機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ パニッシュメント 作:枝豆人
鉄血のオルフェンズのメカデザインやら空気やらが好きで気が付いたらこんな小説を書いていました。
うまく空気が再現できたらいいなとか思いながら書いています。
いやなんだコレおかしいぞとか思われるでしょうが後からバラしていくスタイルなので、考察を是非してもらえれば。
それではどぞ。
モビルスーツは今や貴重な存在だ。
ギャラルホルンが運用するグレイズのような機体こそあれど、この地球から遠く離れた火星航路ではそれを見ることも滅多に無く、大抵はモビルワーカーがその座を担っている。
整備も簡単で、小回りもよく利く。維持費も安いし、その気になれば買い替えることも難しくない。ジャンク屋が運用する機体として、モビルワーカーはどのような面から見てもモビルスーツに勝っているのだ。
そのようなことを有線通信でベルグに言われる。装甲板の破片に電磁ラックを装着しながらインカムに言い返した。
「言いたいことは分かってんだよ、どうせアルコーンを買い替えろって言うんだろ」
ヘッドホンの先から小さなため息が聞こえる。数秒の間を空けてベルグが言う。
「そーだ。そんなボロ機体、お前の爺さんの頃から使ってるじゃないか。もうモビルワーカーも高くはないんだから、ローンを組めば俺たちの金でも十分に余裕ができるんだよ。それにアルコーンの整備代でいくらかかってると思ってるんだ、俺たちの収入の五分の一だぞ、お前」
「理屈は分かるけどよ、親父はこれをずっと使えって言ってたんだぜ。じゃあそうしなきゃ不味いだろ」
「もう壊れてるようなもんだ、先月だって左足の関節の装甲を丸ごとゲイレールのそれに交換したじゃないか」
ベルグの言うことは正しい。このアルコーンはもう純正パーツを頭と胴、腰にしか残していない。パーツの塗装を剥いだ経験から元は黒色の機体だったと思えるが、今は作業用に交換したパーツも含めて全身をオレンジで塗りたくっている。中身ですら破損していたために数年前、独学で改造した民用機ベースのOSに交換して無理やり動かしていた。
それでも運用する理由は、父が遺したアルコーンを動かし続けろ、ということの一言にしか無い。
アルコーンの背部に設置されたレールラックに装甲板を接着させ、機体を振ってしっかりと固定されたことを確認する。以前これを確認しなかったせいで良質なエイハブ・リアクターを一つ見失ったことがあった。
よし、と呟きレバーを倒すとゆっくりと機体が加速する。同時にベルグに有線通信ケーブルを巻き取るよう指示した。
こうしてオンボロのモビルスーツを駆りながら生計を立てる、というのが俺たちの日常で、世界だ。
流れては消えてゆくデブリを眺めながらこれはいくらで売れるだろうか、いい値が付いたらまたガルべリア・コロニーの繁華街に繰り出してみようか、と考える。機体の横で緩やかなカーブを描きながら伸びるケーブルが伸びる先に俺たちの家が、放棄された工作艦を改造した家があった。
カタパルトを逆向きに進み、格納庫に侵入する。本来の格納装置は大破しているので常識外れなこの方法で着艦するしか無い。ガラクタが転がる格納庫の中に無造作にアルコーンを降ろすと、大きな振動と共に軋んだ船体から砂埃が湧き出てきた。
機体から這い上がり、胴を蹴ってエアロックを目指す。本来酸素で満たされているはずの格納庫には必要の無い装置だったが、ジャンクを再利用して何とか動かせるようにしている。巨大な円を開けば無機質なパイプが並ぶ狭い部屋。いくつかの操作を経て酸素を注入し、ノーマルスーツを脱ぐ。メーターを眺めながら小窓から外を伺えば、いやに広い格納庫にたった一機で鎮座するオレンジ色のMSが見えた。
よく見てみれば珍妙な機体だ。グレイズ・フレームとは明らかに違う構造をしているが、どの整備業者に回してもフレーム部分の詳細は分からない、と言っていた。
曰く、なんらかのフレームにかなりの改造が施されており、とても元の姿を判別することはできないらしい。おそらく既に生産が停止された機体なのだろう。そうでなければ原型すら分からないフレームなど辻褄が合わない。
