緑谷とトガが車で任務に向かう途中のショートショートです。
本日、天気は雨。と言っても昨日も一昨日も雨だった。それ以降は思い出せない。思い出せないなら、どうだって良い。忘れるって最高の能力だと思う。
ネオン街では妖艶な光が水滴に反射して、この街はいつも以上のパフォーマンスを見せている。
やれやれ、そんなに張りきりなくても。僕は深くため息をついた。
「あ~、雨嫌いです!渋滞はもっと嫌いです!」助手席で外を覗きこみながら彼女がふて腐れる。
何か言おうかと思ったけど、湿気のせいか、それともネオンのせいか、考えるのもめんどくさくなって、結局黙っていた。
「でも、出久くんの隣は好き!」
そう言って首をくるっと回して僕の方を向く彼女。良い匂いがして、さらに思考力が低下したのが分かった。きっと雨以上に彼女の匂いはネオンと相性が良い。褒め言葉かは分からないけど。
「任務に遅れそうだね。荼毘さんに怒られる」僕は咄嗟に話を反らす。
「別に私たちがいなくても平気だよ」
そう言って、彼女はマーガリンのようにべったり抱きついてくる。
「ち、ちょっとトガさん!ちゃんと座ってて。危ないから」
「しばらく動かないよ」
「いや、ほら!ブレーキペダルから足が離れちゃったら、前の車に追突しちゃう」慌てて僕がそう言うと、彼女は抱きついたまま、左手でシフトレバーをコンコンと叩く。いつの間にかレバーはパーキングにシフトされていた。これならブレーキを踏んでなくても大丈夫なわけだけど、、、この子は本当にちゃっかりしている。
「最近、ふたりっきりになれなかったから私寂しかった」彼女が話す度に、甘い吐息が僕の首もとにかかって、なんだかもう昇天しそうだった。結局、僕は彼女には逆らえない。例えるならば、僕が列車で、彼女はレールだ。方向は全部彼女が決める。
「チームだし、いつも一緒にいるじゃないか」
「響香ちゃんもいます」低いトーンで彼女が喉をならす。
「ああ…」薬指を立てた耳朗さんがすぐ頭に浮かんで吹き出しそうになる。
「ふたりじゃなきゃ嫌です!いないと同じ!」
そう言って彼女は僕にキスをした。
たぶん、このキスがトドメだったのだと思う。僕は列車だ。なにも考えずレールの上を走ればいい。
僕は彼女の体を強く抱き締めた。
お互いの粘液を絡めあう。
少し前に彼女が、キスは信頼してないとできない。だって相手から舌を噛みちぎられるかもしれないでしょと言っていたのを思い出す。
僕は彼女のことを信頼しているということなのか。
彼女のこと何も知らないのに?
どうして、学校に行ってないのに制服を着ているのとかなぜヴィラン連合に入ったのかとか、何も僕は知らない。
それで信頼していることになるのだろうか。
仲間と言えるのだろうか。
「んんっすきっすきっ」舌を絡めながら愛情を表現してくれる彼女を見つめているともうどうでも良くなってくる。まるで麻薬みたいだ。たぶん彼女自体が麻薬なのだ。あれ?レールじゃなかったっけ?
