機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ パニッシュメント   作:枝豆人

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どうも、枝豆人と申します。
ネカフェの悦びを知ってしまいましたが私は元気です。
年末の忙しさの中何とか書き上げましたが、来週は絶望的なので期待はしないでください。はい。(もしかしたらお茶を濁す何かを投稿するかもしれませんが)
そんなわけで二話です。どぞ。


#2 汚れた船と悪魔の子 下

 母艦を出て十数分、長距離行動を目的としていないフレック・グレイズの燃料漕が四分の一を切ったところでレーダーが艦影を捉えた。

 エイハブ・ウェーブは確かに依頼元からのデータ通り、NOA-0144の識別番号を示している。

 一旦機体を止め、デブリの一つに着陸させて様子を伺う。追従してきた二機も同時に停止した。エドワードの機体は柔らかに止まったが、アルガスの機体は急激に止まった為に機体が振られている。

 通信回線の先ではGに襲われたアルガスが息を吐きだした後、シートに身を寄り掛けた。

「いつも言っているだろう、急激なGを掛けすぎると戦闘中にいつ気を失うか分からん。普段から丁寧に動け」

「しっかし隊長、ああもゆっくり動いてちゃ的にしかなりませんぜ」

 アルガスはマニュピレーターをエドワードの機体に向け、彼を揶揄する。伸ばした腕に描かれたラインは4.彼の撃墜数だった。

「慎重さも必要だ。とにかくミッションを始めるぞ、目標は敵輸送艦の撃沈。付近にMSが一機いるがこいつにはアルガスが対応しろ。俺とエドワードは二人で後方から援護だ」

 そこまで言うと、おずおずとした口調でエドワードが聞いてきた。

「あの、乗組員は」

 心配性と言うか臆病と言うか、エドワードらしい質問だった。

 アルガスが鼻で笑う。

「皆殺しに決まってんだろ、なあ隊長」

「…クライアントの命令はあくまで救出の必要無し、で留まっている。それ以上の事を俺たちがやる必要は無い」

 今回の案件を依頼してきたベルグダッド・マテリアルは船員の反乱と説明していたが、それにしては不自然だ、と思った。少なくともアフリカンユニオンの部隊を動かすほどの案件とは思えない。

 だが、それも考える必要は無いのだろう。

 結局駒にしかなれない俺たちだ。

 自嘲しながら、作戦を開始する、と言った声がどこか浮いたような気がした。

 

 

 まず飛び出したのはアルガスの機体だった。

 いつもの様に、ライフルを数発撃っただけでマウントし、ホークを取り出している。また接近戦で仕留めるようだ。

 単純な動きしかできない相手に対しても十分に危険な行動だ。本来なら避けるべきだがどうやらこれが彼の性に合っているらしい。

 だがその行動は一体止まらざるを得なくなる。

 アルガスが珍しく叫ぶ。

「隊長、輸送艦の外壁が!」

 その様子は遠く離れたこの場所からでも観測できた。内部からこじ開けられるようにしてはがれたそれから大量の破片が飛び散る。

 内部の積荷だろうか、とも思ったがそれよりも巨大な積荷が姿を現す。

 純白の表面に紺色のストライプを備えるそのモビルスーツには左腕が無かった。戦闘で失ったのだろうか、表面が荒れている。

 レーダーに新たな反応として加えられたそれのエイハブ・ウェーブを解析して出てきた名前に戦慄する。

「ガンダム・オリアス…?」

「隊長、こいつを先に仕留めます!」

「まッ、待て!そいつは並みのモビルスーツで敵う相手では――」

 言い終わらないうちにレーダーの上の二つの反応が素早く近づいた。手前はデルグのフレック・グレイズ。奥がオリアスだが、圧倒的にオリアスの方が早い。

 接近戦なら勝ち目は全く無い。300年前の代物とはいえ、二基のエイハブ・リアクターが生み出す力は想像を絶する。

「エドワード!ライフルで牽制しながら突っ込むぞ、デルグに当てないように気を付けろ!」

 そう言いながら機体を飛ばす。

 だが。

 その瞬間。

 確かに目で見ていたはずのアルガスの機体が巨大な炎に包まれ、吹き飛ばされた。

 

 何が起きた?