ゴーグルをしたような、赤色のカメラアイはどこから来たのだろうか。
艦内を進んでみればこの船がどれだけ老朽化しているのかもよく分かる。最後に整備したのは何年前だっただろう。
ブリッジで自分を待っていたベルグはそれに答えることも無く装甲板の詳細を尋ねた。良く考えれば金回りの話で頭を痛めていたベルグにこの話題を吹っ掛けたのは間違いだったかもしれない。少しの申し訳なさが頭をよぎった。
「あー、多分戦艦の外装だ。現役のスキップジャック級じゃないが、割と大きいほうだと思うから鑑定してくれれば分かるはずだぜ」
「まあ、酸素代くらいにはなるか」
「多分」
身を傾け、先端が結ばれた青い長髪をぶら下げたベルグは未だに不機嫌な顔を変えずこちらを見据えていた。ここまで機嫌を悪くした事例は無かった。今度こそアルコーンを封印する時が来たのかもしれない。
諦めてベルグの機嫌を直そうと、モビルワーカーの相場を尋ねようとした時だった。
普段は寝静まっているブリッジのレーダーに赤い点が映し出される。前方から迫るそれは丁度家の真正面を突っ切るような軌道で動いているらしい。
ベルグに分析を頼もうと振り向けば、すでにヘッドホンを片手に機器と睨みあう彼の姿があった。数秒の後、顔の向きを変えずに呟く。
「NOA-0144、艦名ユルグ。小型輸送艦。救難信号を発しながら地球方面に向かって進んでる」
「救難信号か。あらかたアリアドネから外れた訳アリ艦だろうな」
「ああ」
地球方面に向かっている以上、大型の資源衛星などが存在しないこの航路では目的が地球にあることは明白だった。しかし、それならばギャラルホルンが設置した航宙補助システムであるアリアドネを頼りながら行くのが普通だ。
こんなデブリ帯を進むということは、何らかの理由で表に出ることのできない事情を抱えていることが多い。その多くは海賊やら違法行為やらが絡んでくる。
ただ妙だったのは、この場で救難信号を発しているということだった。基本的に他の船が航行することのないこの宙域で救難信号を発したところで望みはなく、第一この宙域を進むなら何船かで船団を組み行くのが常識だ。
まるでこの宙域を理解していないような行動が腑に落ちない。
「とりあえずアルコーンで出る。有線通信をオンにしたままで行くから何か情報が入ったらまた教えてくれ」
分かった、と答えたベルグの姿勢が変わることはない。よく言えば集中するタイプだが、本当に意思疎通ができているのか怪しくなる。
そんなことを考えながら今度は正しい向きでカタパルトから飛び出した。
予測軌道の上で待機しながら古ぼけた通信機をチェックする。まともな通信をするのは数か月ぶりだ。
通信範囲内に輸送艦が入ったことを確認してからスイッチを倒し、回線を開く。
「えー、あー。こちら民間ジャンク回収業者、貴艦からの救難信号を確認した。貴艦の識別コードと艦名はNOA-0144、ユルグで間違いないか」
数秒してノイズにまみれた応答が返ってくる。まだ若い、女性の声だ。
「こちら、NOA-0144。救難信号を確かに発信した。貴機の前方10㎞の地点で艦を停止させ、接触してもらいたい」
少し考えて通信を有線に一旦切り替えた。ベルグに判断を仰ぐと、念のため武装解除を求めてから乗船するべきだ、と言ってくる。
通信を無線に切り替え、ユルグの艦長らしき人物に返答する。
「こちら業者。武装解除とこちらの武装の許可を確認次第乗船する。よろしいか」
「了解した」
冷たい印象。感情を可能な限り殺したような声がヘッドホンの先から返ってくる。
目の先には確かに灰色の輸送船が向かってくるのが見える。見ただけでは何かトラブルが起こったとも思えない、海賊の類にしては嫌に小奇麗な船だ。
「こちらNOA-0144。現在時速3kmで航行中。対空砲以下の火器類の解除を行った。接触されたし」
通信と同時に輸送艦の甲板に設置された対空砲の砲身が真上を向く。敵対意思は無いと見ても良いようだ。
ユルグに通信を入れ、アルコーンをゆっくりと近づける。どうやらMSを運用する設計は為されていないらしく、格納庫のようなものも見当たらない。
