低評価がついて泣き叫んだりなんやしましたがなんとか来れました。
皆様のおかげでございます。
途方もない戦いの末、くしくも激戦となったAブロック。
それもまた、次の戦いをもって終わりを告げようとしていた。
ある者は哀しみに包まれ、
楽な道のりでは決してなく、登りきった末に見る景色もまたあいも変わらない醜い景色だった。
だから彼は終わらせる。
この戦いを…
この世界を…
己が命を賭して…
彼は剣を振るい続ける。
エクス・アルビオ。
彼は鏡に映る自らの姿を嫌悪する。
この世界が、人間が、自らが醜いことを知っていた。
彼は鏡に拳を叩きつける。
崩れ落ちる鏡を見下げ、そっと呟くのだ。
「あぁ…この世界は…やはり無意味だ…
貴方もそう思いますよね…師匠…」
彼は天を仰ぐ。
その目にはもう
自らの手から流れ落ちる血の温かさすら、彼にはもう届かない…
これは…彼が辿る英雄の物語。
またある者は嬉々とし、骸を切り刻みながら登ってきた。
肉を裂き、骨を蹴り飛ばしながら、ただそれが当然であるかのように。
命を賭けた戦いがただのゲームであるかのように。
ただ無邪気に…
ただ自分の心に従って…
彼女は全てを飲み込んでいく。
貪欲に、強欲に。
海が砂浜に築かれた城を飲み込む様に…
「鈴原ワクワクしちゃいます!」
己が体より二倍の大きさはある剣を振り回し、万物を砕かんとするその
強き者との戦いに飢え、焦がれ続ける彼女は止まることを知らない。
敗北やなどと言う概念はその心の中に一片たりとも有らず。
戦いの中でのみ得る快感だけが彼女の求めるものなのだから…
既に一九試合を終え、Aブロックもとうとう終わりを迎えると言うのに、観客の熱は冷めることを知らないどころかどんどん熱くなっていく。
彼らの一挙手一投足が大きな波となってコロシアムを包んでいく。
MCはスゥっと息を呑み、口を開く。
「さぁ、皆々様お待たせいたしました。
ついにAブロックも終盤となって参りました。
強敵達をなぎ倒し、今宵この頂点まで登り詰めてきた二人をご紹介致しましょう!。」
暗闇の中から響く足音。
コツ…コツ…コツ…
その足音を聞いた者たちは皆戦慄する。
皆が
「こんるる〜。」
彼女の姿が見えただけでその場の空気が熱くなる。
彼女のその一言で血が
「完全無欠と思われた能力を有する矢車りねを下し、這い上がってきたこの蛮勇の名は!
鈴原るる!」
線の細い体に不釣り合いな大剣を有し、彼女は笑う。
鈴原は歩き出し、不気味な空の下に立つと、ただ一点を見つめていた。
彼女は今、この場にいる誰を見つめているわけでもない。
四方八方にいる観客などには目もくれない。
彼女の
その中で鉄の擦れる音と共に蠢きだす者を見つめている。
彼が日の当たる場所に出てくると、鈴原の表情がパッと輝く。
「わぁ!やっと出てきてくれた!
どんなに強いのか!鈴原楽しみ!」
彼女の目に映るのは漆黒の鎧を
彼から放たれる雰囲気に英雄としての気品は無く、禍々しいプレッシャーだけが周りの空気を重く、強く圧迫する。
その場にいた観客達は無意識のうちにこちらを見ないでくれ…そう心の中で願うほどの威圧感だった。
だがその中でにあるたった
言わばそのカリスマ性に何処か心惹かれる事実を否定する事は誰一人として出来なかった。
「楽しみ…ですか…」
ポツリと、ただその一言だけを発するエクスの目は酷く沈んでいる。
一歩一歩、固い地面を踏み締めながら鈴原へと近づいて行く。
鈴原には彼が自分の目の前にやってくることが、待ち遠しくて、嬉しくて堪らない。
「え?楽しみですよね?エクスさんも!」
エクスの一言が鈴原にはひどく理解できなかったようで、その意味を問い返す。まるで子供のように、純粋な曇りのない目で。
「………早く終わらせましょう。」
エクスはその問いに答えることなく、淡々と告げる。
鈴原は気分を害したような様子もなく、くるりと首を回してMCを見る。
「そうですね、じゃあ早く始めましょう!」
見られるだけで凍りつきそうな程冷め切った目のエクスと吸い込まれる様な目の鈴原。
この二人に見つめられた状態で、普段通りの動きができる一般人など存在しない。
そう思わせる程の眼力だった。
勿論例に漏れず、MCはまるでロボットの様な動きでマイクを握る。
「で…では!これよりAブロック決勝戦!鈴原るるVSエクス・アルビオの対戦を執り行います!」
その宣言がなされた次の瞬間。
その刹那の時の中で抜刀され、振り下ろされる
二人の刃がぶつかり合い、その衝撃は観客席にまで届いていた。
彼らの戦いは既に常人の理解できる域を脱していた。
「アハハハハッ!
