WTクランによる帝国を勝利に導く物語~核抑止とは?~(本編完結) 作:紅茶
あと眠い。
エリザベートは激怒した。
かの邪知暴虐なメイドからの重圧を取り除かねばならぬと決意した。
エリザベートには政治は分かる。
分かり過ぎて頭が痛い。
エリザベートはベルン宮殿の住人である。
起きれば英才教育、また起きれば英才教育と遊べずに暮らしていた。
けれども趣味に対しては人一倍敏感であった。
本日宮殿を脱走し、警備を掻い潜り侍従の捜索の目を欺き、半里離れた下町の商店街へとやってきた。
エリザベートの父、母は存命である。
ただし夫はおらず、内気で頭が良いはずの妹がいる。
統一歴1900年10月13日
エリザベートは現在12歳で陸軍士官学校の1年目を修了し、2年目の士官学校生活である。
彼女はおよそ1年前に毎日来る興味もない縁談と言葉使いから始まり主要世界各国の言語を学んでいる状態だった彼女はものすごいフラストレーションが溜まって大脱走を起こした。
当時10歳だった彼女は侍女を押し倒して脅し賺し、いろいろあってメイドの協力を得て脱走した。
そして彼女はそれを皮切りに何回も脱走した。
彼女は大抵下町の商店街へと降り立ち自身の稼いだお金から1マルクを引き抜きのんびりと過ごした。
なお、株取引では2か月で10万マルク*1は最低でも稼いでいる。
この前の合州国のノーザンパシフィック鉄道買収事件を発端とした株価暴落事件*2では7500万$*3の黒字を勝ち取ったので帝室の財産はホッカホッカである。
宮殿では皇女に居ないことに気づいた侍従が探し回っているのにも関わらずのんびりと。
商店街のおばちゃんおじちゃんは高貴な身なりをした少女には内心驚きながらも
「よぅ来たね、何が欲しいんだい?」
と声をかけて応対したそうな。
そして返した言葉が
「簡単なサンドイッチが食べたいかな…」
と答えたそう。
ちなみにその時朝の9時半。
彼女はシェフに今日の朝は食事を外のパン屋で食事を摂ると言い残して宮殿から抜け出したそうな。
そのおばちゃんがベーグルのサンドイッチを作ってくれたので紅茶を添えて今朝の新聞を片手に足を組んで新聞を読みながら朝食をとっていた。
帝室の侍女はその光景を見れば
「立ち振る舞いが特によろしくありませんね。
なんとはしたない。女の子が足を組むとは…」
と説教を始めるのは分かり切っていた事であった。
だからそのような事をできるのは宮殿の外でしかできない。
息抜きに宮殿を飛び出すことを覚えたエリザベートに宮殿の者たちは苦言を漏らす。
「宮殿を抜け出すことはお控えしていただけますでしょうか?」
と。
エリザベートも愚かではない…かもしれない。
彼女は折衷案を提案した。
「帝国軍の士官学校に行ければ控えます。」
と。
当時、皇帝の座を巡り当人の預かり知らない場所で政争を繰り広げられていた。
第一皇女で皇位継承権第一位のエリザベート・フォン・クロイツフェルンを推すエリザベート派と第二皇女で皇位継承権第二位のカタリナ・フォン・クロイツフェルンを推すカタリナ派の二派に分かれ派閥争いが行われていた。
エリザベート派とカタリナ派で別れて皇帝の座に推挙するために本人のあずかり知らぬ場所で争いが繰り広げられていた。
それは皇帝ビスマルクにも侍従を通じて把握していて、皇帝が貴族、軍部へ働きかけ派閥争いは一時の落ち着きを見せた。
ただしエリザベートが自身の父の悩みなんか知らねぇ!みたいなノリで宮殿からの脱走を始めたために政争は再燃をし始めた。
皇帝の「皇位継承権は序列を遵守せよ」との正式な声明によりカタリナ派は急速に勢力を衰えさせた。
ただ、その事もあってあっさりと許可された。
「そういえば、最近噂のお菓子屋さんに最近行ったんですけど…」
「…」
エリザベートは士官学校で知り合った比較的仲の良い級友と話をしていた。(なお士官学校に入学した女子は少なく、学年でも1クラス20人程度である。そして、魔導士適性がある者は性別問わず徴兵されるが、士官学校に行くという事は軍人としてご飯を食っていこうとする人物がほとんどなわけで…帝国の女子が進んでいくような学校ではなかった。)
「この学校ってだいたい夕方に講義がおわるじゃないですか、それで帰りに寄ったら売り切れていて…」
「殿下はそのお店のお菓子食べたことあります?」
「いや食べたことはないな。」
「そうですか。今度講義がなかった時に行きましょ?