仕方なく甲板のやや広い部分にアルコーンを着陸させる。スラスターの火を窄めながら降りてみれば、この船が如何に小さいかがよく分かった。
前方をブリッジ、後方を貨物室が占めているこの船に対空砲以外の武装は無いらしく、その貨物室もMS一機がちょうど収まるくらいか、と思うほどの小ささだった。これほどの小型感が単艦で航行することは自ら襲ってくれと言わんばかりの行動であり、何かしらのフリゲートやら巡洋艦のような護衛艦を付けるのが当然だ。
この船の謎が深まる中、脇に差した拳銃が動くことを確認してから慎重に外へと出る。艦上に降り立つとブリッジの真上あたりに小さなハッチを見つけた。近づいてみればA-3の刻印がある。
「NOA-0144へ、着艦に成功した。A-3と書かれたハッチがある、そこからの侵入を許可してもらいたい」
返答は即座に返ってきた。
「許可できない、そこから70m後方にあるB-1ハッチから侵入せよ」
「何故」
「駄目だ、B-1ハッチを使用せよ」
理由も伝えられない理不尽さに苛立ちを感じたが、ここは相手の船だ。従わなければ何が起きるとも限らない。
しぶしぶB-1ハッチに向かうと、丁度目視したあたりでハッチの蓋が開いた。
たどたどしい動きで出てくる一人の人物。ノーマルスーツはだいぶ小さく、甲板に立った状態でも頭頂部がよく見える。
「えーと、あんたがここの乗組員なのか?」
「はい。艦長代理を務めるエルマ・アリシャです」
声は凛とし、背も伸ばしているが、ヘルメットの奥に見える濃い色をした顔はまだ幼い印象を与える。
「十…十八歳か」年齢を問うたつもりだったが、既に彼女は踵を返し船内に戻ろうとしていた。
「そこまで年増ではありませんが」足を止めたエルマが振り向いて平然と言う。
ハッチに飛び込むエルマを見ながら、自分の常識を疑いながら話さなければならないのか、と一人嘆いた。
艦内は暗く、悪臭が漂っていた。
先頭を進むエルマは何かを話すこともなく、ただ前だけを見て歩き続けている。何か自分が話しかけても相槌を打つだけで何も応えない。
そしてその虚ろな時間が五分ほど続いたころ、対話を諦めた自分に対し、彼女は唐突に話しかけてきた。
「臭いますよ」
そう言いながら角を曲がる。
目にそれが見えた瞬間、なぜこの船がここまでの悪臭に満ちていたのか、理解した。
それは死体だった。しかも、一体ではなく、十数体の死体が廊下を埋め尽くしている。
反射的に腰の拳銃を引き出し、狙いを定める。目の前にいた少女は今や自分の目に恐しさを上書きして写った。
腕が震える。
死体を見たことは少なくなかった。MSの中で細菌に侵されることもなく放置されたパイロットたちをジャンクの中から見つけた事は何度かあった。青白い人形のような肌も、光を失った目も見慣れていた。
しかし、目の前にあったのは嗅覚を蹂躙する腐臭とともにある死体だった。波のような実感が自分の中を駆け巡り、脳を揺らす。
それ以上に恐ろしかったのは目の前の少女だった。その黒い髪を揺らす少女が何故、このような異様な光景を前に何一つ動かさない、凍ったような表情を保っているのか。
恐怖の一言で表しきれない、半ば狂気が入り混じったような感情。
気が付けば息は切れ切れになり、銃を握る手が汗で蒸れている。やっとの思いで振り絞った言葉が弱弱しく漏れ出る。
「これは 何だ?」
「死体です。この船の乗組員でした」
やはり少女は平然としている。
「誰が 殺った?」
「私が2人、他の17人は仲間が殺しました」
間。そうか、と呟いた声は自分のものとは思えないほどしっかりした声だった。動悸は収まり、次第に腕の緊張は解け、楽になるのが感じ取れる。
そうして緩んだ腕をもう一度伸ばす。確実に、相手を仕留められるように。
「どうして殺した?」
少女は息を吐いた。小さく、嘆息とも取れないほどの小ささ。
「私達から彼らは多くの物を奪いました。金であれ仲間であれ尊厳であれ人としての生命であれそうやって奪われたものが彼らを殺して戻ることなどないと分かっているからこそ私は彼らを討つように仲間たちに言いました。航海の途中で護衛機と護衛艦を墜としました。混乱した彼らを撃ち殺し続けました。そうして死んだ彼らのもとに二度と戻らないと私は言いました。そうやって私たちは」
