いつも更新したそばから見にきてくださる方々、本当にありがとうございます。
誰かが見てくださっていると言うことが凄く励みになります。
後二回で取り敢えず一旦の節目です。
くどいようですが、ここまで来れたのは読んでくださった皆様、そしてにじさんじライバーの皆様のおかげです。
アラが目立つ煉瓦造りの会場。
無骨な雰囲気で文明を感じさせないその場所は、
鈴原るる…
彼女はこの誰もがこの惨状を見れば身震いし、吐き気を催すであろう場で心を踊らせていた。
そんな彼女は異常だろうか?
いや…この場にいる誰もが異常なのだ…
殺し合いに歓喜し、熱狂する誰もが…
鈴原るるは窓越しに視線を落としている。
その視線の先にいるのは、激闘を繰り広げるエクスと叶だった。
「どっちと戦えるのか楽しみ!」
無邪気な様子の鈴原るるは鼻唄を歌いだす。
暗がりに歩いていく彼女に付き従うのは、彼女の華奢な体には不相応に思われる程の大剣であった。
だが彼女はそれをいとも容易く引き摺り回す。
まるでそれに重さがないように。
ギリギリと音を立て、地面に爪痕を残しながら彼女は闇に消えてゆく…
激動の準決勝第一試合が終了し、優勝候補である叶が敗北した事に騒めきつつも観客達の興奮は覚めることを知らない。
先程まで血みどろだった地面は何もなかったと言わんばかりに綺麗になっており、激闘の様子など想像もできないほどだった。
石造りの地を踏みしめながら、最初に観客たちの前に現れたのは…
鈴原るるだった。
強豪達を崩し、勝ち上がってきた猛者に観客達のボルテージは更に上がっていく。
「こんるる〜。」
他愛ない挨拶であるはずのその言葉で観衆は静まり返り、再び沸く。
屈託の無い笑顔を浮かべる鈴原るる…
だが観衆達はその中に潜む狂気を知っている。
今までの惨状を知っている。
だからこそ沸くのだ。
人は皆、心のどこかで闘争を求めているのだ。
飼い慣らされた本能を胸に秘め、統率された現代社会を生きる者は皆、求めているのだ…
血が沸くような戦いを…
そんな観客達を背に鈴原と対峙する為に歩みを進める者が一人…
彼女の名は矢車りね。
止まった時の中を生きる少女。
彼女の小さい体の中に秘められた力を目の当たりにした者達は口を揃えて言う…
あれは…人間の皮を被ったモンスターだと…
対峙する二人。
そこには一陣の風もなく、あるのは静けさと
その静寂を破るようにすっと息を飲み、MCが口を開く。
「お待たせしました。
只今より、Aブロック準決勝第二試合。
鈴原るるVS矢車りねの試合を行います!」
鳴り響くその声が再び歓声を巻き起こす。
「矢車さん、こんるる〜。」
鈴原るるの
どれをとっても今から
いや、寧ろお互いに「人間」としての枠を超えた者同士であるからこそなのだろうか。
だが対照的に矢車は冷めたような、少し諦めたような表情で口を開く。
「ねぇ、るるちゃん。試合前に一つ、聞きたいことがあるんだ。」
眼鏡の向こう側にある矢車の瞳は至って真剣。
揺らぐことなど無く、目の前の鈴原るるをじっと見つめている。
「なんですか?矢車さん‼︎」
あいも変わらず笑みを絶やさず、矢車とは対照的に輝いた目で応じる鈴原。
この表情だけを何も知らない人が見たならばこれから殺し合いが始まるなどとは思わないだろう。
それ程までに穏やか。
そしてその異様な空気が生み出す狂気的な場。
「るるちゃんはさ、この戦いについてどう思う?」
淡々と告げる矢車。
先程同様一点の曇りもない瞳。
「え?戦いですか?」
その矢車の問いを聞いた瞬間、先程までの笑顔よりも更に明るい笑顔になる鈴原。
否…それは果たして笑顔と言えるような生易しいものだろうか…
目を見開き、口角が限界まで釣り上がったその表情を…
果たして笑顔と言えるのだろうか…
「楽しいです!凄く!」
当然だろう?と、矢車はそう問い返されているように感じた。
この戦いがまるで遊びであるかのように…
相手を殺すことが…
戦うことが楽しいと…
目の前の
無言で矢車は拳を握りしめる。
ギリギリと体が震え、
るほどに。
「分かったよ、るるちゃん。
じゃ…はじめよっか?」
握り締めた拳から血が滴る。
対峙する鈴原はそんな事気にも留めず、自身よりも大きな剣を片手で掲げ、再び矢車に笑いかける。
「はいっ!
