にも…僕が…勝たないとね…」
にこりと笑って叶はまたブラックホールを放った。
エクスはまるで自らの周りを飛ぶ羽虫を落とすが如くそれを弾き、
腰を落とし、重心を落とすことでよろめく事を回避した…
だが…
「これが…にじさんじの叶としての…僕の覚悟だ…」
叶の前に何かが突如天から飛来し、突き刺さった。
「…?」
エクスも流石に困惑の色を示す。勿論それは一瞬の事で直ぐに冷たい目に戻っていた。
「待ってたよ…」
赤い光沢を帯びたそれを叶は力強く引き抜いた。
叶の胸の傷からの出血は更に加速する。
あたりを血に染めながらも叶が手にしたそれは…
「ゲイボルク。
エクス…君は知っていますか?僕が…
叶の身長をゆうに越すそれは、万物をも貫く槍。
叶は槍を己が手足のように操り、それを地面に突き立てる。
「エクス・アルビオッ!
僕は今から…君を全力を賭して倒そう。」
槍を構えた叶から放たれるプレッシャーは離れた場所にいる観客たちをも畏怖させ、場を静まり返らせた。
「行くぞッ!」
駆け出す叶、傷などお構いなしに進んでいく。
その時、エクス・アルビオは今試合、初めて構えをとった。
意識してではなく、無意識のうちに剣を構えた。
「…僕が…恐れているのか…?」
エクスは自らに迫りつつある男を見つめた。
憎しみの対象であるその男を…
エクスの一撃の強さは重さ。
そして対し、叶が彼に打ち勝つ為用意したアドバンテージはリーチと速さ。
蛮勇が己の闘志をぶつけ合う。
まさに一進一退。
相手の攻めを防ぎ、攻めに転じれば相手はそれを正確に受ける。
重い一撃を入れようと叶が踏ん張り、腰を入れる。
「グハァ…」
力んだ結果、傷が深まり吐血する…
だが!止まらない。止まるわけにはいかない。
全身全霊の一撃を放つ叶。
「グッ…やりますね…」
剣で受けたものの、エクスが後ろに後退する。
歩を進め続けてきたエクスが後退したのだ。
「まだだよ…まだ終われない!」
これを機に叶が攻勢にでる。
手数とリーチでエクスを防御に入らせようとするが…
「…無駄ですよ…何もかも…
貴方もそう思いませんか?」
叶の一瞬の隙を突いて放たれる一太刀。
その太刀は異様に重く、骨が
「無駄なんかじゃないさ…
僕達の夢は…まだ終わってッ?!」
蹴り飛ばされる叶。
更に追撃を受け、身体に生傷が増えてゆく。
体の隅々の細胞が悲鳴を上げる。
ここで終わるか?
否!
まだ放つ!
まだ打ち合う!
攻防の震えが体に伝わり、叶の傷をえぐる。
口の中いっぱいに血の味が滲んだ。
少しずつ遠のいていく意識の中で、まだ放つ!
二人は今自らが出しうる全力を持って、一発の攻撃を放つ。
「うおおぉおお!」
咆哮を上げ、目を見開き槍を突き出す叶。
「………」
冷たい目で剣を振り下ろすエクス。
二人の全力を賭した一撃が衝撃を生み、土埃が舞う。
叶は衝撃で後ろに下がった。
地面には叶の靴底がすり減った後と、血が滴る。
「…クソッ…まずいなぁ…」
その時既に、叶の指には感覚などなく、冷たくなっていた。
土埃の中からゆらりと影が現れる。
エクス・アルビオだった…
「喰らえ!エクスッ!」
叶はゲイボルクを陰に向かって放つ。
キンッと言う金音と共に足音が迫る。
憎悪と怒りに支配された英雄の顔が現れた。
その時、叶の口元には笑みが浮かんだ。
なぜこの瞬間に笑みなのだろうか。
自らが追い詰められて自暴自棄に陥った?
違う…
……
叶はその瞬間を待っていた。
彼が煙の中で槍を弾き、自分にとどめを刺そうとエクスが無防備になる瞬間を!
ブラックホールをエクスの顔に突きつけ、引き金を引く。
カチンッ…
撃鉄は下がった…だが銃弾は放たれず、空間は鎮まりかえっている…
「ここで…弾切れ…
ゲームオーバーか…残念…」
次の瞬間、叶の体を刃が突き抜ける。
「ゴフッ…」
肺を貫通した刃が引き抜かれ、叶は吐血しながら地面に伏す。
最後だというのに…叶の表情はどこか満足げな笑みを含んでいた…
「アハハハハハ…」
笑いだす英雄。喉の奥底から絞り出されたような笑い声が響き渡る。
剣先からは先程まで対峙していた男の血が滴り落ち、刃は脂と血でべっとりとしていた。
叶の体が冷たく…硬くなっていく横で、エクスは膝をつき、天を仰ぐ。
「師匠…やりましたよ…
僕は…正しい行いをしました…
そうですよね…?師匠…
こんな世界…壊れてしまえばいいのに…」
勝者…エクス・アルビオ。
それは…後悔し続ける英雄の名だった…