WTクランによる帝国を勝利に導く物語~核抑止とは?~(本編完結)   作:紅茶

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 該当場所を編集し用途考えましたが、めんどくさくなったので話に影響しない程度に丸ごと削除しました。


御前会議

1923年12月某日

 

「申し訳ないが君に転属の書類が来ている。」

 

 そんな事を言われたのは帝国に冬が訪れ、少々寒くなってきた時期だった。まぁ北方の2月よりかは暖かいそんな日に、よりによって最悪な連絡が来てしまった。戦技教導団長室に呼ばれ何かと思い来たわけなのだが…

 

「は…?」

 

「申し訳ない…君は陸軍の所属のままで在るので、陸軍の命令を近衛である私がはねのけることはできない。君の転属場所はラインラントだそうだ」

 

 成程…神とやらはろくな存在ではないという事は確かな様だ。ラインラントといえばフランソワ共和国と帝国が現在にらみ合っている状態で、そんないつ戦争が起きてもおかしくはない状態である。そんなところに転属されるという事か…戦技教導団で良くも悪くも私の名前とも広まり、私を戦場になるであろう場所に移動させ、味方の士気を向上させようという魂胆なのだろうな。

 

「ああ、そうだ。貴官の銃だが…」

 

ああ、戦技教導団では通常のG3を使うようになっていて、MP5KA6やG3KA4などは一時使わない状態になっていた。そうなっていたのでせっかく転生者という縁でレナ空軍大佐が私向けにカスタムをいろいろ施してくれるらしい。

 

「レナ空軍大佐の所に行って取りに来てほしいとの本人からの言伝だった。できれば早めに来てほしいとのことだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦技教導団の駐屯地の門を出てレナ空軍大佐が普段つとめている空軍設計局に足を向ける。足で歩くと優に15分以上かかるが、まぁいいだろう。全く、この帝国の冬は暗く挙句の果てに寒い。寒さはさすがに2月のノルデンよりかはましだが、マイナスとゼロを比べられても困るだけだが。まぁこの時期は景気如何にも関わらず街中はどんよりとしてこちらまで鬱になりそうだ。

 帝国は自殺率はほぼ無いにも等しい状態であるが、この時期だけは自殺率が少々上がり、犯罪も増えてくる。日本で言う5月病とかそんな感じだな。

 騒がしい市場を尻目に市場出口を通り過ぎ、帝国の中枢部が集中してある場所に向かいあるいて行く。日本で言う霞が関とかそこらへんが該当するだろう。しばらく街を歩きよさげな珈琲店を見つけた。今度機会があればいって見ようか。

 

 さて、空軍の技術設計局が見えてきた。空軍技術設計局は海軍の技術本部、陸軍の技術廠と近い場所に存在している。

 

 

 

「レナ・ワイス大佐に用があるのですが…」

 

「少し待っていてください」

 

 とりあえず事務にいろいろ手続きをして内線をかけてもらう。

 

「すぐに来るそうです。」

 

 しばらく待っているとレナ大佐が階段を降りてきた。

 

「やぁ、しばらくですね。ターニャ少尉。小銃の件ですよね?」

 

「はい、そうです。」

 

「では、着いて来て下さい。」

 

 レナ大佐によると一回外にでて裏に周り試作した品を置いたり実験をしたりする比較的巨大な施設に向かうのだそうだ。

 

 その施設の出入り口にはG3を装備した空軍の警備兵がいた。

 

「お疲れ様です、レナ大佐。念の為にカードを。」

 

 レナ大佐は首に紐でかけられているカードを警備兵に見せた。

 

「ご協力ありがとうございました。それで・・・あの、それでこの娘は噂の?」

 

「そうだね。噂のエース『白銀』だよ。流石の私も白銀に頼まれて銃のカスタマイズを御願いされたら断れないよ。」

 

「そうですか。では、どうぞ中へ。」

 

 私は警備兵に少し会釈をして中を進むレナ大佐へ着いていく。

 

 中には試作と思わしき機体が置いてあった。一番最初に目についたのは我が帝国主力戦闘機Ta152の試作型と思われる物だ。

 

「・・・ターニャ中尉。これらが気になるのかい?せっかくの機会だから私が説明するよ。何せこれらにある物は殆ど全てが私が設計したものだからね。」

 