やっぱり思った通り!貴方との闘いってすっごく楽しい!」
彼女はあいも変わらず笑っていた。
一切の屈託はなく、また淀みもない。
心の底から溢れ出る喜びを表した笑顔であった。
だがその笑顔とは裏腹に剣撃の激しさが増していく。
「…………」
エクスは返答すらしない。
表情は鈴原とは対照的に至って冷静で、沈んでいた。
ただ単純な作業をする様に鈴原の剣を受け流し、カウンターを放つ。
それが躱されようが、カウンターを返されようが、彼の表情が変わることはない。
「まだまだ!鈴原まだまだ止まりませんから!」
彼女の攻撃の激しさは増していく。
雨が降り注ぐように隙のない連撃がエクスを襲う。
「……甘いですよ…」
彼はボソリとそう呟くと、彼女の一太刀を剣で受けた。
この試合が始まって以来、彼らの剣筋が観客達にはっきりと見えたのは初めてだった。
そして次の瞬間、エクスはその拳を鈴原の腹部に向けて放つ。
英雄と呼ばれた男の拳は、女子大生の華奢な身体を優に壁まで吹き飛ばす。
「…………まだですね…」
試合始まって以来のまともな一撃。
だが彼は歓喜などしない…
それは彼にとっては既にそれは「無意味」な物なのだから…
ボロボロと崩れ落ちるレンガ造りの壁。ポッカリとその壁には穴が開いていた。
その空いた空洞の中に潜む獣に、観客達は息を呑む。
「こんなに吹っ飛ばされるとは思いませんでした!
でも!まだまだ戦います!
鈴原、頑張るる!」
空洞から出でます彼女の表情を皆が頭に焼き付けた。
彼女の顔に浮かぶ表情が酷く印象的だった。
死やエクスへの恐怖ではない…
吹き飛ばされたことへの怒りでもない…
彼女はまだ…笑顔だった。
先程よりも広角が上がり、目を見開いた笑顔。
目は輝きを帯びるほど歓喜に満ちている。
「今度は剣以外も使って戦いますね!
じゃあ!スタート!」
彼女は一言…
ただ一言エクスに告げて、穴蔵から飛び出した。
再び剣を交える二人。
鉄と鉄がぶつかり合い、火花を散らす。
まるで演劇の大立ち回りの様に、二人は会場全土を戦場とし駆け回る。
「もっと!もっと!鈴原はもっと楽しみたいッ!!」
鈴原の心の底からの叫びだった。
戸惑いがない…
躊躇が無い…
だから彼女は強い。
純粋な身体能力もさることながら、彼女が恐れられる理由はそこにある…
戦局は変わらず鈴原有利。
二人は共に今大会きってのパワープレイヤー。
二人の攻防はより早く、激しくなっていく。
まるでピアノの旋律を奏でるかの様な激しい剣撃がエクスを襲う。
更にはそこに拳や蹴りが織り交ぜられ、より早く、より濃い連撃となっているのだ。
「…速い…パワーもある…分が悪いな…」
呟くエクスは、視線を再び鈴原を捕らえるため彼女へと向ける。
そしてそこにあったのは振り下ろされんとする鈴原の刃。
「……不味い…」
剣を横にし受けの姿勢をとる。
バチリと火花が散り、剣越しに鈴原とエクスの目が合った。
「凄い!今のもガードできちゃうんですね!?!
じゃあもっといきます!」
勿論一発では終わらない。
鈴原の攻撃は二発、三発…と数えるのも嫌になるほどの手数とエクスをねじ伏せる程のパワーを備えていた。
ジリジリとエクスが後退していく。
「よいしょっと!」
鈴原はガードするエクスに対して己の剣を叩きつけ続ける。
エクスは徐々に腰が低くなり、押されていく。
そしてそこを目掛けて、彼女は蹴りをエクスの剣に向けて放つ。
「そこッ!」
「グッ…」
剣で受けたとは言え、鈴原の蹴りは凄まじく、エクスは剣とともに壁まで吹き飛んだ。
土埃が立ち込め、辺り一帯を包む。
「まだ死んで無いよね?ね?
まだ鈴原殺りたりないから!」
鈴原は土埃に向かって語りかけるが、返事が帰ってくるどころか、蠢く人影すら見ることはできなかった。
武器を構えることもなく無防備に彼女は近づいていく。
「ホントォに終わらないですよね?」
彼女は少し残念そうな、儚げな表情を浮かべていた。
「…安心して下さい……」
その言葉と共にゆらりと土埃の中で影が蠢く。
「やっぱりッ!まだ行けッ…」
と同時に彼女の左腕は宙を舞っていた。
自らの肩から先が消え、血が滝の様に溢れ出る様を見つめる鈴原。
自分の左腕だった肉塊を抱えたその表情は…
……
………笑顔だった…
土埃の中から放たれた鋭く正確な斬撃は、鈴原の左肩から先を斬り落とす。
土埃が晴れ、エクスの視界に映るのは血と肉塊を持った鈴原るるだった。
「凄い!凄い!