じゃあ、行きますね!」
即決だった。
躊躇も容赦もありはしない。
戦いに向ける本能だけが彼女を動かしていた。
鏡の様な光沢を帯び、手で触れるだけで切れてしまいそうな刃が矢車の小さな体を貫こうと向かってくる。
その大きさに似合わなさ速さで、鈴原るるの体格からは想像もつかない速さで迫りくる。
「無駄だけどね。
どれだけ力があろうと、スピードがあろうと…」
矢車は迫り来る死を前にしてもその場から動かない。
「矢車さんッ!このまま終わっちゃいますよ‼︎」
その言葉と共に鈴原るるの刃は彼女の細身な体を貫いた…
はずだった…
だが刃の先には血の一滴すらもついてはいない。
「あれ?鈴原確かに当てたと思ったんですけどね〜。」
突き出された大剣の横に矢車がいた。
観客達にもざわめきは伝播し、やがてそれは大きなものになってゆく。
「だから言ったじゃん、無駄だって…
るるちゃんじゃ私には勝てないよ。」
眼鏡の奥の瞳には、その言葉に絶対の自信を持っていると言わんばかりの固い意志が見えた。
そして鈴原るるの右頬を襲うストレート。
破裂音の様な激しい音の
鈴原は目を見開き、少しフリーズしていた。
この状況に対して絶望している…?
違う。
では自らの攻撃が当たらない相手を前に恐怖している?
違う…
彼女は打ち震えていたのだ。
自らの「
急に顔を上げた彼女の表情は…
笑顔だった…
「面白い!どうやって避けてるのか!鈴原気になります!」
片手で軽々と大剣を掲げる。
そして眼前の遊び相手に向かって振り下ろす。
余計な工程も、テクニックも、小細工も彼女には必要ない。
一太刀一太刀が必殺なのだ。
だが…
「だから当たらないって。」
またも矢車は躱す。
そしてボクサーがカウンターを放つように彼女の拳が鈴原の腹をとらえる。
しかし、鈴原表情は…まだ笑顔だった…
この状況をまだ楽しんでいた。
それからと言うもの彼女はただ愚直に刃を振りつづけた。
ただひたすらに眼前の遊び相手に向かって…
「この子、いつまで続ける気なのかな。」
だがその攻撃は一向に当たる気配もなく、矢車が返しに放つ拳をくらい続けるばかりであった。
鈍い打撃音と空を切る音だけが響く。
鈴原は身体中に打撃を受けてもまだ振り続ける。
「ほんとにいつまで続けるの…もう殴る私の拳が痛いんだけど…」
矢車は自らに向かって振り下ろされる刃には目もくれず、赤くなった自分の拳を見下ろしていた。
「いつまで…ですか?
鈴原の攻撃が当たるまでです!」
狂気…
一言で表すならばこの二文字が相応しい。
そう観客達に言わせるだけの物がこの鈴原るるにはあった。
そして…彼女の執念が…
遂に矢車を捉えたのだ…
ビリっ…
今までは触れることすらできなかった矢車に鈴原の刃が届いたのだ。
衣服の端を落としただけであったが、それは彼女自身は勿論、会場をもおおいに湧かせたのだ。
そして矢車は知っている…その小さな一歩が…綻びが…
自分の死に繋がるのだと、直感で感じたのだ。
「なにっ?!」
一方攻撃の手を緩めた、鈴原は自身の手に握られている大剣を見つめ、呟いた…
「そっか…鈴原わかっちゃった。」
眼を限界まで見開き、口角を吊り上げる。
そして三度、大剣を振り上げる。
「ラグみたいな物だよね?矢車さんに攻撃が当たらない理由!