・・・流石はあの帝国主力戦闘機Ta152を一年で設計したと言われる人物。ここにある物の殆どこの人が設計したとは。さぞ優秀な技術者なのだろうな。

 

「これはTa152の最初期型のTa152-A1の試作型だね。懐かしいな・・・これは私が15歳の頃に設計した物でね・・・今の皇帝陛下にG3開発と平行して開発された物で、あの頃は大変だったなぁ・・・」

 

 隣には見るとTa152に装備されている12.7mm航空機関銃が置いてあった。これは連射速度や貫徹能力がバランスが良く、陸軍にも採用された傑作機関銃である。陸軍では戦車の上に付いている対空機銃や歩兵戦闘車や騎兵戦闘車の主要武器にもなっている。

 

 ちなみに歩兵先頭車や騎兵戦闘車はシリーズがあり、12.7mm機関銃を4連にした対空、対歩兵装備と88mmFlak19高射砲(いわゆるアハトアハト)を対戦車砲に転用した物を搭載した対戦車自走砲タイプ、75mm戦車砲を搭載した機動砲タイプ、155mmりゅうだん砲を装備した自走榴弾砲タイプがある。

 

 私は軍事オタクであったため少々魅入っていたが、そろそろ見るのを止めて奥に進む。レナ大佐は黙って私の後ろを付いて来る。

 

 暫くちらちらとみているとこの年では存在が有り得なさそうな物が置いてあった。

 

「これは・・・ジェットエンジン!?」

 

「これですか。これは私が一番最初に設計したターボファンエンジンです。バイパス比0.5の低バイパス比エンジンで戦闘機に載せることを想定したものです。推力は2.2kN。モデルはあのMe262が使用したユモ ju004ですがこれは如何せん推力が低いので没にしました。それでこいつを作って得た技術を元に、試作に試作を重ねて10年かけて作った拡大版のターボファンエンジンが、あれ。」

 

 指を指した先にあるのは、自分が目の前にあるエンジンよりも一回り大きく、全長はその2倍以上は有りそうな代物だった。

 

「重量はそいつの4倍、全長は2.5倍、直径は1.25倍になったけれども推力は31kNと10倍以上向上しました。バイパス比は0.9で、バイパス比が高くなった事で推力当たりの燃費も向上したんです。」

 

 

…帝国の航空機産業はいささか進み過ぎじゃないか?周辺の国家は帝国の優秀な産業のおかげでいくらか発展しているとはいえ、2000馬力級のエンジンを作ろうと四苦八苦している最中であるのにターボジェットを飛び越えてターボファンエンジンを開発し実用化するとはな。

 

「史実のナチスだとあのちょび髭野郎がMe262の開発を遅らせた原因でしたが、帝国のトップが現皇帝陛下で助かりました。少々わがままなところはありますが、自由に開発させてくれるので助かってます。

 話を元に戻しますと、そのエンジンを搭載するのがあの機体です。単発複座の艦載機で、速度を出すために後退角を付けながらも高速運動性をよくするために中翼配置のクリップドデルタ翼を採用しました。こいつは艦載機運用を想定されていまして、海軍と共同で開発したものです。

 ですが思ったよりいい感じに仕上がったので空軍でも制空戦闘機として採用する方針だそうです。」

 

 ほうほう・・・よく分からん。凄いと言うのは分かったのだが、如何せん航空力学には疎い。前世の時に少しでも習得すれば良かったかもしれない。

 

 

「さて、説明も終えましたのでそろそろ銃の方をそろそろお渡ししましょうかね。」

 

 そういってレナ空軍大佐は奥の部屋に行ってわたしのガンケースを持って来た。ロックを開けて蓋をこちらに見せるように開ける。

 

「これですね。」

 

 中には純白のG3KA4カービンと、同じく純白になっているMP5KA6が入っていた。G3KA4の方が激しく様変わりしていたがMP5KA6はそこまで変わっている印象はなかった。

 

「G3KA4カービンはハンドガード周りを大きく変更しました。ハンドガードには上部を除いた3面20mmアタッチメントレールのアルミ合金ハンドガードを使用、下部20mmレールにバーティカルグリップを付けました。

 

