WTクランによる帝国を勝利に導く物語~核抑止とは?~(本編完結)   作:紅茶

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朱い津波を防げ! 下

 ルーシー社会主義共和国連邦が国境を越えた。

 

 そのニュースは帝国全土に瞬く間に広がった。

 

 そして、そのニュースは全世界にも。

 

「ルーシーと帝国が争うか。どちらかが倒れてくれればよし。共倒れしてくれればなお良し。」

 

 そんなことを言ったのは誰だったたか…かのルーシー共和国を戦争に陥れた張本人であった。

 

 首相官邸で暗く嗤う彼を見た者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 合衆国ホワイトハウス

 

「ルーシーと帝国が戦争勃発か。

 

 そういえば、連合王国は未だに制海権を取れていないのだろう?」

 

「その通りです、大統領」

 

「ふん、制海権を取れないだろうと侮っていた帝国相手にあっさり制海権を取られるとは。

 

 まぁ良い。奴らから代金はまだ来ないのかね?」

 

「ええ、支払いは未だ待ってほしいと。」

 

「レンドリースと言えどもただではやらん。今のところレンドリースの代金はツケとして置いといてあるが、そろそろ議会がうるさくなってきた。」

 

「絶大な経済効果が連合王国とのレンドリース供与で生まれておりますが…」

 

「我が国の国民に血を流させればその分だけ経済上昇効果が薄れてしまう。

 

 直接参戦するのは得策ではないが、連合王国とのレンドリースは限界近い。とりあえず連合王国には1か月後にレンドリース打ち切りを通告してくれ。

 

 理由は議会の効力が得られなくなったからとでもしておけ。

 

 そして次にルーシー連邦に連絡を入れろ。レンドリースの申し入れをな。

 

 同時に帝国にもそれと同じ」

 

 実はそのレンドリースの代金は後に踏み倒されるのだが、それは共産主義者でも"それくらいは守るだろう"という油断でもあるだろう。

 

 

 

 

 後に、合州国とルーシーは政治的敵対関係となる。

 

 その原因の一端の一つ…かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統一歴1925年8月29日 帝国3軍統合作戦本部

 

 ルーシー連邦が勝手に国境線に上がり込んできたために、帝国は戦争をする上での大義名分を得たのも同然であった。

 

「思ったより早く侵攻したな。」

 

「はい、ですが防衛準備は十分に整えられることができました。」

 

「今回の戦争において我々は裏方だ。

 

 そこまで気張る必要もないが、油断するのも良く無い。

 

 さて…各戦線の状況はどうなっているんだ?」

 

「は、我が陸軍は空軍と協力し、ルーシー連邦軍に対し優勢であります。

 

 具体的には、防衛線を1段後退させたのち空軍と協力し1個軍相当を包囲殲滅することに成功しました。

 

 ただ…戦局に影響はありませんが気になる報告があります。」

 

「なんだ?」

 

「捕虜をその時に取ったのですが、捕虜がこう言っておりました。

 

 『捕虜になるのは許されないと上官に命じられた!国に戻ったら銃殺刑になるかもしれない!』

 

 と。」

 

「……ハァ~~~~ッ………共産主義者は相変わらずだな。まぁちょうどいい。捕虜は後々重要になるかもしれん、虐待は絶対になしだ。」

 

「分かっています、全軍にできるだけ国際法を守るように教育はさせておりますので。」

 

「ならそれ以上の事は言わん。次は?」

 

「空軍です。我々空軍は継続的に連合王国本土周辺の制空権を継続的に奪取している状態であり、航空戦においても要撃機が上がらなくなるのも多くなってきました。」

 

「ふむ…航空機工場を爆撃したのは良かったようだ。」

 

「ただ、要撃が上がってきたことも少なかったのですが、敵要撃機が今までの連合王国機ではないとの報告がありました。情報は少ないですが、液冷戦闘機であることは確かだそうです」

 

「ふむ…P-51か?」

 

「はい、情報部もそのような分析をしていました。

 

 敵の練度はそこまでではないので落とすのは容易いとのことですが、一応留意すべきではあるかと。」

 

「なるほど…」

 

「東部戦線に関してですが、敵パイロットの技量が大きく劣っているために個々の戦闘は優位になっています。」

 

「分かった。制空権は取れつつあるという事だな?」

 

「いえ、それが。

 

 敵が落とされても落とされても別のパイロットを前線に送り込んでいるようで。」

 

「なるほど…敵の兵士はキャベツ畑からとれるようだな。」

 

「「「…いえ、さすがにそれは無いかと。」」」

 

「何でそこだけハモルんだよォ!!」

 エリザベートちゃんは机に突っ伏した。

 

「そんな事はともかく」

 空軍の参謀は容赦なく話を元に戻した。

 

「航空優勢は取れいている状態ではありますが、制空権は確固たるものではない状況であります。」

 

 机に突っ伏していたエリザベートは気を取り直し、報告を聞き入っている。

 

 そこらへんは一応国のトップと言ったところである。 

 

