今回も読んでいただいてありがとうございます。
トントントントンッ…
カリカリカリカリゴリッ…
奇妙な音が響く…
トントン…
カリカリガリガリゴリッガリカリカリ…
…
……
………
…………
一旦静まったかと思うと…
またカリカリガリカリカリガリかりッ
トントントントン…
童田は椅子から下ろした足で力強く何度も何度も床を踏みつける。
「あはは、そっか童田の対戦相手って叶ちゃんか〜。
そっか〜。」
控室にて一人で、ぶつぶつと呟く童田明治。
「ふふふふ…あははははッ…。」
歯茎を剥き出しにし、目を見開き、ストレスによって爪を噛み、高笑いをする。
小学5年生11歳のこの狂気的な場面に遭遇したものは幸いにもいなかった。
「ズタズタに引き裂いてやる…」
その呟きを最後に童田は控室を後にした。
一方叶
「童田先生怒ってるんでしょうね。
次は何を使おうか…」
叶は控室に置かれた大量の私物を前に首を傾げる。
「狼…猛獣…狩…
ふふッ、決まりだ!」
そう言って叶は武器を手に取り戦場に向かった。
「では、これよりAブロック準々決勝第九試合の選手入場です!」
MCの高らかな宣言に観客達は沸き、震えた。
「先ずはこの男。
先程のにて御伽原をいとも容易く下した、冷酷で確実な一撃!
にじさんじゲーマーズの一番槍。ライトニングゲイボルクこと、叶」
紹介と共に足を踏み入れた叶。
その手に持たれているのはウィンチェスターモデル1897。
アメリカ産ポンプアクション式ショットガンである。
12ゲージの散弾を5発撃つ事ができる。
獣狩り、所謂ハンティングに適した得物である。
「続いては彼女。
天真爛漫な可愛さと獣の凶暴さをその身に秘める少女!
童田明治!」
赤い衣を身に纏った少女が現れる。
「ねぇ…叶ちゃん…」
「なに?童田先生?」
震えた声を発する童田に対していつも通り…いやむしろいつもよりテンションが高い声で答える叶。
「江良ちゃんを殺した時…どんな気持ちだった…?
…ねぇ…答えてよ…叶ちゃん…」
控室で見せた表情と同じ、獣の如き凶暴性を剥き出しにして質問する童田。
「え?気持ち?仕方なくない?まぁ、楽しかったけど。」
叶は率直に、簡潔に、感想を言ってのけた。
「そっか…じゃあ、江良ちゃんを殺した叶ちゃんをめいががぶがぶしても…仕方ないよね…?」
牙を剥き出しにし、目の前の獲物をただ殺す事だけを生きる糧とする獣。それこそが今の童田明治。
「なんだ、まるっきり獣だね。狩がいがありそうだ。」
そう言ってショットガンのポンプアクションを完了させる叶。
「そ、それでは!Aブロック第九試合スタート!」
合図と共に童田は正面の叶に向かってダッシュする。
その鋭い爪が叶に向かって行く。
ドンっ!
叶の発泡に対して右にステップで避ける童田。
「へぇ、避けるんだ。野生の感ってやつなのかな?」
呟きながらポンプアクションを終える叶。
「殺す…江良ちゃんの仇…ぜったいとるから…」
童田はコロシアム内を縦横無尽に駆け回る。
叶はその姿を平原を駆ける狼に重ねた。
「早い…
けど、追えないほどじゃないな。」
童田は壁を蹴り、その反動を使って叶との距離を詰める。
ドンっ!
「うっ…」
叶の放った散弾の内いくつかが少女の脇腹を抉った。
「に…二発目…」
赤い布で出来ている童田の衣装の脇腹あたりがドス黒く染まる。
「すごいな、空中で身を捩って避けるなんて、人間業じゃない。」
驚いた口調の叶だがその表情は冷酷、ただ出来るだけ最低限の消耗でどうやって童田を倒すか…いや狩るかをひたすらに考えているのだ。
カシャっ。小気味良いポンプアクションの音と共にショットガンシェルが落ちる。
「殺す…殺す…殺すっ!殺す殺す殺す殺す殺す殺す!