 

 理解する間もなく、アルガスの機体が廃艦に衝突し砂埃を上げる。

 その向こうに妖しく光る碧い二つの目。

 埃が晴れてもなお、それは巨大な砲身を持った何かをこちらに構え、静止していた。

 

                    /

 

 飛び出したガンダムが吹き飛ばしたフレック・グレイズは頭部と胸上部を黒焦げにした状態で漂っている。

 唖然としているとガンダムはその長い獲物からコンテナのようなものをパージする。どうやらカートリッジの類らしい。

 弾倉で無い、と言う事だけは分かった。先程の攻撃は確実に射撃ではない。

 あれほどの短時間に集中して火力を放つ武器は銃砲では無い。また、その光景もまるで炎を吐き出すようなものだった。

 怪しんでいるとレーダーがもう二機の影を捉える。今度は遠距離で仕掛けるらしい、デブリの影を渡りながらライフルを放っている。

 ガンダムは獲物を輸送船の中に放り投げると吹き飛ばされたフレック・グレイズの腕からライフルを剥ぎ取り、バーニアを吹かせて飛んで行った。

 慌ててそれの背からホークを取り、後を追う。ガンダムと言えども二対一は分が悪い。

 デブリを蹴りながら飛んでいると通信が入る。ベルグだ。

「どうした、こっちは燃料の節約で忙しんだがっ」

「あの機体のエイハブ・ウェーブの解析が出来た、でもなんであんな機体がいるんだ…」

「俺が知るか、大方ガンダム・フレームを売り飛ばそうって魂胆だろう!」

 暫くの間の後、驚いたような声が聞こえてくる。

「よく分かったな」

「あのアンテナは特徴的だからなっ、名前は!」

「ASW-G-59、ガンダム・オリアスだ、オリアス」

 オリアス。

 そう呼ばれた機体は今もアルコーンの遥か前を飛んでいる。ライフルの弾丸をものともしない装甲は流石ガンダム、と言ったところか。

 瞬間、オリアスが廃船を踏み台にして大きく跳躍した。ライフルを乱射しながら上を取ったオリアスに気を取られ、二機の銃口が上を向く。

 今だ。

 すかさずデブリを投げ飛ばし、隊長機と思しき朱色の頭のフレック・グレイズにぶつける。

 衝撃で半回転する隊長機。

 片方がこちらに気付きライフルを構え直す。

 もう遅い。

 コックピットに衝撃。

 うまく成功したようで、今は体当たりを食らわせた片方を押さえつけながら飛んでいるらしい。目の前にはフレック・グレイズのベージュが広がっている。

 ここまで密着すれば隊長機も味方に当てる危険性を理解するはずだ。

 さらに機体を加速させる。

 おんぼろの機体が揺れる。

 十秒もしないうちに、その瞬間は来た。

 周りが突然暗くなる。

 もちろん予測していたことだ、反射的に後ろに飛ぶ。

 二度目のより強い衝撃。砂埃で包まれたデブリの表面からゆっくりと抜け出すと猛スピードでデブリに激突したフレック・グレイズは動きを止めてうなだれていた。

「動きそうにないな」

 装甲は滅茶苦茶に曲がり、巨大な頭は衝撃で潰れてその大きさを半分ほどにしている。

 念の為、と手に持っていたホークを頭に突き刺してカメラを破壊する。

 完全に動きを止めたことを確認してオリアスと隊長機がやりあっているだろう場所へと戻った。

 

 

 通信が入る。

「ベルグか、一機仕留め――」

「それどころじゃない!」

「あ、一体何だ?」

「オリアスが突破された!フレック・グレイズが輸送艦に突っ込んでくる!」

「っ!」

 しまった、技量が高いであろう隊長機には突っ込む前に迎撃される可能性があると踏んでいたが、完全に裏目に出た。

 レーダーを拡大すると輸送艦に近づく二機の影。近い方が隊長機で、もう一つがオリアスだろう。加速はオリアスの方が早いが、既に輸送艦は射程範囲内に入っているに違いない。

 どれくらい持つか、が勝負だ。

 最悪自分が間に合わなくてもオリアスのパワーなら格闘戦で制圧できるだろう、自分はその援護で事足りるはず。

 そう思いながらデブリの隙間を縫って飛ぶ。最早燃料を気にしている余裕など無い。

 あっという間に四隅へと流れる塵々。もう少しで見えるか。

 

 衝撃。

 

 爆発と共に機体が回転する。

 モニターは脚部が破損したことを示していた。

 先ほどの体当たりで損傷したらしい。

 いやそんなことよりも。

 アルコーンのスピードが一気に落ちた。

「…クソっ」

 揺れが続く機体は段々とデブリに激突し、遂にその動きを止める。

 鈍い音と共に墜落したそれは各所から火花を放ち、もはや動くことが不可能に近いことを明確に表していた。

 無言でコックピットから出ると自分の目でも何とか輸送船を見ることが出来た。

 宇宙の塵の中で一層輝くそれ。

 炎に包まれ、沈む輸送船。

 未だにライフルを撃ち続けるフレック・グレイズと取っ組み合うオリアス。

 