「出久くん!目を閉じてよ。恥ずかしい…」そう言って彼女は左手で僕の目を塞ぐ。確かにキスの最中に目を開けているなんて、普段ハンカチを持たない男くらいにはナンセンスだったかも。
「ごめんごめん。謝るよ」そう言ってもう一度口づけをする。彼女がキスをしながらまた何か言っていたけど、よく聞き取れなかった。たぶんキスをすれば何でも許す女だと思ってるんでしょと言ったんだと思う。彼女なりのジョークだ。
僕は彼女のスカートの中へと指を滑らせる。
「んっ」舌をからめながら少しだけビクッとする彼女。ああ、なんて可愛らしい。好きだ。犯したい。もう僕は僕を抑えられなくなっていた。列車がレールから脱線する瞬間だ。このまま押し倒してしまおう。そう考えて、シートベルトを外そうとした刹那、鳴り響くクラクションの音で我に帰る。初めてラッパを吹くやつが出す音みたいだった。要するに不快で、最高に空気が読めないってこと。
気づけば、渋滞は緩和され、前の車は走り出していた。僕も急いで車を発進させる。ただし、目的地は違う。
「出久くん、どこに向かってるの?方向違う気がするけど」
「ホテル」
「え?」彼女は少しだけ驚いた顔をして、えっちと言いながらコツン僕の肩を叩く。これは、いいよの合図だ。
「その、続きをしなくちゃ」僕はできるだけ冷静にしゃべったつもりだけど、声がうわずってしまった。みんな女の子を誘うときはどうしているのだろう。
「出久くんほんとかわいい」彼女は両手で口を隠して笑う。君のもえ袖の方がかわいい。
ホテルの駐車場についてから、僕らはもう一度熱いキスをした。部屋に入ってからすればいいのに、たぶんこれは荼毘さんからの鳴り止まないコールに負けないために必要なステップだった。不安を性欲でかき消したってわけだ。
「そろそろ響香ちゃんからも連絡がきそう」
「もう電源を切っておこう」
ホテルに入ると、僕らは絶句した。というか、崖から突き落とされた気分だった。耳朗さんがフロントに立っていたからだ。
「やあ、モンキー緑谷。残念だったね」耳朗さんが頬杖をつきながら三日月みたいな口の形で笑う。
「なんでここに?」
「荼毘から連絡こなかった?状況が変わったからとりあえずこのホテルで待機って。ちなみにここ、うちの傘下のチームのホテルだから」
「へ、へえ。もちらん、知ってたよ!荼毘さんからね、電話もらったし」僕はできるだけ冷静な表情で言った。
「もちらん?」目が笑ってない耳朗さんからついつい目をそらしてしまう。
「出久くん、動揺してる!」余計なことを言う彼女を横目に何とか誤魔化せないか考える。
「ということで、セックスはまた今度にしてもらえるかな、モンキー?」
「いやいや、セックスなんてするつもりなかったし!あと、モンキーはやめてください…」
「え?!するつもりなかったの!!私をからたったんだ、出久くん意地悪…」
「トガさんっ!!」
「教えてくれてありがとう。モンキーガール」そう言って指を弾くのはパンクガール。
「響香ちゃんさっきからそれどういう意味ですか?まさか猿みたいに本能のままセックスをするという揶揄じゃないですよね?」
「トガさんちょっと黙ってて」僕は頭が痛くなるのを堪えながら、その通りなんだよなぁと心の中でため息。
「とにかくこのことは上に報告するから」耳朗さんが冷たく言い放つ。
「ちょっと待って!それだけはっ!」僕は必死に弁明しようとした。
「だーめっ!任務すっぽかして交尾しようとしていた方が悪い」
「もう言ってもいいんで、出久くんとエッチしてていいですか?」
「トガさんっ!!」
もうだめだ。ヴィラン連合をクビになってしまう。というか、クビどころで済むか分からない。首いかれるかもしれない。
「あ!でも、お願い聞いてくれたら考えてあげなくもない」そう言うとチラチラ僕を見てくる耳朗さん。明らかに何か考えている顔だった。今の僕にはどうだって良いことだけど。
「ほんとに?!」
「うん。じゃあ、緑谷、こっちきて!トガはそこにいて」そう言ってスタッフルームへ連れていかれる。去り際に中指を立てたトガさんが視界に入って、はあ女の子ってめんどくさい。。
「耳朗さん、お願いっていうのウッ」
気づいたらキスされていた。もちろん耳朗さんに。
「緑谷、あんまトガと仲良くしないで」
「いや、でもチームだし」
「チームメイトとセックスする?」
「いやだから…」
「じゃあ、あたしともオッケーでしょ」そう言うともう一度彼女はキスをした。僕も彼女を抱き締める。もう止まらない。僕らは舌を絡め合う。僕は列車だ。自分で方向は変えられない。けれど、今まさに違うレールを走ってる。最高の気分だって言ったらサイテーかもしれないけれど、本当のことなのだから仕方ない。