つまり調整すればいいんだよね!」
矢車りねの能力の正体…
それは自らの体の時間を操ること。
永遠を生きる彼女だからこそ、許された力。
彼女は空間を操っていたわけではない。
時を止めたわけでもない…
ただ自らの周辺にラグを発生させ、避けていただけなのだ。
実際のところ彼女の視点では鈴原の刃は全て自分の体の横を通って抜けていただけなのだ。
鈴原はその場に残った虚像を斬り続けていただけなのだ。
そしてその能力を鈴原は見抜いた。
見抜かれるはずのない…
否。
常人ならば見抜けるはずのない能力を。
常人なら…の話だ。
矢車りねは実感した。
自分の目の前にいる者がなんなのか…
自分が何を相手に戦っているのか…
「じゃあ、リトライしますね!」
にっこりと笑った鈴原るる。
繰り出される斬撃の雨。
しかしそれは先程までとは違う…
受けているからこそわかる。
先程までの斬撃は当てるための…
私の能力を暴く為の攻撃だったのだと…
だがこれは、当てるための斬撃ではない…
矢車を捉えるための斬撃ではない…
それは、れっきとした殺意の篭った…
殺すための斬撃だった…
それらは少しずつ、少しずつ矢車をえぐってゆく。
最初は衣服が切れる程度だった。
だが数十振りする内に皮を。
数百振りする間に肉を切るまでに至っていた。
「ほんとっ、どうなってんのこの子…」
矢車とて攻撃を見て突っ立っていたわけではない。
だが彼女がいくらカウンターを合わせても鈴原は止まらなかった。
倒れるどころか一度たりとも矢車から眼を離さなかった。
「フフフフフッ!楽しいね!矢車さん!」
満面の笑み。
「楽しくなんか、ないっ!」
矢車は突き出される刃に合わせ、カウンターを打ち放つ。
確実に入るカウンター…のはずであった…
相手が鈴原るるでなければ。
鈴原はカウンターを出したのを見たのち、驚異的反射神経で大剣を左手に持ち替え、斬りつける。
彼女の刃は矢車の腹を捕らえ、皮を裂き骨を断つ。
「みっつけた!」
鈴原の顔に矢車の血が降り注ぐ。
「うわぁぁぁぁあぁああぁあ!」
矢車の絶叫がこだまする。
表情を歪め、腹を押さえ、うずくまる。
彼女の腹部はまるでトマトのように真っ赤で、薄ピンクがかった服もまた真っ赤に染まっていた。。
止め処なく流れる血の温かさが矢車を包んでいく。
うずくまる矢車を見下ろして鈴原るるは語りかける。
「矢車さん、まだやれるよね?…ね?」
まだ足りない…
まだ戦い足りない…
もっと…もっと…もっと…
もっと
しかし、矢車からの返答はない。
その代わりに血が滴る音と呻き声だけが耳に届く。
「…ねぇ…まだ戦えるよね?」
そう言うと鈴原は矢車の右足に向かって剣を振り下ろした。
「クッ…」
すんでの所で避ける矢車。
その真横では大剣の刃が地面を
彼女の腹からは絶えず血液が流れ出す。
「まだ避けられるんですね!」
絶えず振り下ろされ続ける刃。
逃げ出したくなる程のパワー。
ラグをモノともしないスピード。
全てが規格外。
超越者とはこの女を表すための言葉なのだろうと、矢車は思いの外ピンチの自分が冷静な事に驚いた。
生に無頓着なようで執着している自分。
死際になってもまだ冷め切っている自分に嫌気が差した。
勝ち筋なんて想像できなかった。
目の前にいる化物を超える方法など、今の自分には持ち合わせていないと…
そう思った。
頭の中で、今迄の過去の自分達が、逃げろ…逃げろ…と騒いでいた。
矢車自身が逃げたかった…まだ死にたくないと。
そう心が叫んだ。
でも…
「ここで…私が逃げたら…
今迄生き続けてきた…私の運命に挑み続けて来た私を否定する事になる…
私は…そんな事はしたくない!」