絶対に許さない…」
その一瞬、叶は見た。
MCや、観客、そして童田自身も気づかなかっただろう…
だが、目の前の獣を冷静に、冷酷に観察する叶は気づいた。
一瞬、ほんの一瞬の事だったが、童田明治の目の虹彩が真っ赤に染まった事に。
(なんか…言葉に表せないけど不味そうだな…)
このデスゲームが始まって以来、どんなに仲間たちがえげつない死を迎えようとも、自分の手が血に染まろうとも、恐怖というものを覚えなかった叶の背筋に悪寒が走った。
再び駆け出す童田。
振りかぶられた右腕。
きらりと光る鋭い爪。
「叶ぇ!!死ねぇ。」
攻撃のキレもスピードも先ほどまでとは違い、格段に早い。
(早い…だけど愚直だな…)
正面から挑んでと叶に勝てるはずがない。
にじさんじゲーマーズの中でもトップクラスのエイムを持つ叶には。
だからこそ、童田明治は走り出したのだ。
叶のウィンチェスターの銃口が光を放ったときだった。
童田はまるでそれが打ち合わせで分かっていたかのように、まるでその位置に散弾が飛んでくるのが決定事項だったかのように…
腕を地面に叩きつけ、その反動で飛んだ。
「しまっ…」
その姿に誰もが今はもう絶滅した日本狼の姿を重ねた。
見たこともないのにも関わらず、誰もが本能で理解した、これこそが野生の狩人の姿なのだと…
童田は本命の牙を叶に向け、仕留めにかかる。
ゴリッ。
…
……
童田のその鋭い牙での一撃が捕らえたのは…
ウィンチェスターのストックだった…
叶は咄嗟に自らの体の前にストックを出し、盾にしたのだ。
「!!!!!」
童田がしゃべらずとも驚愕している次の瞬間、彼女の腹に衝撃が走る。
ストックを噛んでいる童田の腹に対して叶が蹴りを入れたのだ。
童田の小さな体は吹き飛んだ…
「いったぁ…痛い…痛い…」
童田は苦痛に悶え、腹を抑える。
よりによって蹴られたのは先程散弾で被弾した所だったのだ。
偶然?いや、必然である。
叶は冷静で、冷酷で、策略家である。
先ほどの蹴りも勿論わざとなのだ。
「の…残り…二発…」
腹を押さえ、悶えながらも呟く童田。
カシャっ。
ポンプアクションを終えた叶は童田を見据える。
この盤面でも距離を詰めることはしない、それが彼なのだ。
「確実な勝利のために無駄なリスクは侵さない。
一番危険なのは慢心だからね。」
そう語る叶を他所によろよろの立ち上がる少女。
フードは脱げ、耳が露わになり、腹からは血を流す。
その虹彩は真っ赤に染まり、血を求め、生物としても欲求、憎しみの対象の死だけを求める。
「ハハッ、いいね。そうだな。
ぴったりの名前だよ。」
豹変した童田を前にしてなお、余裕を見せる叶。
その表情は嬉々としていて、まるで強い獲物を望んでいたかのよう。
牙もより一層長くなっている。
人間から獣へ。
いや…
人間の生存反応が爆発した原始の姿とでも言えようか。
「殺すっ!」
「望む所だ。」
獣と狩人の間に言葉はいらない。
お互いがお互いの命を奪おうとする以上、言葉を交わす必要などない。
この関係は、一方がもう一方の命を喰らうことで初めて完結するのだから。
童田は先程のように駆け回るのではなく、より一層増した俊敏性でサイドにステップを交えながら距離を詰めて行く。
叶は待つ。
絶対に動かない、出来る限り絞り確実に、かつ消耗なしに仕留める。
それこそが彼の目的なのだ。
二人の距離が5メートル程になった時だろうか。
先に動いたのは…
叶だった。
一発を左へ。
続いて素早いポンプアクションで装填し、二発目を右へ。
ものの5秒の間にだ。
その弾丸は童田に…
届かなかった…
野生の感だろうか…童田明治は瞬時に悟り、ステップをやめ、直進したのだ。
「0発!もう弾は残ってない!」
童田明治がその時視線に捕らえたのは…
そう、視線の先に居たのはハンドガン デザートイーグルを構えた叶だった。
「うおぉぉ!叶ぇぇえぇえ!
江良ちゃんのかたきぃぃぃい!」
鬼気迫るその叫び。
会場全体にその叫びはこだまする。
パンっ…
50口径が少女の心臓を撃ち抜いた…
多量の出血、その上で激しく動いたのだ。もう意識などとうに飛びかけている。
彼女の体を…折れかけた心を繋ぎ止め、突き動かしていたのは友への思いだけ。
だが、それも限界だった…
少女は…膝から倒れ…
「ない…ま…だ…倒れない!」
「なにっ?!なんでまだ動かんの。」
最後の力を振り絞って少女は牙にかけた。
グチャッ…バギィっ!
「うああぁあ…クソっ!」
叶の肩から先は…無くなっていた。
異常なほどの出血、痛み…
「くそっ…仕留める…」
デザートイーグルを手に振り向いた叶の先で童田明治は…
力尽きていた…
「めい…すごい…口の中…血塗れなんだけど…
え…らちゃん…こんな…く…ちじゃ、お歌…歌え…な…いよね…
めい…お歌得意なのに…ね…ぅぅ…」
「怖い…死ぬの怖いよ…で…も…また…あっちで会え…たら一緒にお歌…う…たお…うねっ…え…ら…ちゃん…がぶ…が…ぶ〜」
少女の体が冷たく、硬くなってゆく…
涙で濡れた顔も…血濡れた口内、血塗れの腹。
対して叶の失ったものも小さくはないだろう…
「片腕かぁ…この先…大丈夫かな…」
痛みに顔を歪めながらも何故か、ワクワクしたようなそんな表情である。
叶は再び闇の中へ消えていった…
「それでは…Aブロック第九試合!勝者!叶!」
うーん…もうちょっと童田さん活躍させてあげたかったな…