…殿下?あれ居ない!殿下?殿下?」
エリザベートの級友たちはいきなりエリザベートが居なくなったのでびっくりして探したが見つからなかった。
その時エリザベートは何をしていたか。
彼女は廊下の角に設置されていた電話に向かい話をしていた。
「やぁ、久し振りだね。
レナ空軍准尉。」
『あの、殿下今何時か分かりますか?いつもなら空軍士官学校で講義を受けている時間なんですよ?』
「知ってる。けど今日講義がなくて休みなんでしょ?」
『はぁ…それで何の用ですか?』
「最近話題の菓子屋さん知ってる?」
『あ、あの6丁目の菓子屋さんですか。』
「それで…お昼までに買ってきてくれない?」
『…私に買いに行けと?』
「うん!」
『なんで私が……』
「今どうせ暇なんでしょ?」
『いや暇じゃないですよ!レポートに今追われてるんですからね!』
「ああ、はいはい分かった分かった。それで買ってくれるよね?」
『…分かりましたよ、殿下お願いを無下にするわけにはいきませんからね…お昼までにそちらに届ければよろしいんですね?』
「うん、あと紅茶の茶葉もよろしく。」
『分かりましたよ。』
レナの方から電話を切った。
エリザベートも受話器を置く。
そして電話から踵を返してクラスメートがいる部屋まで歩いていく。
いきなり居なくなったエリザベートに騒然となったが、普通に帰ってきた彼女にどこに言っていたのかを聴けば、
「電話をしていただけだから。」
という言葉を聞き納得して次の講義が行われる教室へと移動していった。
講義が終わり昼休み。
門の前まで行けばある人物が外の歩道に立っていた。
「レナ准尉。」
「殿下・・・それは仮の階級で」
「まぁそんなことは良い。例の物は?」
「はぁ・・・えーと、これが話題のお菓子。後、茶葉はこの包みに入ってます。」
「そうか、ありがとう。たまに君を頼ることがあると思うけど、これからも頼むよ。」
「分かりました…”これからも!?”」
「…何か疑問が?」
「大有りで…いやなんでもないです。そんなことより私レポートの続き書くので帰っていいですか?」
「む、お茶くらい飲まないのか?」
「いや私一応部外者なんで」
「あっそっか。」
「そっかって…まぁ良いです。じゃ私はここで。またいつか会う日まで。」
そう言い残しレナは帰っていった。
エリザベートは彼女を見送ると校舎へと帰っていった。
その時より、エリザベートとレナとの腐れ縁が始まり、のちにレナは『第一皇女殿下の忠臣』であり『信頼を置かれている』とエリザベート派からは見られ、カタリナ派はレナを『エリザベートの忠臣』でありいつか排除したいと考えられるようになる。
ちなみにそのお昼には、エリザベートとその仲間たちが其のお菓子をお茶請けにティータイムをしていた光景が見られたそうな。
統一歴1901年5月3日
4月。それは日本…幼女戦記の世界戦でいうところの秋津洲にあたる場所では卒業する季節である。
ただし、帝国はドイツをモデルの国であるので卒業は6月である。
※ちなみに卒業式に近い行事はドイツには 存在しない。
エリザベートは士官学校からの帰り道でもたびたび侍従を撒いて買い食いを繰り返したりはしていたが、宮殿から直接抜け出すという事は無くなった。
ちなみにエリザベートはよく買い食いしている所を見かけられて帝国の首都ベルンの下町のおばさんおじさん達の顔なじみになっていた。
ちなみに良く行っている店はベルンの下町にあるとあるパン屋でのんびりとドーナツを食べていることが多い。
そして、エリザベートが通いだしてからそのパン屋はそれなりに有名になった。
そしてその日。
「そういえば、最近噂のお菓子屋さんに最近行ったんですけど…」
「…」
既視感のある会話である。
「この学校ってだいたい夕方に講義がおわるじゃないですか、それで帰りに寄ったら売り切れていて…」
「殿下はそのお店のお菓子食べたことあります?」
「いや食べたことはないな。」
「そうですか。今度講義が偶然なかった時に行きましょ?