暴力的な言葉の流れをぶつける少女は流れを止め、息を大きく吸った。血と腐肉の匂いがする空気を、吸った。
「クーデターを起こしています」
同じような間が開いた。随分と説明的であったが、機械的、とも取れる。しかし、そこには彼女が抱えているないまぜになった感情もあり、完全なロボットとも言い切れない。
いや、むしろこの言葉を叫んだということを鑑みれば人間的だろう。
俺は何をするべきだ、と言うと、彼女はA-3と書かれた壁を通り過ぎ歩き始める。それに付いて行くと道の中でぽつりぽつりとこの船の真実を話し始めた。
火星の鉱山都市から出たこの輸送船の乗組員のおよそ六割がヒューマンデブリの少年少女であったということ。
その前から予定していたクーデターが航海途中に行われたこと。
戦闘により反乱軍の残りは30人程度であること。
そして、本来は雇い主であるアフリカンユニオンと敵対するSAUのコロニーに向かう積りだったが、想定よりも推進剤が少なくここで立ち往生するところだったということを話した。
「待ってくれ、身一つでSAUに亡命するのか。何も無ければヒューマンデブリとしての扱いから逃れることは出来ないだろう」
「SAUのコロニーに逃げる、というだけです。雇い口なら探せばあるはずです」
どうやら先の先まで見通された計画ではないらしい。ただこのまま殺人犯として通報するのも良心が咎める。
溜息を付き、己の覚悟を決めた。
「とりあえず、燃料は可能な限り手配しよう。ベルグに相談しなけりゃいけないかもしれないが、ガルべリア・コロニーまでは持たせられるはずだ。それでお前らはとっととここから離脱する。俺たちが関わったことは内密にする、ということさえ呑んでくれればそれでいい」
「ありがとうございます」エルマが感謝したことが意外に思える。彼女の何を知った、と言うわけでもないのにそういった感想が漏れてくることが個人的には不思議だった。
「とりあえず、俺のアルコーンに乗ってくれ。ユルグとの相談も対面じゃなきゃ説得力がない。この船を空けられる程度の人員はいるだろう?」
「構いません、それで交渉ができるなら」
「決まりだな」
そう言うとエルマの表情が少し綻んだ。年相応の表情をすることもあるのだな、と感心する。未だに暗い廊下を歩きながら彼女に尋ねた質問は少しずつだが返ってきた。どれほど強い芯を彼女は持っているのだろう、と考えながらハッチへと戻る。
「そう言えば、他の乗組員はどこにいるんだ」
「何人かのチームに分かれて動いています。機関室のチームやブリッジのチームに分かれていますが、欠員は他に役割を分担させています。私も艦長代理兼通信手です」
「へえ」
「通路の裏に潜んであなたを監視しているチームもいます」
「…へえ」
アルコーンに乗り込み有線通信でベルグに事情を話すと、彼はあっさりと自分の提案を呑み込んだ。
「金回りで頭を痛めてなかったか、お前」
「ああ、アルコーンに関してはお前の親父さんの話だからな、死んだ人間を恨んでも意味がない。ただ、これはお前が背負い込んだお前の話だ。いくらでも借金をさせられるから俺は金の心配をしなくていいのさ」
どうやら人の弱みに付け込んで金を分捕るつもりらしい。理論的にはまったく問題ないからタチが悪いが、提案してしまった以上しょうがない。
3ヵ月は目にできないであろうガルべリア・コロニーの繁華街が走馬灯のように頭の中を駆け巡る中、アルコーンを発進させる。
後ろを振り返り、目視できない後方に目をやりながら背部の仮設コックピットにいるエルマに呼びかけた。
「居心地が悪いかもしれないが許してくれよ、本来サブアーム用の作業室みたいなもんだ」
「いえ、特に問題はありません」
彼女は冷静な心持ちを既に取り戻したようだ。鉄骨だらけでろくに防御策もとっていない、剥き出しのコックピットに座らせるのは気が引けたが、自分のコックピットはあまりにも狭く、小柄なエルマでも入りきらないと感じたための苦肉の策を取って今に到る。
ジャンクを運ぶ時以上の慎重さでレバーを操作していた時、有線通信が入る。ベルグはモニター越しにでも分かるような、青冷めた表情をしていた。
「なんだその顔は」
「…不味い」