 また、バレルをポリゴナルライフリングと言われる断面が多角形になるバレルに変更して耐久性を強化しました。」

 

「MP5KA6は同じ様にポリゴナルライフリングにバレルを換装し、小さいストックにアングルフォアグリップを付けました。一応銃の反動に耐えるように作成しました。」

 

 なる程、AK47の近代化改修のような内容になっている気がする。

 

「自由に構えてみても良いですよ」

 

 ふむ・・・なぜか純白になったG3KA4カスタムを手にとって構えてみる。確かにグリップが付加された事で握りやすくなり、少々構えている分には疲れない代物となっていた。MP5KA6も同様な物となっていた。

 全体的に少々重くなっているが誤差の範囲内だ。

 

「前に比べて圧倒的に構えやすいなこれは。

 流石はG3とMP5の産みの親と言った所か。」

 

 

「其処まで難しいカスタマイズはしてないのですが・・・有り難く受け取っておきましょうか。

 

 実はスコープなどもあるのですが、場所によって変える必要があると考えたので既にラインの駐屯地にターニャ少尉宛てに送っておきました。

 

 内容は2倍、2.5倍、3倍光学スコープ各種と対空サイトもおまけで付けておきました。ホロサイトも用意したかったのですが、今の帝国の技術力では無理なので見送りましたが。

 

 サイトの取り付けはレールの取り扱い説明書に書いてあります。良く読んで取り付けて下さいね?」

 

 その旨を彼女に了承し、帝国空軍設計局を辞した。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

帝都ベルリン中央駅

 

8月下旬某日

 

 

 

 

「現在動員令に伴い臨時ダイヤでの運転となり…」

 

「第八方面軍行き列車が到着しますので…」

 

「第104師団はどれに乗ればいいんだ?」

 

 

 

今日の中央駅はいつにも増して人が多い。

 

それもそのはず。

 

 

 

帝国内の鉄道は現在、兵員輸送のための特別ダイヤが敷かれている。

 

対協商連合ではない。対共和国戦の準備のためだ。

 

 

 

12月中旬、遅すぎる気もする動員令が共和国にて布告された。

 

 これに対抗するためにも帝国も動員を開始した。

 対共和国国境へ戦車やそれに付随する後方部隊を含めた機甲師団5個師団、騎兵戦闘車を中核とする騎兵隊5個師団、歩兵やその人数分の歩兵戦闘車を装備した機動歩兵5個師団、塹壕戦を行う通常歩兵が10個師団が配置されることとなった。

 

 総兵力20万近くに及ぶ大規模動員であり、それを輸送する鉄道は師団配置のための装置として全力稼働し始めた。

 また、帝国には世界でも3本の実力がある優秀の空輸能力を保有している空軍も存在する。

 

 

 

 

 戦争装置として高い完成度を持つ帝国は、共和国よりも早く動員を完了できる。

 先に動員令を布告した共和国側が侵攻する前により多くの兵力を国境に配置できると思われる。

 

 時間的余裕があるので塹壕を掘る時間すらある。 

 

 この時点で普通なら共和国の敗北は確定したようなものだが、共和国がそれを理解するかどうかは不明だ。

 

 何故ならこちらの世界で普仏戦争に相当する戦争が発生しておらず、

 

 よって鉄道輸送が原因の敗北は発生していないし、機動戦計画を無理に遂行する可能性もあるが、何にせよ十分な塹壕網を作ることのできる帝国に負ける可能性はほぼ無い。

 

 

 

 つまるところ、開戦前から共和国は勝利できないことが半ば決まっている。

 

 極東で起こった戦争の見学に行ったくせに新しい戦い方を学ばなかった愚かな国として。

 因みに帝国はちゃんと反映されているため塹壕戦での防御時の消耗抑制に関しては時代を考えると完璧に近い。

 

 ただ、帝国は塹壕戦をあまり重視していない。およそ20年前より塹壕戦になることを予想し、その対策としての突破戦術である電撃戦を考案した人物がいる。それが、近衛第二師団の師団長殿であるカリン少将である。

 塹壕戦を極力せずに防衛拠点を築く。それは最低でも天蓋つきの距離の短い塹壕でも、帝国陸軍の手にかかれば堅い防御陣地と化す。効果的に防衛用機関銃を配置し、120mm迫撃砲を固定配置。塹壕の後方より戦場の女神である流弾砲陣地がセットで漏れなく付いて来る。

 更に要請をすれば空軍の近接航空支援が最低でも5分以下で飛んでくる。

 

 もしその防御陣地が破れて敵の手に落ちたら?そこもカリン少将は触れていた。

 

 予め爆薬をセットしておき、敵が多く守りきれなかった場合に歩兵戦闘車などで迅速に撤退し、その後に敵が防御陣地を占領し悠々自適になっているところを爆破する。

 

 ・・・何だろうか、この戦術は冬戦争でフィンランドが取った戦術に似ている気がするのだが?