 たった一人、誰にも聞こえない罵声を吐きながらアルコーンを蹴った。

 

 

「レーナン、来てくれ」

 格納庫に入ってきたノーマルスーツ姿のベルグが言う。

 あの後。

 結局輸送艦の乗組員は全員死んだ。

 脱出用ランチも軒並み破壊されていたらしく、脱出しようとした船員たちは忽ち炎に包まれたと聞いている。

 オリアスに救助された俺とアルコーンは無様な姿を晒しながら家へと帰ってきた。

 奥を覗いてみればオリアスが格納庫の片隅にいる。

 結局、何も変わらなかった。

 自分の無力をここまで痛感し、呪った日は無い。

「だとしてもこれで終わりじゃないだろう、現にエルマとオリアスのパイロットは生き残っているんだ、それをどうにかしなきゃ俺たちは本当に価値の無い人間になるぞ」

「…」

 価値の無い人間。

 ふと一人の男の顔がよぎる。

 出来れば思い出したくない、それでも忘れてはいけない人間の顔。

 恨むべき男。

 

 そうだ。

 ここで彼女らを見捨てれば本当に俺は価値の無い人間になる。

 あの男と同じ道だけは踏まない。そう決めたのだ。

 だから動いた。戦った。

 いや、まだ戦いは終わっていない。

 まだやらなければいけない事がある。

 振り返り、ベルグに彼女らの場所を尋ねた。

 

 

 ブリッジにいた見慣れない少年がオリアスのパイロットだった。

 心境が似ているのかもしれない。入ってきたときには自分に背を向け、星の海をただ呆然と眺めていた。

 それに何かを言う事も無く、オペレーター席の椅子に座り腕を組んでいるエルマ。

 どうしようもなかった、と言ってしまえばそれまでだが、それで彼女らが納得する訳も無い。

 後から入ってきたベルグはああ、と一瞬躊躇ったが話し始める事にしたらしい。

「とりあえず、名前を教えてくれないか」

 健気な呼びかけに応じる事も無く少年はその姿勢を変えない。これを非難するのは酷という物だろう。

 代わりに応じたのはエルマだった。

「ケマル」

「ん?」

「ケマル。上の名前は分かりません。確か補充用のモビルスーツのパイロットとして船に乗り込んでいたはずです、船の中で何回か見ました。阿頼耶識の施術も行われていたと」

 言われて彼の背を見ると首の下に小さな突起があることが分かった。

 阿頼耶識。

 神経とモビルスーツを接続することによって圧倒的な操縦性を得られる代わりに、その手術の成功率は極端に低いというそれ。子供にしか行う事の出来ないそれは非人道的であるが、利点の為に多くの子供達が犠牲になっている、と聞いたことがある。