私左腕飛ばされちゃってます!」
興奮気味に語る鈴原るる。
「片腕が無いってこんな感じなんですね!
でも!鈴原まだまだがんばるる!!」
鈴原は右腕だけでガッツポーズをしたのち、エクスを一瞥する。
「凄いですね!貴方!
お名前を聞いてもいいですか?!」
佇むエクスもまたその沈んだ目で鈴原を見つめていた。
「………
今ので仕留めるつもりだったんですけどね…」
ポツリと呟くエクスの頭から血が一筋流れ落ちた。
彼女は自分の左肩に肉塊をグリグリと押し付けていた。
「くっつかないかな?
じゃあいいや!」
肉と肉が擦れ合い、傷を広げていく…
血が泉の様に溢れ出し、辺りを染める…
彼女はそれが自分に結合しないのだと悟ると、それを投げ捨てた…
「お名前は秘密みたいですね。
でも代わりに質問させてくださいね?
なんで本気を出してくれないんですか?」
この問いは鈴原にとっては当然の疑問であった。
特に根拠があった訳ではない。
だだ、自分をここまで楽しませる相手がこの程度のはずが無いと…
最も自分を楽しませてくれるはずだと…
そう本能的に感じていた。
「もっと戦えますよね?もっと強いですよね?ね?
鈴原は全力の貴方と戦いたいんです!」
子供の様に懇願する様に尋ねる鈴原。
目の前の
そう心の底から願っている。
「……
どうでもいいんですよ…
何もかも…
この勝負などどうでもいい…
なんの意味もない…」
エクスに取って勝ち負けなどもうどうでも良かった…
彼にとってこの戦いに勝とうが、負けようがもう彼は生きる意味を見いだすことはない…
「生きる意味さえ無いんだから…
全て無意味なんですよ…
貴方もそう思いますよね…?
鈴原るるさん…」
彼にとって剣の重みも…
積み上げてきた物も…
どうでも良かった…
自分の中で…
自分以外の誰かが語りかけてくる…
だけどそれは直ぐにかき消されて、エクスの耳には届かない…
目を瞑れば、暗い影が彼を包む…
恨み…憎み…そんな感情が彼を包んでいく…
鈴原はその問いかけに対し、剣を天にかざしながら返す。
その顔は笑顔のまま…
晴天の夏空のように晴れやかな笑顔だった。
「いいえ!鈴原は無意味だなんて思いません!
私は今日を謳歌してます!
だって!こんなにも強い貴方や、他の強い人達とも戦えるでしょう!
ワクワクします!
皆さん明日を得る為に必死に今を生きてます!
立ち向かってきてくれます!
だから…」
大剣を振り下ろし、エクスへと向ける。
「私はその全てに勝利したい!
私が勝利するまで私は何度でも立ち上がります!
何度でも何度でもです!
誰かが立ち上がるなら私も立ち上がります!
私が勝つか、相手が死ぬか!
勝負が決まるまで終わらないし、終わらせません!
それが…私の…
鈴原るるの、生きる意味ですから!」
にこやかな笑顔を向ける鈴原。
「…………やはり…無意味だ……」
ヨロヨロと、無気力に立ち上がるエクス…
「ねぇ!だからもっと戦いましょう!楽しみましょう!」
鈴原に対して仕掛けるが、その太刀筋には先程までのような箔はなく、鋭さもない。
消極的な太刀筋だった。
そんな剣が彼女に通じるはずもなく、ことごとく防がれ、おまけに蹴りのカウンターを貰ったエクスは吹っ飛び、地面に伏した。
明るかった鈴原の表情がどんどん沈んでいく…
「なぁんだ…面白くないですね。
鈴原はもっと楽しめると思ってました。」
鈴原は地面に倒れたままの英雄を見下ろし、歩み寄る。
「残念です。
もう終わりにしましょう。」
そう言うと鈴原は大剣を振り上げた。
その時!