 

 

 まぁ良い。現実に視点を戻すと、本当に人が多い。新宿駅ではないよなここ?どちらかと言えば帰省ラッシュ時の上海駅のほうが近いかもしれない。

 そう言えば週末の新宿のトイレは結構汚かった印象しか無いな。

 

 …さて、それで私はどれに乗ればよいのやら。

 

移動許可証を再度確認すると、利用は一等車と書かれている。

 

動員輸送時の一等車は将校の連絡輸送などに使われており、軍人もしくは公務員であれば帝国陸軍運輸部もしくは帝国海軍運輸局、帝国空軍輸送部発行の移動許可証さえあれば切符なしで乗れる。

 

 一等の待合室は将校専用となり一般人はたとえ一等の切符を持っていたとしても入ることはできない。

 さて、人が多すぎて吐き気がする改札を尻目に一等待合室に行く。あの人混みの中を突っ切る事無く列車に乗れそうだ。

 

 

 少々待合室で暇になったので近くに座った将校と話をした。

 

「知っているか少尉?ルーシー連邦とスオミ共和国が戦争中なのは少尉も知っているだろう。

 

 その事で噂を聴いたのだが、スオミ共和国にルーシー連邦が苦戦していると言う事だ。大粛正中のルーシー連邦には将校が足りずにまともな統制が取れていないらしい。

 

 それで、根拠の無い本当の噂を聴いたのだよ少尉。スオミ共和国とルーシー連邦の戦争に秘密裏に帝国が介入しているって言う噂が。」

 

 その噂は本当かも知れない。この帝国に諜報戦を纏めた論文を出した人物がいる。あのカタリナ殿下だ。殿下ならやりかねないな・・・

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

帝都中央 帝国軍統合作戦本部(通称参謀本部)

 

 帝国3軍の共同参謀本部。そこでは今後の戦争遂行の為の方針や対策、そしてターニャ・デグレチャフ少尉の軍大学入学を認めるべきか否かの会議が行われる会議が行われていた。

 

 そして本来なら星を重ねた3軍の高級将官達が激しい議論をしていた。

 

「えーと。次の課題は・・・ああ西方の話しですか。

 

 

 さて。今回の戦争はあくまで防衛戦争です。積極的に攻勢する事は出来ません。昔のように土地を得ることは殆ど出来ないと考えて下さい。但し、攻勢防御の結果占領する事になったのは良い事とします。

 

 この戦争は上手く立ち回らないと泥沼の戦争になってしまい最終的には世界大戦と化してしまいます。

 

 それは近衛第二師団長の論文を読めば明らかでしょう。」

 

 帝国は強大で、その強大さは合衆国に次ぐ。それが周辺諸国の不安を煽り、帝国を何とかして潰したい。世論とは裏腹の物であっても。そしてそれが世界大戦になる。

 あらゆる兵器の製造に重工業が不可欠となっている現在では戦争と国家、戦争と経済はかつてないほどに密接な関係となっている。

 また、弱小国がほぼ消滅し、世界が列強により分割された今日において、戦争は列強同士の真っ向勝負となるその戦争は、その遂行に文字通り国家のありとあらゆるリソースを投入しての国家総力戦となる。

 

 その細かい流れを近衛第二師団長カリン少将(当時は准将)とカタリナ陸軍少将が共同で研究した内容が『これから起こり得る戦争』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場のいた軍の高級将校は口を揃えてこう話した。

 

『我が帝国に、エリザベート殿下がいた事は幸運のことであった』

 

 と。

 

 そしてこうも話した。

 

『カタリナ殿下は敵には回したく無いお人であった』

 

 と。

 


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