「なんだ、何が不味いんだ」
「11時の方向、輸送船の後方からフレック・グレイズが3機」
追撃。エルマは既に護衛艦と護衛機を墜としたと言っていた。もしそれをアフリカンユニオンに知られていれば、必然的に来るであろうものだ。
そしてフレック・グレイズ。ギャラルホルンの現用機であるグレイズの廉価輸出用であり、四大経済圏を始めとした様々な組織に使用されている機体。それがここに来る理由など、輸送艦の追撃以外にとることは到底出来ない。
咄嗟にエルマに叫ぶ。
「おい!あの輸送艦の戦闘能力はどれくらい残ってるんだ!」
不意を突かれて一瞬呆然としたようだが、すぐに答えが返ってくる。
「た、対空砲の残りが300発」
「それだけか!」
「今期待できるのはそれだけです!」
MS3機を相手にすることなど出来ない、しかし推進剤が無い以上撤退も不可能。
助けようにもこのアルコーンには武装が搭載されていない。家に戻ればライフルを持ち出すことが出来るが、往復すれば最低でも15分は必要だ。
多く見積もっても奴らが輸送艦を沈めるには10分。間に合わない。
どうやっても、輸送艦は沈む。
頭を抱え、無力を呪いながらレーダーに目をやる。三機の編隊が迫ってくることがよく分かった。
格闘戦まで仕掛けてやろうか、と思った時、作業用コックピットからの通信が入る。エルマだった。
「…見捨てて下さい」振り絞られ、苦しみに満ちた声が聞こえる。
彼女はきっと、自分が生き残り使命を果たすことを優先したのだろう。この場で全員が死ぬよりも自分一人だけ生き残れば微かな希望に望みを託すことが出来る。合理的かつ有効な案だ。
だからこそ、マイクの先の変わり果てた臆病者に怒鳴りつける。
「考えろ!どうやればもっと多くが生き残るかってことだけ考えろ!お前らはそうやってあの船の大人たちを殺して、ここまで来たんだろうが!なんで今になって諦めるんだ、逃げてるんだ!無力なのは重々承知なんだよ、だからって逃げていい理由にはならないんじゃねえのか!」
「見捨てていい人間なんか居ないんだよ!」
自分でも分かっている。
これは結局、ただ威勢がいいだけの愚か者の言葉でしかない。
自分がアフリカンユニオンと事を構えるメリットなど無ければ、理由もない。
ただそれでも。
立ち上がる力を半ば狂気のような力に纏い、周囲の恐怖をものともせず進む少女がそこで斃れる事が、あまりにも、苦しい。
自分はもう、二度目の過ちを犯してはならない人間だ。
戦うべき、愚者だ。
通信回線を開く。
「ベルグ、作業用コックピットを有線通信ケーブルに沿わせて降ろす。戦闘空域からは離脱させられるはずだ、うまく船のアームを使って受け止めてくれ」
「お前は」ベルグの心配に端的に答える。
「死ぬ」
沈黙が流れるが、決めたことだ。作業用コックピットを分離して、ケーブルに接続する。
やがてベルグは自分の目を、真っ直ぐ見据えて言った。
「生きろ」
こういうことを言ってくれる友がいて、良かったと思う。そう言うとベルグはアホみたいなことを言うな、と笑った。
コックピットを降ろし、一世一代の大勝負を仕掛けようとしたその時だった。
視認できるほど近づいたフレック・グレイズに気を取られていたために、それに気が付かなかった自分は最初、それを事故か何かかと思った。
しかしそうではないらしい。輸送艦の後部のパーツが剥がれた後に出てきたのは大量のパーツにまみれた一機のモビルスーツだった。
破壊されたのか、隻腕となっているがその腕には巨大な砲身を持つ銃のようなものを抱えている。白地に紺のストライプ、そして頭部にはよく目立つVの字のアンテナ。
自分も、アルコーンも、輸送艦も。心なしかフレック・グレイズも動きを止めているように見える。
デブリの中、その姿を現したモビルスーツは確かに見覚えがあった。
闇市場を渡り歩いているものもあれば、ギャラルホルンが封印しているものもある、300年前の悪魔達。
しかしそれらは一様に、頭部に共通点を持っていた。即ち、二本のアンテナと二つのメインカメラ。
目の前に出現したそのモビルスーツも、その共通点を有している。
悪魔の名で呼ばれたそれらは、総称してこの名前で呼ばれた。
「ガンダム」と。