…殿下?あれ居ない!殿下?殿下?」
ちなみにその時、教室の窓が全開で空いていたという。
その同時刻、エリザベートが制服姿でそのお菓子屋で菓子を買っていた所をエリザベートの顔だけは知っているただの通行人が見かけたという。
20分後……エリザベートは校舎から抜け出した際に自分で開けた窓から菓子が包まれた包装を手に戻ってきたという。
「やぁ、買ってきたよ。さぁ一緒にお茶をしよう!」
と言いながら。
もうエリザベートと友人となっておよそ2年。
悪いのか良いのかわからないが彼女の友人はもう慣れたようで貞淑にこう言った。
「はい、そうしますか。
殿下。」
と。
そしてそのあとはのんびりと紅茶をたしなむエリザベートとその仲間たちが見られたという。
数か月後。エリザベートは士官学校からたびたび抜け出したものの無事卒業した。
そして士官学校卒業直後から宮殿を良く抜け出すようになったという。
なお、後世の帝室史においての研究では、彼女が宮殿での教育で圧迫された故の脱走であるという説や教育の不徹底が原因であるとする説、フリーメイ〇ンの陰謀や、結婚、縁談を拒んで脱走など多数の説があるが未だに真相は解明されておらず、現在では思春期のストレスによる脱走であったという研究が有力である。
なお、この時の脱走回数は以前より明らかに増えていた。
前までは1週間に1回程度であったものが1週間に3回、4回ほどであったと公式記録で残されている。
脱走の頻度が急増した事によって近衛師団は皇女捜索を目的として、当時帝国軍最強クラスの航空魔導士が集まっていたアグレッサーを中心とした索魔道部隊の設立、捜索網、警備網の刷新を行い万全な体制を整えた。
少なくとも軍の最精鋭部隊ともいえる部隊の追跡を彼女は巧みに躱し、意味を成さなかった。
ちなみに、その時の世間の反応は様々であった。
帝都ベルンの市民は一市民にも友好的に接する皇女に対し歓迎的な反応であったのに対しその他の国民は新聞社の報道やラジオによる専門家の意見により良し悪しの評価は大きく分かれる結果となった。
良い評価では
『親近感が湧く』
『私たちの事を良く分かろうとしている』
と言った評価もあれば、
悪い評価では
『帝室の教育がうまくいっていないのでは?』
『前例のない事で、極めて良く無い事ではないのか』
と言った評価もあった。
ただ、本人はそんな評判など知らぬと言わんがばかりにのんびりと美味しい物さがしのために下町へと繰り出していた。
その宮殿からの脱走は美味しいものをエリザベート自身で料理すればいいんじゃねと言う結論に至った14歳の時に頻度が少なくなった。
そして脱走に関しては15歳の婚約で落ち着きを見せ、将来の夫となるラルフと親密になった頃にはエリザベートによる大脱走は無くなったという。