先輩は後輩を見捨てない   作:クローン・イレイザー

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・秦野康平
私立巡ヶ丘学院高校の三年生。ホラー系が好みであり、グロ耐性が極端に高い。俗にいう天才肌であり、一度学んだことや見たこと、体験したことは大体覚えてしまう。しかし本人はそんな才能に少し辟易している模様。
クラスメイトとの仲は意外と良好である。
後輩のことは必ず名字+後輩で呼ぶ。
残念な所は少しカッコつけのところ。



1時間目

リバーシティ・トロン。この町で最大とも言えるショッピングモールであり、多くの人たちが飲食やショッピング、ゲーセンや映画館等で各々の楽しみを見つけていた。

それは勿論俺や後輩たちも例外じゃない。

放課後、俺は後輩二人に誘われてこのリバーシティ・トロンへと遊びに来ていた。

 

「くぁ……」

「秦野先輩、可愛い後輩たちとのデートの最中に欠伸は感心しないですよー?」

「圭、デートじゃなくて遊びに来ただけじゃない。でも確かに圭の言い分に同意します」

「あー、わりぃ。最近買ったホラゲが結構面白くてさ、ちと寝不足気味なんだよ。察せ後輩たち」

「もう!秦野先輩ってやるゲームそういうやつばっかだよね!やるならもうちょっと平和なやつやろうよ。ほら、崩壊した東京をチワワで生きるやつとか!」

「祠堂後輩、お前正気か?それとも俺を退屈で殺そうとしてんのか?ええ?」

「えー?なんでそうなるんですか!面白いと思うのに。ねぇ美紀もそう思うよね」

「……あれはないと思う」

「ええー!?」

 

同じ高校の後輩たちに誘われて付き合ってるのは良いものの、きゃいきゃいと仲睦まじくじゃれる後輩たちに付き合うのは予想以上に体力を使うもんなんだなと俺は学習した。

二時間弱しか寝てない寝不足の状態で後輩たちの誘いに乗るもんじゃないと学習したなら、今度からはやんわりとでも断ればいい。

 

「にしても、やっぱり秦野先輩寝不足だったんですね」

「なに?」

「秦野先輩は今日は一段と眠そうでしたし、多少体もフラついてましたよ。そんな姿を見れば寝不足だと分かりますよ」

「ほう…ならそんな寝不足な先輩を連れまわそうとした覚悟に報いを入れるべきか」

「あ、私は秦野先輩を誘おうとはしませんでしたよ?でも圭が秦野先輩も一緒に!って。ちなみに私はちゃんと止めましたから」

「ちょっ!?美紀!?」

「祠堂後輩、覚悟はいいな?」

「待って!待って先輩!悪気は全然なくって!先輩が一緒なら美紀も───「天誅!」いったぁ!」

 

直樹後輩の告げ口に祠堂後輩が食い下がるものの、そんな言い訳を俺は聞くつもりもなく脳天へとチョップをかましてやった。

まぁ本当に嫌なら初めからキッパリ断ってたし、祠堂後輩に悪気がなかったことも理解している上での天誅なので威力は軽めだ。俺にも非はあるからな。

そういえばさっき祠堂後輩がなんか言いかけてたな。直樹後輩がなんとか。しかもその時に直樹後輩が動揺していたのを俺は見逃してないぞ。

 

「で、直樹後輩がなんだって?」

「うぅ、それは美紀が───」

「あ、先輩。あっちに10countの9巻が売ってますよ」

「なに!?しまった!今日が発売日だったか!悪いな後輩たち、ちょっと離れるぞ!」

 

直樹後輩の指差した先に〈イチオシ!〉とポップが張られたコーナーがあり、そこには俺が愛読しているホラー漫画〈10count〉の最新巻である9巻が堂々と置かれていた。

すっかり発売日を忘れていた俺はその場に後輩たちを残して書店コーナーへと突撃したのだった。

 

 

 

▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽

 

 

「美紀ったら、そんな露骨に話そらさなくてもいいんじゃない?」

「べ、別にそんなのじゃないけど……」

 

 

秦野先輩が書店コーナーに向かっていくのを見送っていると圭がニヤニヤと笑いながら意地の悪い質問をしてきたので、そっと眼を背けながら顔を隠す。

それでも圭は楽しそうに私を弄ることを止めそうにない。

 

「隠さなくてもバレバレだよ?だって美紀の視線が秦野先輩の姿追ってるの分かりやすいしー」

「もう!そんなことない!変なこと言わないでよ!」

「ありゃりゃ、顔真っ赤になっちゃってるよー?」

「圭!」

「うひゃあ!美紀が怒った!」

 

圭は本当にいじわるだ。秦野先輩の姿を追ってしまっているなんて、私だってきちんと理解してる。でも仕方ないじゃない。自然と視線が先輩を追ってしまうんだもの。先輩の姿に引き寄せられてしまってるんだ。

先輩と一緒にいるととても楽しい。勿論圭と一緒でも楽しいけど、先輩といる時は暖かさも感じるのだ。

 

ゲームにハマって夜更かしして眠そうにしてる姿も、先輩たちと一緒になってはしゃいでる姿も、勉強を教えてくれる時の真面目な姿も、秦野先輩の何もかもを追ってしまうんだ。隣に居たいと思ってしまうんだ。

 

それがどんな気持ちかなんて、そんなの分かりきってる。これはきっと────

 

「わりぃ、待たせたな。って、どうした直樹後輩?顔が赤いぞ」

「な、なんでもない!気にしないでください!」

「ふふふ、セーンパイ♪次は洋服見に行きましょう!私と美紀の服選んでくださいよー♪」

「圭!?」

「えぇー……俺にファッションセンスは皆無だぞ。頼るだけ無駄だっての」

「まぁまぁそう言わずに!ほら行きますよ!」

「おい!?俺は行くとは言ってないぞ!ええい押すな!」

 

圭は先輩の背中を押しながら私にウィンクを送り、どんどん先に進んでいく。

私は圭の思い付きにため息を溢しながらも、内心ドキドキしながら二人の後をついていく。

 

(でも、圭……圭は自覚しているの?圭も秦野先輩を見てることに……)

 

少し、ほんの少しだけ暗い感情が頭を出し始めたその時だった。

モール内に響く悲鳴が聞こえてきたのだ。

それは間違いなく、ありきたりな日常の終わりを知らせる鐘の音だった。

 

 

 

 

 

 

 




・最近買ったホラゲ
秦野が三日前に買ったホラーゲーム。ビデオカメラを片手に数々の曰く付き廃墟を探索していくゲームであり、一人称視点から見える廃墟や風景がやけに生々しいことで有名になる───予定だった。

・崩壊した東京をチワワで生きる
数年前に発売されたサバイバルゲーム。自然災害によって崩壊した東京を舞台に野生動物たちが明日を生き延びる為に頑張る。初期で使える動物がチワワしかおらず、しかも攻撃力も耐久力も最底辺であるにも関わらず容赦なくライオンをぶつけてくるマゾゲー。何故か祠堂後輩が気に入っているが、直樹後輩からは不評。

・10count
秦野が愛読しているパニックホラー漫画。巻が進むことに主要キャラが亡くなっていく事から、ファンの間で10巻で最終巻ではないかと囁かれている。

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