矢車は立ち上がり拳を握り締める。
彼女は永遠を生きる者として、進み続ける。
鈴原るるは凝視する。
武器を構えるわけでも、逃げる姿勢を取るわけでもない。
目を見開き、目の前の敵が近づいてくるのをただじっと見つめていた。
気迫が…
彼女を高揚させる。
彼女の飢え、渇いた心を満たす。
矢車の一歩踏み出す足音が、彼女の血液を沸騰させる。
「今度はどんな事してくれるのかッ、鈴原楽しみ!」
純粋で子供のような笑顔だった。
流れ出す血は矢車の体を伝い、滴り落ちる。
「…楽しむ…ね…。」
矢車は拳を握り締め鈴原に向かって突き出す。
ラグを意図的に起こす力を用いた所でもう鈴原には意味がない。
一度経験し、そして攻略した能力は彼女に二度と通じない。
彼女はただまるで目の前にある食材に刃を通すかの様に大剣を振り下ろす。
鈴原るるは心の中でこの戦いが、強者との遊びが終わる事に対して落胆し、悲しんだ。
だが、その感情は一瞬の時を経て吹き飛ばされた。
「あれ?なんでだろう!」
半ば興奮気味に口を開く鈴原るる。
ラグを克服した鈴原るるの攻撃は…
矢車りねの体を裂くはずのその攻撃は、空を裂く。
そして彼女の眼前に迫る拳。
「喰らえ!鈴原ァ!」
矢車の拳が鈴原の頬にめり込み、彼女の首の向きを90度ほど回転させる。
鈴原は殴られた事による痛みよりも、なぜ攻撃が外れたのか…
その一点にのみを考え続けていた。
矢車は力を込め続けるが鈴原の顔がそれ以上角度を変える事はない。
腹部から全身に響き渡る激痛に耐え、奥歯を噛み締めながら遠のいていく意識を必死に繋ぎ止める。
鈴原るるは静止したまま、動かなかった。
矢車は拳を引き、再度打ち込む。
だが、動かない!
鈴原るるの首はまるでそこに釘で固定されているかのように横を向いた角度から動かない。
そして機械仕掛けの人形のようにゆっくりとゆっくりと、鈴原の首が矢車の拳を押し返しながら方向を元に戻す。
「鈴原、わかっちゃいました…」
目を見開き、目の前にいる小さな少女を見下げにこりと笑う。
矢車の顔から血の気が引き、後ろへと重心が自然に下がっていく。
恐怖…という単純な感情では表し難い。
底の見えない闇が彼女の足元を包んでいくような底知れぬ恐怖が彼女を包む。
「今度はラグをかけずに通常の時間軸で動いてるんですね!
そんなこともできちゃうんですね!
…
でも…もう全て見切って面白く無くなっちゃったし…
鈴原終わりにしますね!」
彼女はその光景を理解できなかった…いや、理解が追いつかなかったというべきだろうか。
彼女の目に映るのは宙に浮く自分の腕。
彼女の皮膚を伝うのは彼女の肩から流れ出る血の暖かさ。
声にもならない悲鳴が彼女の喉を駆け巡る。
矢車が地面を転げ回る。
血を撒き散らし、痛みに顔を悶えさせながら。
ようやく悲鳴が状況に追いついてきて、転げ回りながら泣き叫ぶ。
「痛い痛い痛い!イタイいたいいたいぃぃぃぃいぃぃいいいイィ」
眼鏡の奥の矢車の瞳は恐怖一色に染め上がる。
鈴原は目を見開き、刃から滴る血を見つめていた。
そのまま黙って刃を矢車に突き立てる。
白く薄い皮を裂き、肉を隔てる骨をバキバキと切断し、肉に刃が入っていく。
声をもう上げることも叶わず、ピクピクとただ痙攣する。
刃は地面まで達していて、外から見るとそれはまるで墓標のようだった。
まるで十字架に貼り付けにされているかのような風貌に場も思わず凍りつく。
動かなくなった矢車をつまらなさそうに見た矢車は、入場ゲートの方を見て…
「貴方はもっと楽しませてくれますよね?
エクス・アルビオさん。」
にこりと微笑んだ。
血のこべりついた顔で…
天使のような笑顔で…