「なるほど…さて、我々は油断せずにルーシー連邦との戦争に臨まなくてはならない。敵は極めて強大である。各々の仕事を全うしよう。」

 

 さて、帝国は国民を鼓舞させると言った戦意高揚の手段を取らなかった。

 

 そんなことをして帝国が深入りするのは、のちの展開にとってあまり良く無い事であると、帝国の首脳部は判断していたからである。

 

 帝国軍は大量の歩兵による突撃(朱い津波)を何とかしのぎ切っている。

 

 強大な補給線と強大な火力投射によって持ちこたえている状態であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統一歴1925年9月1日

 

 ルーシー社会主義共和国が去年軍事力により併合したバルト3国、およびその周辺の5州及び10の地方が独立宣言をした。

 

 唐突の事であり、モスコーにとっても青天の霹靂のような状態だった。

 

 さらに、独立を宣言したバルト3国、およびその周辺の5州及び10の地方は連邦制の新しい国家の宣言をしたのだ。

 

 ロシア連邦と言う民主主義を国是とした国家の宣言であった。帝国は世界に先駆けその国家を承認。帝国に負け、経済圏に入れられたフランソワ共和国やレガドニア協商連合も承認した。

 

 その国家は暫定首都としてスモレンスクとし、暫定国家元首としてあの人物を擁立した。

 

 赤軍の至宝、縦深攻撃の考案者を国家元首としたのである。

 

 その人物は…『ミハイル・トゥハチェフスキー』その人である。

 

 帝国諜報局の謀略によりバルト3国、およびその周辺の5州及び10の地方を独立させ新しい国家を形成、国家元首として『ミハイル・トゥハチェフスキー』を擁立した。

 

 ルーシーの独裁者ともいえるヨセフ・ジュガシヴィリはそのことを耳に入れると怒り狂ったのは当然の帰結だったと言える。

 

 何せ、トゥハチェフスキーはなまじ民衆や軍に人気があった。なのに自分には何もないという嫉妬心からトゥハチェフスキーを嫌っていたのだ。

 

 スモレンスクにて、新国家の樹立したトゥハチェフスキーを何としてでも殺すように、かつ新国家樹立は許せないとして、内戦という形で帝国に向けるはずだった軍を差し向けた。

 

 その時点で帝国諜報局の目論見の約30パーセントは達成したともいえる。

 

 彼らは望んで戦力分散をさせたのだから。

 

 斯くして差し向けられた軍は・・・

 

 第2軍集団の計24個歩兵師団であった。

 

 それを率いていたのは、かつてのトゥハチェフスキー元帥の副官だった人物である。

 

 かの粛正の露として消えるはずのイエロニム・ペトロヴィチ・ウボレヴィッチだった。 

 

 彼はトゥハチェフスキーが帝国へ亡命したと判明し、その事を耳にしたときに帝国諜報局のモスコー支部に秘密裏に連絡をとった。

 

 モスコー支部と言っても、帝国の大使館であるが。

 

 その時は統一歴1923年7月23日の夜であった。周りの目を巻き、帝国の大使館へとたどり着いた彼は何とか接触する事に成功。

 

 帝国諜報局に亡命する事を希望していた。

 

 ただ、監視社会になったルーシー社会主義共和国において、諜報局は動きにくい物を変貌していた。ただ、それは首都や主要都市に限った話であり、地方では比較的活発に動いていた。

 

 その事もあり、モスコーではそれらしい動きを見せればNKVDがすっ飛んでくることもあり、彼はうかうかと動ける状態になかった。

 

 そんな時、トゥハチェフスキーを国家元首としてロシア連邦の誕生があった。

 

 まだ小さいロシア連邦を消滅させるための鎮圧としてモスコー軍管区の歩兵主力の第2軍集団を任されたウボレヴィッチは亡命の良い機会であると考え、ロシア側へ24個師団を手土産に亡命をしようとしていた。

 

 そこで邪魔になるのは、政治将校であったが、そこまで心配するまでもなかった。

 

 上級政治将校であったニキータ・フルシチョフが帝国側に転んでいたからである。

 

 帝国からの接触で、母国ウクライナの独立を条件にロシア側、ひいては間接的に帝国側に裏切ったのだ。(のちの時代では、これを『フルシチョフ政治取引』という。)

 

 そこから先は早かった。

 

 第2軍集団のトップと上級政治将校のフルシチョフ、そして潜在的にトゥハチェフスキーを慕っていた軍人が他の政治将校を抹殺。

 

 24個師団丸ごとトゥハチェフスキー側、即ちロシア側に降りたのだった。

 

 

 

 

 24個師団の歩兵の脅威から救われたロシアは、トゥハチェフスキーと、補佐する副官のウボレヴィッチ、政治的に調整するフルシチョフを中心として動くことになる。

 

 驚くべきことに、これらは1週間というわずかな時間で起きたのである。

 

 ちなみに、この事件で猜疑心をさらに増したジュガシヴィリは戦争中にもかかわらず粛清を続行していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統一歴1925年9月10日 帝国諜報局

 

「それで、フルシチョフは大丈夫そうですか?」

 