空から降り注ぐ
叶を倒した後…
僕は空っぽになった…
唯一と言っていい僕の生きる上での意味は消滅した…
目を閉じれば、僕は真っ暗な場所にいる…
前も後ろも分からない空間でたった一人佇んでいた…
ふと聞こえてくるのは、
お前が殺した…
お前のせいで…
エクス…お前が居なければ…
そんな声が僕を包んでいた…
恨みや…憎しみ…そんな感情が僕を侵食してくる…
この苦痛から逃れたかった…
地面に伏している今…
この苦痛から解放されると…
ただそう思った…
その時…怨嗟の嵐の中で僕の肩に誰かが手をかけた。
その人は僕の隣に来て…
語りかけてくれた…
「エビ先輩。
なんでこんな所にいるの?」
そこにいたのは…
見慣れたフードとシルエット…
きめ細やかな白髪…
「…え…師匠…」
僕は目を背けたかった…
僕を一番恨んでいるのは紛れもなく師匠だと思った…
僕愚かな行動で師匠を死なせてしまったから…
だが目を背けることができなかった…
僕の視線は師匠に釘付けにされた。
「エビ先輩、君はさ、まだやることあるでしょ?
こんな所に居ていいわけ?」
諭すような口調に懐かしさを覚え、自然と涙が流れそうになる…
「し…師匠…
僕のこと…恨んでますよね…
怒ってますよね…」
声が震えた…
怖かった…
師匠に恨んでいると言わらたら…僕はどうすればいいのだろう…
怖かった…
でも聞かずには居られなかった…
もしも…僕が…
もしも許されるなら…
この人と…また…
もう一度…歩きたいと思ってしまった…
「僕が?君を恨んでるって?
そんなわけないだろ…」
呆れたと言わんばかりの口調だった…
「僕はそんな事を君に託したわけじゃないよ…」
エクスの頬を涙が伝った…
子供の様に泣きじゃくった…
「う…うぅ……師匠…」
英雄のこんな姿…師匠にしか見せられない…
僕は…ただ許して欲しかったんだ…
「僕に君が必要な様にさ。
今も、明日も英雄 エクス・アルビオを必要としている人はいるんだよ、エビ先輩!」
気づけば僕の周りの怨嗟の声は消えていた…
師匠は僕の背中に手をやると…
「行ってこい!僕の英雄!あとは任せた!」
僕の背中を押した…
その先にあるのは、真っ暗の闇の中で、光差す出口だった…
僕は後ろを一瞥する。
「行ってきます…師匠…」
気づけば僕はまたコロシアムにいた…
全身が痛い…
骨は軋むし、鎧だってボロボロだ…
だけど…自然と力が湧いてきた…
雷が僕を包んで…僕に力をくれた…
もう一撃…放つための力をくれた…
「ありがとうございます…師匠…」
もう迷いはない…
誰かが僕に助けを求めてくれるなら…
それが僕の…英雄エクス・アルビオの生きる意味なのだから…
鈴原るるはじっとエクスを見ていた…
彼女は光り輝く英雄を前にし、歓喜する。
「鈴原さん…貴方が勝ち上がれば大会出場者全員を皆殺しにするでしょう…
そして恐らくはやがて世界を破壊する…
違いますか?」
金色の雷光を帯びたエクスは鈴原に一歩一歩確実に歩みよる。
その問いかけに…
その溢れでる強さに対する喜びを欠かせないまま鈴原は答えた。
「はい!勿論です!
私は全てに勝利したい!
いずれは世界にも勝利します!」
鈴原もまたエクスへと近寄っていく。
「そうですか…
そう言えば名前…知りたいんでしたよね?…
今更で悪いですが、名乗らせてもらいましょう!
僕の名はエクス・アルビオ!
英雄の名を冠する者!
そして英雄 エクス・アルビオの名の下に!
今を…明日を生きる者の一人のとして!
鈴原るる…お前に勝つ!」
その宣言を聞き届け、鈴原るるは感激する。
彼女の生涯で今まで彼女を昂らせたのはただの一人もいなかった…
彼を除いて…
「はじめまして!エクス・アルビオさん!
私は全てに勝利する者として!
ここで貴方を倒します!
何度負けても立ち上がり、必ず貴方に勝利しましょう!」
二人が地面を蹴り、飛び出す。
「行くぞ!鈴原るる!」
「行きます!エクス・アルビオさん!」
金色の雷を帯びた剣と禍々しいオーラを帯びた剣がぶつかり合い、コロシアムを消し飛ばしかねない程の衝撃を生んだ。
爆発音と共に土埃が舞い、辺りを包んだ。
MCは咄嗟にマイクを持ち、砂埃が晴れるのをじっと待つ。
この場にいる誰もが息を飲み…その結末を見届けようとした…
土埃の中に一人分の影が蠢いた。
土埃が晴れると壁にめり込んだエクスがおり、立っているのは…
鈴原るるだった…
「やった!鈴原勝ちました!」
鈴原はエクスに近寄っていき、微笑む。
「最高に楽しかったです。
ありがとうございました!エクス・アルビオさん!」
そう言って彼女は闇の中へ消えていった…
「激戦を制し、Aブロック勝者となったのは!
鈴原るる!
鈴原るる選手は決勝トーナメントへと進んで頂きます!」