「ケマルか、うん」

 ベルグは重い雰囲気を押し退ける様にして言った。

「とにかく、今後を決めよう。正直に言って俺たちには君ら二人を抱えて四人で生活できるほどの稼ぎは無い。職と住とを探さなきゃいけないんだ」

 この船の酸素はあまり大人数が来ることを想定していないのでとにかく少ない。どうやっても四人で生活すればすぐに底をつく。

 そもそもこんな老朽艦はさっさと捨てるべきなのだが、今は思わぬ形でこの家を離れる事となった。

「どこか、頼れる方がいらっしゃるのですか」

 エルマが尋ねる。ただ自分は父母が死んだ身なのでどこかコネがある訳でもなく、力なく首を横に振ることしか出来ない。

「俺は無いんだが…、確かベルグの叔父が」

 首をやると、頭を掻きながら悩ましそうに言った。

「独立した商業会社の、まあ、それなりの地位にはいる」

 正直言って彼に頼るのは本当に嫌なのだが、背に腹を変える事は出来ない。

 ベルグはそれを知ってこそいないが、彼も彼の叔父に良い印象を持ってはいないようだ。

「ただ、協力してくれるかどうか」

「俺の所にお前を寄越したのもそうだろう、じゃあベルグを見捨てないんじゃないか」

 父とベルグの叔父はもともとこのジャンク屋の先代だった。父が死に、ベルグの叔父が件の会社に引っこ抜かれた後にジャンク屋を継いだ俺の下へ彼が寄越したのがベルグだ。

 どうにも父との縁で選んだらしく、本来は様々な職業を渡り歩くはずだったがベルグ自身がそれを拒んだために彼とその叔父の関係はあまりよろしく無いらしい。

「だと良いけどな」

 ベルグは彼の叔父に連絡を取り、どうにかコネで職を斡旋してくれないかと頼み込む、と言った。恐らくこれで職は解決するだろう。

 ただこの件に関しては選択肢が内容に思える。

「ガルべリア・コロニーに行くべきだな」

 意見は変わらないのか、ベルグはそれを肯定する。

 すると、いままで口を利かなかったケマルが振り向いた。

「ガルべリアって何ですか」

 唐突に呼びかけられて少し驚く。

「この宙域から少し離れた、アリアドネの手前にある商業コロニーだ。珍しく独立性があるコロニーでな、色んな業者がいるからよく世話になってるんだ」

 へえ、と言ったケマルの元にベルグが近づく。

「割と繁華街とかも大きいからな、住む所には困らない場所さ」

「良く行くんですか」

「ああ。俺はパーツを売ったりするのが専門だから月に一度か二度くらい行く」

 そのままガルべリア・コロニーについての会話を始めた二人。あちらの仲は不思議なほどに良好だった。どこか気が合うところがあるのだろうかもしれない。

 

 

 ライトを刺しこむと、内部の回路がまるごと焼けていることが分かった。

 これは全部交換しなきゃいけないかもしれないな、と思いながらアルコーンの膝の装甲を分解する。

 ベルグやエルマ、ケマルは既に眠っていたが、ここを出る前に出来るだけ自分の手でアルコーンを修理しておこう、と思って格納庫で作業していた。

 最初は簡単な修繕から始めたが、今では装甲の取り換え程度なら一人で行えてしまう。

 独りだった頃は自分で何もかもをしなければいけなかったので技術の習得も遅かったが、商売の事を任せられるベルグが来てからはかなり楽になったと思う。

 感謝しなきゃいけないなあ、と思っているとエアロックが開く。

 中から出てきたのはエルマだった。

「なんだ、寝てたんじゃなかったのか」

「目が覚めてしまったので。窓から格納庫の様子が見えて気になりました」

「居心地が悪いだろう、ブリッジで何か出そうか」

「大丈夫です…しかし、本当に古いですね」

 エルマはアルコーンを見上げながら言った。

「最近はもうガタが出始めた、交換じゃもう済まないかもな。フレック・グレイズのエイハブ・リアクターは二基確保できたから、それを売れば多少は良くなるかもしれない」

 そう返すと、エルマは意外そうな目をしてこちらを見ている。

「交換という選択肢は無いのですか」

「無い」

 言い切るとますます不思議そうにする。

「…なぜですか?」

 彼女の抱く疑問は前にベルグが話したことと変わらないだろう。これを維持する理由は傍から見ればさっぱり分からないはずだ。

 片手に持っていたスパナを置き、道具箱の上に座った。

「まあ、色々あったんだ」

「色々、ですか」

「追々話すさ、それまでに片づけなきゃいけない事が今の俺には多すぎる」

 例えばアルコーンだったり。

 例えば彼女らの先だったり。

 例えば職だったり。

 例えば許しがたい男の事だったり。

 とにかく、多い。

 そう言うとエルマは胸に手を当てる。

「私にも、あります」

「…」

「私も、彼らの仇を討たなければいけません」

 彼女はモビルスーツを操る訳ではない。

 圧倒的な権力がある訳でも無い。

 無論、財産も無い。

 それでも彼女の心は、きっと何かを成し遂げられるものなのだろう。

 決意は固く彼女を護っている。

 例え何があろうとも、と彼女は付け足した。

 格納庫の静寂に表れた小さな決意は何を成せるだろう。

 そう考えながら、そうだな、と呟いた。

 

                 /

 

「ああ、叔父さん」

「いや、うん。言いたい事は分かってるけど、こっちも少し事情があってね。相談をしたいんだ」

「…うん。職の目当てはあるんだろう?できるならその中で四人くらいを受け付けてくれている仕事があるといいんだ」

「ああ。ガルべリア・コロニーに移る予定だよ。今のところは」

「さあ、それは分からないよ。アフリカンユニオン地区には住まないと思うけど」

 

「そう、いや、ありがとう」

「まああっちにも職はあるだろうから、それでなんとかするよ」

「うん?」

 

「はあ、それは構わないけど。なんでそんな事を?」

「割がいいって、本当なら是非教えてほしいけど」

 

 

「傭兵企業?」

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