 帝国にて諜報を一手に担う帝国諜報局の一室。諜報局長室には二人の人物がいた。

 

 一人はイスにギィギィとならしながら座っている女性である。

 

 艶があり、髪だけでも男を振り向かせるほどで、その美しい茶髪は室内の明かりを反射させるその髪は恐ろしいほど蠱惑的で。

 

 そして…誰が言ったか、男はみんな面食いであると、そして彼女の風貌は悪いことに悪い男にひっかかけられそうなほど整っていた。

 

 どことなく幼さを残した、いわゆる若干の童顔な彼女こそ、カタリナ・フォン・クロイツフェルンである。

 

 もちろん、皇族であるために並の男では手が届かない高嶺の花である。

 

 ……まぁ既に貴族出身の現在の夫であるルドルフ君に摘まれているのだが。

 

「はい、我々があの交換条件を破らなければの但し書きが付きますが。」

 

「う~ん…ウクライナとなる周辺の州及び地方は転びましたか?」

 

「無事に転びました。独立できるなら、何でもすると代表者の言質を取りました。」

 

「なるほど…エリザベートお姉様に連絡をしておいてください。お姉さまなら無事に目的通りにしてくれるでしょう。」

 

「ええ、陛下ならうまい事調整してくれるでしょう。」

 

 そんな会話を聞いているとルーシー社会主義共和国と言う国が諜報に関してすっからかんだと思われるだろうが、そんなことは一切ない。

 

 ただ、粛清でNKVDが弱体化しているだけである。

 

 

 

 とまれ、粛清でNKVDが弱体化している間に工作を迅速に行い帝国の防波堤ともいえる国家を二つ作り上げた。

 

 あとは、帝国は二つの防波堤を崩れないように注意を払い、裏切らないようにするだけである。

 

東ヨーロッパ連合(EEU)*1の提案はトゥハチェフスキーにも渡しました?」

 

「はい、トゥハチェフスキーは賛成であるとの意見です。その副官やフルシチョフも、いずれは独立するウクライナを入れるならばと言う新たな条件を提示しましたが…」

 

「ウクライナも、もとより入れるつもりです。我が国の首相やお姉様にも話を通しておきましたので、政治的にストップがかかることはないでしょう。」

 

「分かりました。」

 

 これでどろどろとした話は終わり、黙々と書類整理を始めるカタリナとそれを手伝うルドルフ君の姿が見られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女らが色々とたくらみ仕事をしているとき。

 

 カタリナの御家ではメイドさんがてきぱきと働いていた。

 

 明るいブロンドヘアーをシニヨンにまとめ、明るめの若干紫がかった碧眼を明かりで輝かせていた。

 

 彼女はカタリナが幼少期のころから仕えていたメイドで周りからは忠義が厚い使用人であるとの評価であった。

 

 ただ、エリザベートに仕えている変態メイドと違ってほんの少したりとも浮ついた噂を出さず、心配したカタリナがお見合いをしてもその話を蹴った人物である。

 

 その名をユリア・クレーデン。

 

 帝国の皇族であるカタリナ・フォン・クロイツフェルンに一目ぼれし、恋し、身分差と性別と帝国社会の風潮に絶望した女性である。

 

 彼女は16歳の時に奉公にだされ、12歳のカタリナと出会った。

 

 そして、男をも撃沈する容姿と無自覚な行動に撃沈された女性(・・)である。

 

 そう、女性である。

 

 この時代は女性同士の恋愛は異端とされていた。それは帝国内でもそうであった。

 

 その風潮は彼女を十二分に絶望させた。

 

 カタリナに恋したがゆえに、自身の大切な主人を守るために自身の恋心を奥底に仕舞い、カタリナのメイドを続けていた。

 

 さぁ、そろそろ主人(カタリナ)が帰ってくる時分である。

 

 

 

 

 

 

「カタリナ様ぁ…」

 

 自分でも驚くほどの切ない声が流れ出た。

 

 今でも彼女を恋している自分に見切を付けたいけど、この胸を焦がす思いは…どうしてもあきらめきれない。

 

 だけど私は…この思いをいつまでも仕舞って恋しいあの人のために働こうと努力する。

 

「車の音…帰って来ちゃった………」

 

 外から、エンジンの音が聞こえて、ブレーキ音を響かせてこの家の前に止まった。

 

 私は、いつの間にか流れ出た涙を急いでぬぐった。

 

 あの人たちがドアを開ける前にドアの前に立ち、身だしなみを整えた。

 

 ドアが開けば、恋しいあの人と、憎々しくも夫となれた人物が目に入った。

 

 そして今日も胸からこみ上げる色々な感情を押しとどめてこう言う。

 

「お帰りなさいませ。」

 

 と。

 

 

*1
東ヨーロッパ連合は、EUを参考にカタリナが提案した連合。ロシアとウクライナを一蓮托生にするための首輪とリードでもある。この提案には、フランソワ共和国やレガドニア協商連合をも入ることになる。準加盟国として後にイルドア王国や一部を除いた欧州諸国も加盟しヨーロッパ連合(EU)へと改称した。

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